第五十七話
リムネルが呼びに行ってくれたおかげですぐに神父様達がやって来た。ウーノ達も策敵を終えたのか一緒に居る。策敵前に神父様に捕縛したことを知らせに行くよう伝えたので、もしかしたらまだ策敵してないのかもしれないけど、まぁどっちでもいいや
遠目からでもシアレスやガルシアは私の状況を理解したらしい。唖然とした顔で立ち止まり、逆にユア様やダンテは顔を苦痛に歪ませている。…神父様?神父様は最初眉を寄せて居たけど、あまりにも私が痛そうにしてないからか…或いはルシェシラルトを縛って足蹴にしてるからか、呆れたような顔をしてる。…あ、目を覆い出した。呆れられた
「レ、レンっ……!その傷っ!!!」
「うん、シアレスに治して貰おうと思って。治せそう?」
一番に我に返ったのはシアレスで、走り寄ってくるなり泣きそうな顔で…というか、半泣きになりながら傷に手を翳された
詠唱もなく、魔力の気配もなく、ただ淡く指先に灯った優しい光が通った後は火傷の跡さえなく完璧に治っている。…まぁ、一瞬で全身治るとは思ってなかったのでそのままシアレスに任せよう
「っ…こ、これは……どういうことだ!何があった!!」
「私に向かって怒鳴んないで、煩い。…何って…見たら分かるでしょ?戦闘」
「俺が怪我をさせ「こいつがね、アヴィリオを操って私に魔術を浴びせたの。でも炎だったから何とかなった。痛覚は切ってるから安心して。あと出来るなら魔術封じの拘束具がほしい。持ってる?」
アヴィリオが余計なことを言う前に言葉を被せ、椅子にしてたルシェシラルトを指差す
なんで、という顔をしてるアヴィリオを視線で黙らせ、ダンテが何処からか出した鎖付きの腕輪をルシェシラルトの両腕に嵌める。…魔力封じというより、魔力を吸ってるのかな?腕輪へと勝手にルシェシラルトの魔力が流れている
「ありがとう、ダンテ。……ごめんなさい、レンちゃん。私のミスだわ。私が彼に今回の件を話さなきゃ…!!」
「いえ、過ぎたことですから気になさらず。…まさか幻覚を使ってくるとは思わなくて…クリフト達が協力してくれたのでなんとかギリギリではありますが、これでこの周囲にはジュエライトに関わりがあるものは居ないかと。…ただ、クリフトたちの口封じに来たことを考えれば、この事もすぐ城の中の残党に知れ渡るでしょうからその対応はお任せします。……これで私の仕事は終わりでいいんだよね?神父様」
「少々やり過ぎな面もあるが…まぁ、良かろう。よく頑張ったな。レン」
シアレスに治されながら、神父様にも撫でられ、ご機嫌なのでむふー、とアピールすれば漸く全員の表情が和らいだ
「……すまない。厄介事を持ち込んだな…それに嫁入り前の淑女に怪我を負わすなど…ナオに顔向け出来ん。確実に怒り狂うぞ」
「ごめんなさい…私も一緒に怒られますから…」
「言わなきゃバレない。大丈夫。…シアレスなら治せると思ってたけどね。痕も残らなそうだし良かったぁ」
「あ、貴女ねぇ!確証がないのになんて危ないことするの!これで私が治せなかったら…貴女、あなた…!!!」
「うん。そしたらその時考える予定だった。どうとでも理由は付けられるし…シアレスなら治せるって信じてたの。…ありがとう」
泣きながら激昂する姿は何処と無くノーチェを思い出させた。そういうば最初に会った時もノーチェってば私より泣いてたんだっけなぁ……
「……痛むだろう…まさかここまでするとは……他国だぞ、アレフ……」
「痛くないよ。麻痺掛けてるもん。……それよりルノー達大丈夫かな。出てこないけど………え、何事?大丈夫?三人とも」
膝を着き、頭をずっと下げていたクリフト達に視線を向けながら言ったのだが、件の三人はあからさまに怯え、緊張してるのが分かる。冷や汗の量が凄いし、瞳孔開いてない?大丈夫?
首を傾げた所で、そういえばガルシアってばクリフト達の国の王子だったっていうことを思い出したし、しかも彼らは首謀者の一味と言っても過言ではないのだった
……まぁ、色々理由もあるのでどちらかといえば被害者でもあるのだけど……それより、問題はユア様だ
彼らは奴隷商。この国の王族が、奴隷商を許すはずが無い
冷ややかな目で三人を見てるガルシアとユア様に此方もちょっと冷や汗をかきつつ、座っているのを止め、彼らを隠すように立ち上がった。……治りきってないけど、仕方ない。残り半分くらいは今夜にでもゆっくり治してもらおう
「あー………えっとぉ、とりあえず落ち着いて聞いて欲しいなぁ……」
「……お前さん、その大事な話かつ誤魔化したい時のそのわざとらしい間延びした口調と上目遣い何とかならんのか……誤魔化せとらんぞ。愛らしいが」
「目線が泳いでるわ。駄目よ、あまり顔に出しちゃ。可愛いけど」
「そうです!それに怪我も治し終わってないから動いちゃダメ!可愛らしいですけど!!」
「…………俺は乗らんぞ…」
「うわ、ノリ悪。これだからガルシアは……ま、さておき。クリフト、フォローはするから自分で説明して。とりあえず教会の中行こ?どこで誰が見てるか分からないし……」
伏兵が居るかもしれないし、教会ならば安全だろう。…あとお祈りに来た人が居たら流石に色々マズイ。揉み消せるだろうけど噂になることは確実だ
未だ膝を着いてる三人を起こし、殿を行く。…顔色が悪い所の話では無いけど…特にハイトなんか今にも倒れそうな感じである
「大丈夫?」
「…ちょっと、キツいかな……なんていうか、体の奥からザワザワする感じ…?…本能的に恐れてしまってるのかもしれないね。ユア王女様は獅子の王の血を引くお方だし…」
「優しい人だよ。ユア様。…倒れられたら困るから、手繋いでて上げるね。ネルも。君達まだ子供だし、酷い事にはならないだろうけど…不安になるのは仕方ないもんね」
「…どう見たってお前の方が餓鬼だろ。俺達18だぜ?」
「………年上じゃん」
ゆらゆらと繋いでた両手をじゃあいいかと離せば、何故か両サイドからがっしりともう一度繋がれた。…え?そんなにユア様怖い?君らよりもユア様だって年下だけどな…
命綱的な扱いをされてるような気がするが、ともかく本当に倒れられたら面倒だし、僅かに震えてる手を話すのは些か心苦しかったので諦めた。振り向いたクリフトも苦笑してたけど、肩を竦めて進んでいく
まぁ、教会の前で揉めてたので大した移動では無いのだけど。…あ、勿論縛った貴族連中も回収した。神父様、ダンテ、フロウに引き摺られ、目に見える範囲で纏めて柱に縛って放置してある。ルシェシラルトはぎゅうぎゅうに纏めず柱一つに対して1人である。特別待遇などではなく、後々こっちの方が楽なだけ
「さて…じゃあ、クリフト。頑張って。ネルとハイトもフォローしてあげなよ。ルノー呼んでくるからさ」
「…いや、ルノーも共に話した方がいいだろう。俺よりも頭がよく回るし、俺じゃあ多分言葉が足りない」
『───よく分かってるじゃないか、坊。少しは成長したようで喜ばしいよ』
「ルノー!!!」
コツ、とヒールによく似た音を響かせ、ジュエライトと共に現れたルノー。ジュエライトはすっかり安心しきった様子でルノーにピタリと寄り添い歩いている。……別に羨ましいとか思ってる訳では無い。…本当だよ?
「……魔族か」
『如何にも。悪いが僕らは魔王様以外に頭を垂れないし媚びたりもしないんだ。…君らの間では無礼と呼ぶんだろうがね』
「いえ。魔族とはそう在るものだと知っています。魔に属し、知恵を宿した方よ。本来であれば種族と名を聞き、此方も名乗るのが当然でしょうが…現状を鑑み、省略させていただきます。貴方も彼ら側なのですから」
つん、とすました顔をしてる二人。王族としての顔なんだろうなぁ……オドオドしてるシアレスを手招き、とりあえず傍観に徹する事にしよう
何せここから先は私の仕事でも何でもないし、酷い事はされないけど捕まるかどうかはクリフト達次第
薄情かもしれないけど、王族が…国が動いてる時点で、北の国の第二王子側に着いてしまったクリフト達が無罪放免というのは有り得ない
体裁であったりもあるけど、最終的に裁くのはこの国の国王陛下になる。…奴隷商を憎んでると言っても過言ではないあの陛下にだ
……死刑にさせるつもりは無いけど、重罰の可能性は充分にある。例え証人になったとしても、事が落ち着いた後の保証がない
「…一つ、聞きたいことがある。魔族のお前ではない。…クリフト、だったか
お前を吊るせばそこの二人は助ける。と約束したら、お前はどうする?また逆もだ。そこの二人を吊るせばお前だけは助けてやろう。今までの事に目を瞑り、一生を遊べる金を渡す。……お前はどうする」
「……………………………………………………………………え?ガルシア馬鹿なの?」
「おい」
重々しく口を開いたガルシアから出てきた質問は、あまりにも幼稚すぎて思わず声が出た。一斉に視線が突き刺さったけど仕方ない。…いやほんとに馬鹿なのかと思った
「いや、尋問するとかならまだしも。え?何その質問。巫山戯てる?怒るよ?真面目にやって」
「巫山戯てなど無い!!」
「いや、答えが分かってる質問とかいいから。それとも北の国の儀式的なやつ?それならここ他国だから後にして
ガルシアが聞くべきは事の経緯でしょうが。無駄な話とかいいから。…それとも何。義弟の行った事が信じられないから話を逸らそうとしてる?……それだったら殴るよ」
「これ、レン」
「神父様。…でもガルシアが甘いのが今のは悪い。私悪くないもん」
襟首を掴まれ、強制的に神父様の隣に引き摺られた。…何度だって言うけど、今の私悪くない。時間ないのに話伸ばそうとしたガルシアが悪い
頬を膨らまして抗議してみるも、スルーされた。…ユア様は困った顔をして笑ってるけど
「レンちゃん。話を折っちゃダメよ」
「急いては事を仕損じる。と、言いますから…今暫くお待ち下され」
ダンテにも苦笑された。ますます膨れて見せたけど、今度は誰にも見られなかった。…その代わり、ガルシアとクリフトに視線が集う
「……で?どっちだ?」
「勿論、前者でございます。元々この二人は俺に着いてきただけのただの子供なのです。…恩情を、頂けるのであればこの首など安いものでしょう」
「そうか」
……分かりきった答えだった。ほら見ろ、とばかりに不貞腐れてみるも、神父様に撫でられるだけで誰も声を出さない
「────では、お前の命は俺の物としよう。死を選ぶのならば大差はあるまい。…聞いたな?」
「はい。私、ユア・べスティードが証人になりましょう」
「私、ヴォルカーノ・アレフリア、及び義娘レン・アレフリアも証人となりましょう」
「っ……お、恩情、感謝致します…!!」
勝手に何かの証人にされたので、抗議しようと口を開き……声を発する前に神父様に塞がれた。ついでにそのまま頭を下げさせられた…
「…もう話していいぞ」
「………何。どういう事、これ。シアレス知ってる?」
「えぇ。勿論。……あら?貴女知らないの?」
「え!知ってるの?!?!」
知らないと思って振ったのに、とんでもない裏切りを受けてしまった。思わず声が上擦ってしまった程だ
……なんか、隣と正面から呆れた眼差しを感じるけど、私だって知らないことはあるんだよ




