第二十二話
風邪で寝込んでおりました。
更新遅れてすみません。
「あなたは、誰ですか?」
――えっ?
理解が追いつかない。
俺は自身の胸を見る。そこにあるナイフ、それを刺したのはこの世界に来て、初めて守りたいと思った女の子……ティファだ。
痛みがジワリジワリと込み上げてくる。
本来なら叫び出す程の痛みなのだ、しかし目の前の光景に脳が麻痺してしまい、叫び声を上げることすら出来ない。
「な、何を……言って……ティファ?」
俺は目の前の少女に手を伸ばす。彼女の強い瞳には狂気など宿っていない。つまり、何かの確信を得て俺を刺したのだ。
わからない、何が起きているんだ……?
「本当のトモヤさんを何処へやったのですか!」
「かはっ、何を言って……るんだよ……」
喉の奥から溢れてきた血を吐きながら、目の前の少女を見る。
頼む……回復魔法を掛けてくれ……このままでは死んでしまう……
「あなたは試合で人を殺す時、とても楽しそうに笑っていました。トモヤさんは、試合相手を殺す事になっても、笑ったりなんてしません。あなたは誰ですか?」
笑う?そんな、俺が人を殺す時に笑っている?ああ、そうか……『僕』ったらついつい本音が顔に出ちゃってたか……
――何となく嫌な予感がする。
ダリエスは来た道を全力で戻っていた。
最近のトモヤに最も不信感を抱いていたのはティファさんだ。
僕もおかしいとは思っていた。余りに好調だし、何というか血の気が増えた気がする。
だが、話している感じはいつも通りだし、記憶の混乱が何か作用しているのだと思った。
だが今は妙な胸騒ぎがしてならない。早く戻らなければ!
――キャアア!!
悲鳴だ!だが、ティファさんのものじゃない!
悲鳴の聴こえた方へ向かうと一人の女性が座り込んでいた。
「どうしました!?」
「あ、あっちの広場で奴隷が女の子を殺そうと……」
何だって!?まさかトモヤが……!
僕は全力で地面を蹴った。
「あーあ、せっかく僕、上手くやってたのになぁ……君もそう思うでしょ?笑わなかったら、ほぼ完璧にお兄さんだったよね?」
穏便に済ませたかったけど通行人にも見られちゃったな。
僕は目の前の少女の首を掴み、持ち上げながら訊ねる。
苦しそうにもがく彼女は、それでも『僕』を睨むのを止めない。
「あ、なたは……誰、なんですか!」
「何度も聞かないでよ、僕は君らが言うところの『悪魔』ってやつさ」
「ベル……ゼ?」
「あー、違う違う、それは僕のご主人様。彼女は今トモヤのお兄さんとお休み中なのさ、だから僕が空っぽの身体を頂いた訳」
この子、全然恐怖とか感じないのかな、少し痛めつけるか。
僕は彼女を力任せに放り投げる。
――ガシャン!!
「うっ!!けほっけほっ!」
あらら、痛そうだね。
「ライトヒール……」
「そういえば君、回復魔法が得意なんだっけ?僕も似たような事が出来るんだよ、ほら見てて!」
僕は胸に刺さったナイフを引き抜く。心臓を掠めているね、僕を追い払ってお兄さんを治すつもりだったのかな?
僕は血の吹き出す穴を手で抑え、ゆっくりと離す。
「ほら、治っちゃった、凄いでしょ?」
穴も痛みも綺麗さっぱり無くなる。彼女凄く驚いてる、良い反応だね。でも……
「あのさあ、君、もう少し怖がったり絶望したりしてくれないかな?その方が食べ甲斐があるんだよね」
「食べる……?」
「そそ!僕はね、人間の命を食べて、自分の命を繋ぐ不死鳥なのさ。別に僕自身が不死な訳じゃなくて、皆に貰ってるの。知ってた?命ってね、絶望してる時が一番美味しいんだよ?」
「そうですか、残念ですが、私は絶望なんてしません!」
――チャキッ
彼女はナイフを構える。へぇ、戦えるの君?トモヤのお兄さんにそんな姿見せてなかったじゃないか。
「ホーリーライトニング!」
――キィン……バシュ!!
彼女の手から白い稲妻が放たれた。攻撃魔法も使えるのかい、凄いね。
「ダークシールド」
光属性の魔法が僕の闇魔法に激突し、互いに消滅する。
「ラーナさんと戦った時の……あなたの魔法だったんですね」
「そうだよ、僕らは相性が悪いみたいだね、闇と光、打ち消し合うしか出来ない。互いにジリ貧だ、こんな無意味な戦いはやめないか?」
「そうでもありませんよ?」
――ズドンッ!!
「かはっ!」
「ティファさん、すみません!遅くなりました!」
ひ弱で嫌になっちゃうな、お兄さんの身体……知覚能力も低いし、ベルゼはこんな奴の何処が気に入ったんだろう?
――やっと追い付いた。
先程別れた場所から少し進んだ所にある広場で、ティファさんと『何か』は戦っていた。
良かったティファさんは無事だ。というより魔法で戦っている、本当に唯の闇医者なんだろうか。
それよりトモヤの方だ。明らかに『あれ』は別人だよね……
どうやら僕にはまだ気付いていない、チャンスだ!
――タッ!
僕は全力で地面を蹴り奴の後ろに回り込んだ。ティファさんとの会話に夢中で気付いてないな。
最悪、全力で攻撃してもティファさんが居るからトモヤの身体は平気だろう。
――スキル発動、『尖拳』!!
槍のような一撃を奴の背に向けて全力で放つ。
ズドンッ!!
「かはっ!」
よし、手応えあった!
奴は数メートル程吹き飛び、うつ伏せのまま動かなくなった。
「ティファさん、すみません!遅くなりました!」
「ダリエス君!来てくれたんですね!」
ティファさんの顔が明るくなる。得体の知れない敵に不安を感じていたのだろう。
「これはどういう状況ですか?『あれ』はトモヤじゃないですよね?」
「はい、あの人は悪魔だそうです。『不死鳥』って言っていました」
「不死……ですか……」
「あーやだやだ、二人とも血の気が多いよ?お兄さんの身体なのにそんな乱暴していいわけ?」
平然と不死鳥は起き上がる。
背骨が折れて、上半身を起こせていない。それなのに立ち上がれるのはどんな原理なんだろう。
――ゴキッゴリッ
不快な音が聴こえたかと思うと、奴は何事も無かったかのように直立した。
「一瞬で治るなんて……回復魔法ですかね?」
「いえ、あれはそう言う類のものではないと思います」
「ですよね……」
「僕さあ、別にまだ君らを殺そうとか思ってないんだよね。もっと仲良くなってさ、突然僕に裏切られた時の絶望を味わいたい訳、わかる?」
「全然わからないね、それに、結局殺すつもりなら僕らも尚更引き下がれないよ」
「そっかあ、じゃあ仕方ないね、ここで死んでもらおかな。ダークネスソード」
――キィィィィン……
奴の手に黒い光が凝縮し、何も無かった右手に細身の黒い剣が握られる。
ラーナさんのレイピアみたいな魔法なんだろうか。
――ヒュッ
消えた!?
奴の姿が瞬時に掻き消える。
「まずは君からね」
――ザシュ!
聴こえた声だけを頼りに後ろを振り向く。
「あっ……」
黒い剣は、ティファさんの喉を正確に穿いていた。
「これで、魔法も唱えられないよね?少ししたら死んじゃうだろうけど、長持ちするようにはしてあげたから、ちょっと待っててね」
――シュッ
ティファさんの首に空いた穴から赤い液体が流れ出す。
「あ……あ……かはっ」
声を出せないティファさんが喉を抑えながら座り込む。
「ティファさん!!」
出血は少ない、恐らく血管を傷つけず声帯だけを潰したのだろう
だけど、このままではまずい、早くなんとかしないと……
「余所見が長いんじゃない?ダリエス君!」
――ヒュンッ!ガキンッ!ブシュッ!
咄嗟に左手の手甲で受け止めたが、鋼鉄を穿って腕まで持っていかれる。
「ぐっ!」
「あはは!受け止めるなんて出来ないでしょ?さあ、絶望してよ!」
「誰が!」
――ビュン!!
回し蹴りを放つが軽々と避けられる。
誓約スキルってこんなに強いのか……一度しか戦ったことは無いけど、あの時は僕の方が圧倒的に有利だった。
今はトモヤ自身の自力が身についたせいで、やたらと強くなっている。
「勝てないかな……僕じゃ」
「うーん、そうだね、勝てないかな、君弱いし。あ、でも精神力は立派だよ、君もティファちゃんも。だけどさあ、僕的にそれはつまらないんだよね、だからおしまいにしよう。ダークネスウェーブ」
――バシュウウウ!!
漆黒の波が奴を中心に広がる。広場にある露店や噴水が飲み込まれ、形を失う。
くそっ!
僕は咄嗟にティファさんを抱え込む。
せめてティファさんだけでも……!!
――キィィィィン!!
甲高い音が聴こえた。視界が白く染まる。なんだ?
「大丈夫かい?」
見ると黒波は消滅し、光の膜が僕らを包んでいる。
目の前には、何度か遠目で見たことのある黒髪の少年が立っていた。
「勇者トール……」
「うーん、俺は透なんだけどな……」
ポリポリと頬をかく少年は、現グランドチャンピオンその人だった。




