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恒久の巫女   作者: 天哉
39/39

第39話 楽園の在処③

 この家に置いてもらってかなりの時間が経った。

 置いてもらって何もしないのは、気が引けたので、家事等の手伝いを行いながら日々を過ごしていた。



 だけど、いくら隠そうとしても日に日に体調は悪くなるばかりだった。

 そんな自分を見ては、大巫女や姉は気をかけて来た。「大丈夫」と言ってやり過ごしてきたが、もう隠せそうも無い段階に来ている。そう感じていた。



「ゼヒ…」

「なんでしょうか、大巫女様…」

 部屋の布団で包まっていた時、大巫女が部屋の中へ入ってきた。




「お主…子を宿しているだろう。」

 先日までのゼヒの様子を見て、大巫女は勘づいていた。

 そして、いつまでも隠し続ける事が不可能に近くなっていると思い、「いっそのこと」と、思い切って聞いてみた。

「ゼヒ…主は…」

「!!ちっ…違うわ!私は…私は!!」

 ゼヒは、取り乱したかのように起き上がり、頭抱えながら後退りした。

「落ち着け。そうやって暴れると、腹の子も驚くだろう。」

 大巫女はゼヒを優しく捕らえて、胸に寄せて頭を撫で、子供を宥めるように言った。

「だからっ…!!私の子供は禍人との子供じゃないわ!」

 途端、ゼヒの口から衝撃的な言葉が溢れてきた。

「ゼヒ?どういう事だ…?」

「ハッ!!」

 頭が混濁していたからか、ついうっかり出てしまったようだ。

 自分が言ったことを思い出し、ゼヒは怯えた。

「大丈夫だ、主の安全確保の為に誰にも言わん。それにわらわも母である身。子が産まれるなら手助けをしよう。」

「…ありがとうございます。でも、少しだけ。何でこんな事になったか大巫女様だけに話しますわ。」

「ゼヒ…」

 ゼヒは苦し紛れに笑みを作り、そしてゆっくりと大巫女に打ち明けた。




「そんな事が…」

 そう大巫女に一言言われ、こくりとゼヒは頷いた。

「はい…で、でも…私どうしたら良いか分からなくてっ…!!」

 ゼヒは、大巫女に寄り添ってきた。


 それもそのはずだ。

 ゼヒは、ただ愛した人が禍人だったから、国の民に目をつけられ、家から追い出され、あげくの果てに禍国でミマツの末路を見て自分は相手の良いように扱われた。だから、今こうして禍人との子を身籠っていると知られると、どうなることか一発で想像できてしまった。

 殺される。

 自分だけじゃない。大巫女や姉そして子にも被害が及ぶ可能性だって十分にある。だから、とても言い出せなかった。


「ゼヒ…」

「お主は…どうしたいんじゃ。」

「えっ?」

 唐突に大巫女に問われ、ゼヒは顔を上げた。

 大巫女は、ゼヒの目をしっかりと見て、優しく両肩を叩いた。

「一番は主の心、だから聞いているんだ。」

「大巫女様…」

「お主の子供だ。それでも、その子を愛し生みたいとすれば、わらわも健康に、そしてのびのびと育つように手を尽くす事が出来る。だが…望んでいなかったとしたらその子を殺める事だって出来る。どうしたい?」

 にっこりと優しい笑みを作り、ゼヒに問いた。彼女の意思を尊重したい。自分の意思でなく、これは彼女が決めることだから、どちらを選択しても良いように。



「…せないです…」

「ん?」

 そっと、微かに呟いたゼヒの声を聞いた。

「やっぱり私、この子は殺せないです…!この子の父は…あの人の兄、あの人と間接的に繋がっているんです!それに、母たるもの子を殺す等出来ません…!」

 ゼヒは大巫女にすり寄り、涙をこぼした。

「分かった…では、わらわは主らの為、最善を尽くそう。」

 大巫女はそう言いながら、子供をあやす様にゼヒの頭を撫でた。



 暫くして、チルにもゼヒから話をして、三人でこれからの事を確実にした。

 ゼヒとその子、二人が禍人と関わった事実を匿って暮らしていく。

 ゼヒはその意見に付け加えて、ある程度大きくなったら国を出てひっそりと二人で暮らしていくと伝えた。



 それから時は流れた。



 天井からぶら下がる長い布を、ゼヒは布団で仰向けになったまま、ただそれを見ていた。自分が今まで必死に掴まっていた布。それが今、力無くぶらりとただ吊るされていた。

「ゼヒ。」

 大巫女に声を掛けられ、ゼヒは大巫女に顔を向けた。

「はい…」

 ゼヒは疲れ切った声をやっとの事で出し、チルに支えながらゆっくりと起き上がった。涼しい夏の夜だと言うのに、汗だくで、張り付いた服が少々気持ち悪く思った。

「主の子だ。抱いてやってくれ。」

 そう言うと、真っ白い布に包まれた、綺麗になった赤子を渡してくれた。

 真っ赤な頬がとても愛らしく、ふにゃふにゃと柔らかい小さな声を上げていた。


「有難う御座います…」

 ゼヒはその子をそっと腕に抱いた。

 柔らかくて、重くて、温かかった。


 この子は私の子供だ。誰が何と言おうとも、私はこの子を愛していきたい。





 あれから五年が経った。

 ゼヒは『チュウギ』とその子に名を付けた。

 ミマツや、彼の兄に当たるチュウギの父と違い、枯れ葉のような色をした茶髪ではなく、ゼヒと同じ黒髪。目の色は禍人特有の赤い色ではなく、こちらもゼヒと同じ黒色だった。


「本当に良い子に育ったな。」

 気持ちの良い陽気の中で遊ぶチルとチュウギを見て、大巫女はそう言った。

「えっ!?でも…それは私だけの手で育った訳じゃ無いですよ。大巫女様達の手があってこそですし…」

「そう言うなゼヒ。母はお主だぞ?もっと胸を張って良いんだぞ?」

 にっと笑いながら、大巫女は謙遜するゼヒにそう言った。

 でも確かに、チュウギは良い子に育った。誰にでも優しい。それも植物や動物に対してもだ。それに、家の手伝いも積極的に行ってくれる。あれこれとゼヒ達が小言を言うことのない程に。

「そうですね…このまま、このままで良いんです。」

 チュウギもこのまま優しい子のまま育って、それからずっとこの先も、例えこの先、計画していたように家を出てからも、大巫女と良好な関係を築いていって、ただ平穏に、幸せに暮らしていきたい。そう切に願った。


 だが、一方で心に引っ掛かっていた事があった。チュウギに禍人の血が流れているという事を伝えていないのである。

 まだ幼い故というのもあるが、やはり「禍人」という存在を多少でも知っているからこそ、どう説明して良いか分からないところがあった。





 それから二年の月日が経った。

 ある夜の事だった。

「チュウギ。」

「母様?」

「ちょっと良いかしら?母様から少し…大事なお話をしても大丈夫ですか。」

 きょとんとした顔をするチュウギに、ゼヒは遂に打ち明ける事を決めた。

 もうチュウギだって七つになる年。きっと分かってくれる。そう思ったからだ。

 ゼヒが姿勢を正して座ったのを倣って、チュウギもその場にかしこまった。

「チュウギ、貴方には父様がいない事が分かりますよね。」

「はい。」

 まっすぐな瞳をこちらに向けるチュウギをゼヒはしっかり見つめた。

 そして、ぎゅっと己の手を握って、告げた。

「実は…貴方の父様がここにいないのは、この国の者では無く、禍国出身の者だからです。」

「えっ。」

 チュウギは目を見開いた。

「そんな…父様は、父様は禍人だと…!?」

「ごめんなさい今まで黙っていて。」

 おどおどするチュウギを、ゼヒは優しく包んだ。

「母様…」

 チュウギが一言、口を開いた。

 嫌われたり、忌まわれても仕方がない。全ての責任は自分自身にあるから。そうゼヒは思った。

「チュウギ、ごめんなさい。」

「私、母様の事、嫌ったりしないですよ。」

 チュウギから、思いもよらない言葉が出た。

「今まで…そうやって私の事を想ってくれていたから、それだけで何もいらないんです。だから…」

「本当に、良いの?」

 まさか、我が子に先に言われるとは思いもよらなかった。子供だから、禍人の血が混ざっていると知ったら大人より大きく混乱するに違いないと思っていたのに。

「優しいね…」

 ゼヒは、チュウギのその一言で自分が救われたと思った。ミマツと会った事、チュウギを授かった事。全てが長く続く『禍人』というレッテルを貼られ、重くのしかかっていたのに、愛した事が間違いじゃ無いと気付かされた。





 それから三年の時が経った。

 もうすぐチュウギは十歳になるから、そろそろ旅立とうと考え始めた時期だった。


 陽気がとても良い日の事。

 国長のもとへ使いに大巫女とチルは出掛け、ゼヒは日が心地よいからか、眠ってしまったチュウギを横目に、ほつれてしまった服や布類を裁縫していた。

「ゼヒっ!」

「ゼヒ、チュウギ、おるかっ!?」

「大巫女様、お姉様?」

 裁縫をしていたゼヒの部屋へ、大巫女とチルが戸をスパーンと開け、勢いよくやって来た。その時、大きく二人はなだれ込んでしまった。

「二人共、どうしたの?国長様の所にお使いに行っていたんじゃないの?」

 ゼヒは慌てて二人の所へ行った。

「いや、使いは終わったのだが…それよりも、大変な噂が立っている!」

 大巫女の話によると、国長の屋敷から出るとき、門番から噂を聞いたという。

 十年前、禍人と心を通わせた者がいるという。その噂が豊国まで流れ、国長の耳まで届いたらしい。それを聞いた国長は、「禍人と心を通わすとは、同じ島人として赦さざる行為」と見立て、国中をくまなく捜し回るというそうだ。その計画が進んでいると、屋敷内で噂になっているらしい。

 だが、単なる噂で済めばよかったのだが、豊国の国長は大の禍人を忌み嫌う者であった。このままなら、二人の身が危ない。だから、二人は屋敷が見えなくなった途端に走って帰ったということであった。

「そんな!」

「ゼヒ!落ち着け!!何か…何か秘策はあるはずだ…!」

 ゼヒよりもまず大巫女の方が落ち着くべきであると、考えつつ、チルも思考を巡らせた。


「そうだ…大巫女様、壺!あの大きな壺はどうでしょう?二人分入れそうですし。」

 壺とは、台所にある大きな壺の事である。

「だがしかしチル、それでは見つかってしまわないか?捜しに来たらきっと蓋も開けるだろう。」

 そっか…と口からこぼし、ふと思い付いた。

「祭事用の部屋の奥!天井裏!床下!流石に気付かれないでしょうか!!」



 こうして、隠れる場所が決まった。

 そして、門番の噂通り捜査が始まり、勿論家宅捜索も行われた。ゼヒ達はどうにかしてやり過ごした。


 あくる日。

 大巫女は祉国へ出掛けた。


 早朝、ゼヒは大巫女を見送り、家の中へと戻った。

 その様子を見た者がいた。見知らぬ者が、大巫女の家へと入って行った。もしやこの者が、国内で噂になった者なのか。それに、よりによって大巫女様の家へ行ったとは。飛んだ不届き者だと思い、すぐさま国長のもとへ報告した。

 国長は報告を受け、好機だと思った。

「大巫女がいない時に何て事だ。それに大巫女と言えばあの馬鹿力。ふひひっ、邪魔をされずに捜査が行える。」

 国長は直ぐに部下を向かわせた。



「えっ、この家に?」

「そうだ。見たというんだ!」

 チルは戸惑った。

 大巫女がいない、よりによってこんな時に捜査しに来るとは思いもよらなかった。

「や、待ってくださいませ。私は大巫女様に代わって家を任されている身、そう勝手に通すわけには…」

「ごちゃごちゃ五月蝿い!見た者がいるんだ。通させてもらう!」

 部下は、チルの言う事も聞かずにズケズケと家の中へ入って行った。

「ああっ!まっ、待ってください!」

 チルは部下の一人に必死に掴まった。

「所詮従者の分際で何を言うんだ!」

 チルは乱暴に振り切られ、廊下の柱に身体を強く打ち付けられてしまった。

「っ…!」

 チルは先程の部下の足元にしがみついたが、手で無理矢理剥がされ、今度は床に打ち付けられた。

 ガサガサドンドン

 奥で乱暴に物を漁る音がする。

 駄目だ、従者である…姉である私が二人を護らないと。強い衝動に駆られて、ヨロリと立ち上がった。




 床下に隠れた二人は、息を潜めていた。

「母様…」

 震える小声でチュウギが言った。

「大丈夫よ。」

 ニコリと笑顔を作り、チュウギを撫でた。

 物音がどんどん大きくなる。きっとこっちまで来てしまう。だが、大人しくしていれば分からない筈。

 せめて、チュウギだけでも助けなければいけない。

 ここから少し移動をするか否か、判断をしようとした時だった。

 頭上から光が漏れた。

「いたぞ!」



 廊下を歩いていたが、物音が途端に止んだ。今まで騒がしかった部屋を見ると、荒らされ放題の部屋と、綱で縛られた親子の姿があった。

「なっ!」

 チルは痛みを忘れ、その場に駆け寄った。

「従者さん、見つけましたよ。」

「あ…」

 チルは絶句した。『護らないと』と思っていたのに、こうもあっさり奪われてしまったなんて。

「で、お前この従者さんとはどう言う関係だ、あ?」

 ゼヒを繋ぐ綱を強く引っ張った。

「ちょっ、この人はっ…!」

 どうせなら、「匿った私が代わりになって二人を開放しよう」とチルが口を開いたが、ゼヒがそれを遮った。

「この方は関係ありません。私達が勝手に侵入したのです。」

「えっ。」


 そして、その一言を残して、ゼヒとチュウギは部下に連れられてしまった。


 二人をただ呆然と見るだけだったチルは、ペタリと座り込んでしまった。





「チュウギ…」

 ゼヒの胸元にぎゅっと抱きついているチュウギをゼヒは撫でた。

 牢獄。木製の格子から日の光が入って来る。


 やっぱり、せめてチュウギだけでも助かって欲しい。私が生きて触れて感じた事、それが詰まった存在だからこそ、どうか生き延びて欲しい。

「そうだ。」

 ゼヒは呟いた。

 ゼヒはチルと同じく、大巫女を母に持っている。ならば、チルと同じく、多少の力があるのではないかと思った。チルは家と大巫女の力を継ぐために修行をしていたが、ゼヒは無縁だった。だから、いきなり使えるのかどうかと一瞬不安に思ったが、使ってみるしかないと思った。



 使った力は、未来視。

 チュウギだけでも助かって欲しい。その一心で使った。



 禍国の使いと思われる人物がいる。群衆の中から、チュウギを颯爽と攫っていく。そして、チュウギはミマツにも、その兄にも似た誰かの背に乗っかっている。



 チュウギは助かる。ゼヒはそう確信した。

「チュウギ、大丈夫よ。…必ず助けてあげるから…」



 そして夜になった。



 ゴウゴウと炎が燃える。

 まだ、私が見たあの禍人の人たちは来ない。こうして待っている間に、刻々と刑が行われる時が迫っている。躊躇っていたら、武装した後ろの方々から急かされ、いきなり炎の中に飛び込む可能性がある。


 そうなれば、チュウギも助からない。


 ならば、私が時間を作ろう。

 焼かれ切るまでの間、かなり時間があるだろうから。


「私から先に、刑を行ってください。」

「あ?別に構わんが。」

 武装した男の人は大声を張り上げ、私が先に処刑される事を告げた。



「少し…息子とお話ししても良いかしら?」

 私は、せめて最期に。とチュウギに話をしたかった。

「構わんが、早くしろ。」

「ありがとう。」

 チュウギの目線に合わせるように、私はしゃがんだ。

「チュウギ。」

「…母様…?」

 涙で目が水浸しだった。



 私は、これまで生きてきた事を思い浮かべながら言った。

「母は…これから遠い場所へ旅立ちます。けれど、どうか覚えていて。貴方には、愛していた人がいた事を。それを忘れなければ愛していた人に想いは届くと。希望を忘れないで下さい。そして…」

「…そして?」

 チュウギは顔をしっかり向けた。

 私は耳打ちした。

「生きて下さい。」

「え?」

 耳を疑ったのか、チュウギは目を大きく開いた。大丈夫。貴方には助けてくれる人が来るから。貴方が愛された事を忘れないで欲しい。生きて、貴方も心から愛する人を見つけて欲しい。その想いは、きっと愛する人に繋がっていくから。



 にっこりと微笑むと、私は、男の人に言い放った。

「話は終わりました。どうか私を好きにしてくださるかしら。」




 炎が私を溶かしていく。そして、無数の矢が私を刺していく。でも、その感覚が分からない。痛覚が鈍くなって、使い物にならなくなったからかしら。


 これで良かった。

 チュウギ…貴方が無事ならそれで良いの。







 でも…あの子のこれからを見られないなんて。それだけは心残りだった…


 せめて、せめて、霊体でも良い。この子の行く末を見届けたい。そう思った瞬間、胸の内から、清らかな物が大河の様に流れ出した。









 「我は禍国の使いなり。その童を我によこせ、愚民ども。」



 誰…?

 聞き覚えがあるような声。でも、布で覆われているからか、夜に紛れてなのか、顔が良く見えない。


「なぬっ…やれ!やれお前ら!禍人だぞ!殺せッ!そいつ等を今すぐ殺せ!!」

 国長が叫んだ。

 一斉に大人の人が押し寄せても、次々と三人の禍人になぎ倒されていく。

 その様子を唖然として見ていた時、ふわっと身体が宙に浮いた。

 あの禍人の一人が、私を抱えて連れ出した。






 祉国の国境付近の森まで辿り着いた。

 すぐ隣には、星が写った海が広がっていた。

「ありがとうございます…貴方は誰ですか?」

 抱えられた状態から解放されて、直ぐにその人にお礼をした。

「我か…」

 バッとその人は顔を覆っていた布を取った。

「大巫女様…!」

 まさか、禍人の正体は大巫女様だったなんて、予想外だった。

「大急ぎで禍国の着物を模して作った。しかも夜中。正体を隠すのには最適だった。今も従者とわらわの娘が応戦しているから心配ない。…だが…すまなかった…本当に…すまなかった…!!」

 大巫女様は、私を包んで、誤った。


「えっ…うあ、ああ…!」


 怖かった。

 禍人という目を向けられた事、

 処刑されかけた事、

 母様が…目の前で命を落とした事。


 こんなにも、禍人である事に目を付けられたのが怖かった。

 どうして、どうしてこんな事になったのか分からない。母様が何をしたって言うのか。母様は間違っていたのか。もう何もかも分からなくなりそうだった。





「チュウギ…ここはそなたが生きやすい国ではない。明日の朝、共にこの国を出るか?」

 大巫女様が、話し掛けた。

 でも、大巫女様には護るべき場所も、人も、全てあるのにそんな事をしたら、誰があの国を、民を護るのだろうか。



 そんな選択をしたら、私が私を許さない。


 今はもう護られるべき存在では無い、愛されるべき存在では無い私を護る価値など無いのだから。







「俺は、自分の足でここを出ます。大巫女様はこれからも…どうか民とこの国をお守り下さい。」






 どれぐらい歩いただろうか。

 もう大巫女様の姿は見えなくなっていた。



 俺はその瞬間、身体から一気に力が抜けて、その場に倒れ、蹲った。


 砂に、涙の跡が一つ一つ、広がっていった。



「ふ…ひくっ…………母様っ…大巫女様…!」

 ああ言ったのに、やっぱり、堪えきれなかった。


 本当に、この地に自分が求めるような安寧の地はあるのだろうか。そう海に問いかけているような気がした。

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