第三話 友と出会い・・・
浩一がいつものネットカフェへ通い続けて一ヶ月が過ぎようとしていた。
この出張先が今では彼の日課となりつつあった。
仕事が順調な時には、朝から夕方まで十時間近くも滞在していた。
ケータイがあれば仕事は大抵、用が済んでしまうからだ。
この頃になるとゲームで「敵を撃ち殺す」ことも少しずつだが出来るようになっていた。
「やっぱり当たるとおもしろいな。でも上手い奴には全く敵わないな・・・。」
「あ、そうか。だったら上手い奴のやり方とか戦術を見て研究すればいいのかもな。」
たかがゲームとはじめは思っていた浩一だが、すっかりハマってしまった様だ。
これまで何度も何度も試合をするが、「殺す」より「殺される」方が断然多い試合結果を、
なんだか「気に食わない」と感じはじめているのも事実であったが、
慣れ始めてきたこのゲームをもっと「体感」したいという強い思いを持ちだしていたのだった。
ところで、このゲーム内の住人達はお互いをコードネームで呼び合う。
つまり自分の操るキャラクターに名前を付けるのである。
浩一は自分のキャラクターに「ハッチ」と名づけた。
「ハッチ」とは浩一が幼い頃、田舎の実家で飼っていた犬の名前である。
浩一の父親がどこからか拾ってきた捨て犬だが、十五年近くも長生きした愛犬であった。
雑種ではあったもののそれなりに毛並みも良く、愛嬌のある顔つきで浩一はとてもかわいがった。
当時「みなしごハッチ」がテレビで放映されていたので、浩一はその犬に「ハッチ」と名づけたのだ。
この日も朝からゲームにINする。
ゲーム内のロビーと呼ばれる待合室で自分に合いそうな部屋を探す。
「8人対8人の団体戦部屋が空いてるな・・・。」
「よし!団体戦にそろそろ挑戦してみるか!」
団体戦とは、敵と味方に各自が別れて試合をするゲーム方式である。
浩一もこのゲームを始めた当初、何度か団体戦もやってはみた。
しかしキーボードも見ながらでもチャットがまともに出来ない浩一は、
味方とのコミニケーションがとれないので団体戦は「つまらない」と思っていたのだ。
だが、まだまだ不慣れではあるが少しづつチャットで会話ができるようになってきたので、
団体戦に参加することにしたのだった。
参戦待ちの8人対8人の団体戦部屋へと入る。
「よろしくお願いします。」
浩一はすばやく文字を打ち込む。
参加者の数人も挨拶をかわす。
「ヨロ~w」 「よろしくね♪」 「よろちくb」
など人それぞれいろいろな言い方をする。
なかには、
「46」と数字の挨拶もあった。
おそらく「よろしく」の略だろうと浩一は思った。
試合前の挨拶は必ずするのが礼儀である。
そしていよいよ試合開始となった。
団体戦は敵と味方に分かれた最大8人構成の各チームが戦場で戦う形式である。
その戦場で任務を遂行するかまたはそれを阻止すればチームの勝利となり、
もしくは相手チームを全滅させても勝利となるのだ。
試合開始後、敵や仲間がやられる状況がログに流れてくる。
画面の右上に誰が誰を倒したかが逐一わかるように表示されるのである。
浩一はとりあえず後方から戦闘の状況を眺めていた。
いや、むしろはじめに飛び出していってもすぐ殺されるのが分かっているので、
後ろのほうで隠れているという表現のほうが正しいかもしれない。
あっという間に味方は「ハッチ」以外殺された。敵はまだ4人も残っている。
「やばい・・・。どうしたらいいのか分からない・・・。」
なんて考えているうちに敵に見つかり一瞬で殺された。
すると味方の何人かに
「ドマ」と言われた。
つまり「どんまい」って事らしい。
気を取り直して次の試合が始まる。
今度こそと敵を見つけて狙いを定めるが、弾は当たらず殺された。
「なんだか味方に見られてると思うと緊張して余計な力が入っちゃうな。」
浩一はめげずにその後もこの部屋で団体戦を続けてみた。
だがなかなかいい結果はでなかった。
個人戦と違い、やはり団体戦はチームワークや戦術が大事だと改めて感じた。
何試合かやっいるうちにたまたまいい成果がでた。
敵を仕留めた数がチーム内で2番目に多かったのだ。
浩一は喜んでいたがその試合でチームは負けた。
「自分ばかりが目立っても面白くないな。やっぱチームで勝たないと・・・。」
浩一は同じ部屋で何試合も団体戦をしていたが、敵や味方の人の出入りは激しかった。
3時間ほどその部屋にいたが、浩一以外にもう一人この部屋にずっと留まっている兵士がいた。
コードネームは「さくらんぼ」と名乗っていた。
浩一がいる間、この「さくらんぼ」はずっと敵チームで戦っていた。
新たに人が入れ替わりしてもこの兵士だけはこの部屋から出ては行かなかったのである。
試合前の待機中の部屋で浩一はこの「さくらんぼ」に恐る恐る話しかけてみた。
「さくらんぼさん。上手いですね。」
特に上手いというほどの腕ではなかったが、話のきっかけを作りたっかのだ。
すると「さくらんぼ」は、
「ハッチさんもなかなかやりますねw何度もやられてますよw」
すかさず浩一も、
「いえいえwこちらこそw」
社交辞令だろうがなんだか話ができて嬉しかった。
顔も分からない見ず知らずの人と仲良くなるのが不思議な感覚であった。
その後「さくらんぼ」は味方チームに加わり、試合を続けていくこととなった。
試合中も
「ハッチさんガンバ!」
とか
「さくらんぼさんがんばってーw」
などとお互いを励ましあった。
この日も気づけば夕方となり、浩一はそろそろ帰る時間となった。
最後の試合が終わった後、浩一は「さくらんぼ」に話しかけた。
「さくらんばさん。また一緒にやりたいですw」
「さくらんぼ」から返事が来る。
「もちろんですよwwまた一緒に遊ぼうーww」
名残惜しかったがその日は挨拶をし、会社へと戻った。
「友達が出来たみたいだ。また会えるかな?」
浩一は子供の頃の初めて友達出来たときの感覚のようだと思っていた。
今度会ったらなにを話そうかなどと思いながら車のハンドルを握っていた。
「明日も出張だな。」
続く・・・