01 無実の罪で地下牢に
全四話です。気軽に読んでいただければ幸いです。
婚約破棄されて断罪された令嬢
しかし令嬢に光の精霊が宿る
大丈夫 心配ないよ
僕があなたの味方になってあげる
精霊は信じられない奇跡を起こすことが出来るうえに令嬢にも特別の力 加護を与えた
優しい令嬢は信じられない奇跡の力を復讐のためには使わない
皆が幸せになるために使うのであった
♢♢♢♢
オリビアはクロッカス伯爵家の長女。オリビアの家族は、クロッカス伯爵家当主の父、後妻の継母、継母の連れ子で同じ年齢の異母妹の4人家族だったのだが、継母と異母妹はオリビアを苛め抜いていた。
継母は公爵家の次女で性悪の出戻り。オリビアの母が亡くなったあとに公爵家の権力をちらつかせて後妻として押し掛けてきた。
父のクロッカス伯爵は悪者ではないけど考えが足りず、優柔不断。強いものに巻かれる小者だった。
オリビアは癒しの魔法を使える素質があって第一王子の婚約者となっていた。
第一王子は持病があって病弱だった。現代の日本では心臓移植しないと完治しないような胸の病であった王子は頻繁に発作を起こして危篤状態に陥った。
癒しの魔法使いは希少である。国でも100人もいない。しかもそのほとんどは教会に抱え込まれている。王家はオリビアを第一王子の婚約者にすることで王家お抱え、自由に使いつぶせる癒しの魔法使いとして確保しようとしていた。
癒しの魔法は自分の命を削る魔法。オリビアは10歳の時に癒しの力を神殿の判定で見出されて婚約した12歳の時から第一王子、そして王族たちに癒しの魔法をかけ続けて命をすり減らし続けた。
そして17歳の成人を迎えた時には寿命が残り僅かだと自覚できてしまっていた。
ところが。実は同じ年齢の異母妹も癒しの力を持っていた。しかし癒しの力を持つことが分かれば使いつぶされる可能性があることを分かっていた継母はそれを公表せずに隠した。継母は公爵家の2女だったからそんな我儘をとおせるくらいの権力者だった。
継母にとって前妻の娘であるオリビアは邪魔者でしかなかった。
継母はオリビアを王家に「第一王子の婚約者」として差し出して使いつぶしつつ、恩を売り、オリビアに利用価値がなくなったら異母妹を代わりに婚約者に押し込もうと考えていた。
第一王子、オリビアがともに通っている王立学園のパーティー。学園を卒業する直前の謝恩会の意味もあるパーティーの席で第一王子はオリビアに婚約破棄を告げる。
今まで王家の都合で使いつぶしてきたオリビアに対して学園の卒業パーティーの場で婚約破棄など、なぜ?
オリビアにはもう寿命が僅かにしか残されておらず用済だけどオリビアには何の落ち度も無いため婚約解消の大義名分がない。
癒しの能力を使いつぶした挙句の婚約解消だと王家に非難が向きかねない。そのためオリビアが悪辣な虐めを義妹に繰り返している性悪の令嬢であるとでっち上げるのである。
伯爵家はオリビアを助けない。継母、異母妹、そして継母の言いなりで優柔不断な伯爵家当主である父の計画通りだから。
このパーティーは卒業後に学生が主催して学園教師や来賓のみを招待して行われる内輪の催しで父兄は参加していない。
第一王子、その取り巻きを止める者はいない。王家は事前に了承済み。筋書き通りの茶番劇であった。しかしオリビアにとっては青天の霹靂
♢
「後妻の子である妹を理不尽にも苛め抜く毒婦め! そのような非道を平気で行える者を我が婚約者とし続けるわけにはいかない!
たったいま、エランティス王国、第一王子の名において、クロッカス伯爵家長女オリビア・クロッカスとの婚約を破棄すること、同時にクロッカス伯爵家次女ガーベラ・クロッカス嬢と婚約することを宣言する!」
婚約破棄を宣言する第一王子の腕にしがみつきながらニヤニヤと私を見下している異母妹ガーベラ。王子とガーベラの両脇には取り巻きの宰相令息、騎士団長令息、魔法師団長令息その他取り巻き令息たちが囲んでいる。
「第一王子殿下……なぜ?」
「オリビア・クロッカス、君のしでかした妹ガーベラ嬢に対する非道の数々、申し開きはできないぞ! 憲兵! この毒婦を直ちに拘束せよ!」
私はあまりのことに頭が真っ白になった。
オリビアは控えめで優しい令嬢だ。容姿も十分に優れていて亡くなった母親が生きていて健在であればこんなひどい扱いにはなっていなかっただろう。
12歳の時に婚約して以来、週に一回は第一王子の治療を行ってきた。最初の内は第一王子はオリビアのことを素直に慕ってくれていてオリビアは幸せだった。でも14歳の時に母親が突然倒れて亡くなって半年もしないうちに継母が義妹とともに伯爵家へやってきてからは変わってしまった。
私は屋敷の隅の方の使用人部屋に押し込まれた。
宝飾品やドレスなど価値あるものは妹に奪われていった。
粗末な食事を自室で取らされた。
でも第一王子は優しかったから治療のためとはいえ王子と会うことはオリビアの心の支えだった。なのに次第に王子はオリビアを疎ましそうに冷たく当たるようになった。
王子から一方的に婚約破棄されて呆然と立ち尽くす私は、いつの間にかパーティー会場に入ってきた憲兵たちに連行されて王城の地下牢に入れられてしまった。
地下牢で一夜明かして朝食の薄い野菜スープと硬いパンを食べ終わって。
お昼になって朝食と同じような昼食が配膳されて食べ終わったけど誰も尋問にも、面会にもやってこない。
おかしい。そういえば、パーティー会場で第一王子に婚約破棄を告げられて妹のガーベラを虐めていたと告発されてすぐに憲兵に拘束された。すべては流れるように、計画どおりだったようにここ、王宮の地下牢に連れてこられた。
そっか。全ては予定通り。第一王子殿下、国王陛下はじめ王族の方の都合のいいように私は断罪されて、伯爵家長女で第一王子の婚約者なのに罪人にされた。
第一王子や王族の人たちにとっては私は用済み。伯爵家にとっても邪魔者ってことか。なんとなくそんな感じはしていた。
でも改めてこんな現実に直面すると、寂しさと恐れと悲しみに押しつぶされてしまう。
わたしが何をしたっていうのよ……言われたとおりに治療し続けたのに。ひどいよ。命を削って王族の治療をしてきたのに。
私は自分自身にごく弱い治癒を掛けてみる。これによって自分の命がどれほどすり減っているのかを自覚することが出来る。やはりあと5年ほどしか残っていないみたい。
私は両親にいわれるまま治療を行っていた。治癒をすることによって自分の命が減っていく。治癒が命を対価にする行為だと気が着いたのはつい最近。治癒がそういうものだとは両親や第一王子は知っていたのに教えてくれなかった。
地下牢の粗末なベッドに腰かけて今までに伯爵家や王宮で自分に向けられてきた悪意や虐めの数々をジッと思い返していると視界の上の方に柔らかな光を感じた。
私は顔を地下牢の天井に向ける。そこには拳ほどの大きさの、柔らかな光を発する光の塊が空中に浮いていた。
「これはー-?」
光の塊はゆっくりと降下してきて私の目の高さまでくるとピタリと静止した。
「オリビア大丈夫? あの第一王子、婚約破棄しただけじゃなくて無実の罪をきせて地下牢に閉じ込めるなんて悪い奴。でも安心して? 僕はオリビアの味方だよ、助けてあげる」
光の塊が喋った! 私は悲しみとショックのあまり気でも狂ったんだろうか?
「オリビアの気はくるってないよ。僕がこうしてオリビアに会いに来たのは間違いなく現実だよ」
「そうなの……あなたは、何なの?」
「僕は、せいれい。そう、光の精霊なのさ。こう見えてもかなり強い精霊だよ。この世界のだいたいの存在には負けないと思うよ!」
「そうなんだ。魔物とか、強い兵士、例えば騎士団の騎士よりも強いの?」
「ははは。当然だよ。ちなみに魔物ってどんなのが居る?竜とか?」
「竜は、どうだろう。見たことないからわかんないけど、いるらしいよ」
「ふーん。たぶん竜には勝てるよ。この世界にいるかわかんないけど悪魔にもね。よっぽど強い奴だったらわかんないけど。
それより僕は昨日、たまたま学園のパーティーを見ていたんだけどさ。みんなが居る前で婚約破棄なんてあの連中、あんまりだと思ったんだ。
オリビアは何にも悪くないのに。だから僕がオリビアを助けてあげようとおもったんだよ。オリビアはいい子だし、気に入ったからね」
私は意外過ぎる展開に驚きつつ、目の前に浮かぶ光の塊が私の味方をしてくれて、しかも強い(自称)ということが分かってなんとなく力が湧いてきた。
「ありがとう精霊さん。でも私は地下牢に閉じ込められて、これからどんな罪に問われるか分からない罪人なのだけど。助けてくれるのは嬉しいけど、どうやって助けてくれるの?」
「そうだね。助けるといっても、オリビアの身の上を考えると、簡単じゃあないのか。
あの伯爵家で平穏に、幸せに暮らすって言っても家族があれじゃね。あ、ごめんね、昨日オリビアが寝ている間に記憶を見ちゃったんだ。だから伯爵家の様子とか、王宮での様子もいちおう把握しました。
オリビア、頑張ったね」
私は光の精霊さんに優しい言葉をかけられて泣き出してしまった。
……その後、精霊さんには慰めてもらったり元気づけてもらったりしてなんとかお話を続けられるようになった。思いっきり泣いたらちょっとすっきりしたみたい。精霊さんが側にいて味方してくれると思ったら凄く安心できた。ありがとう精霊さん。
読んでいただきありがとうございます
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