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【ハルモニア誕生日記念】ダズンローズディ  作者: 薄氷恋


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1/2

ダズンローズデイ

 12輪の薔薇を12が2つ付く日に。



 亜熱帯の国、ルクラァンでも冬は寒い。

 北のカテュリアの様に何もかもが雪に埋もれ、一面の銀世界になる程ではないが、たまには雪も降る。


 そんな雪の日の真夜中に浴室で水を浴びる男が居た。


 彼の名はハルモニア・ラ・ルクラァン。

 言わずと知れたルクラァンの現国王だ。


 彼は火の属性を身に持つ。

 水など大敵だ。

 だが、浴びねばならない理由があった。


 潔斎。


 誕生日を迎える王は禊ぎを行う。

 昔は何日も掛かって歳の数だけ水を浴び、俗世の汚れを落としたという。

 何代も受け継がれて来た長い日数の掛かる潔斎だったが、それを画期的なまでに短くした王が居た。


 彼の王の名はエルダナ。

 ルクラァンの先代国王でハルモニアの父だ。

 彼はこちらの意味でも革命を起こし、即位した直後から潔斎の日程を短くしたという。

 彼曰く『先王は何もかも無駄が多すぎた。国王の潔斎などに何人もの神官の手を何日も煩わせるのは無駄な事だ。潔斎は私が自ら簡略化して行う』との事だ。

 実際にはもっともっと長く屁理屈をこねにこねまくっていたらしいが、記録には残っていない。


 エルダナが簡略化した潔斎に一番喜んでいるのはハルモニアだ。

 12月という寒い季節に歳の数だけ水を被っていたら誕生日を迎える前に死んでしまう。いや、大袈裟ではなく。


 簡略化された禊ぎは年齢の百の桁の数字と十の桁の数字と、一の桁の数字を足した数だけ水を被る。


 ハルモニアは「ハアッ」と白い息を吐きながら最後の一杯を頭から被る。

 身体を拭いて、髪から水滴が落ちるのに任せたまま彼は彼専用の居間へと向かった。


 扉を開けると、赤く揺らめく暖炉の前に予期せぬ人影。

 白狼のラグの上、膝を崩して座る女性の姿。

 咄嗟に下半身を隠すと同時に『彼女』が振り向く。

 暗い部屋の中でも判る程、紅い左目。

 遅れて見えるは菫色の右目。

 白い肌は暖炉の炎に照らされて赤く紅潮して見えた。

 彼女はハルモニアの姿を認めると、キャッと小さく悲鳴を上げて身体の向きを変えた。


「……来ていたのか、ラゼリード。見苦しい姿を見せたな」


「ええ。潔斎中だと分かっていたけれど、まさか裸で出て来るなんて思わなくて……」


「服」


「え?」


「お前が座っている側にある『それ』が今から着る儀式服だ」


 ラゼリードはチラリと側にある籠を見るとそれをハルモニアの方に押し出し、持ってきたらしい何かを抱えて更に身を引いた。


「服を着て構わないか?」


「裸のままで居られる方が困るわ」


 お互いに背中合わせのまま口を噤んでいる為、部屋には暖炉の中で爆ぜる薪の音しかしなかった。

 ハルモニアは背後に気を遣いながら着衣を整える。


「待たせたな」


 ハルモニアが声を掛けると、ラゼリードはようやく全身でこちらを向いた。


「いいえ、いきなり来た私が悪いのよ。でも一番最初に貴方の誕生日をお祝いしたかったの」


 彼女の言葉が終わるや否や、神殿の鐘が鳴り響き、日付が変わった事を知らせる。

 立ち上がったラゼリードはいつもと打って変わって笑顔でハルモニアに花束を差し出す。


 12輪の黄色い薔薇の花束。


「お誕生日おめでとう」


「有難う」


 そうは言ったものの、ハルモニアは受け取るそぶりを見せない。

 訝しげにラゼリードが首を傾げる。


「潔斎後から儀式が終わるまでは人に触れてはいけないんだ」


 ハルモニアは申し訳なさそうに言葉を紡ぎ、卓の上のベルをリン、と鳴らした。


「失礼します」


 直ぐに隣の間から黒に近い青髪の少女がやってくる。


「オルレイシア、カテュリアのラゼリード女王陛下からの贈り物だ。お受け取りしろ。丁重に扱え」


「はい」


 オルレイシアが手を差し出すと、ラゼリードが冷たい視線を彼女に向けながら花束を手渡した。


「ハルモニア陛下、儀式のお時間で御座います」


 花束を受け取った腹心の少女が残酷に時を告げる。

 ハルモニアがラゼリードに向き直る。


「すまない、ラゼリード。もう行かなければ」


「……ええ。では帰るわ。さよなら」


 ツンと踵を返した彼女は、窓を微かに開けるとフッと姿を消した。

 風の『道』に入ったのだろう。

 ハルモニアは窓を丁重に締め、窓の外を一瞥したのちにオルレイシアを伴って部屋を後にした。

 オルレイシアが花束を複雑そうな表情で見やるのに気付かないまま──


◆◆◆


 数日後──


 息抜きと称してハルモニアがシャロアンスの元を訪れた。

 いつもの様にざくろが淹れた茶を啜りながら世間話をするかのようにハルモニアはシャロアンスに訊ねる。


「黄色の薔薇の花言葉はなんだ?」


「なんですか、急に」


 向かいのソファーで同じく茶を飲んでいたシャロアンスが眉を顰める。


「いや、誕生日に花束を貰ったんだが……何故黄色なのか解らなくてな」


 シャロアンスの青い瞳が剣呑に光った。


「誰に貰ったんです?」


「ラゼリード」


「……何本?」


「12本」


「馬鹿かっ!!」


 ハルモニアが答えた瞬間、シャロアンスがテーブルをダンっと叩いた。


「12月の12日は愛を込めて12本の薔薇を送る日!! そして、黄色の薔薇の花言葉の一つは『君のみぞ知る』だよ!!」


「え……」


 立て板に水とまくし立てられてハルモニアは目を白黒させる。

 対するシャロアンスはいつになく熱い表情をしていた。


「つまり、その花束は姫様からの愛の告白だったんだ!!」


「なんだと!?」


「それで、受け取ったの? 陛下」


 ざくろがシャロアンスの隣にちょこんと座ってお茶を啜っている。


「いや、潔斎だったから受け取ったのはオルレイシア……俺の侍従だ」


 シャロアンスが低い声で呪うように呟く。


「最ッ低……」


「……いけなかったのか?」


「駄目に決まってるだろ!? 姫様に謝って来い!!」


 シアリー邸を追い出されたハルモニアは火の道に入り、遠い遠いカテュリアまでの道のりを急ぐ。




「ラゼリード!!」


 相変わらず暖炉から出てきたハルモニアに対して、ラゼリードは冷ややかな瞳でこう告げた。


「何の用なの? このっ! 女の敵!」


 ハルモニアは平謝りしたが、ラゼリードの怒りは数年、数十年経過しても解ける事は無かったという……。


めでたし、めでたし。


End

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