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第九話

皆さんに読んでもらえる作品を創りたいです。

 「丁度、1000位だよ」


 涼しい顔で彼はそう言う。1000位……俺より600位以上高い。つまり彼は、この幼さで既に何度も死線を超えているのだ。


 「ガーディアンになってまだ日は浅いけどね」


 ガーディアン?また新しい用語だ。


 「ガーディアンって何だ?」


 「あれ、説明されてないの?じゃあ僕が教えてあげよう!先輩として!」


 えっへんと胸を叩く。動きは可愛らしいがこの少年は俺より強い。


 「お願いします、先輩」


 「えっとね、ランキングでは1000位から100毎に10人のガーディアンがいるんだ。そのランクの一歩手前にたどり着いたグラディエーターが次のランクに行くためには、ガーディアンに勝利する必要があるんだよ。999位からはポイントがまたゼロになって、900位を目指してポイントを集めるんだ」


 トランゼンのくそおやじ!!何が『青軍のクズ共をミンチに』だ!!必要なこと何も教えてねえじゃんか!!


 「ガーディアンを倒したグラディエーターは、ガーディアンになるか次のランクに行くかを決められるんだよ。僕はガーディアンを選んだんだ」


 「それは何でだ?何かメリットとかあるのか?」


 「試合回数は当然多くなるよ、強くなる機会が増えるってことだね。でもそれ以外のメリットはあまり無いかな。僕はね……あまり人に死んでほしくないんだ。だから僕程度を倒せない人は上に行けないんだよって、教えてあげなきゃいけないと思ったんだよ」


 よく分からないな。まあそれがダリエスなりの正義なんだろうか。俺には偽善にも感じられるが……


 「今日もこのあと試合が控えてるんだ。何でも『1651位』の人だったかな?なんでそんな下のランクのグラディエーターが挑んでくるのか分からないけど、きっと自分が強いと勘違いしちゃってるんだろうね……」


 え、おいおいおいおいまじかよ……今日の俺の相手ってダリエスなのか……?なんで急にガーディアンのダリエスと?ルドガーの奴が対戦相手を選んでるんだよな?

 いや、まだ同じ赤軍って可能性もある。


 「ちなみにダリエスはどっちの派閥なんだ?」


 「青軍だよ!トモヤは?」


 ですよねー。そりゃ偶然ランク被りってそんな訳ないよな。


 「俺は……赤軍だ」


 「そっか……僕たち敵同士なんだね……で、でも友達だよね!?」


 そんな不安そうな顔するなよ。今不安なのは俺の方だって……


 「ああ、友達だよもちろん」


 「いつか戦う日が来たら、全力を出してよね!約束だよ!」


 そのいつかは今日なんだよ、ダリエス。


 「もちろん、本気で戦うよ」



 ――俺は控室に来ていた。試合まで後10分、ずっと思考を巡らせていた。

 俺はあの無邪気な少年と戦えるのか?そもそも勝てるか?腕力向上2持ち……あの爆弾みたいな威力の殴打をモロに食らったらまず間違いなく死ぬ。

 だが、ダリエスは人が死ぬのを見たくないと言っていた。つまり死ぬ程の威力では攻撃してこないか?

 いや、そういう希望的観測はダメだ。油断すれば死ぬ。


 「時間だ」


 闘技場の入り口に立っていた兵士がそう伝える。

 ――ドクンッドクンッドクンッ

 鼓動は今日までで1番早くなっている。怖れるな、大丈夫勝てるさ。


 ――ワァァァァ!

 この歓声を聞くのは二度目だ。醜悪な人間達の醜悪な声、戦士を讃える声じゃない。欲望に身を任せた憎悪に満ちた声だ。


 『レディースエーンドジェントルメーン!!皆様、早朝から《タルタロス》にお越しいただき、誠にありがとうございます!!本日の第一試合は前代未聞!!青軍はお馴染み、ガーディアン【アイアンフィスト】!!』


 ――ワァァァァ!!

 一際大きな歓声が巻き起こる。【アイアンフィスト】?通り名みたいなもんか?


 『対する赤軍、なんとこれが二度目の試合!!初戦は重傷を負いながら敵を退けました!!1651位!!奴隷の男!!』


 おい、通り名が無いからって何だそのまんまな呼び方は……


 『ランク差600以上!!このような戦いが、未だかつてあったでしょうか!?事前予想では9割以上が青軍!!果たして勝利の女神はどちらに微笑むのか!?それでは参りましょう!!レーッツ!!ショー!!ターイム!!』


 ハイテンションな実況が終わると同時に、目の前の鉄格子が跳ね上がる。

 俺はゆっくりと闘技場に足を踏み出す。大丈夫、やれるさ。

 遠くの門から栗色の髪をした小柄な少年が出てくる。彼の手には鋼鉄の手甲がはめられている。

 なるほど、【アイアンフィスト】か……

 彼は俺の顔を見ると驚いた顔を一瞬したが、すぐ冷静さを取り戻し言った。


 「まさか1651位がトモヤだったなんてね。僕も舐められたもんだよ」


 「すまないが、俺は対戦相手を選べないんだ」


 「君も僕と同じ奴隷だったね。可哀想に、話題作りの捨て駒にされたって訳だ。でも安心してよ……殺しはしないから!」


 ――ヒュッ!

 ダリエスが前傾をになり物凄い速度で突っ込んでくる。一回戦の相手や街のチンピラがいかに遅かったのかわかる。

 人間のスピードじゃないだろこれ!

 俺は用意に突っ込ませない為、中央の柱の1本に隠れる。


 ――ズドンッ!!!ガラガラガラッ!

 一撃で巨大な石柱が砕かれた。嘘だろ!?


 「逃げなくていいよ、一撃で戦闘不能にしてあげる。君にはまだ早いんだ」

 

 「お前、キャラ変わってないか?」


 「そんなことないよ、僕は朝と変わらない。君が僕を怖れるからそう見えるだけだ」


 目の前に隔てるものが無くなった俺は盾を前にして構えを取る。

 ――ビュッ!ドスンッ!

 ダリエスの一撃を盾で受け止める。わざと盾に当てたのか?

 手が痺れて取り落としそうになるのを我慢する。

 ――ドスッ!ドスッ!ドスッ!!


 「ぐああ!!」


 三連撃を受け、盾ごと後ろに吹き飛ばされる。


 『あーっと!キツい三発をお見舞いされたー!!立てるか挑戦者!?』

 

 幸い、爆弾みたいな一撃を毎回撃てる訳じゃないようだが、ただの殴打でも致命的な威力だ。

 それにナイフや短剣に比べて速すぎる。腕が直線に伸びてくる分、距離観も掴めない。

 ボクシングやってる人って物凄い動体視力なんだろうな。俺には到底見えそうにない。

 ダリエスが悠々と歩いてくる。


 「トモヤ、こんなものなのかい?せめて一度くらい攻撃してみたら?その手に握ってるのは飾り?」


 「う……るせえ……」


 直撃は一度も受けていないのに身体が軋む。よく見ると盾に亀裂が入っている、あと一撃で壊れるかもしれない。

 俺は何とか立ち上がり剣を握り直す。

 左手は痺れて力が入らないが、右はまだ生きてる。

 

 「行くよ……トモヤ!!」


 ――ダッ!

 ダリエスが猛スピードで突っ込んでくる。リーチは俺が上だ、懐に入らせてはいけない。

 ――ふっ!

 彼の軌道に合わせるようにありったけの力を込め突きを放つ。

 ――ギンッ!

 簡単に左の手甲で弾かれる。そのままダリエスは右フックを放とうとする。

 ここだ。俺は咄嗟に盾を構えながら身体を捻る。

 ダリエスの拳と俺の盾が激闘した瞬間、俺は盾を捨てた。

 ――バキッ!

 盾が見事に砕ける。


 「なっ!?」


 ダリエスの顔に驚愕の色が浮かぶ。全力で振り抜いた拳が受けた抵抗は思いの外少なく、その勢いにより体勢を崩す。

 俺は身体の捻りを解放し、会得したばかりのスキルを放つ。

 ――『円月斬り』!!

 殺したくないなんて甘いことは言わない。これは殺し合いだ。

 栗色の髪の間から見える細いうなじに向け、殺意の一撃を放つ!


 ――ガキンッ!!

 

 「なん……!?」


 思考が止まる。スキルは本来、通常の斬撃より数段早いものだ。普段の俺には出来ない、流れるような動きで斬りかかる。

 その一撃を崩れた体勢から受け止めた。完璧なタイミングだったはずなのに……


 ――ドスッ!!


 「あがっ!!」


 驚愕は痛みに塗り替えられる。

 この試合初の直撃を腹部に食らい、俺は数メートル吹き飛ばされた。

 地面に激突した痛みも、転げて出来た擦り傷も全く気にならない。

 腹部が直に爆発したような痛みに意識が飛びかける。

 

 「げほっげほっ!」

 

 生まれて初めて血反吐を吐く。恐らくどこかの臓器がやられたのだろう。呼吸がままならない。


 「狙いはよかったよ?でもさ、そこでスキルを選択したのはミスだよね。スキルは強いけどね、どんな攻撃が来るか予測できるんだよ。しかも君は『円月斬り』しか使えない。カードの決まったトランプに負けるわけないよね」


 そうか、おっさんも『円月斬り』を知っていたように、発動型のスキルも共通ってことか。


 「でもね、友達の僕に対して本気で殺しに来たことは褒めてあげるよ。きっとトモヤなら上でもやっていける。まだ早いけどね、おやすみ」


 ――ズドンッ!


 爆音を最後に俺の意識は途切れた。



敵軍のガーディアンに勝つと、自軍のガーディアンになるか次ランクに進むか決められます。

ガーディアンを選んだ際、自軍の現ガーディアンが交代を認めない場合、直接対決で決めることになります。


ちなみにガーディアンで稼いだポイントは次ランクに持ち越せないので、0ポイントスタートになり旨味は少ないです。


補足でした。

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