第十二話
契約を終えて一段落。ご褒美に二個目のプリンを食べながら耳をすませばお風呂の方から情けない悲鳴が聞こえる。私は先に入ったので此方はもうすっかり髪も渇いてしまったが……やっぱりお風呂って最初怖いものなんだなぁ…
あの狐モドキ……もとい、私の従魔となったアースフォクスの“フロウ”
ゲームの愛馬とか何故かこの名前をずっと愛用してたので折角ならと与えた名前だ
名前を与えた途端、白い花のような、氷の結晶のような模様が一瞬フロウの額に現れた時はびっくりした……私のって証らしい。他の人はまた模様が違うらしいので機会があるなら見てみたい
それで、フロウは今神父様に洗われている。嫌がるのを抱えて一緒にお風呂に連行されていった。……なんでも魔物なので森での汚れはあるだろうし…暴れても神父様なら押さえ付けられるとのことでお任せした。見捨てるようでごめん、あとでいっぱい撫でてあげようと思う
最後の一口を終えて、スプーンを片して……時間も空いたし、少しお祈りでもしようかな
教会に飾られた大きな十字架の前に片膝を付き、両手を組む
深く意識を落とし込んで…水のなかを揺蕩う様に力を抜く。呼吸を静かに整えれば
「お待ちしてましたよ!」
「相変わらず元気そうだね、ノーチェ」
「だって最近は滅多に来てくれないじゃないですか!見守ってますから、愛しい人と一緒に居たいのは分かりますけど!……あ、それから初従魔おめてとうございます!」
「貴女こそ、ナオを加護してるのは貴女の夫なんだから会いに行ったりすればいいのに」
中々に元気はつらつ加減をぶつけてくるこの女神は……私を此方側へと連れてきた女神
夜の間だけは、お祈りをすると少しの時間話せたりするのだ…これが神託スキル。もちろん神様ごとに対応条件やスキルのレベル云々はあるが
そもそも応えてくれるかは神様次第なのに……どうもこの夜の女神様は話したがりで、天上から見ているのだからその日あったことなど知っているであろうが、何故か私の口から聞きたがるのだ
「それはその…貴女方が一緒にいる間に…たまに会ったりもしますけど、……その、恥ずかしくて。それに離れがたくなっちゃいますし…」
「結構な頻度で会ってるんだからちゃんと会って話したらいいのに」
ノーチェとナオを守護する神……レイルだったかな。その二人を合わせて、この世界では夜の夫婦神と呼ぶらしい。……夜の神様は他にも居れど、夫婦神はここだけだからなんだか運命のようだと神父様もぼやいていた。その時の怖い顔は錯覚だと思いたい
実際、ナオを連れてきた神様の事なんて知らなかった。いかにこの世界の知識が浅いのか分かるというものだ
「そ、それより!アースフォクスを従魔にするなんて凄いです!」
「はいはい……魔術って初めて使うけど、難しいね。炎とか具体的なイメージが出来るならあれだけど……ふんわりとしかイメージできないものは特に難しい」
「そうですね……従魔術は結構本人の資質的な部分があります。私の加護で魔力増幅、魔力感知などは底上げできますけど…魔術として発動できるかは貴女次第です
助言できることがあるとすれば、貴女が研究者気質かつ、従者気質……それに加え、並大抵のものなら従えられる力量も揃っているであまり気を詰めてはいけませんよ。貴女らしくいれば大丈夫」
「……人の上に立つのは無理。目立つの嫌い。影で操ってる方がいい。目立つのはナオがやってくれるもん」
「目立たず、けれど王の資格あるものをこの世界では日影の王、夜の王、などと呼ぶんですよ。実際、全く民の前に顔を出さない王族も居ますもの。……実力自体が備わってるだけで充分なんです。過去の貴女が築き上げてきたものを此方側で発揮したって誰が咎めるものですか
……まぁ、彼が王族に産まれてしまったので、嫌でも目立つと思いますけど!目指すは王妃様ですからね!」
嫌なことを掘り返してくる女神だ……ぺしょ、と不満げに耳も尻尾も垂れ下げて見せれば楽しげに指先でつつかれた、勿論叩き落としておいたけど
じろじろ見られるのなんて絶対無理だし嫌だ。よくナオは耐えられるなぁと思う。顔に出ちゃうから私は王族なんて向かない
それに例えナオが国王にならずとも、王族の婚姻なんて目立つに決まってる……ナオを狙ってる令嬢達に闇討ちとかされないか心配だ。返り討ちにするけど
溜め息を繰り返しているとぼんやりと周りが白み出した
「今日は此処までですね……また会いに来てくださいね!なるべく早く!」
「分かった。気が向いたらね」
「そんなぁ…!……あ、伝え忘れてたんですけど!最近他の神々も貴女に興味を示してますよ!!なんでも、この土地の神々は特に!」
「…………は?」
これ以上チート級みたいに目立つのは御免だと怒鳴ろうとした時、残念なことに視界が完全に真っ白に染まり………水の中から無理矢理引き上げられたかのような倦怠感が身体を襲う
そういえば魔力空っぽなの忘れてた。…僅かに回復したやつも今ので使いきった。だから普段よりも短かったのだろう
目の前の大きな十字架に溜め息を盛大に溢して……少し身体を休めてから、ステータスを改めて確認。………よし、ノーチェ以外の加護も庇護もない。追加された項目は従魔術レベル1くらいか
安堵にまた溜め息を溢せば…また軽快な足音が
ゆるりとそちらを向けば……腹部にタックルを食らった、地味に痛い
「んぐ、………おかえり、フロウ。ふわふわになったね」
「きゅぅぅ~……」
「やれやれ……痛いことはせんと言っておるのに、ずっと戸を引っ掻くわ暴れまわるわ……久し振りに疲れたな」
「神父様。……引っ掻き傷すごいね」
フロウも本気で引っ掻いた訳じゃないだろうが…上裸のまま出てきた神父様の身体は細い傷が沢山。……筋肉がすごい、引き締まってる。ナイスバルク!とか言ったら驚くかな
自分で治癒しながらどっかりと椅子に座った神父様……本当に疲れてるらしい、髪が渇ききってない
フロウを優先してくれたんだろう…然り気無い優しさが神父様らしくて、脱衣所からドライヤーの様な魔術具を持って神父様の髪を渇かす
多少の魔力でも反応してくれる魔石が埋め込まれてるので大変便利だ
「久しいな、お前さんに乾かして貰うのも」
「神父様がぐったりしてるとき少ないからね。……風邪引かない秘訣はやっぱり筋肉?」
「戯け。お前さんが貧弱すぎるだけだ」
何してるの?と見上げてくるフロウを撫でて、毛先を乾かし終われば……くあ、と欠伸が洩れた。何時もより眠たくなるのが早い。…魔力使いすぎたからだろうけど
喉を鳴らして笑う神父様に見送られ、フロウと一緒にベットに潜った
ふわふわの毛並みに溺れそうになるが、両腕でしっかり抱きしめるとフロウが嬉しそうに鼻を寄せてくれるから耐えた。あとふかふかで温かいものを抱いてるとどうやっても眠くなる
明日は一緒にナオを驚かせちゃおうね




