不運新鮮なグミ
全ての授業が終わった先に待つ時間。
『かえろーよー』
それは放課後。
しかも今日は工場見学があったので早く終わることに!
「あぁ、帰る?」
「かえろー」
私も例外ではなく、窓から差し込む日差しでホカホカしている鞄に手を伸ばす。
「先行ってるからねー」
スタスタ去っていく友達を横目に苦い経験を思い出した。
彼女にとって先に行くとは「ゆっくり行くからね」という優しい意味ではない。
私は急いで後を追いかけ、横に並んだ。
「相変わらず歩くのはや……」
顔を覗き込むと私はある事に気づく。
「何食べてるの?」
口がモゴモゴ動いてる。
飴を舐めてるとか?
くだらない事だけど有り得そう。とか思っていると彼女は徐に口を開いた。
『しんせんぐみ』
「え……?」
口の中でモゴモゴできる六文字のお菓子を私は知らない。
『だからしんせんぐみって』
「しんせんぐみ……?」
「そう」
もし私の読解力が正しければ彼女はしんせんぐみを食していると言ってる。
は? なにそれ?
そもそもしんせんぐみって何?
「へ、へぇそうなんだあ〜」
これ以上聞くのは空気的に許されないので適当に相槌を打った。
でもなんなのか気になる。
日本にはまだ流通してないとかトルコアイスみたいに絶滅したものだったらぜひ食べてみたい!
「何味食べてる、の?」
そこで私は別の方向からヒントを探ることにした。
まずは味。この味一つでグーグルな先生に頼めば見つかることもあるかもしれない。
「んー、たくあんかな」
舐めるお菓子で聞いたことがないフレーバーを呟きながら嗜む友達。
これじゃ分からない……いや、分かるかも!
先生の話で聞いたことがある。
土方歳三という人はおばあさんが漬けたたくあんが好きだったらしい!
その人が所属する組は……偶然にもしんせんぐみだった。
なるほど! 新撰組を食べてるんだ! へえ!
新撰組って食べるものなの? 違うでしょ。
「美味しい?」
「割と」
美味しいんだ……一粒くらいくれるかな。
「ちょーだい」
「あんたももらったじゃん」
「何が?」
『グミの工場見学で貰った出来立ての新鮮なグミが』
そう言って彼女は私の鞄にグミの袋を押し込み、口の中でモゴモゴしていた物をティッシュで包んだ。
『割と不味いからあげるわ』
昔、新撰組って新鮮なグミみたいだよねって話してたのを思い出します。