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第六十三話




王宮の外観は何度観てもデカイなって思う。しかも今回は来賓扱いなのでお出迎えの兵士さん達がズラっと並んでいて壮観である。国王陛下とガルシア直々のお出迎えとか……うん、事の大きさがよく分かる


一番最後に降り、神父様やシアレス達から少し離れたところでアヴィリオ達と立つ。まぁ、呼ばれたとしても礼儀とか身分とか色々あるからね。シアレスとガルシア、それから神父様が主に話すし私達は後ろで控えてるのが仕事だ


………ところで国王陛下の後ろに控えてるの、騎士団長とかかな。獣人じゃない……身体付きは人間に近いような気がするけど、どこをどう見ても黒豹だ。かっこいい〜、いいなぁ、上位種族初めて見た…

私達より獣の血が色濃い種族。私達の祖となる人達。そんな感じなのだけど…ちらほらそういえば並んでる人達の中にもそんな人達が居る。鳥人もいる、うわぁ、腕ってそうなってるんだ……!もしかして飛べるのかな、弓背負ってるから上空から射ったりするのだろうか…!!訓練風景見たぁい……!!!




「こら。はしゃぐな」



「はっ。……ごめん、アヴィリオ」



「尻尾、隠しててやるから早く落ち着けろ」




コソッと注意されてしまった。私はまだ尾とか耳のコントロールが上手くないから、気を抜くとどうしてもどちらかが反応してしまう

深く息を吸って、鋭く吐く。それを数回繰り返して心を落ち着けて……うん。問題ない


表情を繕って神父様たちが話しているのを遠巻きに見詰める。ちなみにフロウとジュエライトは馬車の中。クォーツ達は馬車の屋根部分に止まってるし、デューは私の後ろに控えている。……まぁほら、ルシェシラルトみたいに裏切り者というか鼠が居る可能性もあるわけだしね




「さて……此処で話すことでもなかろう。…シアレス嬢、ガルシア殿下、それからヴォルカーノは着いてきてもらうとして……レイジエル、彼女達を客室へ。丁重に持て成すよう伝えてある」



「はっ。畏まりました」




あの黒豹さん、レイジエルってお名前なのか。口から牙が見え隠れしてるのがいいね!もっとこう、覗いてみたい……いや、怒られるだろうな。言うのはやめておこう


馬車ごとどうやら移動するらしく、私達はまた馬車内へ。……ジュエライトが不安がってないのはフロウがベッタリとくっついててくれたからだろう

人の気配が多かったから、もう少し怯えたり暴れるかと思ったのだけど……良かった。興奮したりもしてないし、穏やかに過ごせてるのならそれが一番だからね


とはいえやっぱり外は怖いだろうなぁ……どうしよ




「レンは残るか?ジュエライト的にはそれが一番落ち着けるだろう」



「うーん……でも…流石にそういう訳にもいかないだろうし……」



「きゅぅ……」




袖をはみってされて捕まった。見えずとも気配は感じるだろうし……ジュエライトにとっては見知らぬ場所。置いていかれそうなのを察知したのだろう、とても不安げにしていたのでこしょこしょと小さな頭を優しく撫でておいた


アヴィリオ達に行ってもらうのが一番いいんだけど……身分云々で突っかかられた時、私が居ないと少々面倒臭い

今回は正式に神父様の義娘として来ているので、公爵家の娘としての扱い……つまり余計な格下の突っかかりを防げるのだけど、アヴィリオ達はそうもいかない


どうしたものか悩んでいると、扉をノックされた。少しだけ待ってから返事をすると、レイジエルさんと…その後ろにクリフト達がいた




「事情は陛下よりお伺いしております。……監視は付けさせて頂きますが、ジュエライトに関しては彼に任せるのが良いでしょう」



「昨日ぶりだな。…怪我が治ったようで何よりだ。凄いんだな、聖女様ってのは」



「そうだよ、シアレス様ってば凄いんだから」




口を開きかけたレイジエルさんを片手で制し、ふふん、と自慢げに胸を張れば「なんでお前がそんなに嬉しそうなんだよ…」と呆れたお返事を貰った


嬉しくない??友達が褒められるの


そんなやり取りをしてたら咳払いがひとつ。レイジエルさんからした。…やっぱり牙がチラ見してて気になるな…一回こう、あくびとかしてくれないかな…




「今は私しかいないので目を瞑りますが、毒牙の娘として自覚を持ってくださいアレフリア嬢」



「持ってます。だから彼の事は気にせず。そもそも陛下がそれを許しているからこの場に居るのでしょう?言葉遣い云々で時間を割いてる場合ではないと思いますが」



「理解されているようでしたら何よりです。…広間を通ります。北の国の貴族らも居るでしょう。迂闊な隙を見せる訳には参りませんので…差し出がましいことを申し上げました」



「いえ、改めての忠告感謝致します。陛下が信頼なされている方の言葉です、素直に受け止めさせていただきます。レイジエル様」




硬い肉球に手を重ねて馬車を降りながら話せば口をぽかん、って開けてるアヴィリオ達




「………何。その顔は」



「いや、…なんつーか…俺らも令嬢教育をしてるのは知ってたが…お前、畏まることとか出来たんだな」



「アヴィリオは私の事なんだと思ってるの????えっ??レンちゃんは可愛いだけじゃなくて賢いんですけど???」



「あ、戻った。…なんていうか、貴女切り替え上手ねぇ」




うりうりと撫でてくるリムネルにしっぽで攻撃してみるもいなされてしまった


むす、と頬を膨らませたらレイジエルさんに笑われるし…もう。皆してなんなのだろうか

余程のことがない限り、今回は大人しくしてなくちゃいけないからきちんと令嬢らしく居るように釘を刺されている


ちなみに神父様と離れる時もアイコンタクトを貰っている。…粗相をするなと。…うん、保護者の視界に居ないからね。きちんとしてられるのにその辺の信用薄い気がするのは何でだろうか………暴れるからですね、私が。神父様ってば年々私への理解度と御し方を理解してってる気がするなあ




「じゃあ、ジュエライトのこと頼んだよ。皆は待機とクリフト達の警護をお願い。変な人が来たり、何かあったらすぐ伝達するように


クリフト、この子のことよろしく。ネルとハイトも、もし誰かに違和感を感じたり、まずいなって思ったらこの子達に伝えて。すぐ私に伝わるから」



「分かった。…お前も、気をつけろよ。貴族達は女ってだけで突っかかってくるぞ」



「え?ほんと?」



「………そこで嬉しそうな声が出る辺りが…なんとも逞しいですね…」




ボソッと呟いたハイトに全員で頷くのはどういう事なのか。…さっきまでガチガチに固まってたネルも頷いてるし…フロウが身を寄せてくるのだけが癒しだった。ずっと私の味方だもんね


いやだってさぁ、他国だっていうのに自国と同じように振る舞ってるお上りさんがじゃれついてくるようなもんでしょう?ジュエライトのことは関係ないにしても、そういうお馬鹿さん達が国に残ってるのって後々ガルシアの負担にもなるだろうしさ…こう、スパッと中枢から離れられるくらいのこと起きてくれるとガルシアやシアレスの負担が減っていいかなって


というか、状況分かってない馬鹿だろうから要らなくない?纏めて喧嘩売ってきて欲しいな…




「とりあえず客室へご案内させて頂きます。どうぞ着いてきてください」



レイジエルさんを先頭にして廊下を進む。目の前でゆらゆら揺れる尾につい視線が向いちゃう…のだけど、ある程度進んだところで中庭が見えた


なるほど、渡り廊下は中庭が見えるようになってるのか…私たちが居る側とは反対側を見るに、上の階であっても中庭を覗けるようになっている。転落防止用の柵や窓がないのは見栄え的な問題…というより、3階程度から落ちても獣人ならば難なく着地出来るからだろう。人間は知らないけど。…あ、でも、流石に結界の魔導具とか魔石とかはもってるだろうから、ちょっと衝撃があるくらいかな




「この中庭は姫様のお気に入りでして。小さい頃はよくこの庭の何処かに隠れて居られましたよ」



「そうなのですね…随分と香りの強い花が咲いているようですが、手入れをされている方の好みですか?」



「嗚呼、この匂いは北の国で咲く薔薇ですね。王妃様が今回の訪問の為に取り寄せた花です。手入れは専門の者がおりますが…何を植えるか、どこに植えるかなどは王妃様の采配になります」



「なるほど。だからこの色合いか」



「???…色?確かに綺麗だけど…」



「お前に教えたこと無かったか?」




興味深そうにしきりに頷いてるアヴィリオに脚を止めて聞けば、ぱちくりと瞳を瞬かせ…それから穏やかな顔をして中庭を眺め出した

…横顔が様になってるな……人通りなくて良かった…




「白と赤、それからあっちに咲いてるピンク。…この国と北の国じゃ咲いてる花も違ければ、歓迎の仕方も違う

この3色は北の国が誰かを迎え入れる花束とかによく使われる色なんだ。歓迎とか喜びとか、…向こうじゃあこういう色の花は珍しいからな」



「匂いが強いというのも希少な花を惜しみなく使ってるからでしょうね。どの建物を移動したとしても中庭は目につくだろうから…ほんの少しでも心を癒せるようにって心遣いが込められてるようね」



「流石アルトゥール様の弟君とそのご友人様ですね。普段は季節ごとの花が咲き、柔らかい色合いが多い中庭ですが…王妃様はご来賓がある度に中庭や客室の…いわゆる模様替えに大層力を入れておられるのです


国を離れてる間の不安や、慣れない他国での暮らし…貴族とはいえ、皆誰しも住み慣れた場所から離れれば不意に不安や恐れを抱くものです。ですから、ほんの僅かでもそれが無くなるようにと、王妃様自らが時折手入れにくるくらい時間と手間を掛けられた中庭になっております」



「……あ。昔アヴィリオが話してくれた貴族の仕事のひとつってこういう…?」



「ああ。女主人が家の主。つまり歓迎やもてなし全般でその家の評価が決まる。王妃様自らがここまでやるのは他国でも珍しいと思うが……少なくとも王族が彼等を歓迎してる、最上級の礼儀でもってもてなしてるとよく分かる庭だ」



「なるほど……北の国のこと、全然知らないや」




なんだかんだ言って箱入り娘の自覚はある。街には行かないし、教会に来る人とペラペラお喋りもしないし。…昔はよく眠る前にアヴィリオとリムネルに外の国の話を強請ったものだ。おとぎ話のように語られる時もあれば、次第に討論にまで発展したり…私の知識はそんな風に形成されている


だから、実際に見たのとただ本や話で聞いたような知識とじゃあ全然価値が違う


もてなす方法は知っていても、この庭のように美しくはできないだろう。効率的にもてなすなら庭なんて作らず花束を作ればいいから。…でも、王妃様はその場限りのもてなしじゃなくて、滞在している間が少しでも穏やかなものになればと中庭に手を加えたんだろう

……王妃様のそういうところ凄く好きだなぁ…


深く吸うと鼻が効かなくなるから呼吸は控えめに。…空に映える花の色がなんとも綺麗で…でも立ち止まっても居られない


ぐっ、と身体を伸ばしたくなるのを我慢して脚を動かす。……ところで客間へ行って何をするのだろうか??大事な話は神父様がするからなにもないし………向こうで大事な話するよね?たぶん


再びゆらゆら揺れる長い尾に視線を向けながらこっそり溜息をひとつ。……………触ったら流石に怒られるんだろうなぁ…




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