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第三話

感想など、お待ちしています。

 目が覚めるとそこは初めの牢屋だった。鎖は繋がれている、左足がずくずくと痛む。

 俺は、勝ったのか……?

 一体どのくらい寝ていたのだろう。物凄く腹が減っているし喉も乾いた。

 鉄格子の方を見るとそこに料理が置いてあった。

 料理というには余りに粗末だが、固そうなパンとよくわからない焼いた肉が皿に盛ってある。その隣には容器に入った水も置いてある。

 とにかく今は水だ……干からびて死んでたまるか……

 足が痛むせいで立ち上がれず、寝床を這い出るようにして食事にありついた。

 水を口に運ぶ。


 ーーごくっ

 決して旨い訳じゃない。日本の水道水の方が何倍も綺麗だろう。ミネラルウォーターの足元にも及ばない汚い水だ。

 それでも今の俺には命そのもののように感じて、これまで生きてきて一番旨い水だった。

 水を飲み干すと、パンと肉を頬張る。味付けも碌にされてないそれらは、パサパサとしていて全然旨くない。

 だけど腹に物を入れなければ傷も治らないだろう。

 そうして俺はくそみたいに不味くて、今だけなら世界一旨い飯を平らげた。


 食事を終え、思考を巡らす。

 無我夢中だったけど、俺は人を殺してしまった。

 曖昧な記憶の中で、錆びた剣が首に食い込む感覚だけは鮮明に覚えている。

 男の見開かれた目を思い出したところで食べたものを吐きそうになった。

 危ない……食料を無駄にしてたまるか。

 きっとこれから、ここで生き抜くために何人も殺すことになるのだ。覚悟を決めろ。


 だがあれは何だったのだろう。もうだめだと死を覚悟した瞬間聴こえた声。

 確かに俺の声だったと思う。だけど俺でない誰かに語りかけられているような……

 少なくとも俺は、あんな風に剣で戦うことは出来なかったはずだ。異世界だから身体能力が上がってるって感じもしない。

 まるで誰かに乗っ取られたような……

 そこまで考えて背筋が寒くなったので止めた。


 ーーカッカッカッ

 足音だ、一人か?

 足音の主が俺の牢屋の前で止まる。見たことのある人物だ。


 「よくやったな、異世界人」


 初めに俺をいたぶってきたあの男だ。


 「だが初戦から大怪我とは情けないな?お前程度に治癒魔法をかけてやるのは勿体無いが、次の試合が2日後だからな。特別だぞ?……来てください先生」


 男がそう言うと、はいはいと言いながら老人が出てくる。一人じゃなかったのか。

 というか治癒魔法?治癒魔法って言ったよな?


 「お前さんが患者か?そのくらいの傷、唾でも付けときゃ治りそうなもんだがね?」


 何を言ってんだこのじいさん……大丈夫か?


 「まあいいわい、金は貰ったしのぅ。どれ傷口をよく見せてみぃ?」


 きつめに巻かれていた包帯を取る。傷口はまだ全然塞がっておらず、化膿し始めている。

 こんなの縫合手術しないと無理だろ。しかもあんな小汚ない短剣を刺されたんだ。破傷風にだってなるかもしれない。

 コロシアムしか見ていないが恐らく中世ヨーロッパって感じの文明だ。抗生物質とか無いんだろうな。

 せっかく試合から生還したのに結局破傷風で死ぬのか。何なんだ俺の人生。

 そんなことを考えて絶望していると……


「ライトヒール」


 男の手が光り、その光が俺の身体全体を包み込む。

 温かい……ぬるめのお風呂のような温度が身体全体に浸透する。

 俺は傷口に目を落とす。そこにあった筈の巨大な刺し傷が今まさに閉じようとしている。

 物凄くRPGって感じだ!化膿していた部分も綺麗になり、赤黒い傷口は正常な肌色に戻った。


 「ほれ、これでおしまい。失った血は戻らんからね、飯を食って血を作ること。いいね?」


 片眉を上げながら聞いてくる医者……医者なのか?白魔導士?

 とりあえず返事をしておく。


 「わかりました」


 「じゃあ儂はこれで……」


 そう言うと医者風のおっさん……先生は帰っていった。


 「さてと……おい異世界人」


 最初の男……嫌だけど主人と呼ぶか。主人が俺に話しかけてくる。


 「なんにせよよく初戦を突破したな。今後について、管理部から話があるみたいだぞ。よく聞いておけ。」


 「はい……わかりました……」


 管理部?この闘技場の運営か?

 俺は足枷を主人に外してもらい、後に続く。あれ、今なら後ろからこの男殺れるんじゃないか?いや、でも首を刎ねる魔法が発動するかもしれん……大人しくしていよう。


 「ここだ、私は帰るからな。話を終えたら牢屋に戻れ、また明日来る」


 そう言うと主人は帰っていった。

 少し警戒しながら目の前の扉を開ける。


 「おう、来たか」


 案内された部屋の中、机に男が一人座っていた。


 「座りな」


 そう促され、俺は椅子に腰掛ける。机一つと椅子が二つ、取り調べ室みたいな部屋だな……入ったことないが。


 「俺は《タルタロス》の赤軍管理部長、トランゼン=マグワイアだ。よろしくな、坊主!」


 坊主って歳でもないぞ俺は……

 トランゼンと名乗った男は、銀色に見えるグレーの髪をオールバックにして、物凄く屈強そうな身体をしている。

 歳は50くらいか?


 「俺は、赤羽智也アカバネトモヤです。よろしくお願いします。」


 「アカバネトモヤ……変わった名前だな?」


 「あ、名前はトモヤです」


 「奴隷なのに家名があんのか?村を焼かれたとか言ってたけど、貴族のボンボンだったか」


 面倒くさいので話を合わせておこう。


 「まあいいトモヤ、まずは初戦をよく戦った。これでお前は正式に赤軍のグラディエーターとして認められる」


 「赤軍?グラディエーター?」


 「ああん?何も知らねえのか?仕方ねえ、教えてやる」


 やれやれと肩をすぼめて首を振る。アメリカのホームドラマみたいな動きだ。


 「いいか、ここ《タルタロス》は王都最大のコロシアムだ。グラディエーター……戦士たちはそれぞれ、赤軍と青軍に分けられる。普通のコロシアムにはこういった軍制度は無いんだがここは特別だ。ここまでいいか?」


 このおっさん、面倒見が良さそうだな………


 「はい、大丈夫です」


 「グラディエーターは敵対軍閥のグラディエーターと戦いポイントを得る。ポイントについては後で説明するぞ。基本的に相手を殺すか戦闘不能にすることが勝利条件だが、殺した方がポイントも高いし客も喜ぶ」


 野蛮なことだな、というか殺さなくても勝てたのかよ……いや、あの時は仕方なかった。これも生きるためだ、盗賊のおっさん……本当にすまん。


 「ポイントを獲得することでランキングが上昇する。ランキングは派閥ごとに定められていて、上にいけばいくほど色々な恩恵が受けられる」


 「具体的にはどういった恩恵なのでしょうか?」


 こういったことはしっかりと確認しておかないとな。


 「そうだな、一番有用なのは100位以内に入ることだ。王国からその身分が認められ市民権を得られる。そうなれば家だって買えるしグラディエーター以外の道も開ける」


 100位以内……つまり今の俺のランクはそれ以下ってことだ。


 「ああ、安心しろ、ポイント制って言っただろ?何百回も戦わなくても上がっていくさ。と言うか何百回も生き残れる世界じゃない」


 そうか、他のグラディエーターが死ぬとその分上がるんだな。俺は恐る恐る訊ねる。


 「ちなみに今の俺のランクはいくつなんですか?」


 「獲得ポイント2ポイント、1651位だ」


赤羽智也

ポイント 2

ランキング 1651位

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