第四話
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1651位って……一体どれだけの時間がかかるんだ……
「安心しな、お前の下に1ポイントと0ポイントがわんさか居るからよ」
初戦、相手を戦闘不能にしたり逆にされたりした奴らか。
「基本的に殺せば2ポイント、戦闘不能で1ポイントと覚えておけばいい。ただし100位から上は話が別だ。まあこれはまだ話さなくていいな?何千人も説明するのは骨が折れるからな」
どうせ生き残れないと思ってるんだろう。しかし、殺した方が素早くランクアップ出来るのか。
「ちなみに、戦闘不能になった相手を殺すとペナルティとしてマイナス10ポイントだ。まあそれを楽しむためにポイントを稼ぐ輩も居るんだがな……困ったもんだよ」
そういう奴らとはなるべく当たりたくないな……
「それぞれ1位のことをチャンピオンと呼ぶ。さらにその上にはグランドチャンピオンというの居るんだが、『彼』には軍閥戦で勝利した方のチャンピオンが挑戦権を得るんだ。今期は青軍のクズ共が挑戦権を持ってるがビビって挑戦できねえらしい」
トランゼンは嘲るように言う。なるほどグランドチャンピオンか。さて、あとはこの世界のことを聞くべきかな。魔法とかスキルとか。
「トランゼンさん、他にもいくつか質問していいですか?」
「おう、なんだ?」
「この世界にはレベルとかあるんでしょうか」
「レベル?レベルってなんだ?」
レベルの概念は存在しないのか。
「いえ、それではスキルは存在しますか?」
「ああん?おちょくってんのか?スキルはあるに決まってるだろうが。お前さんだって使ってただろ」
いや、使った覚えなんてないが……
「昨日の試合、俺も見てたんだ。お前さんのあのスキル……見たことのないものだったな。青軍の奴に足をやられた後だ」
「余り覚えてないんです……」
「なに?」
ガタッと音を立てて身を乗り出してくる。おっさんは驚いたような顔をした後、ニヤリと笑った。
「お前さん、それは魂系統のスキルかもしれないぞ…?」
「魂系統?」
「ああ、最近で一番有名なのは我ら赤軍のチャンピオンの持つ『竜の魂』だな。怒りの力で発動するらしいが、本人は完全に制御していて怒らずに使えるらしい。まあ怒りってのはデメリットも多いからな。流石はチャンピオンだぜ」
「竜の魂……どんなスキルなんですか?」
「発動するととにかく強くなるな」
「はい……え?それだけですか?」
「俺だってわからねえんだ。身体能力は上がってるように見えるが実際のところは教えてくれねえ。何にせよ、魂系統のスキルを持つ奴はごく稀って訳だ。ランキング上位に何人かいるぞ。お前さんももしかすると……いや、希望的観測はよくないな」
つまりあれか……当たりスキルってやつか?平凡なこの俺に?……まじか!!
うおおおお!と叫びそうになるのを堪え、さらに訊ねる。
「スキルを知る方法ってあるんでしょうか!」
興奮で声が上擦っている。
「あるにはあるが……トモヤ、お前奴隷なんだろ?」
俺は自分の牢屋に戻ってきた。
「はあ〜……」
大きな溜息が出る。
『奴隷は教会に入れない』
肩透かしを食らった気分だ。教会で調べてもらう以外、所持しているスキルを調べることは出来ないらしい。
つまり俺は発動条件も名前も効果も分からない謎のスキルを所持しているだけという事だ。
まあ少なくとも前回の戦闘で発動したらしいから死にスキルではない……と思いたい。
だがそんな曖昧なスキルに頼ることは出来ないという事だ。
トランゼンによると、スキルは常時発動型と武技の2つに分かれるらしい。所謂パッシブスキルとアクティブスキルだな。
魂系統のスキルは特殊型で発動方法はそれぞれ違うのだとか。
スキルを使い込むことで新しいスキルを獲得できるという。俺は前回の試合で剣を使用したが、武器系統は長剣に分類される。
また魂スキル発動中に『円月斬り』という長剣スキルを発動したそうだ。ナイフを投げたのは短剣スキル『投擲』だという。
だがその使い方も今やわからない。スキルを使えるようになると自然と発動方法も会得するらしいのだが、どうやら俺はそうじゃないらしい。
恐らく魂スキルの影響だろう。
とにかく、2日後の第二試合までに準備を進めなければいけないな。
地下で分かりにくいが今は夜らしい。飯が牢屋に届いていたのでそれを食べて寝ることにした。
汚い寝床に転がり、石の天井を見上げる。
思っていたよりも血生臭い異世界だが、それでもここは夢に見た世界だ。
俺は手を挙げ拳を握る。
やってやるさ!俺が主人公なんだ!
そういえばスキルの件がショックすぎて魔法や異世界召喚について訊ねるのを忘れていた。
また今度聞けば良いか。
翌朝、主人が牢屋を訪ねてきた。
「起きろ、異世界人」
ーーガスッ
軽く腹を蹴られ、目が覚める。痛いぞくそ、いつか市民権を得たら復讐してやる。
「なんだその目は?もしかして100位になって市民権を得ようなんて考えているのか?」
図星だった。俺、そんなに顔に出ているだろうか。
「愚か者め。奴隷が市民権を得られる訳無いだろう。初日に教えた筈だ。ランキング1位、チャンピオンになれたら自由の身だとな!まあ、到底無理だろうが……」
主人はニヤリと笑う。そういえばそんなこと言っていた。
くそっ!俺の異世界ライフを邪魔しやがって……!
「まあいい、反抗的なくらいじゃないと良い試合が出来ないからな。ほらこれがお前のファイトマネーだ。お前は奴隷だが、同時にグラディエーターだ。ファイトマネーを貯めて武器でも買うんだな」
俺の足元に見たことの無い硬貨が散らばる。銅色、銅貨ってやつだな。きっと銀貨と金貨も存在するのだろう。
ーーバキッ!
「うぐっ!」
またしても腹を蹴られる。
「主人に対して礼の言葉も出ないのか?」
この野郎……!
「ありがとう……ございます……」
屈辱だ。この小太りな男の腹に錆びた長剣をぶっ刺してやりたい。
俺の中の復讐心が大きくなっていくのを感じる。だが魂スキルとやらは発動しない。
どうやら発動条件は竜の魂とは違うみたいだな。
「今後は私ではなく、召し使いを寄越す。外出をする時はそいつに申請しろ。おい、ティファ、後は任せたぞ。私はもう行くからな」
「はい、お気をつけくださいませ」
牢屋の影で見えないが誰かの声が聴こえた。
主人が牢屋を去ると入れ替わりで女性が姿を現した。
「初めまして、ティファと申します。異世界の『勇者様』」
ティファと名乗る少女は、俺のことを『勇者』と呼んだ。