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第十七話




馬車の中は物凄く喧しかったので割愛。リムネルにアヴィリオが突っ掛かって、余計なことを言ってアヴィリオが沈められてた。拳で。………人の間接ってあんな風に曲がるものだったっけ…?

馬車を教会の前で降り、三人と一匹で扉を潜る。……あれ、誰もいないのかな




「神父様、戻りました」




声を出しても誰の返事もなく……はて、と首を傾げる。…今日は来客の予定も、外出の予定もなかった筈なんだけど…王妃様の方にでも行ったのかな

置き手紙か何かないかと辺りを見回しても…それらしい物はない。…やっぱりナオの所にでも行ってるのかな…いやでも、そうするなら神父様だし置き手紙の一つや二つ残しておくけど……




「……チビスケ、ちょっと下がってろ。なんか変だ」



「うん……神父様が居ない。…置き手紙もないのは、変」




スッ、と瞳を細め……鋭い眼差しで辺りを見回すアヴィリオ。リムネルもなんだか穏やかじゃない


と、そこにカツカツと響く音を捉えた。…神父様の足音じゃない。もっと歪な足音




「おや……これがヴォルカーノ神父が言ってた孤児か。いやはや、まさか本当に黒猫族とは」




真っ白の外套を着た、杖をついた老人。…その後ろに神父様も居る


でも空気が穏やかじゃなくて……舐めるような、値踏みするような視線に全身から嫌悪感が吹き出そうだった


この人は嫌な人だ。人のことをコレだなんて物扱いするような人にろくな奴なんて居るわけない。禿げた頭にワックス掛けてやろうか




「先程も申し上げた通り、この娘は元老院の一人たる貴方には必要ない娘かと」



「そう言うでない、ヴォルカーノ神父。…なに、どうも顔はそれなりではないか。今後の成長次第では私直々の仕えにしてもよい」




神父様の言葉から、アレは敵だと認識した


吐き気を催すほどの気持ち悪さ。ねっとりとした視線に全身の毛が逆立った、殴ってしまいたい


杖をつきながら此方に寄ってくるのをアヴィリオの足に隠れる。……フロウをリムネルが隠してくれて居てくれて良かった。多分威嚇しちゃうからね




「ほほ、どれ、よく顔を見せてごらん。警戒せずとも悪いようにはせんさ」




このデブが…!気安く触るなと振りほどきたいのを神父様が視線で止めてくる。元老院、つまり貴族。しかも国の政を決める王族とも張る派閥だって前聞いた

せめてもの反抗に、首を縮めるも、がっ!と頬掴まれた。子供にすることじゃない




「瞳も蜂蜜のようで収集家には貴重そうだなぁ……ああなに、こっちの話だ。大丈夫」



「…おい、うちの弟子に気安く触れないで貰えるか」



「エルフか。……まぁいい。どうだ?ヴォルカーノ神父。今からでもうちの家に仕えさせても良いぞ。金貨も付けようではないか」



カッと神父様の瞳孔が開いた。投げ捨てられた袋の中には金貨が数枚に銀貨や小銀貨が沢山。…つまり、その程度の値段で私の命を買おうとしてるのだこのクズは


神父様の強く強く握り締められてる拳は、今にも血が出そうで……このクズ野郎と睨むと、急に頬を打たれた




「無礼だぞ、小娘。…ああ、しまった、顔を傷付けるのは良くないな。大丈夫かね?」




…歯がぶつかったのか、口から血が出た。ヘラヘラと笑ってるクズ野郎を殴りたくて殴りたくて仕方ない。…アヴィリオもリムネルも、怒り心頭とばかりにクズ野郎を睨む。それでも手を出せないのは相手が貴族だからであり…アヴィリオ達がギルドの者だから。此処で手を出すと、ギルド長に迷惑が掛かってしまうのは確実だ


ギリ、と奥歯を噛んで睨み続ければそれが気に入らなかったのかクズの眉が吊り上がる




「私が聞いてるのだぞ、返事をせんか!」



「レンっ!!」




今度は腹を蹴られた、勢いで教会の椅子に頭が衝突する。

淡々と言ってるがくっそ痛いからね…!!!分からないやつは親か兄弟にでも軽く足でお腹踏まれてみ?吐きそうになるし息が詰まって苦しいから


蹴られたら余計にキツい、踏まれる時の圧迫感とは違うけど、ただ単純に痛い。涙が出てくる


神父様とアヴィリオ達が慌てたのが見えた、…ああくそ、頭も痛った…!!


ポタ、と何か垂れる音に血が出てるのだと気付いた。…そりゃ派手に頭衝突すればそうなるよな…




「っ……げほ、…!」




背中から衝突したからか、えづいた時みたいに吐き気も咳も止まんなくて…クズが更に近付いてくるのをアヴィリオが阻止してる




「おい!子供に何をやってるんだ!!!」



「ふん、エルフは引っ込んでろ。この国は弱肉強食。強いものが上に立つ国だ。エルフには分からんだろう?それにな、貴族の問い掛けに答えぬのなどあってはならないのだ」



「てめぇ…!」




クズ野郎だって人間のくせに何が弱肉強食だ。何を分かるという。優しい国王様を知らないんだろうな、浅ましい。…それよりお腹痛くてやばい、冷や汗が止まんない。神父様が駆け寄ろうとするのを、クズが睨んでいるのが腹立たしい

何とか意識をずらそうと深く息を吸っては吐き出して…リムネルが動けないのは足元でフロウを押さえ付けてるからだろう…痛そうな顔をたまにしてるし、さては爪を立てられたりしてるね?

起き上がるのにもたついて居ると……アヴィリオを無理矢理押し退け、クズ野郎が近付いてくきた。杖の先端が持ち上がる───




「何の音だ!!っ……レン!!」




バンっ!と扉が開く音



…レーヴェディアの登場に、クズ野郎の動きが止まった。…なんてったってレーヴェディアは国王様と親しい。元老院だろうが関係ない。彼の主人は国王様で、口止めなどの賄賂などは効かない




「おや、国王陛下のところの騎士殿。巡回ですか?……いやぁ、どうもこのお嬢さんが転んでしまったようでな?立てるかね?」




こ、こいつ……!!


さも何もありませんでした、とばかりに杖を下ろし、貼り付けたような笑みを浮かべながら手を差し伸べてくるクズ


アヴィリオが殴り掛からんとしてるのを神父様が何かを囁いて止めているので、私も目線で制止を掛ける。……今殴ったって、レーヴェディアが言いくるめられる可能性があるし、何より貴族を殴った、という事実が消えないのだからアヴィリオに罰が与えられてしまう


勿論、レーヴェディアが言いくるめられるほど、そこまで馬鹿じゃないのは知ってるけど、……駄目だ。こいつを殴るのは私だ


いっこうに手を取らないのをやはり不審がって、私とクズの間に入ってくれるとそっと手を重ねられた……今、気付いたけどちょっと身体が震えてた。レーヴェディアには一瞬で見抜かれちゃったのかな




「…頬を打たれたような傷は?」



「初めて気づいたよ。この年頃はお転婆だし、誰かと衝突でもしたのではないか?」




いけしゃあしゃあと言葉を紡ぐクズに、頭の奥底がフツフツと煮え滾る。…でも証拠がないなかで、元老院なんて大物を相手にするのは難関が有りすぎる。だって揉み消そうとしてくるたわろうし、そうなると…私はともかく、神父様に手を出されたら困る。うっかりクズを殺したくなるくらい、困る


とりあえずこのままじゃダメだと歯で唇を噛み切って、無理矢理頭を冷やす。ヒートアップしてる時に考えたって視野が狭くなるだけだから、痛みを加えることで沸騰しそうな頭の中をすっきりとさせた


そう……誰を敵に回したのか、そういう後悔させるのは今すぐじゃなくていい。逃げられない絶対的証拠を残して、このクズをぶん殴る。喧嘩は売られたら買うものだ。私も、神父様も見下すような輩に負けるはずがないのだから

鋭く、深く。息を吐き出して椅子に手を掛けて立ち上がる




「…ごめんなさい騎士さん。何でもありません。この御方の言う通り、少し転んでしまっただけですもの。頭はその時に」



笑え、口許を引き攣らせるな。憎悪を仕舞え。優雅に、慎ましやかに。衝動を内側に収めて絶対に外に漏らさないように

使ったことない口調にクズ以外は目を見開く。……私がクズを庇ったことに対してかもしれないけど……クズは口外しなかったことに機嫌を良くしたのか、汚らなしく笑った




「ほほ、教養があるようで何よりだヴォルカーノ神父。……ああ、その金はお布施として取っておきなさい。また来るよ」




ニヤニヤと下卑た笑いを残して、レーヴェディアの横を通り過ぎていく。……うわ、レーヴェディアもアヴィリオも顔怖…


扉が閉まった瞬間……流石にがくん、と膝が抜け落ちた。……ああ、嫌な物を見た。塩を後で撒いておかなきゃ。というか触られたし。私も塩被っとこうかな……




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