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第十話




ギルドを出て、てけてけと神父様と手を繋いで歩く


町行く人は皆活気に満ちていて、前世の都会とは比べ物にならなかった。忙しさとストレスで死んだような顔の人なんて誰一人居なくて、ただキラキラして見える

子供の視点ゆえか、全部が大きく見えて、あれもこれもと興味が尽きない。……ただし




「……音が…」




ギルドでも感じたけど、音が大きすぎる。頭を揺さぶられてるのかってぐらいどよめきが大きく感じてしまう。マシにはなるだろうと繋いでいた手を離して、ぴとりと両手で耳を押さえつけた。ずっと静かな場所に居たからか足音も声も、教会や馬車の中に比べて、ものすごく大きく聞こえる。…というか、別に耳をすませてる訳でもないのに色んな話し声が聞こえてきて、情報の多さに頭が痛くなりそうだ。特売のバターロールはちょっと気になるな……




「普段静かなところに居るからな、過剰反応になってるのだろう……どれ、少し聞こえにくくしておこう」




ぽう、と淡い光が神父様の手から自分の体に溶け込む。癒術の時とはまた違った心地

すっかり体に馴染むと……音が静かになった。普通の人と同レベルか、少し優れてる程度ぐらいにまで収まって…ぱちぱちと瞳を瞬かせた

きっと神父様の魔術だ。こんな使い方もあるのかと耳を離して手を繋ぎ直す。中々に奥が深そうだ。というか神父様がどんなことが出来るのか教えて貰ってないからちょっとびっくりした




「幼い獣人は感覚が過敏になりがちだ。お前は特にな。……だがいずれ慣れたり、感覚を鋭くしたり戻したりと出来るようになる」



「そうなんだ……神父様は博識。凄いなぁ」




浮き足立つ街並みのせいかなんだか此方も楽しい気分になる。勝手に頬が緩んで、ぽかぽかの日差しが気持ちよくて……ぎゅう、と神父様に抱き付いた

そのまま抱き上げられ、一気に視点が高くなる。遠くまで見えて、それから気付かなかった美味しそうな匂いが鼻腔を擽る




「ははっ……楽しいか、レン」



「うん。あっちもこっちも、楽しそう。美味しそうな匂いもするね」




こくこくと何度も頷いて内緒話のように顔を寄せて話していると……お腹がくぅうう、と鳴いた。仕方ない、食べてないんだもん




「昼時だしな、食欲があるのはいいことだ。健やかに成長してる証だ」




そのまま歩くと屋台のようなお店で足を止めた神父様。振動も僅かしかなくて気を使ってくれてるのだと嬉しかった

ジュージューと音を立てて串焼きにされてるよくわからないお肉。タレがたっぷりと滴ってて、覗き込むと煙に匂いが混じってお腹がまた鳴った気がした




「2つ頼む」



「おうよ!2本で銅貨1枚だ!」




この世界のお金は

10円に匹敵する小銅貨

100円に匹敵する銅貨

500円に匹敵する小銀貨

1000円に匹敵する銀貨

1万円に匹敵する小金貨

5万円に匹敵する金貨……といった具合に分かれてる。日本のお金に近くて分かりやすくて助かった

それ以上は小切手か何かを使うらしいが……物価が安いから、金貨なんて早々お目に掛からない。ちなみにこの世界共通の貨幣……ではあるんだけど、国によってはこれ以外にも扱ってるとか何とか


大きなお肉が付いた串焼きが一つ50円とか安い、と前世の感覚が抜けなくて思うが適正価格だ。小銅貨1枚の焼き物とかあるもん

焼き立てを一本神父様に貰ってあぐ、とかぶり付く。熱くてちょっと困った。しっかり冷ましてから再度がぶり




「っ……!…っ、……!…!!」




柔らかくて、肉汁たっぷりで、こんな美味しいものが一つ50円なんて信じられない

噛みきりやすく脂が唇について、それを舐め取ってもまたそれが美味しい。こんな美味しいものがあるなんてこの国はいい国だ




「お、いい食いっぷりだねお嬢ちゃん。ピグの串焼き旨いか?」




ピグというのは前世でいうとこの豚。ちょっと見た目が違うし、なんか突進してくるらしいけど…一般人が三人いれば狩れるらしい。勿論飼育してるとかだったら別だけど


こくこくと深く頷いて、もう一口串焼きをがぶり。…濃いタレがまた食欲を刺激して美味しい




「美味しそうに食べるねぇ……よし!そんなお嬢ちゃんにもう一本おまけだ!持っていきな!」




今度は塩焼きだろう、白っぽいお肉からも美味しそうな匂いがして……今度は自分の手で受け取った。両手に串焼きである、乙女の嗜みとか知らない。美味しいのが悪い




「ありがとう、ございます…!」



「おう!いいってことよ!神父様も今後ともご贔屓に!」



「すまんな、また今度買わせて貰う」



神父様の片腕に腰を降ろしてに抱えてもらいながらタレが染み込んだお肉を食べ進める

神父様は口が大きいから中々豪快に食べていく。見てるこっちが同じものを食べてるはずなのに美味しそうに見えるくらいだ。…私もそうしたいがまだ口が小さい。それでも頬いっぱいに食べてるけど




「意外だったな、お前さん……静かなのを好むかと思ったが町の雰囲気も好きなのか?」



「ん、んむ。……好きだよ?楽しいものは何でも好き。……食べ物くれる人はいい人」




塩焼きを一口神父様に差し出して、口のものを飲み込んでから応えると……何故か呆れた顔をされた。神父様の一口大っきいのにこにこしちゃう。美味しいもんね




「くれるからといって、変なものに着いていくでないぞ」



「流石に見分けぐらいつくもん。いい人からしか貰わない」



キリッと表情を引き締めて答えると……口の周りにタレが着いているとハンカチで拭われた。また呆れた様に神父様が笑った


それからどこへ向かってるか知らないまま、神父様に連れられては時折屋台を覗いて、その度にオマケを貰って……お腹が膨れてしまった。小さい身体だと胃袋も小さいから困っちゃう。もっと色々食べたかったな…でもこれ以上食べたら絶対お夕食入らなくなるからやめておこう。今日は神父様特製のオムライスとプリンなんだもん、お残ししたくない




「優しいね、皆。オマケいっぱい」



「珍しくお前さんが愛想よくしてたのもあるしな……この国の者は皆子供に甘いといわれてたが、成る程な。確かに甘い」




ムムという柔らかい生地にジャムやマシュマロを挟んだお菓子の屋台では、袋いっぱいにオマケを貰って……それで小銅貨一枚なのだから経営がむしろ心配になってくる

確かに後半はにこにこしてたらオマケ貰えるのに気付いて調子にのった節はある。…日持ちするらしいし、ナオにでも上げようかな





「次行くのはどんなところ?」



「とりあえず日用品を買う予定だ。……馬車に荷物を乗せて、少し離れてるからそのまま馬車で移動しよう」



「じゃあ馬車の人にもムム上げよっか。いっぱいある」




がさ、と紙袋を揺らしてアピールすれば褒めるように優しく頬をくっつけられた。片手に荷物、片手に自分だもんなぁ……ふふ、パパのお髭じょりじょりするなんてやったら神父様どんな反応するだろうか


まぁ、お肌すべっすべなんだけどね


馬車の人にムムを上げたら凄く喜ばれ、代わりに押し花の栞をくれた。奥様の趣味なんだとか。帰ったら一緒に食べるよって言われたのでうっかり袋ごと上げそうになったのを2人に止められた。……幸せそうで嬉しいかったからつい…


ガタゴト馬車に揺られること暫し、窓からもお店が見えてきた


貴族のアクセサリーから庶民の日用品まで揃うお店、名前はルドラの商店


何だかゲームの雑貨屋みたいで広くて楽しい。薬草や食糧、衣服に至るまで階層を分けて陳列しているらしい。なんだかデパートか何かみたいだ

平日の昼時だから、そんなに人が居ない……こともなく。ぎゅうぎゅうほどではないにしてもそれなりに人が居る




「何から買うの?」



「ふむ……食糧は最後でいいとして…教会中で足りてないものはあったか?」



「ちょっと待って。……ん………トイレの紙は人数増えるならストック合ってもいいかも。あと調理油と蝋燭の油切れかかってた」



「そういえばそうだったな……シャンプー類はどうする?」



「私達のなら兎も角、王族がなに使ってるか分からないから……足りてるし止めておいた方がいいと思う。きっとメイドさん達も来るだろうから、持ってくるんじゃないかな?」



繋いだ手をゆらゆらしながら応えれば、褒めるように何度か握られた


きっと高いシャンプーでも神父様は買えるだろうけど……固定のしか使わないって人も居るし、止めておいた方が懸命だろう

教会はお布施もいくらか貰っているけど……教会の補修やらにしか神父様使わないから、普段の買い物のお金がどこから出てくるのかが不思議で不思議で仕方ない


レーヴェディアから神父様は昔は冒険者をやっていたことがあると聞いていたから…その貯金かもしれない。結構大胆に使うときは使うので、心配になってしまう。神父様に限ってありえないとは思うけど大病とか怪我とか……


でもお金のことを直接聞くのもなんだか失礼な気がして、神父様から視線を外した




「そうだ。折角お前さんが初めて町へ降りたんだ……いつも私が選んできた服ばかりだからな、自分で選んでみるといい」



「え……神父様が選んでくれる服、可愛いしまだ持つよ?」




神父様が選ぶのは殆どがワンピースタイプやら着物のような服だが、可愛いしサイズもあってる


元々対してお洒落に興味はないし…ある程度機能性があって、許容範囲のデザインならそれでいいのに。……でも神父様に背中を押され大人しく手を離して服の合間を歩く


膨れていても仕方ないかと並べられた服たちを眺めてみる。……あからさまに子供っぽいのは勘弁だ

まぁ、前世よりもどこか中世に似たこの世界はくまの大きなプリントとかないし、比較的シンプルで可愛いものが多い




「………どうしよ」




とひあえず1、2着持っていけばいいんだろうか。静かに他のお客さんの間を縫って服を物色する

他の小さな子も勿論居るのでなるべく騒がず目立たず。いかにある程度防音して貰ったとはいえ、間近であの甲高い声を上げられると耳と頭が死ぬ。結構本気で


身長にあった服を適当に取っては、デザインを見て戻す。ギラギラと目に痛い色は苦手だし、逆に真っ白とかでもなんだか締まりがない。好きではあるけどなんだか真っ白いワンピースといえば夏!というイメージがあって中々着なくなりそうな予感がした


取っては戻す。それを繰り返すこと大体十着目


軍服の様なベストとセットアップの白いワンピースを見付けた。裾に波形に一本入ってるのがまた可愛い。これなら夏以外でも着れそうだ、気分的に


そしてその隣。首もとから肩に掛けては黒のフリルで編まれ、チャイナトップスに白の短いボトムス。裾がふんわりと膨らんでいて可愛い。普段からブーツを履いてるし小さい方だから丈も丁度いいくらいだろう。


この二つは群を抜いて可愛い。前世もこんな服が着たかったが……似合う似合わないがあるから止めておいた

でも今は幼いから、何だって許されるはず


あとは値段を見て……と、値札を確認しようとしたら、ヌッと伸びてきた手に両方取られた




「ふむ、この二点だけでいいのか?」



「神父様。……まだ値札を見てないです」



「戯け。子供が金の心配なぞするでないわ。お前さんが毎日贅沢をしたとしても、死ぬまで面倒見きれるくらいの貯蓄もツテもある」




貯金がある方だとは思っていたけど……まさかそれほどとは。贅沢したがりじゃないけど、そう言われると何だかもう少し甘えたくなる……うーん、稼げるようになったらいっぱい神父様にプレゼント上げよう



「じゃあ……あれ、あれもほしい。寝間着にする」



「…………お前さんも相当可愛いもの好きだったんだな」




普段着が並ぶスペースから少し離れた場所。子供用の寝間着が並ぶ中にあからさまに不自然なものが一着


サメの着ぐるみ


この世界にサメって居るんだとか、あれはもっと小さい子向けだろうとか……いや、しょうがない。可愛いもん、あの着ぐるみ。この世界にも普通のサメっているのか知らないけど。垂れた尻尾の部分の内側には獣人用だろう穴も空いてるし……正直他の服はいらないからあれだけでもいい




「別に構わんが……ぬいぐるみをセットで買うとお得らしいがいるか?」



「いる、出来ればピンクのもほしい」



キリッと表情を引き締めて見上げると大きな手がぐしゃぐしゃと何度も撫でてきた




「中々物を強請らん子だと思ったが……ああいうのが好みなのか?」



「可愛いものは何でも好き。ぬいぐるみはぎゅーってしてたいし、何かに抱き付いてないと安眠できない」



「毛布を抱いて寝る癖はそれのせいか……買うのは構わんが、ぬいぐるみは自分で持てるな?」



「いいけど……一個しか、持てない。」



「………買ったら、一度馬車に置きにいくぞ。」




持つのが嫌なのだろうか?…そう思ったが、いい年齢の神父様がぬいぐるみを持ち歩いてるなんて…変な噂になっても嫌だろう

あまり目立たないように紙袋に一つずつ入れて、ピンクのを自分で抱える……神父様は脇に抱えてるけど頭から袋に突っ込んだせいで尻尾が垂れ下がってる



それが何だか面白くてクスクスと笑みを洩らせば、ちょっとだけ神父様の口角も上がった


往復すれば一人でも置きにくらい行けるのに、一緒に行ってくれるなんて優しいなぁ。大人になったらいったい何を恩返しにできるだろうか



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