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1ー1

みなさん、いつもありがとうございます。


今回の新作ですが、ちょっとずつ小出しにしていきたいと考えています。書きだめ分が貯まるまで時間がかかるので、しばし更新までお待ち願います。


これで少しでも面白そうだと思ってくださったら嬉しいです。


可能でしたら本文下の☆、応援よろしくお願いします。作者が喜びに打ち震えます。

執筆意欲とスピードが15%上昇するでしょう。

 風が、哭いていた。

 大峡谷の崖際を、幌馬車が身体を揺らし、がたぴしと悲鳴をあげながら進む。車輪が路傍の石ころを撥ね、車体が跳ねる。


「うおっ。」


 居眠りをしていた少年の尻を、母親にお仕置きと称して叩かれたときのような鈍い痛みが襲う。


「痛ってて......。」


 少年は尻を押さえながら立ち上がる。


「どうしました。」

 御者の男が振り返らずに尋ねる。


「いや、なんでもない。」

 その場が静かになる前に、少年は空模様を見て思い出したように彼に声をかけた。


「旅代さん、あとどれくらいかかるかな、この谷を抜けるのは。」


 ぐらりぐらりと揺れる馬車に合わせて頭を振りながら、御者の中年男は答える。


「あと半日、ってとこでございましょうか。そしたら旦那、そこに『馬宿(イン)』がありますから。今晩はそこに泊まることに致しましょう。野盗に狙われるよりかは、安全でございますからねえ。」


「そうか。暖かい飯でも食えるかな。」


「そりゃあもう。ここらは聖都の近くですから、ちゃんとした料理は出ましょう。」


 今までのようにパンと干し肉だけということにはならなそうだ。少年は口元を少し綻ばせ、彼に少しの感謝を述べて荷台に寝そべった。


「わかった。ありがとう。後は任せるよ。」


 へい、と返事をして御者はそろそろと車を動かす。少年は腰に取り付けた小鞄(ポーチ)から木の表紙に鋲を打ってある簡素な手帳を取り出して広げた。


 がさがさと繊維質な厚いページをめくり、数字の羅列が続く場所を開くと、彼は目線を赤字の14が書かれた項目に移した。釣りランプの明かりが揺れ、落ちた少年の輪郭がぼやけて視界を邪魔する。


 「半日......半日かあ。」

 

 少年は呟くと、手帳を指でなぞり、10と書かれたところまで遡る。そして黒い石をもって、これに×印をつけた。

 丸印のついた14番の隣には汚い文字で『公募選抜』と書かれてあった。


 「痛い過失(ロス)だ......。」


 空は瓶底を覗いたような曇り空で、湿っぽい空気。川底に潜った泥みたいな独特のにおいが充満し、しつこく髪を撫で付ける風が鬱陶しい。今にも雨が降り出しそうな、そんな様子だった。

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