2-1
やるべきタスクが多すぎて、
やろうとするものを見失う。
だけども書くのは楽しくて、
なんか優先してしまう。
その結果、今大変切迫しております。
なんだかなあ。
今回は、王都に行く話です。
対岸に見えるのは白銀の壁であった。入港準備を知らせる船の警鐘で目覚めたエイルは、なんとなく身体を起こし、赤さびだらけの格子窓から見える景色に呆然とした。鋼板のへりに膝をぶつけたが、その痺れすらも関係なかった。
「すっげ。」
どこまでいっても壁。壁と、真ん中に千古不抜の岩山、そこに巨大な白い塔。塔なのか?とにかく棒みたいな建物が天を仰ぐように突き刺さっている。エイルの考えていた陳腐な想像とは訳が違う、それほど壮大で、神秘的で、そして不思議な光景が緑の草原を背後にして広がっている。
彼は荷物を放りだしていたことに気がつき、急いで取りに戻る。そしてその無双の景色を書き留めるために*筆墨を取り出した。
波風の穏やかな水上を進む船はゆっくりと白い水渦を残し、なめらかにそれを広げていった。その頭上を壁と同じ白銀の羽を授かった野鳥が踊る。後ろの山々が水上に影を落として、少し傾いた日を写す水面が飛び散った硝子片みたいに光を反射する。
もう一度、鐘が鳴った。
砂防堤の先が少しずつ形をもって大きくなって、しっかりとした壁になる。それにあわせて港の周りにある古びた色合いの建物がはっきりと見えてくる。船は速度を落としながら、陸が逃げないよう、ゆっくりと歩み寄るようにして鈍色の帆を傾けた。
桟橋に近づけば、太い縄が投げられる。船員はそれを受け取り、船の頭にくくりつけ、少しずつ、丁寧に接岸した。
「ついたぜ。」
船員の声を聞けば、渡したばかりの板の上に乗客は殺到する。エイルは押し出されるようにして桟橋の上に足を踏みだした。
エイルはあらためて、目の前に広がる街に息を呑んだ。
まず、足下から驚く。桟橋が、石である。木で作ってあるのではないのだ。歩いてもきしむなどということはない。つま先を地面に打ち付けると軽快な音が鳴った。
「さすが、聖都。すげえ。」
前を向けばまず目に入るのはなんかよくわからないけど馬鹿でかい門。正面にまっすぐ向かうと、これに突き当たる。この世界に必要な規模だとは思えない、無駄な大きさである。壁は高くとも入り口は狭くていいだろうに、ここの大扉と言ったら、水上から見てもよくわかる。
道は、全て舗装されていた。どこの街をみてもこんなきれいに石畳が敷かれているところなんて、まずない。それが、ここの道路といったら、重労働にいそしむ人々、たとえば世に貧しいと思われている見習いの工夫がいるところですらちゃんと石がふいてあって、泥に汚れることとはおおよそ無縁だった。
街をゆく人々の格好ですら、どこかおしゃれだ。見たこともない薄い生地に、修道院の祭室の壁にあるガラスよりも色彩豊かな組み合わせの服装、靴、それに帽子。それが、早足でせわしなく行き交っている。
今までの生活とまるで違う姿に、逆に自分の姿が完全に取り残されていて、間違ったものに見えてくる。
「はあ、すげえ。」
エイルは周りを見渡しながら、ゆっくりと歩き出した。手帳を見れば、今日は前日。明日に備えて早く寝るのもよいが、まだ少しは観光する時間はある。
「少しくらい、寄り道していくか。」
桟橋からまっすぐ進んだところに、船着き場の待合所がある。煉瓦造りで温かみがありつつも、無機質な爽やかさを残している白の塗装がよく映えていた。
*筆墨……この世界において鉛筆が普及する前から存在した筆記用具。炭墨とよばれることもある。黒いチョークと思ってもらえばよい。水分を抜いた間伐材を空気を送り込みながら高温で焼成する事で作られる。炭焼き窯を使用することから、林業と兼業している鍛冶屋や陶芸屋が売っていることがある。