03 獄死したことになってる
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「こんにちは~商業ギルドからの紹介で来ました。商品の買い取りのご相談なんですけど、ご担当の方はいらっしゃいますか?」
店舗玄関で使用人に声をかければ奥から上役が出てきた。
「はいはい、何の騒ぎでー-ああ、貴族様ですか、失礼しました、こちらへどうぞ」
最初にどこの馬の骨が押し売りに来たのか、追い返してやるみたいな顔をして店頭にでてきた上役らしき使用人は態度をコロッとかえて私たちを店の奥、応接・商談室に案内してくれた。
私たちは見ようによっては上位貴族の平服に見える装いで来ている。商人と商談するなら見た目が大事だと外見を整えたのだ。
しかも私は滅多に見ないような美少女令嬢に見えると思う。アリスはその保護者に見えるだろう。ま、すぐに平民だってバラすけどね、嘘は吐きたくないから。
商談には支店長さんが出てきてくれた。お互いに自己紹介してから商談を開始する。上役らしき使用人は支店長ということだった。
「実は、私たち兄妹は何処とは言えませんけど外国の者なんですけどその伝手で少々珍しいものを販売することが出来るんですよ。これなんですけどね」
私の言葉に合わせてアリスがリュックから商品サンプルを取り出してテーブルに並べていく。
白い陶器製のコップは真っ白で透き通る様に輝く滑らかな一品。まるで表面がガラスで覆われているよう。
ガラスのコップは信じられないほどの透明度と輝きを持ち僅かの歪みも無い。アリスはこのガラスを「クリスタルガラス」って呼んでるのでその名前を採用する。
「このガラスコップはクリスタルガラスと我々の国では呼ばれています。素晴らしい透明感でしょう? 」
商談に応対してくれた支店長さんは陶器製のコップとクリスタルガラスのコップと手に取って詳しく観察する。
「……オリビア様、これは素晴らしいガラスコップですね、クリスタルガラスですか。この品物をどの程度ご用意できるのでしょうか?」
「そうですね、月に10客ってところでしょうか?」
「なるほど、見たこともない商品なのでどのくらいの値付けが良いのか正直分からないですね。一カ月ほど預からせていただいて、幾らで売れそうなのか調査させてもらっても? これらサンプルを預かる保障金として銀貨一枚をお渡ししますので」
銀貨一枚あれば街の宿に10泊くらいできる。保証金としては十分だし、アリスは売値にもサンプルにもほとんどこだわりを持っていない。アリスの能力でいくらでも作り出すことが出来るからね。
「それでいいですよ。ではサンプルは全種類、4つづつ預けていきます。保証金は銀貨一枚で良いです。売れることが分かったらあとで清算していただければ。信用で来る商人さんにめぐり合えて良かったです。ありがとうございます」
「こちらこそ、このような珍しい品物を紹介していただきありがとうございます。お茶とお茶菓子が出てきますのでゆっくりされてください」
商人さんとお茶を飲みながら雑談する。ここ三カ月の王都や貴族界隈の情報を仕入れるチャンスなので丁度いい。
私が地下牢から脱獄したのは大きな事件にはなっていないみたい。商人さんは第一王子の婚約破棄と義妹との婚約しなおしは詳しく知っていた。
「ところでオリビア様。オリビア様は外国のご出身でこの国には無いこのような品物を販売する伝手をおもちということで、お伺いしたいことがあります」
「はい。どんなことでしょうか?」
「実はご承知かもしれませんがこの領は王族の直轄領となっていまして現国王陛下の弟君であらせられる大公爵様の領地なので大公爵様の身内の方々とは少々お付き合いもあるのです」
私は黙って頷く。それは知ってた。大公爵の王弟殿下は質の悪い難病で、私も頻繁に「治癒」をかけに行かされていた。私の失ってしまった寿命20年分以上はこの大公爵様の延命のために費やしたんじゃないかな。月に何回かは王都からこの王弟殿下直轄領都に通っていた。
このことを考えると今更ながら腹が立ってくる。私を良いように使いつぶした王弟殿下と第一王子殿下。知らず知らず、不機嫌な顔をしていたんだろう、商人さんがいぶかしげな顔をしたので取り繕ってニッコリしておく。
「なるほど、さすがエスコフィエ商会ですね。大公爵様の身内の方々とお付き合いがあるなんて王国でも三本の指に入る大商会だけあります」
私のヨイショに気をよくした支店長さんはお話を続ける。
「それで、王弟殿下のご容態が悪いのです。様々な名医、名薬を取り寄せても悪くなる一方でわらをもすがる思いで私どもエスコフィエ商会にも常々お声がけされてなにか良い治療法、薬が無いかお尋ねになるのです」
「あれえ? クロッカス伯爵家のガーベラ・クロッカス嬢が『治癒』で回復させられるのでは?」
「ははあ。よくご存じですね。ガーベラ様は当初第一王子殿下の治療に専念するとのお考えだったようですが国王陛下の王命によって大公爵様の治療もすることになったようですよ。
しかし、罪人となった姉であるオリビア・クロッカス嬢よりも治癒の力がかなり弱いらしくて大公爵様、第一王子殿下どちらもその容態を悪くさせているようです。お気の毒に。
頼みの綱のオリビア嬢は王宮の地下牢で裁判を受けることもなく亡くなってしまったとのこと。これには平民はみんな王家の冷血ぶりに驚いていますよ。治療してくれた恩人である令嬢を獄死させたわけですから。妹に嫌がらせをしていたらしいけど死なせることはないだろうって話ですよ」
図らずも脱獄した私が獄死したことになっていること、それに対する市井での評価を知ることが出来た。でも、もうあんまり感情は動かないね。どうでも良いって感じ?
「はあ、そうなんですね。ま、因果応報というか、自業自得かもしれませんね! あいにく私の国にも病を治すような万能薬も治癒師の心当たりもありませんから残念ですけどお力にはなれないですね……」
私の王族に対する不敬ととられかねない発言も支店長さんはスルーした。支店長さんも冷血な王族の自業自得だと思ってるのかもね。あはは、ザマーミロ。
雑談を切り上げて商店から出てきた私たちはお昼ご飯でも食べようかなと領都の大通りをぶらついていると。
「オリビア! オリビアじゃないの?」
私の後ろから大声で声をかける人がいる。この声にはものすごーく心当たりがある。
うんざりした気持ちでゆっくりと後ろを振り向くとそこに居るのはクロッカス伯爵夫人。オリビア・クロッカスの継母であり異母妹ガーベラ・クロッカスの母親であるカメリア・クロッカスだった。
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