第一部 第五章 三柱鳥居
正直、全員山を登るスピードが速い。
俺は昔から神事だので山に入らされてるし、雄二は鍛錬で鍛えられている。
そして、由宇は祖父の猟について行っているからこその、このスピードだ。
最初の山は簡単な山道があるが、次の山に入ったら、次々と鉈で獣道を見つけて山に入り込んでいく。
普通は虫だの何だので悲鳴を上げるだろうに、それも全く無い。
最初の山はともかく、次の山はすでに鳥居とか異様なものがあってビビるはずなのだが、目が逆に輝いて来ている。
まずい。
この山の次があの入らずの山なのだ。
所々で、雄二と由宇がアイコンタクトを取る。
奥まで行く気だ。
ふさげんな。
マジで激ヤバなんだよ。
「こっちに小川があるから」
俺が強引に軌道修正する。
「「え? 」」
二人とも目が泳いでる。
「いや、だから、入らずの山は駄目だから。マジで命がけになるから勘弁して」
俺が必死だ。
「分かった」
などと二人は頷くが絶対に分かってない。
やべぇな。
夜とか寝ないで様子見ないと駄目かもしんない。
何で、傷心を癒そうとして、さらにしんどい思いをしないといけないのか理解できない。
とにかく、強引に二人を河原に連れて行った。
「わぁぁぁぁぁ、綺麗だ」
由宇の顔が綻んだ。
小川ではあるけど、淀みなく水が流れており、ここだけは泳ぐ気になれば泳げるくらいの流量があった。
勿論、水は綺麗だ。
「へー。凄い穴場じゃん」
雄二も喜んだ。
「本当だったら、ここで一人でソロキャンプだったのに」
俺が愚痴る。
「おや、こんなとこまで、鳥居がある」
雄二が山の方を指差した。
河原から三十メートル上に行ったあたりに、鳥居がある。
「さっきまでの普通の鳥居と違うね」
由宇が笑った。
「え? 」
俺の顔つきが変わる。
こんな所に鳥居は無かったはずだ。
「しかも、三柱鳥居だ」
俺が凄い顔で答えた。
「変わった鳥居だが、何かあるのか? 」
「入らずの境界にある鳥居なんだ。伝承では勝手に立つと言われてる」
俺が真顔で答えた。
「勝手に立つ? 」
「ああ二階堂家の伝承では、勝手にいつの間にか入っては駄目って事で出来ていると言われてる」
「真新しいよね」
「ああ、最近、出来たばかりに見えるな。どういうことだ? 」
俺が凄く不安になって来た。
「一旦、帰った方が良いのかな? 」
と思ったが、すでに日が傾いて来ている。
「さっきの山を夜降りるのは危険じゃない? 」
由宇が心配そうに言うけど、目は輝いてる。
「仕方ないよな」
雄二も目が輝いてる。
やべぇな、これ。
こいつら関わる気満々だ。
まずいかもしんない。