第一部 第四章 山入り
という訳で山についた。
車を走らせながら、しれっと何度かスーパーの駐車場に入ったが、その度に怒られて仕方なく、寄らなかった。
山のふもとにある広場に車を止める。
「へー、これが噂の二階堂家の山か」
雄二が三百メートルくらいの山を見て喜んでる。
「この辺りはまだ良いけど、その奥の山に入ると帰ってこない人が多いから、看板建ててるんだね」
由宇が立ち入り禁止の看板を見て笑った。
「すげぇな。行方不明者が大量とかいろいろ書いてあんな」
雄二が看板の文字を読んで感心している。
「いや、実際、本当だから」
実に十年くらい前までは山菜取りで遠くから来た人が何人も消えて問題になったくらいの山だ。
二階堂家が日本屈指の名家で金持ちなんで、あまり報道にはなって無いだけだったりする。
実際に、山道の入り口あたりにある村の交番があって、入ったら駄目と注意されるくらいだ。
俺は顔パスだけど。
「ここ、昔は金とか出たんだろ」
「と言う事になってんだけど、金とか採れる鉱脈じゃ無いんだよね」
俺が雄二に答えた。
「噂の二階堂家の七不思議の一つだよね」
由宇が悪戯っぽく笑った。
「何か、そういう風に言う奴もいるみたいだね」
俺が苦笑した。
二階堂家が日本の名家なだけではなく、陰のフィクサーとか呼ばれてるのもあって、いろいろな噂話が飛び交っている。
まあ、大体は与太話だけど。
「恐ろしや。一番有名なのが、二階堂家の長男はヤバいのが多いって奴だな」
雄二が笑った。
「いや、マジで、それ迷惑なんだけど」
真顔で俺が答える。
「いや、先生によるとお前の親父さんもお爺さんもヤバかったって言ってたからな。ひいお爺さんなんか戦史に残ってないだけで、船坂弘とタメを張るくらい凄かったって言ってたぞ」
「船坂弘? 」
「日本陸軍最強の兵士だった人だよ」
由宇の疑問に俺が答える。
実は、それは聞いたことある。
不死身の二階堂とか呼ばれてたらしい。
やだやだ。
それのせいで俺のぼっち生活は続いてるわけだ。
「とりあえず、暗くなる前に入るぞ。それと、絶対奥の山には入るなって爺さんに言われてるから」
俺が二人に厳命した。
「うん」
「分かってる」
雄二と由宇の目が輝いている。
絶対分かってない。
やはり、気を付けた方が良いな。
絶対に、こいつらは入りそうだ。
それだけは止めないと。
一人で傷心のソロキャンプはかくして、地獄のサバイバルになるのであった。