第一部 第二章 入らずの山
「俺も一緒に行かせてくれよ」
まさか、雄二がそう言うとは思わなかった。
「私も一緒に行こうかな」
由宇も同意する。
「え? ソロだよ。ソロキャンプ」
俺が必死に反論した。
静かに傷心の俺が一人で自然を見て焚火をして癒されるつもりだったのに……。
「いいじゃん。三人で行こうよ」
「そーそー、ソロキャンプじゃ無くてゆるキャンでいいじゃん」
雄二と由宇が凄い乗り気になっている。
「ええええ? 」
「大体、夏なんてどこのキャンプ場も一杯だろ。ソロキャンプ連中は夏休みはオフシーズンだって言うじゃん」
雄二が笑った。
「いやいや、だから、地元に祖父の山がいくつかあるからさ」
そんな事は分かってる。
だから、祖父の山で静かにひっそりとするつもりだったのだ。
「え? まさか、二階堂家が守ってる入らずの山? 」
由宇が目を輝かせた。
「は? 」
俺が唖然とした。
「マジかっ! 」
雄二の顔がノリノリになった。
「いやいや、まさか。入らずの山は清い人間しか入れないし、キャンプなんかやったら爺ちゃんに殺されるじゃん。その前の山だよ」
祖父の二階堂家は地元の大資産家で、山をいくつも持っており、山の一つは山岳信仰か何かの影響の聖なる山として入らずの山とされているのがあった。
そこには絶対入めるなって言う代々の厳命があり、山の入り口に神社があり、そこでの祭事ですら川で身を清めまくって行う。
その山に入るなんて考えもしてなかった。
「とりあえず、俺達は清いじゃん」
言いながら雄二が俯いた。
「そうだよね」
由宇も目を泳がせて俯いた。
「いやいや、言っててダメージが来る話しをしないで……」
山の神事は童女か童子がやって、ちなみに俺も何回かやった事がある。
神隠しの山とも言われて、恐れられている山で、ぶっちゃけ、童貞か処女でないと死ぬとすら言い伝えがあった。
ただ、童子で無くなったのに、未だに童貞と言う。
せつない。
「だから、大丈夫じゃ無いか? 」
雄二が目を輝かせて俺を見た。
「そうだよね」
由宇まで目を輝かせている。
「駄目だよ。あそこは勝手に入った修験者さんが入ったまま消えたりって何度もあったんだから、その前の前の山ですんの。綺麗な小川もあるし、ちょっとした河原もあるし、結構きれいなんだぞ」
俺が二人の希望を拒否して答えた。
「よし、分かった。じゃあ、皆でソロキャンプじゃ無くてゆるゆるキャンプと言う事で」
雄二がすでに行くつもり満々である。
「そうね。傷心旅行ならぬ、傷心キャンプね」
由宇も勝手に参加を決めた。
勘弁してほしい。
俺のソロキャンプはどこに行ったんだよ。
「とりあえず、じゃあ、コンロとか使わずに焚火で飯を作ろう」
雄二がノリノリだ。
「じゃあ、私は何か捕まえるね」
由宇もノリノリだ。
「いやいや、それキャンプじゃ無いから。それサバイバルだから」
俺が必死に抵抗した。
何考えてんだか、訳が分かんない。
「いやいや、せっかくだから、ハードに行こうよ」
「大丈夫だよ、鳥なんかすぐ捕まえれるよ」
二人がノリノリだ。
鳥とか良いのかよ。
犯罪じゃん。
二人に圧されて、結局、キャンプはサバイバルに変わった。
自然の癒しはどこに行ったんだ?