第十九話
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ここはどこだ?俺は何をしてた?
「あ、トモヤ!トモヤも死んじゃったの?」
「ラーナ?何してんだこんな所で」
「わかんない、なんか浮いてるし、私死んじゃったのかなって」
目の前の赤髪の少女は、どこか悲しげに笑う。
死んだ?俺もラーナも?何故だ、思い出せない。
『こんにちは、炎の魔神マモンの契約者、ラーナさん』
目の前に現れたのは何度か見たことのある顔。女神のような出で立ちの悪魔だった。
「何でお前がここに居る。ベルゼ」
『ここは貴方の世界だからですよ、異界の契約者様』
ちょっと何を言ってるかわからない。
「トモヤ、あの美人誰?トモヤの恋人?やるじゃん!」
ヒソヒソとラーナが言う。容姿は美しいが、是非遠慮願いたいもんだ。
『ラーナさん』
「は、はい!」
急に呼ばれ、ラーナが姿勢を正す。
『貴方にこれまでのすべての記憶を戻しましょう。もちろん異界の契約者様にも』
「すべての記憶?何言ってんだ」
――突如、俺の頭の中に映像が流れる。
蒼い炎がコロシアムを染め上げる。中心にいるのは……そうだ、ラーナ!!
「相討ちで死んじまったのか?俺ら」
『いいえ、生きています。今は少し深い眠りの中という感じでしょうか?』
悪魔がニコリと笑う。何笑ってんだ……
何にせよ、ラーナの誓約を止めることができたのか。
「わ、わたし……たくさんの人を……それにトモヤの事も……」
ラーナの顔が青ざめている。【緋色の魔女】としての記憶が全て戻ったんだ。
「ラーナ!聞け!お前は悪魔の契約に操られていたんだ!お前自身に罪がある訳じゃない!」
この言い分が苦しいのは分かっているが、それでも言わずには居られない。
「……大丈夫だよトモヤ」
意外とあっさり受け入れたのか?
「私ね……もう消えるみたいなの」
は?
「何を言って……」
「この記憶も魂も、炎の魔神、マモンが与えた仮染めのものみたい」
えへへっと彼女は笑う。なんだ?どういう事だ?
「早く目覚めて、本当のラーナに返さなきゃ」
『彼女の誓約は、その対価に記憶を失うのです。契約以前の記憶を失い、仮染めの人格が流れ込んだ。それが彼女です」
黙ってろ悪魔。お前の言う事など信じるか。
「何を言ってるんだよラーナ。一緒にルーエに帰って店長の飯を腹一杯食おうぜ?なんならまた護衛してやるから色んな所に行こう。今度はティファやダリエスも一緒だ!」
悪あがきなのは分かっている。
「ありがとトモヤ!トモヤは優しいよね、そんな所が好きだったんだな私」
「そ、そっか!それは嬉しいよ。俺もラーナの事、好きだぞ」
笑おうとしているのに涙が溢れる。本能的に別れが近い事を感じる。
「あのさ、こんな事お願いするの、恥ずかしいんだけど……ぎゅーって抱きしめてくれないかな?さっきも向こうで抱き締めて貰ったんだけどね、もっかい!なるべく大事にだよ?優しくだよ?最後だからね!」
笑いながら、照れながら、彼女の頬に雫が伝う。
「ああ、分かった……」
俺はそっと、触れただけで壊れてしまいそうな身体を抱き寄せる。
「あったかいね、トモヤ」
「ああ、あったかいな」
「会って1ヶ月だけど、私の一生の中ではほとんど全部だったんだ。トモヤと出会う、ほんの少し前に私は生まれたの」
「そう、だったんだな……じゃあ、俺がラーナと一番長く居た人間って事か、嬉しいよ」
「そう言ってもらえると私も嬉しいな。偽物の私だったけど、仲良くしてくれてありがとう。この気持ちは本物だったと思います」
ラーナの指先から光が溢れる。
「時間だね」
「何だよ時間って!これからもずっと一緒に居るんだろ!?」
「わがままだね、トモヤは。私より9つも歳上なのに子供みたい」
「ああ、どんなわがままだって言ってやるさ!お前もわがまま言って良いんだ!叶えてやる!」
ラーナの瞳からさっきより大粒の雫がこぼれ落ちる。
「あのね、ほんとはね、これからももっと、皆と、トモヤと一緒に居たかった」
「一緒だ、ずっと一緒だ」
俺には気休めの言葉を言うしかできない。
「あのね……最後に……キスしてくれないかな……」
少女は泣き顔を赤らめ『最期の願い』を口にする。
「お、俺からか?」
こんな時でも躊躇ってしまうだめな大人だ。
「当たり前でしょ!乙女に恥をかかせちゃダメなんだよ!」
俺は覚悟を決める。
俺の唇が少女に触れる……その瞬間、少女は形を失い、光の粒となった。
――ありがとう、トモヤ
「ラーナ……ラーナ!!行くな!行くなよ!!」
空に消えていく光を必死にかき集める。それが無意味な行為だと知りながら。
――しばらくして悪魔が口を開く。
『別れは済みましたか、契約者様』
「……黙れ」
『貴方は、少し誓約を行使し過ぎました』
「……だったら何だ、魂を食らって俺を殺すか?」
『そんな事は致しません。ただ、ほんの僅かな眠りにつくだけです』
急に眠気が襲って来る。止めろ、ここにはラーナがいるんだ。俺を……追い出す……な……
……ト……さん!……きて!トモヤさん!!
「かはっ!」
まるでずっと息を止めていたかの様に俺は大きく息を吸った。
頬は濡れていて、瞼が涙でくっつくような感覚がある。
「俺は……一体……」
「ラーナさんと相討ちになって、ティファさんが治療してくれたんだ」
ダリエス、よくわからんがお前とティファが助けてくれたんだな。ラーナ?
「ラーナって、誰だ?」
「何を言ってるんだよ、トモヤ」
「ラーナちゃん、起きてください!ラーナちゃん!」
ティファが俺の隣に寝転がる赤髪の少女を揺さぶり起こす。
誰だ?この子。何で知らない子と一緒に闘技場で寝てるんだ?
その闘技場もあたり一面焼け野原って感じだ。火事でもあったのか?石造りなのに。
「ん、ここは?ティファ先生?」
隣の少女が目を冷ました。
「お兄さんたち誰?私なんでこんなところにいるの?」
「ラーナちゃんまで何言ってるんですか!」
「え!?ごめんなさい!」
ラーナと呼ばれた少女は驚いて反射的に謝る。
「あ、ごめんなさい、ラーナちゃん、大きい声出したりしてしまって」
ティファが怒鳴るなんて珍しいな。
「ティファ先生、なんで私こんな所に居るのかな?確か六番街で買い出ししてた筈なんだけど……」
「ティファさん、この様子、二人とも変だよ……もしかしたら二人のスキルが関係してるのかもしれない。トモヤは闇魔法なんて使えない筈だし、とりあえずルクセールさんの所に行ってみよう」
俺と見知らぬ少女……ラーナだったか?はティファ達に連れられて下層七番街、ルクセールの教会に来た。
「おう、どうしたお前ら、揃いも揃って……」
「教えてください、ルクセールさん!」
「何でい坊主?急に怒鳴んなや!」
「トモヤに魂スキルが無いって話、あれ嘘ですよね!?ルクセールさんもさっきの蒼い炎を見ましたよね!?あれにトモヤとラーナが関わってるんです!何も知らないとは言わせませんよ」
蒼い炎?何言ってんだ、ダリエスの奴……おっさん困ってんじゃねえか。
「……なるほどな、さっきのは誓約か……分かった中には入れ」
俺たちは見慣れた教会に招き入れられた。
「こっちだ付いて来い」
ルクセールはそう言うと祭壇の裏手にある落とし扉を開けた。
――ガコンッ
くっさ!カビとほこりの臭いだ!倉庫か!?前にもこんなこと……いや、なかったよな?
腐った梯子を降り、明かりを灯す。目の前には悪魔崇拝用みたいな禍々しい祭壇があった。
「こんな場所があったなんて……」
ダリエスが驚いている。
「良いか、今から話すことはここにいる人間以外には他言無用だ、そうじゃなきゃ皆処刑されちまうからな?」
そんな話、聞きたくないんだが……
「……誓約スキル、そんなものがあったんですね」
ダリエスも初耳なのか。俺もだ。
「私も知らなかったです、お屋敷の本はほぼ全て読みましたけどそんな話は無かったと思います」
屋敷の本全部ってティファの奴、読書家なんだな。
「恐らく、ラーナって子の誓約スキルはもう消滅している。項目その物が無かった。だが、トモヤの方は違うみたいだ。一種の休眠状態と言う所だな。回復方法はわからんが、誓約スキルなんて回復しない方が良いに決まってる……」
何だよ、特別な感じでかっこいいじゃないか。勿体ない。
まあ悪魔との契約って中二病チックでダサくもあるけどな。
「わかりました、この事は他言しません。幸い、ラーナもトモヤも、ラーナの仮面が取れる前までしか見られていないから誤魔化せると思います」
そうして俺達はルクセールの教会を後にした。
この、胸にポッカリと穴が空いた様な感覚は何なんだろうか……俺はその疑問を忘れることにした。




