第7話 歴史、フセという巫女
チュウギは持っていたもう1つの巻物をテーブルに置いた。紐をほどき、丁寧に広げた。
「では話そう、計画と歴史を。」
遥か昔、この地には国がなかった。その為、色んな力を持つ人が混在していた。
だが、その中には下劣な者として様々な民から疎まれる存在の民がいた。醜く、凶悪な力を持っていたからだ。他の民はこの者達を除け者のように扱っていたが、それを加速させる事が起こった。
それは、とある巫女が現れてからだ。琉球王族であり、王族の血筋を持つ巫女は基本的に皆強力な力を持っていたが、その巫女は別格だった。名をジブノと言う。
ジブノは銀の髪、金の目を持つ美しい女性で、先の出来事が読めたり、最高神・太陽の神の声を聞くことが出来、人々に助言などを与え、民を導いて行ったりした。
ある時ジブノはこの地を自分で見たり聞いたりした。そこで、国をつくろうと決意した。民の力やその土地柄を考慮し、民による活動でその土地を治めれば良いと考え、国々を構成していった。
だが、ジブノは酷い扱いを受けていた民をニライカナイ最西端の地に追いやり、国をつくった。ジブノの考えはこうだった。「いずれお前らがこのニライカナイと我ら人間が住む世界を侵そうとする未来が見えた。なら他の国々、琉球及び秋津洲に手を出させないようこの西の地に国を置こう。」と。この国は「禍国」と名が付けられ、民を「禍人」と呼ぶようになった。
それからと言うもの、禍人に対する偏見と差別が悪化した。忌々しいと思われ、野蛮人と蔑まれた民の一人の子供がおぞましい力を持つようになった。必ずや我々をここまで追いやったジブノを復讐しようと。
時は更に流れ、ジブノは王族から外れ、巫女の一族をつくった。その一族にはジブノの子供、孫もジブノのような力を持つ巫女は生まれなかった。だが数十年後、ジブノ同等の力を持つ巫女がようやく生まれた。それはジブノの死後10ヶ月後の事だった。
その赤子はフセと名付けられた。フセは銀の髪に金の目を持っていた。昔から「巫女の生まれ変わりの人物は前世の巫女と同じ目と髪の色をしている」と信じられてきた。
その為、銀髪金目の巫女は最高霊力巫女の生まれ変わりとされていたが、正にその通りだった。
フセはジブノ同等の霊力を持つ巫女であり、ジブノの死後10ヶ月で生まれ事から「死者の島・ニライカナイから舞い戻った巫女」と呼ばれるようになった。
フセはジブノのように太陽神の声を聞き、未来を見て人々を導いて行った。そしてニライカナイ、琉球どちらの民に愛される清き女性だった。
だが一方でフセに目を付けた者達がいた。禍国の者達だ。特におぞましい力を持った子供。復讐しようとフセを恨んだのだ。
そしてある日、フセはとある未来を見た。禍国のとある人物が復讐の為にニライカナイの民を虐殺し、人間世界を手に入れ己の物としようとするのが見えた。
だが、この者の力は、今の自分には手に負えない、そして対抗しようとすれば、派手な行動が目立つようになり、余計に人間世界や民に手を出されそうだと思った。
そこでフセはこのような事をした。
まず手始めに琉球に結界を張った後、殺してもらい魂人となった。次にニライカナイに結界を張った。この結界は人間世界からニライカナイへ、またはその逆もしかり。むやみやたらに行き来させないようにする為だ。何故なら、禍人が何らかの方法で人間世界に手を出させないようにし、必要最低限の事が無い限り従者限定で封印を解いて行き来が出来ないようになった。だから現在、生きた人間、巫女でもニライカナイに行けないようになっている。
そして、フセは自分の霊力を閉じ込めた八つの玉、ティーダの玉を生み出した。自分の霊力を継いだ巫女が新たに生まれ、ここに来て禍人と対抗するとした際、フセの力を持つ者と、民を禍人から守れる力が必要だったからだ。その玉の内三つは四人の従者の内に渡され、残りの玉は別々に散った。力になれる主を探しに。
フセは殺してもらおうと従者に頼んだ。ここで死んだ人は、転生し、新たな生を貰えるので、自分の力を秘めた人間に転生しようとしたのだ。『自分はフセ』と禍人に気付きにくくする為に。
最後にフセは従者にもう1つ頼んだ。「もし私の生まれ変わりが人間世界に生まれたら、結界の封印を解いて、その子を殺し、こっちに送れ。そして禍人を阻止して私の力の業を断ち切って欲しい。本当は私が解決すべき事なのに、力が足らず、未来の子供に任せてしまって不甲斐ない…」と言い残し、従者に殺してもらった。
「これが歴史と計画だ。禍人が攻めると未来が見えたが、実は自分がやった事が原因となり、果てに子供らに迷惑をかけるなんてな。」
話終わると、部屋はしんと静かになった。
「ただ…正義の味方をしに生まれた訳じゃないって凄く分かった…」
庵はそう呟いた。
「だけど、この連鎖を終わらせるには…私達しかいないんだね。」
禍国の事情、フセの思いを聞き、このようになった元凶の力を持ったからこそ終止符を打たなければならないと感じ、力強く決意を固めた。
「なら、それで良い。少し待っててくれ。持ってくる物がある。」
と言い残し、チュウギと信乃は部屋を出た。
「良いの?アレを言わなくて。」
「アイツはまだ子供だ。余計な心配を掛けたくはないし、まだ話す時ではない。」
三人の従者が玉を持つ…現在玉を持っているのは四人と分かっている。従者は三人組と言う事はまさか…いやいや、それはない。チュウギは25歳位に見えるから違うよね。気のせいだ、私を気に掛けていたチュウギ含めた三人組が三人の従者じゃないよね。と思った庵だった。