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みなさん、いつもありがとうございます。
今回の新作ですが、ちょっとずつ小出しにしていきたいと考えています。書きだめ分が貯まるまで時間がかかるので、しばし更新までお待ち願います。
これで少しでも面白そうだと思ってくださったら嬉しいです。
可能でしたら本文下の☆、応援よろしくお願いします。作者が喜びに打ち震えます。
執筆意欲とスピードが15%上昇するでしょう。
風が、哭いていた。
大峡谷の崖際を、幌馬車が身体を揺らし、がたぴしと悲鳴をあげながら進む。車輪が路傍の石ころを撥ね、車体が跳ねる。
「うおっ。」
居眠りをしていた少年の尻を、母親にお仕置きと称して叩かれたときのような鈍い痛みが襲う。
「痛ってて......。」
少年は尻を押さえながら立ち上がる。
「どうしました。」
御者の男が振り返らずに尋ねる。
「いや、なんでもない。」
その場が静かになる前に、少年は空模様を見て思い出したように彼に声をかけた。
「旅代さん、あとどれくらいかかるかな、この谷を抜けるのは。」
ぐらりぐらりと揺れる馬車に合わせて頭を振りながら、御者の中年男は答える。
「あと半日、ってとこでございましょうか。そしたら旦那、そこに『馬宿』がありますから。今晩はそこに泊まることに致しましょう。野盗に狙われるよりかは、安全でございますからねえ。」
「そうか。暖かい飯でも食えるかな。」
「そりゃあもう。ここらは聖都の近くですから、ちゃんとした料理は出ましょう。」
今までのようにパンと干し肉だけということにはならなそうだ。少年は口元を少し綻ばせ、彼に少しの感謝を述べて荷台に寝そべった。
「わかった。ありがとう。後は任せるよ。」
へい、と返事をして御者はそろそろと車を動かす。少年は腰に取り付けた小鞄から木の表紙に鋲を打ってある簡素な手帳を取り出して広げた。
がさがさと繊維質な厚いページをめくり、数字の羅列が続く場所を開くと、彼は目線を赤字の14が書かれた項目に移した。釣りランプの明かりが揺れ、落ちた少年の輪郭がぼやけて視界を邪魔する。
「半日......半日かあ。」
少年は呟くと、手帳を指でなぞり、10と書かれたところまで遡る。そして黒い石をもって、これに×印をつけた。
丸印のついた14番の隣には汚い文字で『公募選抜』と書かれてあった。
「痛い過失だ......。」
空は瓶底を覗いたような曇り空で、湿っぽい空気。川底に潜った泥みたいな独特のにおいが充満し、しつこく髪を撫で付ける風が鬱陶しい。今にも雨が降り出しそうな、そんな様子だった。