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序章、転生致しまして




ジージーと鼓膜を劈く蝉の大合唱

それからツン、と鼻の奥底に残るような血の匂い。さっきまで全身から汗が吹き出て、肌にぺったりと肌着が張り付くほどにうんざりと暑かったのに、今は末端からじわじわと凍っていくかのよう


一瞬。腹部に強烈な冷たさが走って、それから一気にそこが熱を持って…それから、それから。………だめだ、思考が纏まらない。なんで私は今色んな人の足を見てるのだろう。頬を濡らすこれはなんだろう。嫌な匂いだな


呼吸が段々億劫になってきて、浅く、早く、肺から酸素を押し出す

その度にどうしようもないほど痛くて、涙が出てきて……直感的に、ああ死ぬんだな、と思った

走馬灯なんて走らなかったし、思い返すのは────愛しい、貴方


柔らかく笑う貴方。別れ際に寂しそうに眉を垂れ下げる貴方。無邪気に一緒に笑ってくれた貴方………あぁ、…………ああ!!足りない!!足りるものか!ここで生命が潰えてしまったら、まだ貴方との時間が足りない!!!

ひゅーっ、ひゅーっ、と喉から震えて絞り出された音は、雑踏に呑まれて雑音に成り果てる



愛しい貴方の名すら呼べず、これで星宮 蓮(ほしのみや れん)の人生は幕を閉じた

















































声がする


視界は真っ暗。手足の感覚も、今立っているのか座っているのか、そもそも此処はなんなのかすら分からない

気持ち悪いのか、穏やかな気分なのか、浮いてるのか、落ちているのか。それすら何も分からない。ただ落ち着かず、恐ろしく、凪いでいて、温かくて……なにも、何も。分からない、このまま漂っていたい



なのに。声がする


水面に水滴が落ちるような静かで小さな声。聴き逃してしまいそうなのに何だか身体によく響いて……ああ、また声がする



「目を、覚ますのです」



甘く、涼やかな響きの声だった。身体の末端に迄通るような声に不安定だったのが漸く存在を認識出来て……硬い場所から身体を跳ね起こした



「………………」



「……………………」



「………………………わぁ……」



「だ、第一声がそれなんです?…こ、こう、もうちょっとこう、何かありません…?」



ふわふわの髪にしっとりとした布の服。きらきら眩しい光輪に目を引く大翼。言ってしまえば典型的な女神様

で、私は恐らく死んだのだろうと結論は出てるわけで……即ち転生(テンプレ)。事実は小説よりも奇なり

夢見物語が現実になれば…まあ、そりゃあんな気の抜けた声も出ちゃうわけで。すん。と思わず冷めた顔をしてしまえば嫋やかに微笑んでいた女神様(?)が眉を垂れ下げて言ってきた


けれどまぁ、咳払いをひとつすると再び穏やかに微笑み…



「はじめまして、星宮蓮。私はノーチェ…貴女の世界で言う神というものです

貴女の生命は潰えました。儚く、唐突に…けれど貴女は選ばれました、私が見つけました。故に、もう一度生を謳歌するチャンスを差し上げたいと思うのです」



「あっ、はい」



「…こ、こほん!…きっとまだ気が動転してるのでしょう………ええと、…えっと。その、ご自身が亡くなられたのは覚えてます?夢とかじゃなくて」




石の祭壇のようなものに寝かされていたようで、改めて座って聞いていたらこう、…無駄に威厳たっぷりな態度を取られた後、顔を寄せて困り顔をしてきた


なんというか、揶揄いがいがある神様だ、言わないけど



「覚えてる。大丈夫」



「それにしてはこう、……落ち着きすぎじゃありません?そりゃあその、其方の世界には娯楽が富んでいましたから分からなくも無いですけど…………こほん!理解頂けてるのならば話が早いです!

貴女の世界の娯楽小説にもあるように、貴女にはアヒテュールカントという世界に生きてもらいます」



「あ、はい。やることとかは」



「……………あのあの、私が聞くのもあれなのですけれど、無理してます?それともこう、…理解するのが早すぎません?」



「いやだってテンプレだし………無理してるというか、…小説にあるようにさ、最強になりたい〜とか、お姫様になりたい〜とか、異能が欲しい〜とかは無いの

────私はね、愛する人と生きたかった。それで死んでからだったら、まだ色々あっただろうけど…ああ、だめだ、勝手に涙が………………………うわ、」




ポロ、ポロ、と溜まりに溜まって大粒の涙が勝手に溢れ、勝手に鼻声になってしまう

ズビズビ情けなく鼻を鳴らして、何とか言い訳をしようと彼女を見ると……そりゃもう、こっちが引くくらい泣いていた


お上品な泣き方とかじゃなくて、こう、泣き喚いては居ないけど顔ぐっしゃぐしゃにしてる



「そ゛う゛だったん゛ですね゛……!!ひっぐ、…大丈夫、大丈夫ですから゛ね゛…!!」



「えぇ……………めっちゃ泣くじゃぁん…」



ドン引きである。いやだってもう、私以上にわんわん泣いてるんだよ?ほら、自身以上に焦ってる人を見ると落ち着くとかあるみたいに泣いてても同じことが起こるんだよ、多分


取り敢えず泣かれてては話が進まないので頑張って慰めた。神様って人の感情とか理解出来ないとか理不尽な存在だろうと思ってたけど…なんか親近感湧く神様だな……いや、演技かもしれないけど、これが演技だったら凄いな。完璧過ぎて賞賛するが…まぁ、感覚的に嘘じゃないと思う

威厳ある態度をしてる時よりも、何だか彼女らしい気がする。なんとも愉快だが、そういう女神様が居たっていいと思う。むしろこう…そっちの方が親しみとか持てるし。敬うかどうかは置いといて



「す、…すみません、お恥ずかしいところをお見せして……」



「大丈夫。気にしてない」



「うぅ、忘れてくださいね………え、っと、それで貴女の最愛についてですが……結論から先に申し上げましょう


彼…樟葉 直(くずは なお)は私とは異なる神に可能性を見出され、貴方と同じように転生を果たしました

…彼、貴女が亡くなったと分かるや否や……身辺整理もせず、後を追うように生命を立ったのです」



ひゅっ、と喉が鳴った


ドクドクと耳元で血流の流れる音がして───────歓喜で眼を見開いた


自殺したのに対して心を痛めるべき?まさか。私でもそうする。……そういう関係なのだ、私達は

重いと人によっては言うだろうし、生命を実際掛けるとなると、そりゃあ人間だから死を恐れるだろう……だけど、私達はそんな温い関係じゃないし、立場が違ったら同じことをした


恋慕であり愛情であり執着なのだ。私達は


人によっては眉を顰めるかもしれないのだとしても……そうだとしても、当事者たちがいいなら、迷惑を周りにかけてなんて居ないのだからいいでしょう?また巡り会える可能性に思わず吐息が洩れ…穏やかに微笑んだ彼女に、ああ、彼女もこちら側の神様なんだろうな、と思った

そもそも神様の恋愛って壮絶だしね。星座の数ほど浮気話がある最高神とかさ



「アヒテュールカントへ来て頂くことに異存はないようで良かった……彼に関しましては、亡くなったのは貴女より後ですが、既にあちらへ産まれています

……そ、その、私が不慣れなばかりにちょっとこう、時間掛かってしまったからだったり…こ、こほん!とにかく!役目云々はとりあえず置いておいて、転生にあたって貴女に与える祝福について話しましょう!」



「なんか重要なこと言ってなかった???うん???」



「い、いえいえ!なんでもないです!祝福については貴女に選ぶ権利がありますから、そこだけ確認取れれば後は直ぐにあちらに行けますからね〜!」



なんか……ポンコツ度が伺える神様だな…


とはいえ、今の私はもう一度会えるかもしれないことに有頂天。そんな事はどうだっていい



「祝福ってなに」



「私が貴女にいくつかの護りを与えるのと……主神に分け与えられた権能の許す限り、貴女の願いを叶えます


今までの例ですと、最強になりたいとか、誰もが羨み、振り返るような美貌が欲しいとか……あ、勿論富豪になりたいとか、不老不死も居ましたね


ですが……不老不死だけは、貴女の場合特にオススメしません…相手が不老不死を選ばれてないので…一人彷徨うのはお辛いのです

以前願われた方も……500年立たず精神が壊れ、祝福した神共々消えてしまったほどですからね…」



「主神……つまり、貴女達の上に、更に偉い神様…世界を作った神様が居るって感じ?」



「まぁ、その認識で問題ありません

私達は主神の意向で世界を潤し、護る為に活動してるようなものですからね

偉い方…というより、絶対者なのです。ですので、アヒテュールカントでは主神以上の権能や力は与えられません……が。…私達が与えた護りや権能を昇華させ、主神に匹敵する程にまで力を持った方も居ます


人間や獣人、信仰を僅かにでも抱ける者だけが、唯一神を落とせるのですから」



「………何。その主神とやらを殺す気?」



「いえ!違うのです……今はまだ言えません。何せ此処は私の領域。少し他と流れが異なるので…………その、長話をしてると、どんどん貴女と彼との年の差が開いてしまうので…」



「それを!!!早く言えおばか!!!早く転生させて!!」



「ご、ごめんなさい!!ま、まだ然程開いてませんから…とりあえず転生にあたっての願いを!お願いします!」



「えぇ〜……本当〜…?……んと、……獣人が居るんだよね?」



さっきポロッと話の隙間で溢れた単語


獣人。人の身に動物の特性が付加されたものか、はたまた二足歩行の獣か


ざっくり話を聞くと…どうやらどっちもあるらしく、纏めて獣人と呼ぶこともあるんだが…もっと正確に言えば、前者は後者に人間の血が混じってるのだとか。例えば、犬の特性を持った者がいたとしよう

後者の場合と犬人族(いぬひとぞく)と呼ばれ、なんとかの犬人族。前者の場合は色や特性…まぁ、その一族というか氏の名乗りを上げる。灰色ならば灰犬族(はいいぬぞく)武術に優れてるなら戦犬族(いくさいぬぞく)という感じ


つまり、灰犬の特性を持ったものの場合


純血たる獣に近しいものは灰犬族


人と交わり、獣よりも人間に近しいものは灰犬人族となる訳だ


ややこしいんで通常は灰犬族の獣人とか呼ぶらしい



「…………なるほど?」



「…まぁ、その辺はおいおい知っていけばいいのです。…さぁ、どうぞ貴女の望みを」



「そうだね、私は───────」



熟考する必要もない。私が選ぶのはたった一つ


貴方が見付けてくれる為の…ううん。私が貴方を見つける為の、脆くない肉体に、きっと貴方も選ぶであろう種族の対の存在


こうしたい、って言った瞬間あの女神様ぽろっと「うわ、本当にレイルの言ってた通りだ…」なんて言ってたので恐らく正解なのだろう

お互い恋というには余りに濁った、愛と言うには重すぎる感情を向けあってるのだから多少なりとも相手の考えは読めるとも…人は執着というのだろうそれですら、私達にとっては心地いいもの。やたら流行りのチート能力持ちを勧められたが、能力は自分で伸ばしてなんぼなので割愛。せっかく魔術有りのファンタジーな世界なんだから楽しませて欲しいものだ




「う〜ん……そっちの方がいい気がするけど…まぁ、この子才能はあるから大丈夫かなぁ…でもでも向こうは戦いいっぱいだしなぁ…」



「ちょっと、何ブツブツ言ってるの。早くして、歳の差開いちゃうでしょ」



「うう、それもそうなんですよね…レイルはよく一発で理解してたなぁ………こ、こほん!それでは、転生の受諾を承認いたしました

私の権能を少し使いまして、神託スキルだけは付加させて頂きましたが…スキルレベルを上げていけば、直ぐに私と繋がりますからね!」



「ん、ん、あとは向こうで学ぶよ、がんばる」



わざとらしい咳払いは可哀想なので流してやり、とりあえず頷いておく


そう、向こうに着いてからが本番だし、どんな生まれなのかも分からない

令嬢とかにはするなよ??目立つのやだかんね???とその辺は念を押しておいたので大丈夫だろう


きらきらと光の粒子が辺りを覆う。目がチカチカするような輝きじゃなくて、優しい輝きに思わず息をのみ…意識が薄れていく中で優しく手を振ってる彼女が見えた。…そういえば、名前聞いてなかったなぁ………






…………ところでさ、レイルって誰???






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