第二十五話
戦闘がない説明会で申し訳無いです。
透が自信の身の上を語り黙り混んでから少し経った。
「自分から話して暗くなって申し訳ない……もう二年も経っているから大丈夫だ」
そう言って彼は顔を上げた。
元々家が嫌いで田舎を飛び出し、家族と疎遠だった俺には彼の悲しみはわからない。
だが12,3歳の少年にとっては心の傷は大きかったのだろう。それをこの二年、戦うことで癒してきたのだ。
「俺の方こそ、嫌なこと思い出させて悪かったな」
「気にしないでくれ。とりあえず、何か聞きたいことはあるか?」
まあ聞きたいことは山ほどあるが……
「まずスキルについて幾つか教えてほしい。噂ではお前は『神々の魂』ってチートスキルを持ってるって聞いたんだが」
「チートスキル……まあそうだな。確かにそのスキルを持っている。守秘義務を守らない神官のせいでラグノリアどころか世界中に広まってしまったんだ」
「それってどんなスキルなんだ?発動条件とか」
「まず、神々って名前だが、これは7つの属性を持つそれぞれの神のことを示しているんだ」
「7つの属性ってのは?」
「その辺のことはまだ知らないか。火、水、風、土、雷、光、闇、この7つだ」
「あれ?そうなのか、てっきり氷があるものだと思ってたよ」
フェネクスに乗っ取られた後の最初の試合が【氷雪の魔術師】とかいう奴だったとベルゼから聞いた。
「魔法適正としては『氷魔法』も存在する。だがこれは水と風の亜種属性と見なされていて、7属性には劣るんだ。他の属性にも亜種が存在する例えば火と土の亜種で溶岩魔法とかな」
亜種というより混合属性って感じだな。
「じゃあ、回復魔法は?光属性か?」
「いや、回復魔法はそれ単体で存在していて、属性に含まれない。言うなれば無属性みたいなものだな。かなり希少で扱える人間はほぼいないらしい」
「でも勇者である透は使えるんだろ?」
「ああ、そちらのティファさん程強力ではないけどな」
勇者補正、改めて卑怯だ。透が嫌な奴だったら間違いなく嫌いになる自信がある。
「話を戻そう。俺は7つの属性の神々をそれぞれの感情で魂スキルとして呼び出せるんだ。さっきの属性に即して言うと怒り(火)、悲しみ(水)、喜び(風)、恐れ(土)、欲望(雷)、愛情(光)、憎悪(闇)、こんな感じだな」
ふうん、儒教的な感情の分類なのかな?
「光は愛情って、トールさんまさかティファさんを……?」
ダリエスが何やら興奮気味だ。
「いや、俺は訓練して、そこまで感情を変化させなくても、自然に任意の魂を呼び出せるようになった」
「そ、そうですよね、僕らに対して愛情で守ったと言うのも可笑しな話ですもんね!」
なんだこいつ?ティファも何やらホッとしている。
それにしても7つの神か……やっぱりチートじゃねえか。
きっと最終形態は全属性一斉解放なんだろう。
「じゃあ、他のスキルについて質問だ。こっちに転移したばかりの頃のスキル構成って覚えてるか?」
「ああ、初めて協会に行ったときは……」
透曰くこんな感じだ。
トオル=サカガミ
発動型
『雪月風花』
常時発動
『全能力向上2』『成長補正5』
魂
『神々の魂』
はい、余すところ無くチートです。ありがとうございました。
なんだよ雪月風花って、どんな技だよ、必殺技かよ……
「すまない智也さん。拗ねないでくれるとありがたいんだが……ラグノリア王が言うには、『勇者とはそういうものだ』だそうで……きっと神様がこの世界で不自由しないよう与えたんだと思う」
俺なんか悪魔に呪い一個プレゼントされただけだぞ。
「逆に俺は智也さんを凄いと思う。向こうにいた頃と変わらない身体能力のまま生き残って、ここまで強くなっているんだからな。運だけでどうにかなる話じゃないだろ」
「俺の場合はスキルより人に恵まれた感じだな」
実際、ティファが居なければ路地裏で死んでた……いや、路地裏には行かなかったか。少なくとも二戦目には死んでたと思うし。
ダリエスやラーナと修行しなければそのあとに死んでいた。
最近増えたおっさんの知り合い数人にも感謝してる。
「それはきっと、智也さんの人柄によるものさ」
「そんなフォロー入れるくらいなら、俺にも『全能力向上2』をくれ」
「フォローじゃないんだけどな。俺はこの世界で孤独なんだ。グランドチャンピオンになってから一層人が寄り付かなくなってしまったし、こんな風に話すのも久しぶりなんだよ」
彼は照れたように言う。
まあ悪い奴ではないよな、なんなら修行とか手伝ってくれたら勇者補正で俺も強くなれないだろうか。
「僕からも質問していいかい?君の魂スキルについて」
「ああ、構わないよ」
「君は今、何体の悪魔と契約を交わした?」
透の目付きがどこか鋭くなる。
「正式には1人、『冥界の女王ベルゼ』だな。俺を乗っ取った『不死鳥フェネクス』とは、【緋色の魔女】ラーナに殺されかけた時に仮契約をした。まさか乗っ取られるとは思わなかったけどな」
――ガタッ
奥で静かに聞いていた二人が飛んできた。
「トモヤ!!」「トモヤさん!!」
二人して目を合わせ、ティファが言う。
「ラーナちゃんのこと、覚えているんですか!?」
何だ急に……
「当たり前だろ?俺があいつを忘れるわけない」
ああ、あの焼き鳥野郎が記憶喪失ってことにしてたんだったな。
「すまん透、ちょっと話を中断して、こいつらにラーナって女の子の事、説明していいか?」
「もちろん、構わないよ」
俺は二人に心象世界であったことを話した。もちろんキスの事とかは隠したけどな。おじさん犯罪者扱いされたら泣いちゃうから。
「そう、ですか……トモヤさんとはお別れ出来たんですね」
「ラーナさん……」
二人とも落ち込んでいる。まあ仕方ない、2ヶ月とはいえ、かなり濃密な時間を共にした仲間だ。
「でも、トモヤは何だか落ち着いてるね?」
「ん?ああ、まあな」
自分でも不思議だ。
ラーナとの別れの後、俺は悲しくて死んでしまいたいと思っていた。
だが、もう一度目覚めた時、もちろんラーナの事を再認識してやるせなかったが、次第に何だか晴れ晴れとした様な気持ちになっていった。
『あいつの分も前を向かなきゃいけない』
そんな気持ちにさせられるのだ。きっと俺の心象世界のどこかに、消えてしまったラーナが存在しているのだと思う。
「まあ、一番仲の良かったトモヤがその調子なら、彼女も喜ぶよね」
「そうですね!私達も、ラーナちゃんの分まで頑張りましょう!あと、今のラーナちゃんとも仲良くしてあげて下さい、二人とも!あ、トールさんも今度会ってみて下さい、良い子ですよ」
「はい、いつかお邪魔させてもらいます」
「あ、私にも敬語は使わなくて良いですよ?」
「いや、ティファさん自身も敬語じゃないですか。だからこれでお願いします」
どうやら透は話す相手の調子に合わせる方がやりやすいようだ。
「さて、誓約スキルについてだけど」
透の空気が先程の鋭いものに戻った。
「智也さん、【緋色の魔女】……ラーナという人との戦闘について、詳しく教えてくれないかな?」
「ああ、構わないぞ」
俺はラーナ、いや【緋色の魔女】との戦闘を事細かに話した。
「……なるほど、まるでロボットの様な話し方だね。恐らくラーナさんは『同化現象』が進行したんだろうと思う」
「『同化現象』?」
「ああ、誓約スキルを長年も使用した契約者は悪魔にその人格の殆どを乗っ取られるんだ。先程のフェネクスの一件も、少し特殊だけど同化現象と見ていいだろうね。同化が進み過ぎると、仮に戻れたとしても人格の崩壊や、悪ければ死ぬ事もあるんだ」
「待て、ラーナは誓約に目覚めて2ヶ月と言っていたぞ?同化現象が起こるにしてもおかしくないか?」
「そこが問題だね。彼女は誓約使用の対価に記憶を失う……そこに何か人為的なものを感じないか?同化が起こる時期もその程度も不自然さしか無いんだ。その対価すら誰かに仕組まれたものかもしれない」
あの子が消えたのが人為的なもの?誰かによって引き起こされた?
悲しみは吹っ切れた。しかし、この内側から来る感情はなんだ?
これは怒りだ。激しい怒り。
「俺は、その人物……と言うより組織に心当たりがある」
――ドンッ!!
俺はこらえきれず壁を思い切り殴った。
「どこのどいつだ!!その組織ってのは!!」
「と、トモヤさん!落ち着いてください!」
「そうだよトモヤ!怒るのは分かるけど、ここは冷静にいこう」
二人が俺を宥める。
「すまない、取り乱した……続けてくれ」
「ああ、恐らくラーナさんに誓約を施したのは『聖銀教会』……神を崇拝し、悪魔の滅亡を望むカルト教団だ。ほぼ調べはついているし間違いないと思う」
悪魔の滅亡を望む?
「じゃあなぜそいつ等が誓約を結ばせるんだ?」
「これは推測でしかないけど、恐らく悪魔を降臨させその力を世に知らしめたいんだと思う。そうすれば民衆は恐怖して悪魔殲滅という思想に賛同する者も現れるからな」
なるほど、マッチポンプを仕掛けたい訳だ。
「智也さんも恐らく奴らに目をつけられている。【緋色の魔女】との戦いで尋常でない力を見せてしまったからな。そこで智也さんに提案だ。俺と、『聖銀教会』を殲滅しないか?」
迷う理由など無く、俺は透に協力を申し出た。




