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恒久の巫女   作者: 天哉
21/34

第21話 邂逅

 ザザザと祭祀場に続く林道を庵、チュウギ、仁、チレイの四人が駆ける。チレイの姉、アサケが家に戻り、「犬の鳴き声がした、大巫女と信乃はそのまま祭祀場へ向かっている」という事を伝えられた。

 アサケは、もしもの事を想定して庵達とは別行動をする事にした。

「おばば様の孫、そして貴方の姉ですもの。これくらいどうって事は無いですわ。」

 そう言い、チレイを庵達と共に祭祀場へ向かわせた。

 急がなければ。あの予知の前兆だとすれば最悪の事態を防げるから。

「ハァっ…もうそろだな!」

 仁が声を掛けた。チレイがそれに答えた。

「はいっ!そろそろです〜!!」


 祭祀場へ後少し、その時だった。

「主等、伏せろ!!!!」

 大巫女の声が森の中に響いた。大急ぎに一行がその場に伏せると、頭の上をごおっと音を立てるように、何かが通過した。それを見ると、一行は息を呑んだ。2mはありそうな巨大な身体、ギラつく赤い目、そして艶のある絹のような薄荷色の毛。間違いなく、少女と共に行動をしていると噂されている大犬だった。ひとりひとりをまじまじと見ながら、うぅーと低く唸っていた。

 間もなく大犬は狙いを定めたのか一歩退いた。その途端、チレイ目掛けて大口を開き、飛び出して来た。

「きゃあ!!」


 その時、チレイは誰かに身体を突き飛ばされた。


 ガブリ。


 誰か噛みつかれたのか、肉を噛む鈍い音がした。チレイがそっと目を開けると、大巫女の肩に大犬が噛みついていた。

「嫌ああああ!!ばば様!!!」


「オールー・フィバナ!!」

 チュウギが気となった玉を操り、蒼い炎を出した。炎は大犬に弾丸のように当たり、そのまま森の奥へ飛ばされた。

「…うっ。」

「ばば様!しっかりして下さい!ばば様!!」

 どくどくと衣服が、地面が、赤い血で染まってゆく。

「…大丈夫だ。チレイ。…主が無事で何よりだ…」

 そっとチレイに寄り添うように、慈悲に満ちた声で応えた。



 騒ぎを聞き、祭祀場から信乃が駆けつけた。そして、「予知が予知だしもしもの時に」と持っていた手拭いと包帯を取り出し、手拭いを怪我の患部に当て、その場で止血を始めた。

「大巫女!どうするんだ!?あの女の子は…!?」

「女の子?信乃ちゃん、まさか!!」

 庵は信乃の目を見た。

「そうだよ。禍国の少女その者だ。」

 どうやら、信乃と大巫女の二人が祭祀場に駆けつけた時に、既に大犬と少女が二人揃って立っていた。だが庵達があの場に来た途端、少女が大犬に命を下し、庵達を襲いに行った。だが、その少しの間目を離してしまった為、少女の姿を見失ってしまったという。

「わらわはこう思う…あの少女は祭祀場の裏に行ったと…」

「祭祀場裏!?」

「あぁ…」

「祭祀場の裏は…洞窟状になっているんですが、その最深部には力持つ石、その実物が安置されているんです。」

 チレイが大巫女の代わりに説明した。

 だがしかし、何故石を狙うのだろうか。

 嫌な予感がした。石の力はティーダの玉と似て非なるものの力がある言われたが、もしや八宝玉計画を何処かで知ってしまったのか、その阻止の為、玉を破壊しようとするのではないかと。

「だとしたら…マズイ!!どうするんだ…」

「仁さん、落ち着いて!!私に提案があるの!!」

「庵ちゃん?それはどんな案なんだ?」

「チュウギと仁さんで大犬を追って欲しいの。予知だと主にあの大犬が人を襲うと思うから、人々に危害を与えたくない。前回カマキリの禍人と対峙した時連携が取れてたからきっと出来ると思う。私は、チレイちゃんと行動して、あの女の子を追う。きっとチレイちゃんは洞窟の中を知ってるから大丈夫。そして信乃ちゃんは大巫女様を家へ運んで、手当てをして欲しい。大巫女様はチレイちゃんの大事な人だし、この国に絶対必要な人だから、いち早く助けて欲しいの。」

「分かったわ。」

「オッケー乗ったぜ!」

「了解しましたです!!」



「待て、庵!!」

 庵の説明を聞いて、信乃と仁とチレイはその案に賛成したが、チュウギのみが待ったを掛けた。

「…あの少女の後を何故追おうとするんだ?しかも子供二人で。もし何かあったら…」

「大丈夫だよ、チュウギ…チレイちゃん、絶対力になってくれるって直感がそう告げているの。それと、私あの子と対等に話をしたくてこういう形にしたんだよ。私を信じて!!」

 と、真っ直ぐな眼差しでチュウギを見つめた。

「わかった。庵、お前を信じよう。」


「もし何かあったら、連絡を取りたい対象人物に念を飛ばせ。ティーダの玉には巫女と所持者達、互いの念を遠くからでも感じ取れるようになっているからな。」

「ありがとう、気を付けてね。」

「互いにな、庵。じゃあ行くぞ仁。」

「了解だ!」

 そう告げて二人はその場を去った。

「じゃあ、アタシも行くね。」

「はい。ばば様をよろしくです!」

 続いて信乃も止血を終えた大巫女を背負い、また去っていった。

「私達も行こっか。」

「はいです!」






 ぽっかりと空いた大きな穴。そこは暗くて奥が良く見えない。

「ここに玉があるの?」

「そうですよ。私も何回か来たことあるので案内は任せて下さいです!」

 今にも化物か獣、虫が出て来そうな異様な雰囲気に庵は少し圧倒された。

「庵ちゃん〜?もしかしてちょっと怖いですか?」

「あっ、えへへ…まあね。」

 すると、チレイがそっと庵の手を包んだ。

「大丈夫ですよ。私がいますからね。」

「チレイちゃん…」

 庵がふわっと安堵した表情を見せると何を思ったか、チレイはいたずらにこんな事を言った。

「そうですよー年下…うふっ、妹を守るのが姉の務めですからね~♪」

「いっい妹って…!!」

 そう言って少し庵をからかった。庵とチレイは勿論姉妹ではないが実際、チレイの方が少し年上なので庵には反論の余地もなかった。

「凄く暗いけど灯りはどうするの?」

「灯りはいらないです。一応僅かですが光が入り込むような形になっているので、入口は特に光が入るので穴を開けてないだけなのです。」

「そうなんだ!」

「じゃあ行きましょ〜!」

「うん!」

 二人は手を繋ぎ、共に洞窟へ入っていった。







 森の中を颯爽と駆ける二人。唐突に人が質問した。

「なあ、チュウギ結局さ禍人ってどういう奴なんだよ!?虫みてえなのは見てきたが、犬とか人間とか結構色んな奴がいるみたいじゃないかよ。」

「そうだな。そう言えば禍人について大まかな説明しかしてなかったし、今ここで念を飛ばす方法を実践するか。」

 チュウギは走りながら、仁や他の人物に念を飛ばした。

『庵、仁、信乃、聞こえるか?』

『…その声はチュウギ!?あれ…初めてなのに出来た!』

 庵から返事が来た。

『流石だ、飲み込みが早いな。』

『これもフセの力の記憶からカンからなのかな…?えっと、なんかね、頭に直接話しかけられてるみたいな感じがするの!!仁さんと信乃ちゃんもやれる?』


「おっと…やってみるか」

 仁もチュウギを横目に気を集中させ、念を飛ばしてみた。

『ん…お!こういう事か!!』

『なんかSFみたいね。』

 続けて信乃も成功したようだ。

『念を飛ばす方法の手本を兼ねて、仁から問われた事を話す。信乃は復習だと思ってくれ。禍人はどのような者か。なるべく手短に話すと、島人と異なり、虫等異形の姿をした者、怨霊や見た目は人そのものだが、邪念、果ては人の恨みといった負の側面や死魂や病を操る奇術師等…その他諸々もいるが大体この様な者が多く存在する。』

『へぇ…意外と多く人の種類があるんだな。』

『ニライカナイはチュウギ達島人からすればずっと禍国とバチバチになってる状態。アタシ達魂人からすれば天国の様な場所の一点張りは出来ないって事よ。』

『成る程。この計画知った時から思ってたけど意外とシビアだな…ニライカナイって。』



『すまない。手本はこれまでとしよう。』

 どうしたのか?と思い、仁が集中して前を見ると、薄荷色の大きな尻尾、肉付きの良い四肢を持つ動物が前方で走っているのが見えた。

「あいつか…!!」

「どうもそれっぽいな。行くぞ、仁!!」



 森の終わりがチラリと見え始めた。流れる川の水がキラキラと光り、広大に、そして青々と広がる田畑に出た。

 仁は豊国は水資源豊富で、穀物の栽培に適した地と聞いていたが、ここまでだったとは思ってなかった。

『仁!二手に分かれるぞ!!』

『えっ。』

『畑が見えただろう?なら近い所に民家がある。』

『だから、被害を出さない為に俺等で誘導させる。そういう事だろう?』

『当たりだ。』

 仁がこくりと頷くと、二人はどんどん距離を取った。仁が田畑が見える側に着く。

「守護者仁が告ぐ!!我に力を与えよ…シジ・カグラヤ・ビンヌスゥイ!!」

 呪文を唱えると、服の内側に隠れていた赤い玉が姿を現し、赤い光を纏い大刀の形になった。それを手に取ると、一気に大犬の近くまで走り、大刀を振り回した。

「こっちに来るんじゃねええええ!!!」

 振り回した大刀に驚き、大犬は少し足を引いた。

「オールー・フィバナ!!!」

 囮役のチュウギが放った蒼い炎が大犬を直撃した。チュウギはその後咄嗟に森の奥へ走っていった。炎がチュウギによるものと分かった大犬がチュウギ目掛けて後を追った。仁も、大犬の後を追った。二人はここより遠く、人も住んでいない目的地の崖までの誘導を始めた。

『チュウギ!後ろを振り向くんじゃねえぞ!誘導を最優先にしてそのままの勢いで行ったれ!!』

『了解だ!』



 山道を何度も何度も登り、ついに目的地まで着いた。ふとチュウギはこんな事を思った。

『…やっぱり広いな、ここは。』

 だが海と空の澄み切った青さと、風に揺れてサラサラと出す草の音。あの日と同じ場所なのに、全く見え方が違う。

『もう少し広い所に行こう。そうすれば戦闘になった時に備えられる。』

 先ほどより広い場所に着いた次の瞬間。

『チュウギ!!!!』

 きんとするような仁の叫びが脳に響いた。後ろを振り向こうとすると同時に、何者かが勢いよく飛び出して来た。

 チュウギは抵抗しようとする間も無く、そのまま首を掴まれ押し倒されてしまった。




 ぎりりと首を締められる感覚がする。

「…グッ」

「ようやく会えたわぁ…チュウギ。久しぶりねぇ。」

 何処かで聞き慣れた声だ、とチュウギは思った。瞼をゆっくりと開くと、そこには褐色の肌、薄荷色の髪と目をした女が馬乗りになって首を締めていた。

「お…まえ…は……ヤツ…!!」

「そうよ…貴方と…テイ、ギユウと同じフセの元従者…そしてあの大犬のヤツよ。」

 ヤツはそう告げると、にやりと笑みを浮かべた。首をまた強く締め、瞳を赤く染めながら。






「へえ!小学校っていう学び舎があるんですね。私も行ってみたくなりましたよ~」

「そうなんだよ~。季節ごとに色んな行事があって意外と楽しいんだ。それと、巫女の仕事って結構色んな種類があるんだね。」

「ですです〜!特に国政の占いは力のある巫女に限定されるので、早く私もばば様みたいに国を任せられる1人になりたいのです!」

 洞窟の中、女児二人の足音と声が良く響く。不安を紛らわす為か、庵は今までどんな所に住み、生活していたか。またチレイは巫女の仕事について互いに教え合っていた。

「所で庵ちゃん、どうしてあの子と話したいって思ったんですか?」

「…それは…」

 庵は答えに詰まった。何故あの少女と話したいか、それは庵の中にある確かな事が、今は告げるべきではない、と言っているような気がした。

「あっ話しにくかったですか?」

「えっ!?」

「ごめんなさい…じゃあ友達の事とか教えてくれませんか?」

「気になる?」

「はい、勿論です!」

「友達、凄く仲が良くって幼馴染の子がいるんだ。名前は…玉川梓!」

 庵はその時、梓と共に過ごした日々を思い出し、楽しかった事、悲しかった事様々な思い出が心を包んだ。



 時に、梓は庵を助けたり、庇ったりと何気に庵に気を使っている事が多かったが、その中で、庵も梓を助けたことがあった。梓は玉川家の実の娘ではない。拾い子だと本人から聞いていた庵は、梓が孤児と揶揄された時に助けた事があったのだ。その事を思い出し、「だったら、私が梓に出来ることは一つしか無い」ととある事を心に決めた。




 






 チュウギは驚いた。ヤツが禍人である事を知らなかったからだ。

「ああ、あの男ォ??安心なさい。アタシの模造品が今襲っているから…」

「…!!」

 ガルガル、ギャンギャンと多くの犬の声と、それと戦う仁の声が聞こえる。

 模造品…もしやあの時、大量の弓矢が降ってきたのは、ヤツの力なのかと確信した。

「お…前…弓…も…やった…のか…」

「やっと分かってくれたのね!!御名答よ!」

 微笑みながら、自分がやった事と証明した。

 そして、その笑みは、すぐさますんとした表情へ変わった。



「ねぇ、チュウギ…フセって本当に愛を知る女だったよねぇ…」

「…んだ…急に…」

 目を薄荷色に戻し、突然恍惚とした表情にして、ねっとりとチュウギに語り掛けた。

「フセはね、私が禍人だって教えた時、拒絶とか全然しなかったのよ。ああ、タマズサ様の偵察要員ってのは隠してたけど…むしろその事を受け止めてくれた。そしてフセの周りを見ると、誰もが尊敬、愛する人々が多くって…彼女も人々を分け隔てなく愛していた…でも貴方だけは違った。貴方…アンタだけは!だから許せなかった…アンタを特別愛していたその感情…私にはなかった!羨ましかったわ!アンタがフセの命令で殺した事も!!だから私、思いついたのよ…フセの生まれ変わりにも情を向けて貰う方法…アンタを殺せば、その目が私に向く、そしてあの娘を殺せば私を永遠に憎んでくれる!!ついでにタマズサ様に貢献出来るのよ!!…ああ殺したい…殺したい…殺したいわ!!」

 再び赤く染まった眼光を鋭く尖らせ、チュウギの首を更に強く握り締めた。









 段々、細かった道が開けてきた。

「ハッ!もうすぐです〜!」

「本当!?」

 徐々に徐々にまた広くなった。本当にこの先にあの少女がいるのかと、内心ドキドキさせながら、庵は奥へ奥へと進んだ。


 すると、急に多く光が差し込むようになった。光が多く差した原因は部屋のような作りの場所からだった。見上げると、3mはある高い天井から空いた大きめの穴から太陽の光が優しく照らしていた。奥を見ると、影になってやや分かり難かったが、どうやら祭壇が造られていた。そしてその中央には灰色の玉が鎮座している。あれが秘宝なのだろうか、そう考えていると、祭壇の横から誰かが近付いて来た。


「やっと来たのね。」

 少女の声。

 それを聞いて庵は、一歩前に出て少女に問いかけた。

「貴女こそ、どうしてここに…というか禍人としているの?」


 ばくばく跳ね上がる心臓を落ち着かせるように一呼吸置いて、また声を掛けた。


「答えて、梓!!」


「梓…?違う。私の名はタマズサ…そのマブイを継いだ模造品だ。」



「タマズサ…!?梓、何言ってるの…」

「まだ分からないのか、お前もフセのマブイを、力を継いだ私と近しい者だが、少々違う。私はタマズサを母体として…そして私はお前に復讐をする為に生まれたのだ、伏見庵!!」

 庵は、その時ハッと気付いた。禍国にはいずれ自分たちを追いやったジブノに復讐しようと、力を持った者がいた事を。

 その者こそ『タマズサ』という者であり、梓の母体となった人物だと今ハッキリ分かった。

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