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第五十六話




「あっははははははは!!!いやぁ、流石ですねぇ!エルフの魔術!!これじゃあ焼き尽くすまで炎は尽きませんし、消火したところで既に手遅れ!!!殺しは初めてですか?どんな気分ですか?」



「っ、アンタァ……!!!」



「おっと、そんな怖い顔しないで下さいよ、お連れの方。私は嬉しいのですよ。子を慈しむ種族が、躊躇いもなく、未だ子供の域に居る少女を、自らの手で焼き殺したこと!!

あぁ、勿論、彼女は反逆者に当たるので貴方にはなぁんにも、咎はありませんよ。良かったですねえ!」



「レンっ……レン…ぁ、ああ”ッ…!!!」



「おや、壊れます?壊れちゃいますか?無様ですねぇ……可哀想ですから、彼女と同じ所へ行かせて上げましょう!!」



「っ、アヴィリオ!!!避けなさい!!!」




膝を着き、呆然としているアヴィリオへ向けて、けらけらと人を嘲りながら至極愉快そうなルシェシラルトの剣が迫る──
















「知ってる?ナイフで刺し方が甘くとも大量出血させる方法」
















ドスッ、と手から腕へ響く独特な心地。わざとらしく大袈裟に、まるで演じるかのようにアヴィリオへ言葉を向けて今にも殺そうとしていたルシェシラルトのがら空きになった懐。そこへ向け、短刀を突き刺した


咄嗟に体を捻られたせいで急所は外れてるけど、問題ない。元々両刃のこの短刀を刺したまま捻れば。ほら、簡単に血が吹き出る




「っぐ、ぅ…!!!貴様ぁ…!!!!」



「わざわざ高笑いするとか、今どき流行らないよ?せめてきちんと生死の確認くらいしなよ悪役もどき。あと、それだけ血が出てたら死ぬでしょうね。間違いなく。でも私優しいから塞いで上げる

───楽に死ねるなんて思わないことだね。お前は殺す。心も全て壊してから」




一瞬、姿がブレたルシェシラルト。リムネル達の驚いた顔を見るにどうやら幻覚が解けたんだろう


教会から出てすぐに、こいつはスパイなのだとわかった。私には男に見えてるのにアヴィリオ達は女だと言うんだもの

口にしようとしたのをフロウが止めてくれて良かった…今も飛び掛からんばかりに威嚇しまくってるけど、私の意図を汲んでクリフトを引っ張ってくれたから彼らは無傷だ


押し退けきれなくて、巻き込むかと思った……




『間に合って良かったです…いえ、致命傷には変わりないんですが!』




平気。とっくに麻痺掛けてる


何故無事かというと、アーシェに貰ったネックレスのおかげ


炎属性に対する耐性と、精霊魔術への耐性…つまりアヴィリオの魔術の半分以上を吸収してくれたのでギリギリ耐えられた


エルフの魔術は精霊の力でブーストされたものが多いらしい。アヴィリオのもそうだったんだろう。宝石も割れ、チェーンも千切れてしまったけど、何とか命を繋げた…アーシェにいっぱいお礼言わなきゃ


それにノーチェが咄嗟に声を掛けてくれなきゃ、驚いて結界を本気で張ることなんて出来なかったし……本当、今立ってられるのが奇跡と言って過言ではない




「レンっ!!」



「リムネル、大丈夫。まだ平気。……服焦げちゃった。気に入ってたのに…どうしてくれんの」



「……はっ!知ったことか。とどめも刺せない甘ちゃん…っぐ、!!」




片膝を着き、忌々しげに睨むルシェシラルトの両腿に短刀を差し込み癒術で傷口を塞ぐ。出血はしないがこれで中の肉は抉れるだろう

バランスを保つ為か地面に両手を着いた途端、土の槍が彼の両手を貫いた


誰だと聞かずとも、彼の背後にたいそうお怒りのフロウが唸ってるのでフロウだろう。吼えるような悲鳴を上げるルシェシラルトの前へしゃがみ、指先で短刀の柄をゆらゆらと揺らす

脂汗が滲み、人を馬鹿にしたような笑みを称えていた表情が漸く歪んだ。見え隠れするのは恐怖と怒り


言っておくが柄を揺らすのは無詠唱魔術への警戒で集中させない為であって鬼畜とかではない


ああ、舌を噛みきられるのもやだな。焦げた服の一部を風の魔術で裂き、猿轡の代わりに噛ませて…やっぱり起こしておくのも面倒なので思いっきり下顎を脳天目掛けて殴って脳を揺らして失神させた


そういえば、とやけに静かな貴族連中を見れば既に失神していた。アヴィリオの魔術の強さにでも驚いたのかな。…失禁してるのは見なかったことにしておこう




「さて、と……アヴィリオ、神父様呼んできて」



「ぁ……あ……れん……レン…!!!」



「ふぐっ」




ドン、と強い衝撃。かろうじて尻餅で耐えたけど、目一杯抱き締められたせいでそこそこ体が軋む。……あと、ボロボロ溢れた涙が火傷に若干滲みるような……いや、お口チャックしておこう。アヴィリオが震えてる




「すまない!!すまない!!!!俺の……俺のせいで!!!」



「アヴィリオのせいじゃない。なんか変な匂いしてたし…それにね、生きてるよ、私」



「思考を乱す毒花の匂いですよ、これ。だいぶ希少な北の国のもののはずです。獣人は匂いで気付くけど他の種族だと厳しいかと……本来は見抜けるはずの幻覚すらも見抜けなくなるんです」



「ハイト…気付いてたもんね、先祖返りだからか。…あれ?クリフトも気付いてなかった?」



「俺の場合は癖で気付いた。…ソイツ、独特な歩き方しててさ…俺が知ってる奴もそんな歩き方をしてたから違和感を覚えたんだ

幻覚を覚ますには疑う切っ掛けさえあればいい。ネルは俺らを信用しての行動だったが………肝が冷えたぜ、お嬢ちゃん」




アヴィリオに包まれるように抱き締められながら二人に返答すれば、リムネルとネルも近寄ってきた。今思ったけど二人とも名前似てるな…まぁ、そんなこともあるか

リムネルの足を止めていた土をネルが瓦解してくれてたらしく、その拳は若干血が滲んでいる。リムネルでも崩せなかったのに…時間が経ったとはいえ、やるなぁ、ネル




「レン……ごめんなさい、ごめんなさい…!!」



「謝んないで、二人とも。……貴方たちもありがとう。ルシェシラルトを警戒してくれて

…リムネル、お願いだから神父様呼んできて。シアレスも」



「えぇ、ええ!早く連れてくるから、待ってて!」




顔をグシャグシャにして、泣きながら走っていったリムネルに申し訳なさを感じながら、未だにぐずぐずと泣いて離れないアヴィリオを抱き締める


確かに私は確実に重傷だ。顔も身体も焼け爛れてるし、なんとか自己治癒を会得したっぽくて出血は収まってるけど、真っ赤だし…髪や耳、尻尾は少し焦げたけど無事だ。肉体よりも魔力を蓄積しやすいらしく、ハゲは避けれた。それが何よりも嬉しいが…まぁ、毛先なんかはモロに火の粉に当たったのでチリチリになってしまった。遺憾である。あとでアヴィリオに整えて貰おう


人目も憚らず声を洩らして泣くアヴィリオを三人は見ないように顔を背けてくれた。後々恥ずかしがらないようにの配慮だろうか。…あと、クリフトが着てたマントを掛けてくれた。肌に引っ付くから嫌だなぁ、と思ったけど、そういえば服も多少焼け焦げ、露出が格段に上がってるし下着もチラ見してたので有り難く借りることとした


ネルとハイトの頬が薄く色付いてたのはそれのせいか。ごめんね




「アヴィリオ。……アヴィリオ。泣かないで」



「泣くに決まってんだろ!!!俺はっ…お前を殺しかけたんだ!!!」



「でも生きてるじゃん。だから大丈夫だって。それにこいつが悪いの。アヴィリオは悪くない。…そんなに泣かれると困っちゃうな。涙滲みるし…私も悲しくなっちゃう


アヴィリオの炎のおかげで油断も作れたし、結果が良いならいいんじゃない?」



「良いわけあるか!!!」




キーン、と響いた。泣きながら怒るアヴィリオの眼からは次から次へ、大粒の涙が出て止まらない


アヴィリオの性格とエルフという特性上、だいぶ心を抉られたんだろう。…煽られたことで、それこそボロボロになる程

私としてはシアレスが治せるだろうから、このぐらいの傷は気にしてはいない

火傷痕が残ったとしても、普通の令嬢なら致命傷だろうけど、私は冒険者になるのだから多少は身体に傷が出来る筈だから気にしてないし、寧ろ誉れにもなるだろう


勿論、消せるなら消したいのでシアレスに頑張って貰うけどね




「なんでお前はっ……そうも自分を犠牲にするんだ!!幾らでもやりようはあっただろう!!!」



「うん。…でもあれが最善だったと思うよ。怪我人は最小限。ルシェシラルトは捕縛。結果を見れば分かるだろうし……何よりね、これくらい乗り越えなきゃいけないんだよ、私が行く道は


ね、怒らないで褒めてよ。私頑張ったよ?」



「頑張るの方向性が間違ってるんだよお前は…!!」




見たことないほど涙で顔を汚し、肩を掴んだ両手は未だ震えが止まってない




「でも自己治癒会得したもん」



「そういうことじゃねぇわ!!!」



「もー、しつこいなぁ!生きてるんだからいいじゃん!この話おしまい!!離して!」



「だから良いわけあるか!!!この際だから徹底的にその自己犠牲の癖矯正してくれる!!!」




ギャアギャアとお互い喚き立てれば、フロウが近くに寄ってきてアヴィリオの頭に手を置いた。普段突っ掛かる時には揶揄うような、馬鹿にしたような顔をするのに、今はなんかアヴィリオに同情するような表情である




「フォゥ」



「……諦めろって言ってる」



「…お前、従魔にも呆れられるってどういうことなんだ……」




アヴィリオにも同じような顔をされ……漸く、彼の手の震えが収まってきた

諦めたのか鼻を啜るとアヴィリオの手が火傷に翳され、優しい光が灯る…癒術特有の温かい光

シアレスにして貰う、と言い掛けた口は閉ざし、その光に甘んじた。…処置は早ければ早いほどいい。それに、たとえそれを上回る癒術を掛けて貰うのだとしてもその気持ちは無駄にならないのだから




「……欠損がなくて良かった」



「うん、多分私じゃなきゃ耐えられなかった。アヴィリオって凄いなぁ、見て、アーシェのネックレス粉々


それだけ魔術の強い師匠持てて幸せ。…ルシェシラルトが女に見えてたなら警戒を緩めるのは仕方ないことだよ。そういうところも好きなんだから」



「情けねぇ……アンタらも、正しく見えてたんだろ?」




頷く二人に対し、視線を恥ずかしそうに散らし、首を唯一横に振ったのはネル




「…いや、俺は二人が警戒してたから真似ただけで…普通に女に見えてたし、弱そうだなって思った

だから俺より強いアンタらが警戒しないのは当然だと思う」



「それでも、だ。……弟子をこんなにボロボロにして、師匠失格だ。…俺が怖いだろう」



「え?…いや全然。ネックレスはまたアーシェから貰えばいいし、本気で怒ったアルトゥールの方が怖い。あと、くどい。もうおしまいったらおしまい」




べシべシとアヴィリオの頭をチョップしたら、比較的火傷の軽い肘を捕まれ、「やめろ!」と普通に怒られた


メソメソしてるのはらしくないからね。元に戻ったなら良かった





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