第二話
初投稿です。
誤字脱字はちょっとずつ直していけたらなと思います。
階段の上から歓声が聴こえる。ここを上がれば非日常の殺し合いが始まる。
今まで一度も命のやり取りなんてしたことはない。当たり前だ、平和な日本に暮らしていたんだからな。
だが、俺は何としても生き残らなきゃならない。何故かは分からないけど、そう強く感じているんだ。
握りしめた剣と盾がじっとりと汗で濡れている。
滑らないか不安だな……そんなことを考えていたら階段の最上部に到達していた。
目の前には鉄格子の門があり、奥には広場が見えている。
コロシアムって言うくらいだ、よくある中世の円形闘技場なんだろう。
遠くには目の前にあるのと同じような鉄格子の門が見える。きっとあの中にはこれから俺と殺し合う運命の人間がいるに違いない……
ーードクンッドクンッ
心臓の音がやけに早く近く聴こえる。
落ち着け、大丈夫だ。夢にまで見た異世界転移だぞ?きっと俺は強い。そう信じるんだ……
『レディースアーンドジェントルメーン!ようこそ《タルタロス》にお集まり頂きました!ただいまより行われますは、本日の前座試合!』
突然大音量で放送が流れる。試合の実況ってことか?このバカデカイ声は機械なのか魔法なのかもわからないな。
というか俺たちは前座試合なのかよ。バカにしやがって……
『片や村を焼かれ奴隷となった哀れな男!片や盗みを働き捕らえられたバカな男!軍配はどちらに上がるのでしょうか!』
異世界云々は秘密なのか?俺は恐らく村を焼かれた方なんだな……そうだと信じたい。
『前評判を見る限り盗人がやや優勢か!?皆様、チップは賭け終わりましたでしょうか!それでは、新参者同士の残酷な戦いの幕を上げましょう!レーッツ!ショー!ターイム!!』
司会の男が言い終わると同時に鉄格子の門が勢いよく上がる。目の前には円形の広場が広がっていて、地面は砂である。広場の中程には4つの大きな石の柱が建っている。
俺は広場へと足を踏み入れた。向こうからも誰か出てくる。男……年齢は30代ってところだろうか?俺よりは老けている。
猫背気味に歩いてくるその両手には、ナイフが握られている。……短剣の二刀流か。ゲームで言えばまさに盗賊って感じだ。
俺は今からこのおっさんと殺し合うのだ。負ければ死ぬし逃げても死ぬ。生き残るには勝つしかない……
ーータッ!
男が急に走り出す。奴は奥のデカイ柱の影に隠れた。俺は盾を構えながらゆっくりと進む。
急に出てきてナイフ投げるとかしてきそうだな。じりじりと距離を詰める。
俺は4本ある柱の手前2つの間まで歩みを進め、そこで立ち止まった。
ーーブウウウウ!
観客席からブーイングが聴こえる。
「さっさと殺し合えー!」
「てめえらの試合なんざ見てても面白くねえんだよ!」
「剣の人頑張ってー!」
「そんなひょろい奴なんてとっととやっちまえ!」
応援するような声も聴こえるがどうせチップを俺に賭けた奴だろう。
ーードクンッドクンッ
いつあの男が飛び出してきてもおかしくない。鼓動が高まり辺りのブーイングもどこか遠くに聴こえる。
きっとあの実況が色々と騒ぎ立てているんだろうが、そんなの気にならないくらい集中し、緊張している。
ーーザッ!
出てきた!男は柱の影から素早く飛び出ると俺に向かって一直線に走ってきた。
幸い、漫画のようにあり得ないスピードで突っ込んでくる訳じゃない。これなら俺でも対処できそうだ。
視界が隠れないように盾を構えながら男を見る。……男は笑っていた。
今まさに始まろうとしている命のやり取りに興奮しているんだ。
ーーガンッ!
男の短剣を盾で受け止める。そんなに力は強くないのか衝撃は余り無い。
2本目で攻撃されるのは厄介だ、俺は剣を振りかぶる。
斬るぞ、斬るんだ……人を。恐れるな、生きるためだ!
ーーバキンッ!
男が弾かれたのと逆の短剣で俺の剣を受け流す。上手いなこいつ……!
俺はさらに踏み込んで男に斬撃を……!
ーーサクッ!
なんだ?左足に違和感を感じる。目の前の男が距離をとって笑っている。俺は左の大腿部に目を落とした。
深々と刺さる鉄の塊……溢れ出す赤い液体……
その光景を見た途端、猛烈な感覚が込み上げてきた。
熱い!!いや冷たい!?わからない、とにかく激しい感覚が濁流となって押し寄せる。
「うぐ!ああああああ!!」
俺の絶叫が木霊すると会場から大きな歓声が沸き上がる。
『ああーーっと!これは決まったかーー!?盗人の投擲した短剣が見事に奴隷の左足を捉えたーー!!』
余りの痛みに意識が遠退く。ああ、やっぱりな……俺は特別なんかじゃなかった。夢の異世界に来ても、こんなやられ役っぽい盗賊に一撃も与えられず死ぬんだ……
盗賊の男が醜悪な笑みを浮かべながらこちらに走ってくるのが見える。距離は10メートルもないだろう。あと数秒で俺は致命傷を受けるんだ。
楽に死ねるように刺してくれよ……おっさん。悪人面の盗賊にそんなことを願う。
死ぬ……死ぬ……死ぬ……シヌ……シ……ニタクナイ……
停止寸前の思考に火が灯る。
イキル……イキル……生きる……生きるんだ……生きろ!!!
ーードクンッ!
心臓が大きく鼓動した。
俺は走ってくる盗賊に向けて足を一歩踏み出した。奴は動けないと思っていた俺が急に動いたことに動揺を見せたが、それでも構わず短剣を振りかざす。
お返しだ。俺は盾を捨て、左大腿部に刺さった短剣を引き抜くと、奴の足に向けて投擲する。
盗賊の持つ短剣が俺の顔を掠めるのと同時に、俺の投げた短剣が奴の足を貫く。
みるみる盗賊の顔が歪んでいくが、そんなことはお構いなしに右手に持った剣を振りかぶり首筋に当てた。
ーードシュッ!
錆びた剣では首を落とすことは叶わず、男の首の中程で剣が止まっていた。それでも確実に失血死するレベルの深い傷だ。
俺は剣を手放すと、男から離れる。最期の力で襲われても嫌だしな。
男は足と首に鉄の塊をぶら下げたまま、ガクガクと震え倒れた。
『おおーーっと!決まったああーー!見事な逆転劇を奴隷が演じてくれましたーー!次の試合からは敬意を込めてリングネームで呼ぶことにしましょう!』
ーーワアアアア!
歓声が頭に響く。なんて下衆な連中なんだ……心底嫌気が差す。
急に大腿部の痛みが込み上げてきた。今まで痛くなかったのはアドレナリンが出まくってたからだろう。
俺はバカみたいに血が流れる足を引きずりながら、大歓声のコロシアムを後にした。