第六話
早めの投稿を心がけたいです。
感想、評価、ご指摘等お待ちしています。
バザーを歩く。先程の沈黙とは逆に、メイド服の少女は様々なことを話してくれる。
国の事、戦争の事、奴隷や亜人の事。どこの世界も人種や宗教による差別は変わらないんだな……
「ごめんなさい、暗い話ばかり……」
「いや、勉強になるよ。ありがとう」
彼女は照れたように笑う。その姿にドキドキとさせられる。
年齢は聞いてないが10歳は下じゃなかろうか……俺はロリコンなのか……?
「あそこにあるのが教会です。トモヤさんは……入れませんが、神々の天啓を受けることで自身のスキルを確認することができます」
あそこに入れるだけで現状は大きく変わるんだがなぁ……
ちなみにこの世界にステータスとかは無い様だ。スキルの中に『腕力向上』みたいなパッシブはあるが、開花するためには筋力を鍛えたり修練を積む必要があるらしい。
それだと『腕力向上』というより『マッチョの証』の気もするが、見た目筋肉質な男より、平均体型で『腕力向上』持ちの女の方が力が強いくらいには効果が高いらしい。
勇者オタクのティファの話では、勇者召喚されると腕力、魔力、速度、視力、運の向上スキルが初めから備わるらしい。
どんなチートだ、半分よこせ。
「とりあえず、お昼時ですし、ご飯でも食べましょうか?楽しい話は食べながらしましょう!この辺に私のオススメの店があるんですよ〜」
楽しそうな彼女や町並みを見ながら歩く。コロシアムは野蛮だと思うが、基本的には平和な世界みたいだ。魔物は僻地にしか居ないし、近年は戦争もないらしい。
権力者達はコロシアムで自分のグラディエーターを闘わせて、その力を知らしめているらしい。
主人のところには俺の他に3人グラディエーターが居て、一人は87位まで登り詰めているそうだ。
残念ながら異世界人は俺だけのようで、他の転移者からの情報収集は望めない。
「ここ、近道なんですよ!」
ティファがそう言いながら裏路地に入る。平和な街だとしてもそういう道は危なくないか?
「きゃあっ!」
ティファの声だ!俺は走って後を追いかける。裏路地に入ってすぐの所に彼女はいた。尻餅をついたようだ。
目の前にはかなり人相の悪い二人組が立っている。
「おいおい、お嬢ちゃん……痛いじゃねえか?ちゃんと前を見て歩かないとな?」
それはもっともだ。
「ご、ごめんなさい!私ったら確認もせず飛び出してしまって!」
「おおん?よく見りゃかなり美人じゃねえか?」
恐らくぶつかっていない方がティファの顔を覗き込む。
「ぶつかった謝罪に俺達にご奉仕してもらおうかな?召使いさんよ」
男達はティファの腕を掴み裏路地の奥へと進もうとする。
くそ、あからさまな不良にテンプレみたいな絡まれ方をしている。武器も何もないけど一般人の俺が助けられるのか?
「お、おい!謝ってるだろう、許してやってくれないか?」
後ろから男達に声をかける。声が上擦っている、かっこ悪いな俺。
「ああん?なんだてめえ?」
ティファがぶつかった大柄な方がこちらを見て威圧してくる。奴は俺の首元をチラリと見て、馬鹿にしたような顔になる。
「奴隷の分際で中流市民の俺たちに指図しようってのか?」
中流なのか、チンピラみたいなのに……そんな事を考えながらも俺の足は震え、鼓動は早くなる。
「なあ、こいつビビってんぜ!袋叩きにしてやるか!」
大柄がティファの横のもう一人に呼びかける。
ーーバキッ!ドコッ!
「うぐぇ!」
俺は二人がかりで殴られ蹴られ、無様に裏路地に転がった。異世界に来てから暴力を毎日受けているな……
剣で刺される痛みに比べれば幾分かマシだが、それでも喧嘩なんてしてこなかった俺には耐えられない程の激痛だ。
正直逃げ出したい。
「トモヤさん!」
ティファが駆け寄ってくる。そうだ……この世界に来て初めて見つけた癒やしを、俺は守らなきゃいけないんだ。
まだ会って間もないけど、俺に親切にしてくれた、ただ一人の女の子なんだ!
辺りを見渡す。大柄な奴の足元、丁度良いサイズの角材が落ちている。
ーーダッ!
俺は姿勢を低くし大柄の足下に突進する。
「おらっ!」
ーードゴッ!
顎を思い切り蹴り上げられた。意識が飛びそうになる。それでも何とか、蹴られる直前角材を手に入れた。
古き良きRPGでも最初の武器はひのきのぼうだ。チンピラくらいやれるはず!
俺は体勢を立て直すと右にいる小柄な方……大して小柄でもないが……奴に向かって走る。両手持ちで小柄な男の頭目掛けて角材を振り抜く。
特に何の道具も持たない男は急に向かって来た角材を避けることも出来ず、辛うじて腕で受け止める。
ーーゴリッ!
嫌な音が聞こえた。小柄な方の前腕が変な方向に曲がっている。
「う、うぎゃあああ!!痛え!痛えよおお!!」
硬質な角材を全力で振ったんだ。そりゃ生身の腕じゃ受け止められないだろう。
「こ、この野郎っ!」
ーージャキッ
大柄男が懐から小型の折畳みナイフを取り出した。見た目だけじゃなく装備までテンプレチンピラかよ。
心の中で毒づくが、脅威が大きくなったことは明らかだった。
リーチでは俺が有利……殺傷力は向こうが上か……
ーードクンッ
初戦の時の様に鼓動が大きく跳ね上がった。
ーーダッ!
大柄男が突っ込んでくる。リーチで負けてる分、一気に距離を詰めようという魂胆か。
俺は思い切り横薙に角材を振った。
ーーゴッ!
硬質な角材と皮膚のぶつかる鈍い音。大柄男は顔を歪めたが、止まることなくこちらに向かってきた。
筋肉が鎧になったのか!刃物ではないことの弊害だった。
ーーヒュッ!
ナイフが向かってくる。正確にこちらの首筋目掛けて軌道を描く。
「うっ!」
俺は首を目一杯反らせて間一髪躱す。
ーーシュッ!
「ぐあ!」
ナイフを躱された瞬間、大柄男は逆手持ちに切り替え俺の左肩を後ろから突き刺した。
肩に激痛が走る。俺はがむしゃらに角材を振り、奴に距離を取らせる。
止めどなく血が溢れている。幸い深くないようだがそれでも痛みは強い。左腕はもう上がらない。
今まで両手に構えていた角材を右手一本で支える。
ーー片手長剣スキル『円月斬り』
なんだ?急にそんな言葉が頭を過る。初戦で使ったらしいスキルの使い方、今ならよく分かる。行ける!
大柄男がナイフを構え向かってくる。こちらもそれに応えるように走る。
男がナイフを素早く突出す。俺は右手肩を後ろに反らし身体を捻る。
ナイフをやり過ごし、頭に浮かぶスキルを発動させる。
スキル発動!『円月斬り』!
回転を利用して男の左肩口に向け角材が振り下ろされる。
角材は男の首を捉える。
ーーメキッ
それでもスキルは止まらず振り抜かれる。
「えぐっ!」
男が変な声を出して倒れた。丁度一回転したくらいでスキルが終了した。
見た所、大柄男は首の骨にダメージを負ったようだ。殺してしまっただろうか。
小柄な方は叫びながら逃げて行った。なんとかなったな……
俺はティファの方を見る。
「ティファ、大丈夫……か……?」
「はいっ……私はっ……大丈夫……です……」
泣かせてしまった。怖かったのだろう、もう安心だと声をかけなければ……
ティファの顔が青ざめている。どうした?
「トモヤさん……それ……」
「えっ……?」
急に視界が暗くなる、倒れる瞬間見た俺の左腹には、鈍色の板が生えていた。