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ありのままの妹より  作者: ぽんすけ
第一章 ありのままの妹
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8話 今ここにいられる理由

 海斗に依頼した日の放課後、俺は手早く掃除を終え、校門近くで待っていた乃愛のもとに向かった。


「悪い。待たせたな」


「問題ないぞ。穢れの浄化は済んだようであるな」


 教室の掃除を穢れの浄化って……そんな崇高な行いじゃないぞ?


 いつもは乃愛と一緒に帰ることはないが、今日はこれから乃愛とともに向かう所があるため、こうして乃愛が待っていてくれたのだ。


「それじゃ、行くか」


「うむ。饗宴の場が我らの到着を待ち望んでいるぞ!」


 饗宴か……まあパーティーのようなものではあるな。


 そうして、乃愛とともに饗宴の場に向かうのだった。



 到着先は、饗宴の場ではなく焼肉屋だ。外までいい匂いがしてきてたまらない。


 俺と乃愛は期待を胸に店内に入り、店員さんに奥の席へと案内される。案内された席には、すでに叶と海斗が待っていた――おいしそうな肉を食べながら。


「んっ……遅いぞー、二人とも」


 肉を食べながら、海斗が言う。こら、食べながら喋るんじゃない。


「掃除があるからって言っただろ。てか、もう始めてるのかよ」


 俺がせっせと教室の穢れを浄化している時に!? 


「お肉のいい匂いがしてきたら我慢できなくなったのよ」


 そう言う叶は俺の方を見ずに、七輪の上の肉をじっと見ている。そうだよね。せっかくの肉が焦げたら勿体ないもんね。


 この焼肉の場は、まさかの海斗への依頼報酬だった。何でも、一緒に焼肉を食べてほしいとのこと。それは全然問題ないのだが、


「本当に、お金は払わなくていいのか?」


 なんと、一緒に食べるだけでよく、お金は全部自分が持つと海斗は言ったのだ。本来こっちが報酬を出す立場なのに。


「別にこんくらいいいよ。お金よりも一人で焼肉屋に入る方が俺にはハードル高かったからなー」


「こいつが払うって言っているから遠慮しなくていいのよ」


「佐々木はもう少し遠慮しろよー。ま、別に食べ放題だからいいけどさー」


 まあ、海斗がそう言うのだから、ここは遠慮なくごちそうになろう。俺と乃愛も座り、適当に飲み物を頼む。焼肉屋に来たのは久しぶりだったから、匂いを嗅ぐだけでテンションが上がってくるものだ。見れば、乃愛も目の前の肉にそわそわしている。


 今度はハンバーグではなく、焼肉で喜ぶ魔王だ。相変わらず可愛い。


「こっちで会うのは久しぶりだね、乃愛ちゃん。元気だった?」


 海斗が乃愛を見て言った。


 この二人も面識はある。ほとんどネットでだが。


「うむ。我は変わらず調子がよいぞ。(ぬし)も久しぶりに下界へと姿を現したのだな」


「たまにはこっちにも顔を出さないとだからねー。これでも一応学生だから」


 海斗は引きこもり気質のため、乃愛の言う下界(外)にあまり出てこない。乃愛も基本は家の中にいることが好きなため、ネットで海斗とはよく遊んでいるらしい。そのため、二人の仲は良かった。


「乃愛ちゃんはまだ学校に行ってるからいいわよ。だけど、あなたはもっと外に出なさい」


 二人の会話に割り込み、叶が呆れ気味に海斗を指さした。


「外に出るのめんどいんだよなー。仕事は基本家の中でするし。……それに外は眩しすぎるんだよ」


 そこで海斗はチラッと乃愛を見た。すると、最後の言葉に反応した乃愛が、


「そうなのだ! 下界は光が強すぎるのだ! もっと闇が支配すべきなのだ!」


 乃愛が海斗に賛同するように言った。


 海斗め、さりげなく乃愛を味方につけたな。こうなると、叶が劣勢になる。


「ちょっ……乃愛ちゃんもそのバカに賛同しないでよ!? てか、闇が支配するって怖いわよ!」


 乃愛を味方につけられ、予想通り叶が焦っている。このメンバーで話すとき、海斗は乃愛を味方に意気投合し、よく叶が劣勢状態となるのだ。


「京介も! 一人で黙々とお肉を食べていないで何か言いなさいよ! 乃愛ちゃんがあのバカにまるめ込まれてるわよ!」


 言葉の矛先が、黙々と肉を食べていた俺に被弾してきた。待ってくれ。今話しかけないでくれ。肉が焦げる!


「別にまるめ込まれてはいないだろ。それにもう手遅れだ。この二人はもう共同戦線を張っている」


 視線は七輪上の肉に固定し、適当に返す。


「手遅れって……乃愛ちゃんがあのバカにそそのかされてていいの!? てか、こっちを見なさい!」


 叶もさっき俺を無視してませんでした? あ、ちょうどよく焼き上がった。


「そんなことより、せっかくの奢りなんだからちゃんと食べた方がいいぞ。ほら、食べないとあっという間に焦げるぞ」


 いい感じに焼きあがった肉の一つを、叶の皿に載せてあげた。ふふ、感謝するがいい。しかし、次々に焼きあがる美味しそうな肉に、箸が止まらないな。


「……この場に私の味方はいないのかしら」


 少し落ち込んだ様子で、叶は俺が上げた肉を食べ始めた。せっかくなんだからもっと美味しそうに食べてくれ。


「兄者よ! 我にももっとよこすのだ!」


 乃愛が俺の方に皿を寄せ、うきうきした様子で肉を待ち詫びている。可愛いから、サービスだ。俺が狙っていた肉をやろう。


 そうして俺たちは、時間いっぱいまで焼肉を食べた。


 この場を作ってくれた海斗には感謝だ。今みたいに、皆でなんてことない話をしたり、ご飯を食べるこの時間が俺は好きだ。


 叶と海斗とはそれほど長い付き合いではないが、それでも気心知れたように話すことができる。俺と乃愛を見ても、否定的な感情を見せずに接してくれる。


 学校や周りではこういった人は他にいなく、普通に接してくれる二人の存在がとても頼もしく、嬉しかった。



 俺と乃愛は、彗星高校の入学を機に、今の家に引っ越してきた。それに合わせて高校も家から通える近場にした。これは、なるべく高校に知っている人がいないことにかけてのこと。


 しかし、乃愛が避けられるようになったのは、入学してすぐである。


 乃愛は中二病を隠さなかったが、『エラー』のことだけは隠していた。そのため、それまでは『中二病を患った変な子』という印象だけで、忌むべきものとして見られていなかった。


 しかし、乃愛の秘密はあっさりと暴かれた。


 6月初旬、体育の授業中に、天井から照明が落下してくる事故があった。照明は一人の生徒に落ちてきたが、乃愛が『エラー』で助けた。


 生徒は無事で済んだが、乃愛の『エラー』がその場にいた全員の目に留まることに。それはすぐ学校中に広まり、乃愛を見る目が皆一様に変化した。教師でさえ乃愛の味方をしなかった。


 乃愛の兄である俺に対してもその影響はあり、それまでいた友達も皆離れていった。


 そんな俺たちに、唯一味方してくれたのが叶と海斗だった。


 海斗は持ち前の性格から、変わらず俺と乃愛に接してくれた。叶に至っては、おそらくそれまでいた友達との縁を切ってまで、俺たちの味方をしてくれたのである。


 俺と乃愛は、二人のおかげでこの学校にいられるといっても過言ではない。


 二人には感謝してもしきれない恩がある。


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