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恒久の巫女   作者: 天哉
37/38

第37話 楽園の在処①

※多少の暴力描写有り

 テイは庵を心配そうに見つめた。

「始めるけど、本当に大丈夫か…?」

「うん。平気だよテイちゃん。それに、鉄は熱い内に打てって言うでしょ?なら、記憶が鮮明な今やりたいの。」

 庵は穏やかな顔でそう言った。

「分かった。でも無理はするな。休憩が必要なら私達に言ってほしいな。」

 庵を信じて、テイは話を聞く事にした。

「じゃあ、俺が庵の言った事を書いておく。それで良いな?」

「うん。それと、詳しく聴きたい事があったらすぐ言っていいからね。二人とも。」


 庵はベッドに座りながら、あの時に見た光景を思い出した。





 ウムイの御嶽にて…サンニンが見てきたモノを見る事になった。

「まずは、生前の私の記憶から。そうすれば時系列も分かりやすくなると思います。それに、あの子の事も。それでも良いですか?」

「お願いします!」

 事前に、「記憶を見る事は過酷な旅になる」と聞かれていた。


 庵は、それでも良かった。

 巫女として、禍国の内情は、絶対に何れは知らなければいけないと分かっていた。庵の前世より前の人物であり、フセの祖先であるジブノが行なった事であり、世界救済の為には知る必要があると思っていた。

 それに、チュウギ達の記憶を見れば、より深く、私とフセの事が分かるかもしれないと思った。



「では、いきますよ。」

 サンニンはそっと、庵の額に手を広げた。

 瞬間、眩い光が視界を覆った。







「西の国には、行ってはいけない。」

「えっ、どうして…?」

 幼い日のサンニン…ゼヒは、父親の顔を見上げた。

「魔物がいたり、変な術や病を持っている輩がいるんだ。そういう輩を、昔巫女様が隔離する為に創った国なんだ。」

「へぇ…」

 父の話を聞き、西の方角を見た。

 夕焼けに染まる空の向こう側、そこに父の言った「西の国」があるんだと、ゼヒは知った。

 だが、どうして隔離する必要があったのか、幼いゼヒにはいまいち分からなかった。

 だって、自分達島人にも、魂人と比べれば多少の術は使えるし、病だって掛かる事がある。なのに、何故だと思ったが、それ以外言及する事はしなかった。何せ、父が巫女様の事を語り始めた時、若干嬉しそうな声色になったからだ。これ以上指摘しては父の気分を害するかもしれないと勘付き、ゼヒは言葉を飲み込んだ。

「まあ凄い巫女様だったよ。国を創ったり、地を整えたり。ただのお嬢様って感じじゃないのは確かだったな。だが…」

「だが?」

「巫女様が死に、こちらへ来たと思ったのも束の間だったなァ。」

 どうやら、巫女様がニライカナイに来たと言う事を知り、民は喜んだのも束の間、その巫女はこちらに来た時に体勢を崩して転んでしまった。それだけならまだ良かったが、なんと打ちどころが悪く、亡くなってしまったという。

「あっけないね…」

「そうだな。あっけない…」

 父も、ゼヒに同情した。






 時は流れ、ゼヒは美しい娘に成長した。

 長い黒髪は、波打つように艷やかなものであり、柔らかな笑みがよく似合う娘だった。


「お父様、私少し出掛けてきますね。」

「おう。気をつけるんだぞ〜!」

 畑仕事を終えて、ゼヒは散歩に出掛けた。


 ゼヒは散歩好きだった。

 特に、小さな林になっている道を通るのが好きだった。木々から通る風がとても心地よく、お気に入りの場所であった。


「お嬢さん、少しよろしいでしょうか?」

 突然後ろから声を掛けられたので、振り向くと、そこには全身マントで覆われた者がいた。

 全身覆われているものだから、勿論顔もフードのように被っている布で隠れていて、誰か分からなかった。声を聞く限り、おそらく男性だろうとゼヒは思った。

「すみません、その…どちら様でしょうか?」

 そう言った途端、強く風が吹いた。

「ああ…これは失敬。実は旅をしている者でして、この国に来るのは初めてなんです。だから少し、迷ってしまいましてね。」

 と、旅人が言った。

 だが、その旅人にはひとつ、不可解な点があった。

 風が吹いた時、フードをぎゅっと強く握りしめた。顔を見せたくないのであろうか。

 しかも考えるなら、布で覆いかぶさったままなら、どうやってここまで来たのだろうか。視界が遮られるし、迷うのも無理ないと思ってしまった。

「えっと、どうなさいましたか?」

「あっ、ええ、その…そこまで深く布を被ってどうしたものかと…すみません失礼な事言って!!」

 と、ゼヒは後半になるにつれて早口になってしまった。

「いえ!とんでもない!そもそも顔を見せずそのままの状態で人に聞いた私が悪いんですから!!お嬢さんは別に何も…!!」

 旅人もあたふたしながらゼヒに誤解を解こうとした。

 すると、またあの風が吹いたと思えば、さっきより強く風が通った。

 すると、旅人が深く被っていた布がはらりと舞い、外れて、顔があらわになった。


 枯れ葉のような悲しげな色をした髪色。きりりとした眉に、眼光鋭い瞳。中々の男前なものだった。だが、瞳の色が特に異質だった。

 赤い色。

 赤い瞳を持つ者は、禍人である。そう父から聞かされていたゼヒは、少しだけ驚いた。まさか自分の目で、禍人その者に出会えるとは思っていなかったからだ。

「すみません顔を!!」

 見ないでほしい。そう男が続けようとしたが、それを遮った。

「いいえ。大丈夫ですよ。まさか禍国の人に会えるなんて、思っていなくて驚いただけですから。」

「えっ。」

 男は、ゼヒの言葉を聞き、耳を疑った。それに、自分に対する態度も。

 大抵の人なんて、自分の姿を見れば驚いて、逃げ出したり、最悪石を投げられたり、木の棒で殴られる。

 そう教わっていたし、実際にそれらを受けたからである。

「怖く…無いんですか?」

「ええ、私は別に何とも。」

 ゼヒはそう答えた。

「不思議な人だ…」

 男は小声でしゃべった。

「で、どちらへ行こうと?」

 そうだった。と、我に返った男は、ゼヒに隣国への行き方を尋ねた。ゼヒも、男に行き方を教えた。そして、男がその場を去ろうと挨拶をした。

「じゃあ、私もこの辺で…」

 と、言い残し、ゼヒはもう一度、自分の向かっていた方向に向かって歩き始めた。


「あの!」

 男が呼び止めた。

「貴女の名前を教えて欲しい。」

 ゼヒは男に応え、振り向いた。

「私はゼヒ。貴方は…」

「私の名はミマツ。またいつかお会いしましょう。ゼヒさん。」

 また、あの強い風が吹いた。

 目に塵が入りそうな程の風だから、ゼヒは目を瞑った。

 再び目を開けた時、そこにはミマツの姿がなかった。



 とても不思議な体験だったと思うと同時に、またミマツに会いたいと想った。



 時は流れ、二ヶ月程経った。

 一向にミマツは自分のもとへ現れず、一抹の寂しさを覚えていた。

「また…あの道を歩いていれば会えるかしら…」

 ゼヒはふと思いつき、ミマツと出会った林へ向かった。

 そよ風が肩や頬を撫で、鳥のさえずりが聞こえる。この道でまた会えるような気がした。

「ゼヒさん?」

「まさかっ!」

 男の人に声をかけられたので、振り向くと、あの時と同じようにミマツが立っていた。優しくほほ笑み、ゼヒに近づいてきた。

「遅くなって申し訳無いです。」

「いいえ、大丈夫ですよ…旅をする身ですし、無理して会うわけもいけませんですし…」

「嘘です。ゼヒさん、少し寂しそうな顔をしていたよ。それに、私の旅も終わりました。」

 ミマツはそう言って、ゼヒの頭を撫でた。

「そうだ。ゼヒさん、ここらへんの事、もっと教えて欲しいです。よろしければ…ゼヒさんの事も。」

「わっ私もですか!?」

 ゼヒの事も知りたい言われて、顔が熱くなった。

「駄目ですよね…ハハッ。」

 ミマツはそっぽを向いて、頭を掻いた。

 よく見ると、ミマツの顔が赤くなっていた。

「いえっ!大丈夫ですよ。ただ、ちょっと突然だったから、驚いただけです。その代わり、ミマツさんの事、私に教えてくれませんか?」

「私の事…いいですよ。特にゼヒさんになら、私の本音を話せるかもしれません。」

 ミマツはにこりと穏やかな笑みを浮かべた。

 その時、ミマツの髪の色がほんのり、日だまりの温かさを帯びた優しい色に見えた気がした。



 その後も二人は、互いに会う時間を作り、あの林で二人きりの時を過ごした。

 ミマツは禍人なので、もし林以外に行けば大騒ぎになるので、遠くへは行けなかったが、それでも二人にとっては特別な時間となった。

 だが、そんな二人の密会を目にしてしまった者がおり、それをゼヒの父に伝えてしまった。



「只今帰りました。」

 いつものミマツとの密会を終え、ゼヒは家に帰った。

「おう。ゼヒ、こっちに来なさい。」

「はい…」

 何だろうと思いながら、ゼヒは父のもとへ向かった。

「ゼヒ、お前は…禍人と会っているって聞いたのだが、本当か?」

「えっ。」

 何故、父様がそれを知っているの?あの場所には私とミマツさん、二人しかいないのに!私だって父様にも周囲の人たちにも話したことが無いのにどうして!?

 ゼヒは頭の中がごちゃごちゃになってしまった。

「本当かと聞いているんだッ!」

 父が怒鳴り声をあげた。

「…はい…本当です…」

 父の怒声に負け、ゼヒはミマツ…禍人とと会っていた事を認め、話してしまった。


「お前っ…!!それがどういう事か分かっているのか!!禁忌なんだぞ!!」

 バシッ

 ゼヒの頬に熱いものが飛んできた。

「あんな蛮族に会っていた?何だそれは!!騙されているんだぞ!いつかお前も喰い殺される!かつて、あの国の付近に行ったお前の母は殺されたんだぞ!それを知っているのに何故お前は接触した?それに…お前はこの国一の美貌を持っていると言われているのに、そんなに国の奴以外の者を…よりによってあんな非道で残酷下劣な国の男に惚れたのか!?」

 父が次々と、早口で持論を持ってくる。

 だが、言われてばかりじゃいられなかった。自分が好きになった人だからこそ。

「父様の言いたい事は分かります。ですが!私はあの人を詐欺師だとは思っていません。下劣な者だと一切思っていません!」

「何だと!?」

「私はあの人の事を知っている。ずっとずっと苦しんで来たことも知っている。だから、下劣と言われる筋合いはありません。」

 ドッ

 今度は蹴飛ばされた。だが、ゼヒは立ち上がり、父に詰め寄った。

「それに…そうやって見切りを付けてしまったのは私達島人や巫女様ではないでしょうか。確かに民を守るという筋合いは通っています。ですが、会えば石を投げつばを吐いたのはどちらだと思っているんですか?全て間違っているとは言っていません。ですが、歪んでいったのはどちらでしょうか!それに、もし騙されていて、仮に喰い殺されたとしても、私はあの人に殺されるなら、本望です。私が愛した者からです。」

「っ…!!ここから出て行け!もうお前には家の敷居など一切踏ませない!」




 辺りはどっぷりと夜にふけていて、家々の明かりは数える程にしか灯っていなかった。

 ああは言ったものの、これからどうして行くのか。山の中腹でゼヒは座り込んで考えた。

 そう問い詰めている内に、答えがひとつ浮かんだ。

 国境付近に、誰も使っていない小屋があった。そこで暮らすと、ミマツ宛にあの林に置き手紙を書いておこう。

 そしてミマツが許すのなら、共に遠くへ逃げて、いつかミマツとひっそりと暮らしたい。

 ゼヒはそう考えた。


「おや、まさか貴女がゼヒさんですか?」

 後ろから声を掛けられたが、ミマツのような優しい声ではなかった。どこか快活な声。振り向くと、一つ目の大きな烏がそこにいた。

「ミマツさんから伝言を頂いている者でございます。」

「ミマツさんから…?」

 こんな夜更けに、彼になにかあったのか、ゼヒは先程考えていた事を手放してしまった。

「ええ、是非禍国に来てほしい。お招きしたいとのことですが。いかがなさいますか?」

「禍国に?」

 いよいよゼヒの不安が頂点に達した。

「お願いします!行かせてください!」

「お安い御用です。」

 ゼヒは烏の背に乗せてもらい、夜の空を飛んだ。ふと、何かが包むように視界を遮ってきた。すると段々眠気が襲って来た。






 目を覚ますと、提灯の灯りがついている、ほんのり薄暗く感じる部屋に寝かされていた。

「ここは…」

「起きたか。何してたか分かるか?」

 一人の顔を覆った男に聞かれた。

「確か、烏の背に乗って禍国へ行った筈…」

「そう。ここが禍国。ゼヒさん覚えていますか?わたくしはその烏。」

「烏さん…?」

「烏姿を見ての通り、わたくし一つ目ですからお顔を見れば怖がると思って、こうやって隠しています。ご無礼の程、お許しを…」

 随分と紳士的な対応をする烏。では何故飛んでいるときに眠気が襲ったのか。

「ゼヒさん、あの時に眠っていたのは、わたくしの力で眠らせただけです。ゼヒさんは、島人。瞳の色が赤くない事を悟られてはいけませんからね。」

 心を読まれたように、答えられた。



「じゃあ、いきましょうか。」

 烏が手を差し出し、ゼヒはその手を取った。


「ねえ、烏さん。」

「はい。」

 提灯で照らされた廊下を歩きながら烏に尋ねた。

「それにしても、一体ここは何処でしょうか?」

「ああ。ここは、ミマツさんの住むお屋敷です。」

「お、お屋敷?」

「そう。わたくしはそのお使えの人。だからこうして、ゼヒさんに伝言したのです。」

 ミマツはとんでもないお坊ちゃんなのだろうかと、ゼヒは思った。


 長い長い廊下を歩き、目的の場所へと連れてこられた。

 烏は扉をノックし、一言添えた。

「ゼヒさんをお連れしました。」

「良し、通れ。」

 部屋の奥から、男性の声が聞こえた。

 だが、それはミマツのものだと一瞬思ったが、ミマツよりも声が太かった。誰?そう思いながら部屋へ入った。

 部屋に入ると、男の人が三人立っていた。その内の二人は烏と同じ服を着ていて、使用人である事が分かり、一人は薄暗くて顔が良く見えないが、ミマツだろうかと、思ったが、微かに顔立ちが異なる事と、雰囲気がミマツのものでないと、直感的に分かり、誰なのだろうかと思った。そして、その奥には祭壇のようなものがあり、上には白い布で何かを被せていた。白い布はよく見ると、かすかに赤く染まっているような気がした。

 そして、ゼヒは気付いた。この人たちの中に、ミマツの姿が無い事に。

「あの、一つお聞きしたいのですが…ミマツさんは一体何処でしょうか?私、ミマツさんに…いえ、正確には伝言で、この国に来てほしいと言われて来たのですが。」

 ゼヒは心が落ち着かなかった。何故呼び出した張本人であるミマツがここにいないのか、気が気でなかった。

「ああ、あの弟か。」

 一人の男が口を開いた。

 顔を見ると、かすかにミマツと似ていたが、ミマツにあった哀愁はそこになく、淡々と、そして冷酷な雰囲気があった。

「呼び出したのは弟と聞かされているが、実は俺が呼んだ。…見たいのか?これを。」

 ゼヒの返答を待たずに、ミマツの兄は、奥にあった白い布を取った。


 そこに現れたのは、ミマツの首だった。

「ひっ。」

 間違いなくその首の者を形作る顔パーツは、ミマツの瞼、ミマツの髪、ミマツの口、ミマツの眉…ミマツだと嫌々分からされた。

「ミマツさんッ!」

 ゼヒはミマツの首に駆け寄った。

 そしてそっとミマツの首を手に取って、腕の中へ寄せた。

「ッ…!ミマツさ…ミマツさん…!」

 ミマツの亡骸を強く抱いた。

 声は絞り出すようなものしか出なかった。だが、どうしてこんな事をするのか、それだけが聞きたかった。

「どうして…こんな事をしたのですか!?この方は貴方の弟の筈なのに…!!」

「どうして?決まっているだろう。島人と心を通わした罪人だからだ。」

「ざい…にん…?」

 罪人。

 当然の事ように、その言葉が出て来た。

「国外を旅をする変な弟だとは思っていたが、こんな奴と心を通わしていたとは思っていなかった。良いか?俺達禍人はお前ら島人を恨んでいる。今ここで首を跳ねても良い程にな。」

「確かに私達は心を通わせていた。だけどっ」

「それ以上は不要だ。弟は我らの崇高な存在である姫巫女様の考えに反し、その御心を穢したのだ!だから穢れを祓う為に殺した。それに、お前が穢したのも同然だ!」

「姫巫女様…」

「そうだ。打倒巫女、そして島人のお考えを抱えた我らの救世主である。かつての我々の暮らしを脅かし、そして地獄も同然のような扱いを受ける羽目になったのは島人!お前達も同罪なんだ!」

 ゼヒの両頬をむんずと大きな片手で掴んで、憤慨した様子で叫び声を交えながら言った。


 手が離れ、両頬が解放されて、ゼヒは項垂れた。


 私が、この人を愛したのが悪かったのか。

 それとも、この罪を作ることになってしまった先祖…いや、私達島人が悪いのか。

 考える程に、頭が沸騰しそうになった。

 そして、いつしか事切れてしまった。



 木漏れ日が眩しい。

 ここは夢の中だろうか。

 いや、違う。この光景はあの林だった。

「ねえ、どうしてミマツさんは旅をしていたの?」

 かつてのゼヒが、ミマツに聴いている。そう言えば、かつてのミマツは旅人であった事を忘れていた。

「それは…お姉様を救いたいんだ。」

「お姉様?」

 ミマツが寂しそうな顔をした。

「うん。お姉様。お姉様は大きな怨念に囚われている。だから、恨んだ時を忘れない様に…その強大な念に囚われれた時の姿のままなんだ。」

 ミマツは、哀しそうな目をしながら言葉を繋いでいった。

「それに、お兄様だって、本当は優しかった。禍人であるのもそうだけど、身内として妹であるお姉様の恨みを深く理解し、協力しようとして、最終的に自分の心を殺してしまい、身も心も全てお姉様に捧げてしまった…」

「そんな…!」

 ゼヒはミマツの身に起こった事を想像して、血の気が引いた。

「だけど、特にお姉様のその呪縛を解かなければ、何れ身が持たなくなる時が来てしまう。だから、何か解決策を探りたくて、島人の現状を見て聞いて…『可能性』を信じさせたいんだ。」

「『可能性』って?」

 ミマツは少し息を吸って、ゼヒに教えた。

「禍人と島人の大きな溝と呪縛を解く可能性。それだよ。」




「うっ…!!」

 あまりの激痛にゼヒは目を覚ました。

 すぐ真上から、木々や日の光が降り注ぐのが見えた。


 身体のあちこちが痛む。殴られたような鈍痛が延々と続く。

 ここは何処かなんて考える余裕はほとんど無かった。せいぜい禍国より遠くに来ている感覚がある位だ。

 起きようとして身体を動かそうとしても、激痛が増すばかりだ。それに、腰に力が入らないから、自分の身体をを支えられない。

 そして、絶対に殴られただけじゃない気がした。もしこれが悟られてしまったとしたら、本当に危険だ。

 どうしよう。このままの姿を見られてしまったら。ここがもし、仮に自分のいた国だとしたら。



「お主、大丈夫か!?」


 頭上から声が聞こえた。

 女の人だろうか。

「うっ…だ、大丈夫ですよ…」

 無理をして、笑いを作ろうとしたが、無駄だった。笑顔を作ろうとしても顔が痛む。

「大丈夫じゃなかろう!その身体の傷はどうした!…かなり殴られているらしいな…わらわの家に着くまで耐えろ!」

 そう言った女の人は、大きな布でゼヒの身体を包んでくれた。

 そして、ゼヒは軽々と持ち上げられ、抱えられるようにされながら、その場を去る感覚を覚えた。

 どうして、こんなに優しくするのか。半日ほどの出来事なのに、ゼヒは久々に人の優しさに触れたような気がした。

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