ダズンローズデイ・リベンジ
一年後の12月12日を想定しております。
以前に犯した過ちを今度こそ……。
ハルモニアは禊ぎを終えて、暖炉の前に立った。
裸体である。
誕生日であると同時に戴冠した日でもある今日……12月12日は、いつも冷水で身を清めた後、暖炉の前で暖めてあった儀式服を着る。
何せハルモニアは火の精霊だ。
水には弱い。
暖まった服を着て、一息ついた。
今度は、俺がやる。
テーブルの上に置いてあった紅色の薔薇の花束を手に、ハルモニアは火の灯った暖炉へ入る。
火精の使う『道』、灼熱の炎の中へ。
彼が姿を消すと同時に日付が変わる鐘が鳴り響いた。
◆◆◆
ラゼリードはその頃、暖炉の前の揺り椅子で、あまり上手いとも云えない刺繍をしていた。
なんとなく眠れなかったのである。
今日は、ハルモニアの誕生日。
以前に贈った12輪の黄色の薔薇が、憎らしい。
黄色の薔薇の花言葉は『君のみぞ知る』。
だが本当は黄色の薔薇には他にも花言葉はあったのだ。
それも『別れましょう』などのマイナスの意味で。
そんなつもりじゃなかった。
ただ、愛を示したかった。
直接受け取ってもらえなかった薔薇。
今でも、悔しい。
目を閉じると思い出す、複雑そうな顔をした水精の側近の女性。
確か名は──オルレイシア。
彼女がハルモニアのお手付きになっていないか、嫉妬した。
今もしている。
勝手な話だ。
自分がハルモニアに出会った頃は、ヨルデンという男性の侍従が居た。
だからお互い様なのだけれど、心は上手く処理をしてくれない。
ふう、と溜息を吐き、刺繍糸を縛って鋏で切断し、針を置いた直後──。
暖炉から炎が炸裂した。
ラゼリードは手にしていた刺繍枠に挟まれた布が顔に張り付き、一瞬視界を奪われる。
耳に届くのは日付が変わる鐘の音。
刺繍布を顔から剥がした彼女の前に、ハルモニアが立っていた。
「モ、モニ?」
「いい夜だな、ラゼリード」
「何しに……」
来たの、と問う前に差し出された紅色の薔薇の花束。
花の数を目で追って、驚く。
12輪……。
「知ってるか? この薔薇の花言葉」
「な、なに?」
動揺しっぱなしのラゼリードに対し、ハルモニアは唇で笑ってみせる。
「『死ぬほど恋焦がれています』だ」
ラゼリードの頬に朱が差した。
「貰っていいの?」
「勿論だ、お前の為の花束だからな」
ラゼリードは潔斎後のハルモニアに触れないように、慎重に花束を受け取る。
「わたくし、貴方を愛しているかもしれないわ」
口をついて出た言葉は甘く、ハルモニアを酔わせた。
彼の頬にも朱が上る。
「今日は、お預けだ」
「何が?」
「口付け」
ラゼリードの顔全体が暖炉の炎の所為ではなく赤くなる。
「もう、貴方ってひとは……」
「だから、今日はもう帰る。次に会った時には接吻してくれ」
「人前では嫌よ!」
12月の12日。
想いを寄せる相手に、12輪の薔薇を。
汚名返上これにて完了。
END




