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恒久の巫女   作者: 天哉
36/38

第36話 あなたへの手を探る

 長く続く白い光の中を潜り抜けた。


「うっ…」

 庵は一言呻いた。

 目を開くと、そこは祉国の城内で使っている自分の部屋の天井が真っ先に見えた。

 目を二、三回程瞬きさせてから、周囲の様子を見た。

 ベッドの周りには、右側にチレイ、テイ、レイアが。そして左側に仁、信乃、ギユウが立っていた。

「みんな…心配かけてごめんね。それと…有難う。」

 にこりと庵は優しく微笑んだ。

「庵ちゃん…!!」

 チレイが思わず庵の前で泣き出した。

「良かった…!!本当に良かったですっ…!!」

「チレイちゃん…」

 庵は、その後どう声を掛けていいのか分からず、チレイの頭を優しく撫でた。


「ええ、本当に安心した…」

 信乃がほっと安堵した表情を浮かべた。

「何とかなって良かった。」

「全く持ってその通りだ。庵、久しいな。」

「庵、無理するなよ。」

「ホッとしました…!」

 続けて、仁、テイ、ギユウ、レイアが庵に向けて言葉をかけた。

「うん。有難う…」

 庵はみんなの顔をぐるりと見渡した。

 その時、部屋の奥の方。欄間のような縁取りを施した窓の側に義実ともう一人、見知らぬ人物もいた事に気付いた。

「あっ、もしかして…お医者さん?」

 身なりを見て、日本の医者同様に、清潔感があったから何となくそうだ、と勘付いた。

「ええ。」

「あっ、あの治してくれて有難うございました…!!」

 庵は未だに起き上がる事が出来ない為、ベッドで横たわった形で礼を言った。


 庵は再度全員の顔を見た。

 その時、ある違和感を覚えた。


 いつも見る人なのに。

 いつもこうやって集まった時に、絶対欠けることが無かった。

 それに、私のそばにいてくれた。


「ねえ…みんな、ひとつ聞きたいの。」

「なあに?」

 信乃が庵の小さな声に反応し、聞き返してくれた。


「チュウギは…?どこにいるの?」


 その一言を聞いて、計画メンバー一同とレイアは黙り込んでしまった。

 庵に真実を話せばきっとすぐにチュウギのもとへ行こうとする気になる筈である。

 今は無理させて庵を起こすわけにはいかないと思った。

 だが、その中で一人、ギユウは敢えて庵にチュウギの情報を伝えようと決心した。庵とチュウギ、両者の胸の内を知るのはギユウただ一人だけだからだ。

「チュウギは今は自分の部屋で寝ている。」

「えっ。」

 やっぱり驚くか。しかも話してしまったかと他一同は思った。

「庵を助けようと、治療に必要な草を採ろうと奔走していたんだ。だが、それが災いしたのかどうか、熱が出て今はここにいない。」

「そんな…!」

 チュウギの状態を聞き、庵の心に少々痛々しい気持ちが押し寄せた。



 そして、庵はひとつ決心した。

「チュウギの所へ行く。」

「ええっ!?」

 全員、驚きの声を上げた。

 庵はガバっと勢いよく起き上がった。

 だが、それと同時に全身に痛みが走った。

「うっ…!!」

 庵は、全身の痛みを堪らえようと、その場で蹲った。

「ああ、駄目だよ。そんなに動いちゃ。結構怪我してる所多かったし、君は初めての縫合気術だから無理すると負担が…!!」

 医者は慌てて庵の近くへ来た。

「でっでも…!私、行かなきゃ駄目なんですっ…!!」

「俺に任せろ。」

「ギユウ…?」

 焦る庵を気に掛けて、ギユウが名乗り上げた。

「俺がアイツの所まで連れて行ってやる。」

「ほんと?」

 庵の顔が少し明るくなった。

「ああ。だが、その状態だと歩くのにも困難だろうし、俺が抱えて連れて行く。それでもよかったらだが。」

「ギユウっ…!!有難う!」



 庵は人形のようにギユウに抱えながら、二人で廊下を進んでいった。

「ねえ、私が目覚めなかった時、ギユウ達は出掛けていたんだよね。」

「ああ。それがどうした?」

 急に庵が自分達が出ていた時の事を聞いてきて、内心少し驚いた。

「あのさ、何かあったの…?」

 ギユウは、庵の言ったことに耳を疑った。

 何故、察したのか。

「庵…急に、どういう事だ?」

「あっ、ごめんね。先に言うべきだったね。」

 そして一間空けてから、庵はもう一度話し始めた。

「えっとね、何となくだけど。その時にさ、ギユウ達何か大きな事があったよねって感じたの。それに…多分禍人関係の事で。」

 ギユウはそれを聞いて、ドキリとした。

 全て当たっていたからだ。

「ああ。お見通しだ…」

「そうだったのね。それで、なにがあったの?」

 庵に聞かれ、ギユウは全て話した。




「そうなの!?」

 と、庵は驚きの声を上げた。

「そう。帰ってすぐ話す予定だったが、ずっと全員庵の事を気にしていて、まだ話せていない。だから後に他の奴らにも話す予定だ。しかし、事が大きすぎる…」

 ギユウは顔をしかめた。

 まさか、禍人も計画をここまで立て直し、それに、フセでも見通せなかった大きな陰謀も目論んでいたとは思っていなかった。

 一方庵は、そんな顔をするギユウを見ながら、ふとひとつ思い付いた。







「…お前さ、良くこの熱で動けよな…」

 ギヌは小声でそう言い、若干呆れながら、ベッドで横になっているチュウギを見た。

 一通り傷の手当ても行い、チュウギを落ち着かせた。だが、そこまで至るに中々手が掛かった。


 部屋に来るなり、自分の事より、ずっと庵がどうなっているか心配していたからだ。流石に、今のチュウギも大変な事になっているから、「まず第一にお前が落ち着け」と、何とか宥めてた。

 その後、何故か寝たと思えば何度も起き上がってしまった。だがしかし、この原因が一体何なのか分からず、ギヌは戸惑ってしまった。だが、同じ事を繰り返す内に疲れたのか、気絶するように眠りに落ちた。

 何が何なのかと、ギヌは少し悩んだ。


 トントン


 部屋の外。扉の向こう側から、戸を叩く音がした。


「何だって、お前らか…!」

 扉を開くと、ギユウと庵がそこにいた。

 庵の頭や、服から見える腕や脚に巻かれた包帯を見て、痛々しく思った。

 一方庵は、まだ少しギヌに対して警戒心があるのか、ギユウの服をぎゅっと掴んだ。

「チュウギは?」

「ああ。布団で寝てる。」

 ベッドを指を差し、チュウギの状況を伝えた。

「分かった。すまんが、庵をチュウギの側に行かせても良いか?」

「別に何とも無いし構わねぇけど。」

「有難う、ギヌ。」


「ギヌさん…有難うございます。」

 庵も、ギユウに続いて、ギヌに礼を伝えた。


 ギヌは、庵の状況を察して、部屋にあった椅子をベッドの近くまで運んできた。

「お姫様が来たんだぞ。ちっとは目覚めてくれたらどうだ?」

 ギヌは小さな声で、チュウギに呼びかけてみた。


 その椅子に座らせてもらった庵は、じっとチュウギを見つめた。


「う…」

 眉がぴくりと動いた。後に、目も開いていき、横になりながら、辺りを見渡すような仕草をした。


「チュウギ?」

 優しい声を聞き、チュウギはハッとした。

 声がした方向を振り向くと、そこには庵が座っていた。

「いお…り…?」

 チュウギは、目を大きくさせた。

「うん。おはよう、チュウギ。」

 優しくにこりと微笑んだ庵をみて、チュウギは、気になった事を聞いた。

「大丈夫なのか…?」

 包帯をあちこちに巻かれた姿。怪我以外にも、自分が色々とやった事だったので、チュウギは庵に聞いた。

「うん。大丈夫まだ無茶は出来ないけど、術は消えたし平気だよ。それに、チュウギこそ…」

「あ…」

 いつもなら「気にするほどじゃない。」「平気」と言うが、こんなにも目に見える状態では完全な嘘になる。

「ごっ、ごめんね。気にしないで!」

 チュウギが考えていることが筒抜けになってしまったのか、庵が慌ててフォローした。

「それより…有難う。私の為にずっと探してくれたんだよね。」

「庵…!」

 チュウギは、庵のその言葉を聞き、どう返せば良いかと、少し考えてしまった。


 確かに、庵の為、贖罪の為にあちこち駆け回ったのは事実だが。

 庵の願いに背いたという点もあり、「有難う」をそのまま受け取ってしまって良いのかと想ってしまった。

 チュウギが悩んでいるのを察してか、庵は口を開いた。

「チュウギ、返事は後でて良いよ。今は休んでて。私も、話したい事があるけど、二人でゆっくり話したいから。」

 庵は、チュウギにそう言うと、ギユウにそろそろ部屋に戻ろうと、誘った。


「じゃあ、俺らはここで。」

 ギユウが一言添えて、部屋を後にした。


「ギユウ、有難う。」

「いいぞ、こんな事は容易いから。」

 ギユウは再び庵を抱えながら元来た道を辿っていた。

「でね、ギユウ話があるの。」

「俺に?」

 突然、庵が何か思い付いたのか、ギユウに提案をしてきた。

「うん。後テイちゃんも一緒にいた方が良いかな。フセの元従者だから、そのほうが話も進むし…」

「わかったが、何の用だ?」

「急ぎで悪いんだけどね。ちょっと聞いてほしい、まとめてほしいものがあるの。」

 庵が急に何を考えているのか、概要が掴めそうで掴めない。

「だが、何用でだ?庵は今何を考えているんだ。」

「あっ…」

 そうだった。やっぱり言うべきだろうな。と思った。

 実はサンニンや梓と会い、過去の出来事を見た事。それは、夢と思われそうで、言うべきかどうか迷っていた。だけど、ギユウやテイに話すに当たって、おおまかにでも伝えなければ、何故その境地に至ったかなんて分かりにくい気もした。

「実は…過去の出来事を見たの。梓ともう一人…チュウギのお母さんに会って。」

「何だって!?」

 ギユウは目を丸くした。

「本当なの!眠っていた間二人に会って…助けてもらったの。それに私、その時に過去を追体験したの。」

「そうだったのか。」

 ギユウは少し興味深そうに庵の出来事を聞いていた。梓やチュウギの母に会い、過去を追体験する摩訶不思議な体験。この世界ならあながちあっても可笑しくないと、思っていた。


「分かった。テイも呼んで帳面と筆も取って来る。」

「有難う。」

 庵はにこっと微笑んだ。


 あの時に見た事、全部忘れないように。

 禍人や禍国とどう相まみえて行けば良いか。

 庵は全て分かってきた。これは過ちを繰り返さないようにする為の、償いをする為の序章、いや、準備でしかないけれども。

 それでもと想いながら、庵は自分の道を進もうと思った。

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