第13話 監視者
山道を歩いていると、ふと正面から光が漏れ出ている事に気がついた。庵はそれに向かい、たったっと走っていった。
するとそこには、黒く光る屋根、その奥には仙人がいるかのような山々が連なる広大な景色が広がっていた。
庵は、姉が観ていた歴史ドラマでしか観たことがない世界に圧倒されていた。
「うっわあ…凄い…」
「ここは商業の栄える国、工国だ。」
「チュウギは確かこの国に来た事何度かあるんだっけ?アタシは庵ちゃんと同じ感想だよ。こっちに来てからチュウギの家周辺からあんまり出てなかったしさ。それにしてもすっごいね…」
三人はしばらくその場に立ち、景色を眺めていた。
「ほら、ずっと立ってないで下に降りるぞ。」
そうチュウギの声が掛かった。気付いた庵と信乃は、後に続いて山を降りていった。
麓に着き、ようやく街へ出ると、人々は赤や紫、黄色などの色の服を纏っていて、極彩色に彩られていた。さらに店が何軒も並び、目を様々な方向に向けたかったが、人の通りも多く、庵は二人を見失わないようにするのも精一杯だった。その時、人混みから手がすっと出てきた。見覚えのある青と黒の袖、チュウギの手だった。
「手、繋ぐか。」
「うん。ありがと!」
大通りに着き、三人は道の端で足を止めた。
「ようやく、人の流れが落ち着いた場所にこれたー。」
信乃は大きく伸びをしながらそう言った。
「うん。本当に凄い人…これが商業の国!」
庵が感心し、街を目でキョロキョロと見ていると、二人がまじまじと庵を見ている事に気がついた。
「なっ、何?二人とも。」
「庵ちゃん、郷に入っては郷に従えって知ってる?」
「うん。」
「じゃあさ、まず服買おっか。いくらマント来てても多少はその服目立つし、ここの服凄い良いよね。なら、似合う奴探さない?」
そう言われ、庵は自分の服を見た。赤いマントの下には、ニライカナイに来た時と同じ、黄緑のセーターにデニム生地のスカート、その下にスパッツという服装だった。
確かにチュウギや信乃、周囲の人々もカラフルで、デールや漢服、琉装など、アジア内部の民族衣装に良く似た服を着ていた。
それと比べると、刺繍が施されている真紅のマントの下にシンプルな服。何とも不釣り合いだ。
しばらく歩くと服屋が見えた。
「ほ、本当に良いの?」
「うんうん気にしない気にしない!だって元々アタシも死んだ時と同じ格好だったし。ちなみにここの服の事はアガリ服って言うんだ。」
そういう信乃に連れられ、中に入っていった。店の中は、様々な服が置いてあり、どれも個性豊かで目移りしてしまいそうだった。
チュウギは「俺がいるより、そういう服に関しては信乃と二人の方が選びやすいと思う」という理由で、外で待機する事になった。だがそれは建前であり、ここで何かしら禍国の情報を掴もうと、行き来する人々の噂に耳を立てる為でもあった。
街の人々を観察していると、気になる言葉が聞こえた。
「また…ですって?」
「ええ、そうなの。大犬に乗った女の子。」
「なんだか格好から禍国の者じゃないかってもっぱらの噂よ。」
「あぁ、こわいこわい。」
そんな会話をしていた女性達は、目の前を通りすぎて行った。
「大犬と女の子か…」
そう呟いた時、袖がくいっと後ろに引っ張られた。振り替えると、そこには赤を基調としたアガリ服を着た庵が立っていた。
「どっどうかな?」
庵は少し照れくさそうに言った。そう聞かれ、チュウギはどう答えて良いのか一瞬戸惑ったが、なんとか言葉を見いだし、
「良いんじゃないか。」
と答えた。




