第一部 第七章 違法ばかり
雄二は、あっという間に十匹ほどヤマメを取るとワタを抜いて串差しを始めた。
「火を起こしておいてくれよ」
雄二が手際よく振り塩をやりながら、俺に頼む。
ガッチン漁法は根こそぎ漁法なんで、来年までここはアカンな。
だからこそ、殆どの河川で禁止されている。
川の中の岩に岩をぶつけたり巨大なハンマーで叩いて、魚を気絶させて捕える訳だ。
せっかくの秘密の場所が、夏の初めで終わってしまったとぶつぶつと愚痴りながら木を集める。
そして硬そうな単色でつるつるした感じの石を集めて簡単な竈を作った。
空気が入ってると焚火の熱で石が炸裂して石の破片が飛んで来ることになるから、その辺は慎重に選ぶ。
普通は焚火台を使うんだろうが、今回はここでやるつもりだったんで持ってこなかった。
祖父の山だし勝手が分かるからだ。
布製のガムテープを取り出して30センチほどちぎると綺麗に折りたたんでいく。
それを下に置いて細い木を準備した。
「何それ」
「着火剤」
「へぇぇぇぇ」
実は布のガムテは小さく織り込むと十分近く燃えるのだ。
俺がターボライターを出した。
「いや、そこは火打石じゃね? マグネシウム棒でさぁ」
不満げに雄二が愚痴る。
「いや、持ってきてるけど、もう日が落ちるし」
俺が太陽を指差した。
すでに、あたりは暗くなりだしている。
「時間が無いからね」
言いながら、ガムテに火をつけて、細い木から格子状において焚火を作る。
木は少しずつ太いものを増やしていく。
「おお、これなら、魚も焼けるな」
雄二が満足そうだ。
「それよりも、由宇の帰りが遅い。まさか、あっちに入って無いよな」
俺が心配そうに聞いた。
「いや、それは無いだろ。興味は凄くあるが、さっきの三柱鳥居の話を聞いて、俺もあのあたりを良く見たら確かにあそこから気配が違う。流石に、あれはヤバいんじゃ無いか? 」
雄二が珍しく真顔だ。
それなら良いんだけど。
「大丈夫、入って無いよ」
由宇が川下から声をかけて来た。
何だか知らんがキジバトを数羽捕えている。
良く見たら腰にスリングショットを差している。
「おい。良いのかそれ? 犯罪やんけ」
「いや、何か死んでたの。石でも当たったのかな? 」
そう由宇が笑顔で笑う。
ガッチン漁法も違法だし、狩猟も10月からだろうに……。
まだ、禁猟期だぞ。
犯罪者ばかりでやばい。
「まあまあ、死んでたから、食べてあげようよ」
由宇が笑った。
まあ、俺も人の事言えないが、こういう所が、昔から俺達がぼっちな理由かもしれない。
でも、これらの行動が俺達にとって致命的な出来事になるのは、まだ気が付かなかった。
これがあの世界へ行くきっかけになったのだ。