第二十話
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あれから、2週間が経過した。
ダリエスによると【緋色の魔女】は魔力暴走と言う現象で消え去ったことになっているらしい。
俺は偶然魔女に勝利できた事から【豪運の奴隷】とかいう甚だ不本意なリングネームを付けられた。
まあ【緋色の魔女】……ラーナという少女と戦った記憶はこれっぽっちもないから、リングネームにも文句は言えなかった。
あと変わった事と言えば、スキルか。いつの間にか魔法耐性とかリフレクトマジックを覚えていた。ダリエスとの訓練でか?よくわからん。
あと、ラーナは『ルーエ』の店長の娘らしい、確かに店長と同じ赤い髪をしている。娘がいるとは思わなかったよ、あれだけ若いし。
何やら超短期間の浦島太郎気分を味わっている俺に次の試合のオファーが届いた。
相手は【氷雪の魔術師】、氷魔法使いで、自称【緋色の魔女】のライバルらしい。ランキングは1021位、俺よりランキングが上の魔術師とか、かなり厄介だ。
ちなみに俺は【緋色の魔女】を殺害したことになり、ランキングは1189位まで上がった。
知らないところで上がってるのは余り喜べないな。
あ、そうそう、滅茶苦茶になってしまった《タルタロス》も2週間の間で随分元に戻った。さすが王国最大のコロシアムだ。
2週間の内に今期のセカンドステージとやらに進んだらしく、ダリエスも試合参加が出来るようになったらしい。よかったな。
試合当日。
――ドクッドクッドクッ
試合前の緊張か鼓動が早い。変だな?こんなに脈が弱かったか?まあでも普通かな。むしろ前がでか過ぎたんだ。
俺はいつの間にか借金して買っていた鎧と盾を見る。
魔女対策で買った事になってはいるが、金貨15枚って高過ぎだろ。
まあ【氷雪の魔術師】と戦うのに役立ちそうだから良いか。
『レディースアーンドジェントルメーン!!ようこそ《タルタロス》へ!!やっっっと!!復旧致しました!!そして今日の試合は大注目!!赤軍はなんと【緋色の魔女】を打ち倒し闘技場を破壊した張本人!!【豪運の奴隷】だぁ!!』
――ワアアア!
――ブウウウ!
歓声とブーイングが飛び交う。前回の試合で魔女に賭けて破産しかけた奴がやたら多いのと、俺に賭けて一攫千金した奴も少なからずいるのとで、感謝も罵声も浴びせられまくっている。
「今日は壊すなよー!」
「今日も頼むぜ豪運さん!!」
「お前に全財産賭けたんだからな!!」
知るか、勝手に破産しちまえ。負けるつもりはないけどさ。
『対する青軍、自称【緋色の魔女】の終生のライバルにして、自称伝説の魔術師!!さらにリングネームすらも自称【氷雪の魔術師】だあ!!』
リングネームすら自称ってどういう事なんだ、自称できるものなのか?
『自称ばかりですが、実力は本物!【豪運の奴隷】は自称最強魔術師を倒せるのか!?レーッツ!!ショーウ!!ターイム!!』
――ガシャン!!
何時ものように鉄格子が跳ね上がる。
何だろう、肌に少し冷気を感じる。
「こんにちは、【豪運の奴隷】さん」
「え、ああ、どうも」
試合中に話しかけてくるなんて珍しいな。
眼鏡に黒髪、ひょろ長い感じの男だ。如何にも魔法使いって感じの白いローブを羽織っている。
「貴方は、自分が何をやったのか分かっているのですか?」
ん?
俺は構えを解かずに応じる
「なんの話だ?俺、あんたに何かしたか?」
「何かしたか?何かしたかですって?本当に神経を逆撫でるのが得意な方ですねぇ!」
何か眼鏡の奥の目が怒りに歪んでいる。会って二言で神経逆撫でるって、そんな挑発スキルは持ってないぞ。
きっとあの眼鏡の頭ん中だけで会話が進んでいるのだろう。
「【緋色の魔女】が最強だと抜かしていた愚か者共に、私の能力を証明する機会を、貴方が!奪ったんですよ!!」
ああ、そういうことか。自分が倒したかったと。
恐らく、【緋色の魔女】を倒した俺を、さらに自分が倒すことで世間に認めさせたいんだな。でも……
「それなのに貴方は!!【豪運】とかいうリングネームを自ら名乗り!!【緋色の魔女】の実力を貶めた!!」
名乗ってないぞ、まあ覚えてないし悪かったと思うよ?
「じゃあ俺が戦うよりも前にとっとと挑めば良かったじゃないか」
眼鏡の手がわなわなと震えている。
「戦うために軍閥を変え、セカンドステージを待っていたのです……それなのに貴方が先に……だから私はもう一度青軍に移籍し、貴方を倒すため舞い戻ったのです!!」
執念が凄いな。てかそろそろ戦いませんか?お客さんも怒りそうよ?
などと考え、チラッと客席を見る。何やらざわついている。
『お聞きでしょうかみなさん!!なんと、【氷雪の魔術師】と【豪運の奴隷】、二人には深い深い因縁があるようです!!』
――ワアアア!!
歓声が上がる。
おい、深い因縁なんて無いだろ、向こうがいちゃもん付けてきてるだけだ!
「観客も私の復讐劇を称賛している!!さあ行きますよ!!氷漬けになり後悔するが良い!!」
――眼鏡が地を蹴り俺から距離を取る。
「アイシクルレイン!!」
――コォォォ……
上空に冷気が集まったかと思うと、氷の矢が無数に降ってきた。
やっぱり、実力は本物か!
俺は盾を上空に向け、氷の矢を迎え撃つ。
視力向上によって一本一本の軌道がよく分かる。
――ガ、ガガ、ガキンッ!
身体に当たる矢だけを最小限の動きで防ぎ、叩き落とす。
「はっ!!そうでなくては!!アイスニードル!!」
――キィィン、ビシュッ!!
眼鏡が掌で氷の大針を生成すると俺に向けて放つ。
まずい、アイシクルレインの効果時間がまだ終わっていない、これでは大針を防ぐ手段が……!!
――ザシュ!!
っと肉を貫く音が聞こえるかに思えた、だが現実には……
――ガシャァン!
氷の砕ける音が響く。
「なんだと!?」
眼鏡の顔が驚愕に彩られる。
そりゃそうだ、俺だって驚いている。無防備な脇腹に氷の大針を食らったのに、大針の方が砕けたのだ。
ランバルトの鎧半端ねえ!!まあ恐らく魔法耐性も効果を発揮しているんだろうが。
「ひっ卑怯だぞ!!そんな鎧!!奴隷の癖に金に物を言わせた戦い方など!!」
奴隷だから卑怯なのか?自分で稼いだ金で買ったんだから文句を言われる筋合いはない。
買った覚えもないしローンだけど!
「こうなれば、フリージングボルト!!」
眼鏡の手から氷の玉が放たれる。
フリージング……触ったら凍りそうだな。
よし、それならここで仕掛ける!
――スキル発動、『リフレクトマジック』!!
俺は地面に盾を押し当て光の壁を発生させる。
氷の玉が反射し、男の胴体に命中した。
「ばかな!?反射スキル……だと」
男は首から下が氷漬けになり戦闘不能となった。
よし、これでおしまいかな。
俺は構えを――
――殺せ……!
何だ?
俺は剣を構え突進する。
――スキル発動、『狼撃』!!
待て、狼撃!?そんなもの使ったら……
眼鏡の男に盾で突進し弾き飛ばす。
――ガシャン!!
固まっていた氷が砕け、男が投げ出される。
仰向けに倒れた奴のマウントを取り、両手で剣を構え――
「ま、待って!殺さな――」
――ザシュ!!
俺は【氷雪の魔術師】の首に剣を突き立てた。それはまるで狼が首に食らいつく様にも見える。
男は首を刺され暫くもがいていたが、やがて涙を流しながら動かなくなった。
『強烈な一撃が炸裂したああ!!【豪運の奴隷】、【氷雪の魔術師】を殺害し、2ポイント獲得だああ!!』
――独房
俺は自分の独房に戻っていた。
さっきのは何だったんだ、別にあの男を殺すつもりは無かった。氷漬けの時点で勝敗は決していたからな。
少し待てば試合結果が実況されていただろう。
だが俺は間髪入れずに狼撃を放った。
直前に聴こえた声に促されるまま殺してしまった。
身体は自由だったし、俺の意思でやったんだろう。
今さら殺したくないとかそんなことは言わないが、今回のは明らかに過剰な攻撃だった。
自分で自分を制御出来ていない?これがルクセールの言ってた誓約スキルってやつなのか?
いや、今日がおかしかっただけかもしれないだろ、まだ相談はしなくて良いさ。
不安を募らせながら、俺は思考を放棄して眠った。
今回から新章突入です。




