第5話 覚醒せし神の力
ようやくニライカナイ本土に到着し、信乃は船を陸に留めた。するとそこにいた男性に声を掛けた。
「おじさん、船貸してくれてありがとうございます。」
「おぅおぅ、礼なんて良いのに。信乃ちゃん達にとって大事な事なんだからな!」
庵は後ろからその二人の会話を聞いていた。すると信乃が庵を紹介した。
「そーだ!おじさん。この娘が庵ちゃんなんだ。」
「こっこんにちは。」
「へぇ、かわいー顔してんじゃねぇか。」
と言い、庵の頭をわしゃわしゃと撫でた。
「しっかし、これからあのチュウギの家へ向かうのか。」
チュウギ…確か私の名前を知っていた三人組の一人だった人、と信乃から言われた事を頭の中で繰り返した。
「じゃあ、道中気をつけて行きな!山道だし、雨も降りそうな天気!しかも今は道がかなりぬかるんでいると思うし禍国の奴も徘徊してる可能性もあるからな!」
「はい。ありがとうございます!」
二人はそう挨拶を交わすと、信乃は庵に髪飾りを渡し、それを使って髪を束ね、マントを羽織り、チュウギの家へ向かった。庵は「カコクってなんだろう…」と思いながら。
「運命を継ぎし子供…か。」
二人の背中を見つめながら男性は呟いた。
いざ行こうと足を進めたは良いが、中々進まない。それもそのはず。何せうっそうとした森の中。しかも連日による雨のせいで、地面が湿っていて歩きづらいからだ。
時々庵が足を滑らせ、転びそうになったときには、信乃が手を取り、支えていた。
道が大分なだらかになってきた時だった。信乃が庵にとある話を始めた。それはこの世界にかつて存在した強力な霊力を持った巫女の話だった。
「この地が巫女と呼ばれる人がここに行き来出来る時代があったんだ。巫女ってのは霊力を持った女の人の事で、神様から言葉を頂いたりして人々を良い方へ導く事をしたりしてたんだって。まぁでもニライカナイ自体、生きた人間の場合霊力がないと行けないんだけどね。
その中でも凄く強力な霊力を持った巫女がいてね、フセって言うんだ。フセは力強くて、それにとっても優しいから、民衆や王族に慕われていたんだって。強い霊力を持つ巫女の家系の生まれで、その祖先が今のニライカナイの地に国を造り、分けたんだ。
だけどフセはこの地に変異をもたらす者が来ると悟ったんだ。しかもフセをとても恨んでいるようで、ニライカナイの民を見せしめに殺すという内容だった。これを知って、まず、配下に殺すように命じたんだ。」
フセはいつかテイが呟いていた気がする。そう思ったが、庵はそれよりも疑問に思った事があった。
「どうしてそう、殺すように命令したの?」
「それは…ちゅ…ううん。関係者から聞いたんだけど、皆殺し回避に民を守る為と、自分の霊力を隠し持った人間に転生する事で、『自分はフセだ』と気付きにくくする為なんだ。ここは、死んだら、次の生を貰う場でもあるからね。そしてもうひとつ。もし恨んでいる者にバレたら、きっと民が殺される可能性もある。霊力を持った者を守護する為にフセは、守護者としての力を与える玉を用意した。それが『ティーダの玉』なんだ。で、これが『八宝玉計画』の鍵。この計画はその恨んでいる奴を巫女と守護者でぶっ倒す計画なんだ。恨んでいる奴は皆殺しだの物騒な事を考えていたのは分かったでしょ?他にも危なっかしい事を考えていたのが発覚したから、それも阻止するの。…まぁ、急ぎだしざっと話したけど…こんな感じ。チュウギの家に行けば、そいつと一緒にもっと詳しい説明をするよ。」
そうざっくり解説をしてもらい、なんとなくここの歴史が分かった。
だが、庵は何故唐突に歴史や巫女の話をしたのかと思った。
がさがさっと音がした。その音は段々近づいて来た。庵は不安になり、信乃の腕をぎゅっと掴んだ。ふと信乃の顔を見ると、闘志に燃えるような硬い意志を持つ目をしていた。
「来やがったか…禍国の者め。」
音が鳴り止んだと思ったら、木陰から赤黒く光る目がいくつもあるのに気がついた。
そしてそれは木陰から出て庵達の前に姿を現した。思わず庵は「ひっ」と声が出た。
それは蜘蛛に酷似した禍々しい姿をしていたからだ。
「庵ちゃん、下がってて。ここは危ない」
「えっでも信乃さんが!」
「大丈夫、任せて。」
そう言うと信乃は何かを唱え始めた。
「守護者信乃が告ぐ。我に力を与えよ!シジ・カグラヤ・ビンヌスゥイ!!」
森に凛とした声を響かせた。その様はあまねくものを轟かす獅子のようだった。
唱えると、懐からオレンジ色をした玉を取り出した。玉は煌々と光を放ち、光の中から重りが付いたとても長いチェーンが現れた。
「 玉…もしかして信乃さんは!」
そう言いかけたが、信乃は蜘蛛モドキへ走って行った。
蜘蛛モドキは信乃を目掛け足を振り下ろそうとしたその時、信乃はチェーンを振り回した。チェーンは大きな弧を描いたと思いきや、足に巻き付き、がっちり固定し動きを止めた。
そしておもいっきり引っ張り、蜘蛛モドキは転倒させる事が出来た。
再びチェーンを回した。その勢いで足からチェーンを外し、今度は体に重り部分を当てようとしたが瞬間、蜘蛛モドキが顔を上げ、信乃目掛けて紫色の糸のようなものを発射した。
「ぐっ!!」
糸のようなものはたちまち信乃の体に巻き付いた。そして、頭をぐわんと回して糸を立ち切り、そのまま信乃ごと放り投げた。
森の中にドゴッと鈍い音が響いた。蜘蛛モドキは「お次はこいつを仕留めよう」と庵を睨み、突進してきた。
「あ…やだ…見ないで来ないで!!」
庵はただ恐怖のあまりに足が動かず、立ち尽くしていた。
やられる、と思った時だった。
「うりゃあああああ!!」
という叫び声と同時に、チェーンの重りが蜘蛛モドキの顔に当たった。蜘蛛モドキは吹っ飛ばされ、倒れた。
チェーンが出てきた方向を見ると、泥と傷だらけの信乃が立っていた。
「ふふ…元機動隊の馬鹿力舐めんじゃねぇぞ…蜘蛛野郎!!こっちはな、どうしても守んなきゃいけねぇモンがあるんだよ!!もう後悔したくねぇんだ!!」
また、信乃さんは蜘蛛モドキと戦い始めた。信乃さんひとり私を守る為に。だから、どんどん傷だらけになっていく。
私、何も出来ないの?ただ、ここで立っているだけで本当に良いの?
生きていた時もそうだった。周りの状況に流されて、自分の意思も表せなかった。誰かに言われるまで動けなかった。気付けなかった。
嫌だ…もう見ているだけの、動けない自分は嫌だ。
だから、私は…私は!!信乃さんを助けたい!!
「!?っあああああああ!!」
そう思った時だった。私の周りが突如光を放った。私はその眩しさに目を隠した。そして頭の中に声が響いた。
覚醒セヨ、フセノ力ヲ持ツ巫女ヨ。
眠ル力ヲ解キ放テ。
コノ闇ノ者ヲ滅セヨ。
今ガソノ時ダ。
庵を包んでいた光がゆっくりと開けていった。光の中央に庵は立っていたが、その姿はとても神々しいものだった。
普段は黒い髪と目をしているのだが、全く違った。何故なら、銀の髪に金色の目をしていたからだ。
「目と髪の色、アイツから聞いた通りだ…強い霊力を持つ者の証。」
信乃はそう呟いた。
とても不思議な感覚。いつもの私じゃないみたい。力が凄く溢れて来る。ふと心の中で誰かが囁いているみたいだった。だけど、その囁く言葉の一つ一つが遠い昔から知ってるような、私が以前にもやった事のように思えた。
これが…私の力なの?私に出来るの?
私は覚悟を決め、言われた言葉を放った。
「七色の翼を持つ気高き者、ビンヌスゥイよ我にこの者を滅する力を与えよ。カグラヤ・ムンヌキ!!」
そう唱えると鉛色をした空から黄金の光が差した。その光は徐々に蜘蛛モドキに集まっていった。
「オゥギャアアアアアア!!」
とてもけたたましい声と共に蜘蛛モドキの体はみるみる灰のように砕け散っていった。
「本当に私が…」
信じられなかった。あんな事、出来るなんて…
庵は一言言いかけたとたん、倒れてしまった。そして、光が差していた空は、また鉛色の雲で隠れてしまった。だが雲は先程まで覆っていた色よりどす黒くなり、雨が降った。
信乃は真っ先に庵のもとへ行き、抱き起こした。
「庵ちゃん、大丈夫?庵ちゃん?」
軽く揺らしてみたが、ぐったりしていて起きない。
「起きないのは強大な力を、しかも初めて使ったからだ。」
声の方向に振り向くと見慣れた男が立っていた。
ようやくまた出逢えたのか、俺はまたあのような最期には絶対にさせない。させてたまるか。お前を過去の因縁から解放してやる。そう強く誓った。
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