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第一話 サラリーマンがネトゲ世界へ

どこまで続くかわかりませんが、体力の限界まで書き続ける気です。

浩一はこの日も出社時間ギリギリにタイムカードを差し込んだ。

すぐさま行き先ボードに適当な取引き先を書き込むと、

「じゃ、外回り行ってきますね。戻りは夕方だと思うから何かあったら連絡下さい。」

浩一の席へとお茶を持ってきた無愛想な事務員に軽く微笑み、一声掛ける。

いつも通りの熱すぎるお茶を一口含み、営業車で勢いよく出掛けた。

出社してからわずか15分後にである。


ハンドルを握りながらタバコを銜えるも、焦る気持ちは抑えられない。

「今日は本当にやたら混んでるな・・・。おい!前の車!はやく行けって!」

浩一は車中で呟いた。

最近、毎日のように通っている出張先(。。。)へ向かう道路は渋滞中なのだ。

彼はどこへ向かっているのか?出張先とはそう、ネットカフェの事である。

普段、常に冷静でおとなしい性格の浩一がどうしてそこまで熱中して通い続けているのか・・・


外回りといっても浩一は仕事の段取りがよく、無駄な仕事や意味の無い働きは一切しない。

午前中、もしくは朝のわずか時間で仕事を片付け、あとはヒマ潰しをしてから会社へと戻るのだ。

つまり用がすぐ済んでしまえば何時間も自由な時間として使うのが日常であった。

これまで、自由な時間が出来ると浩一には行きつけの場所があった。

会社からかなり離れた人気の無いパチンコ屋である。もちろん客も疎ら。

知り合いに会わないようにと、寂れた店を探し回り、隣市の店に落ち着いたのだ。

負けて当たり前の店で常連となっていたが、一人で居られる時間をとても心地良いと感じていた。


だが半月ほど前のある日の事・・・

浩一はいつもの行きつけの店でなんと20万円超の大勝ちをしてしまったのだ。

たまたまイベント台に座ってしまったらしく、もちろん本人が一番驚いた。

「なんだか今までのツケが戻ってきたみたいだな。」

「どうしようか。なんか買っちゃおうかな。」

「いや、でもカミサンにパチンコ行ったのばれるしな・・・。」

普段の浩一ならその金がなくなるまで通い続けてしまうのだろうが、

なぜかその後行く気はしなかった。


浩一は今年33歳。車の小さな部品を製造している小さな会社の営業マンである。

この会社に入社して8年。仕事にもっともやりがいを感じ始める年齢なのだろうが、

なぜか常にやる気というのが出ないままの生活が続いていた。

カミサンと2人の子供達との平凡な家庭。ほぼ毎日定時には帰る習慣。会社で居る意味も無い存在。

変わりたいが、変わらない日々に半ば諦めている自分を否定できないのも悔しかった。

そんな浩一は自分の今後を、もはや成るようになれと諦めていた。

結局、この大金の使い道も思いつかないままいつもの日々は続いた。


しばらくして、浩一は運転中、ある看板を目にする。


~格安!ネットカフェ! 県道から入ってすぐそこ!~


「ああ、ネットカフェか。テレビで見たことはあるけど行ったこと無いな。」

「そうだ!」

「ネットカフェなら儲けは無いけど、金は使わなそうだ。あの金でしばらくヒマが潰せるか・・・」


そんな軽い気持ちで、看板の道順に車を走らせた。

路地裏の狭い駐車場の一番奥へ車を隠すように停め、試しに入店してみることにした。

不慣れな浩一は女性店員に一通り説明をうけた後、個室のブースへ通された。

座席に腰掛け、とりあえずタバコを銜える。

天井を見上げた後、辺りを見回す。

薄暗い店内。PCが一台とティッシュボックスが一箱置かれただけの区切られた一人用のブース。

浩一は思った。

「なんだかこれって初めて風俗店に行った時の感覚に近い気がする・・・」

大学時代、友人とオドオドしながら入った店の事が頭をよぎった。

実際この店はかなり小さな店舗で、はっきり言って怪しい雰囲気が漂っている。

隣の席では、どこの国だかも判らない言葉で男が大声で電話している。

だが他の席に客はあまり居ない様子であった。

浩一は基本、小心者である。しかも怖がりでもあった。隣が気になりつつも、

「ま・・・まあ、気にせずになんかマンガ本でも読もうか・・・」

隣に気を使って、ブースの扉をそーっと閉め、とりあえず店内を一回り歩き始めた。

マンガ本の棚がズラリと並んでおり、セルフサービスの飲み物もある。

さらに店内にはさまざまなポスター貼り付けてあり、

ゲームやアダルト、映画やアニメなどの作品紹介が壁にビッシリであった。


「ん?これなんだろ?この店で遊べるのかな?」

ひとつのネットゲームのポスターが目に留る。

なにやらオンライン上で任務を任された兵士が戦場で銃を撃ち合うという対人戦型のゲームらしい。

後で知ることになるが、俗にFPSというジャンルのゲームである。

「シューティングゲームならオレにも出来そうだな・・・。」

なぜかその時、浩一はポスターに描かれた女兵士が構える黒光りした銃の美しさがやけにカッコイイと感じたのだった。

だが、浩一はPCに関しては殆ど無知であった。会社でもあまりいじったこともない。

自分でも不安であったが、ポスターに書いてあった登録方法などをよく覚えて席へと戻る。

「インターネットに繋いで、それからページを開いて・・・」

文字を打つのもキーボードを見ながらというほどの初心者である浩一は、

2時間もかけてやっと登録までは完了した。

「さて、いよいよ始めてみるか。」

そして、いざゲームをスタート!

という時に浩一のケータイが鳴る。


「あらら・・・。ボスからだよ・・・。」

ボスとは浩一の会社の社長の事である。毎日のように浩一は小言を言われていた。

この日も行き先の確認と営業成果を聞くために電話してきたのだった。

「いまxxさんとこにお邪魔してまして・・・」などと適当に話をする浩一。

けれどもいつもの様に機嫌の悪いボスのグチグチした電話は終わりそうもない。

以前、誰かがボスとはそういう生き物なのだと言っていたのを思い出しながら、

小言はうまく聞き流すのはある意味特技でもあった浩一にはあまり気にならなかった。


15分後、長電話がようやく終わた。

改めて先程のゲームをスタートさせてみる事に。

オープニングの美しい映像が始まった。ポスターに描かれたあの女兵士も登場している。

ファミコン世代の浩一だが、TVゲームもあまりやった経験がなかった。

映画のようなムービーに唖然としながら感動していると、ゲーム自体が始まった。

仮想の戦場のマップが映る。

とりあえず画面を凝視する浩一。

3Dのリアルな兵士数人が動いている。銃を構えながら右へ左へ走り回っている。

「すごいな。本物の人間が動いてるみたいだ。ほんとリアル。」

感動しながらも冷静に、

「これって全国の知らない人同士が動かしてるんだろうな。」

「しっかし、ヒマ人がけっこう居るもんだな。なんでこんなのに一生懸命なんだろう。」

この時、浩一はネットゲームの世界をただ単にこんな風にしか思わなかった。


さて、ゲームが始まったのはいいが、何もかもが初めての浩一は操作の仕方もわからない。

始める前に少しだけ基本の操作方法はホームページで見ておいた。ルールもある程度は理解していた。

とりあえず敵を銃で撃てばいいのだが、浩一は画面よりもキーボードばかり気になって見てしまう。

もちろん弾は当たらないし、敵からはバンバン撃たれるだけで、すぐに殺された。

2,3試合やってはみたものの、殺されるだけで終わってしまうパターンの繰り返しである。

あまりに下手なのがバレたのか、ゲーム中の対戦相手がなにやらチャットで話しかけてきた。

もちろん浩一はチャットなどやったことも見た事も無く、相手の打ち込んだ文字を眺めていた。

「ねえねえ、おまえ初心者?それとも下手なフリしてんの?」

浩一に返事の仕方は判らなかった。

その相手は、

「無視かよ・・・」

「なー?おまえ、このゲームやる意味あんの?下手すぎww」

「しかも、なぜノンスコw」

「死ねよwカスwww」


浩一には意味が判らなかった。

暴言でバカにされているのだとは気づいたが、相手の言ってる言葉が理解できないでいた。

「初めてなんだからしょうがないだろ!」

ブツブツ小声で囁く浩一。

「そもそもノンスコってなんだよ・・・。」

この時点で浩一は「ノンスコ」の意味は知る由も無かった。


数分後、画面が切り替わり戦場の場面が終わった。

「なんか気分がわるくなってきたな・・・。目が回る・・・。」

別に気が滅入ったわけではない。

どうやらゲームのグラフィックに慣れてない浩一はリアルな画像に酔ってしまったらしく、

30分もしないうちにゲームを止めてしまった。

「だめだな。難しすぎてつまらんわ。」

そう呟くと、はやくもゲームのページを閉じてしまった。

少しの不愉快さを残したままであった。

「さてと、マンガ本でもなにか探すとするかな。」

「そうだ、飲み物も取ってきてなにかDVDでも観よう。」


ネットカフェでの自由な時間はあっという間であった。

店の西の小窓に掛かったカーテンの隙間から夕日が射し始める。

浩一はその日6時間近くネットカフェでヒマを潰した。

「あ~あ、疲れた。でも、たまに来るのもいいかもな。」

「あれだけ遊べて、たったの1500円だなんて安いもんだ。」

車に乗り込み、時間を気にしながらシートベルトに手を掛け、夕日を睨みながら一言呟いた。

「さてと・・・帰ってボスの相手でもするか・・・。」


重い足取りで会社へ戻るが、奥の席にボスの姿はなかった。

無愛想の事務員は「今日も芝刈り(ゴルフ)じゃないですか?どうせ。」と冷ややかに話した。

ボスの行き先など、浩一にはどうでも良かった。

ただ、帰社してからボスに捕まって、小言が続くのはめんどくさかった。

ひとまず安心し、事務仕事と日報を適当に書き終える。

「5時半だな。帰るとしよう。」

定時になったので帰宅した。


自宅のカギをガチャッと回す。

ちょうど夕飯の準備がおわり、浩一を家族が食卓で座って待っていた。

「あ、パパ帰ってきたよー。おかえりー。」

カミサンが玄関まで迎えにくる。

「ただいま・・・。」

浩一は今日もがんばって働いてきたぞという素振りでゆっくり玄関框をまたぐ。

「ねえねえ。今日はどうだった?」

いつものカミサンの口癖である。

「別に普通だったよ。」

浩一もいつもの様に同じ返答をする。

家着に着替え、家族でみんなで食事を取った。

毎日同じ光景である。


その夜、浩一はいつものように夢を見た。

昼間、体をあまり動かさないせいか、夜はなかなか寝付けない日が多く、

眠っても浅い眠りのため、毎日のように夢を見るのだが、朝になるとまるで覚えていない。

けれど、その夢は記憶に残った。

その夢の内容とは、


浩一がボスに銃口を向け、床にひれ伏しているボスの背中を撃ち抜こうと、

引き金を今まさに引こうかという瞬間であった。


ハッ!っと飛び起き、布団を剥ぐ。もちろん全身汗だくであった。


「なんださっきの・・・やばいよな・・・」

ボスに対して別にいつもそれほど憎いとかムカツクとか思ったこともなかったし、

ましてや前日怒られたとしても翌日まで後は引かない程度であった。

殺してやろうなどという気持ちなんてもちろん一度も持った事は無かった。


ゲームの感覚が残っていたのか・・・

毎日の小言に不満が溜まっていたのか・・・


なにかを変えたいという気持ちが生んだ妄想なのか・・・



「夢だから・・・」

「夢の世界だから・・・」

と何度も自分に言い聞かせ、明け方近くやっと眠りについた。


翌朝。

浩一の気持ちは晴れてはいなかった。

「いつもなら翌日までなにかを引きずることなどあまり無いのだけどな・・・」


頭がボーっとしたままいつもの通り、遅刻ギリギリで出社する。

朝の段取りと得意先への連絡を終え、営業車に乗り込んだ。

だが何かに引き寄せられるかのように、自然と足は昨日のネットカフェへと向かっていたのであった。

なぜか気持ちは高ぶっていた。


昨日の店へ着いた。


個室に入り、タバコを銜える。


薄暗い店内。PCが一台とティッシュボックスが一箱置かれただけの区切られた一人用のブース。



「昨日のゲームやってみようか・・・」


浩一はゲームスタートのボタンをクリックした。


そう。なにかが変わり始めるボタンを。


続く・・・


勢いで書いてしまいましたが、いかがなものでしょうか・・・

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