第十八話
沢山の人に読んでいただけて光栄です。
これからも頑張りますので評価、感想、お待ちしてます。
斬り落とした腕が再生している……炎を跳ね返したのに無傷……そんな考えも思考を掻き消すように一つの感情が魂を揺さぶる。
「……ラーナ?」
ローブと一緒に仮面も消え去った為、【緋色の魔女】の顔がよく見える。白い炎を身にまとう姿は、さながら【白銀の魔女】と言った所だろうか?
この1ヶ月間、ティファやダリエスと同じく、短くも大切な時間を共に過ごしてきた仲間……ラーナ。
過酷な異世界で心を許せた3人目の相手、まるで妹のように思えた大切な子。
『風魔法』で俺の修行を健気に手伝ってくれた少女。
その子が今、煉獄の炎を身に纏い、無機質な目をこちらに向け、静かに、だが確かな殺気を放っている。
「ラーナ、何やってんだよ……こんな所で……間違えて入ってきちまったのか……?」
間違えた?そんな訳があるか。
頭では冷静なつもりでも、口から出る言葉は現実を受け入れられていなかった。
「なあ、どうしたんだよ、ラーナ。ルーエに帰ろうぜ……?」
「脅威判定を更新します。モードファイナル」
まるで機械が喋っているかの様にラーナが冷たく言い放つ。
次の瞬間、俺の視界はまたもや色を変化させた。
視界を埋め尽くすのは……蒼。【蒼炎の魔女】……そんな言葉が頭を過る。
地球から見える恒星で、一番熱量が高い星は青白く見える。
そんな話を中学だか高校だかの地学で知った。
専門的に言えば違うのかもしれないが、少なくとも今、目の前の蒼い炎が致死の輝きを放っていることだけはなんとなくわかった。
「ブレイズレイピア」
――キィィィィン
ラーナの呪文に呼応する様に、レイピアが蒼く輝く。
――ヒュッ!
ラーナが消えた。
本来の俺なら見えていたのかも知れないが、思考の固まった俺に、ラーナの動きを捉えることなど出来なかった。
――パシュッ
熱々のフライパンに水を一滴垂らしたような軽い音が聴こえる。
「あ、ああ……」
一瞬、俺の体から蒼い光が突き抜け、消えていった。
見るとそこには、煮えたぎる地獄の穴が空いている。
何だこれは?自分の身体では無いようだ。自分の身体だとしたら、痛みに声が出るはずなのに、それすら出ない。
俺の左胸には穴が空き、灼熱が傷口を彩っていた。
――ああ、死んだ、ここが終着点だ。
何時もならここで強い鼓動が聴こえて、勝手に身体が動き出すんだ。
でもその心臓が貫かれた。
でも、この子に殺されるなら良いかな。むしろ呪いを解いてくれた事を感謝しながら死のう。
不思議と痛みも何も感じない、穏やかな気分だった。
『お兄さん、死んじゃうのかい?』
誰だ?
気付くと俺は、時が止まった世界にいた。
周りを覆っていた蒼炎も彫刻のように時を止め、音も何も聞こえなくなった世界。
目だけが動かせる。
そこに立っているのは青年だった。
金色の翼を生やす青年、誰だ?ムカつくほどイケメンだな。
『ベルゼに呼ばれたんだよ、力を貸せって』
ベルゼ?ならお前も悪魔か?
『僕はフェネクス、神であり悪魔さ。ベルゼに生み出されし下僕、不死鳥フェネクス。よろしくね』
今度はフェニックスか、もう何でもありだな。
『今回だけお兄さんを助けてやってくれって頼まれちゃってさ……面倒くさいよね?』
なら帰れよ、誰もお前を必要としてない。
『必要ないかあ、でもご主人様の命令だからさ』
俺はお前と契約するつもりは無いぞ。
『うーん……これでも?』
静止していた世界がほんの僅かに動く。
その瞬間――
――あ、があああああ!!!!
貫かれた心臓に灼熱の痛みが走る。
焼ける……俺の存在そのものが焼ける。
止めろ炎はもう沢山だ。
『炎を遠ざけたい?』
当たり前だろ、こんな熱さ、耐えられるわけがない。
今すぐ遠ざけろ!!
『じゃあ、契約成立だね』
金翼の青年はニコリと笑った。
ほとんど止まった時の中で、黄金の光が俺の身体を包む。
――ドクンッ!ドクンッ!ドクンッ!!
失った心臓が鼓動を始める。不死鳥、なるほどな……
――生きる……生きる……どんなことをしてでも……
忘れていた感情が蘇る。
殺されても構わない?そんな訳あるか。目の前の女がどうなろうが、俺は生きる。
違う、ラーナを殺して良い訳がない。それなら俺が死ぬ。
何言ってんだ、この世界に来てたった1ヶ月。俺がその女の何を知ってる?俺の命以上の価値がある訳が無いだろ。
そんな事はない、この子は俺に安らぎをくれた。
こいつが居なくてもティファやダリエスが居る。それで十分だろ?欲張るなよ。
何時もと違う……二人の俺が存在する。なるほど、これが生きる為の魂か。
この俺が吹き込まれていると言うことは、どこかで見ている筈だ。
出てこい……ベルゼ!!
『お呼びですか?異界の契約者様』
今すぐこの契約を解け!!
『それは貴方が自ら望んだ誓い。反故にする事はできません。貴方はどのような困難があろうとも、絶対に諦めません。生きるのです』
そうかよ、ならせめて、俺自身に、死に抗う力を寄越せ!運命は自分で決める!
『……良いでしょう。ですが、生きることを諦めた瞬間、もう一人のあなたが現れる事になります。次そうなれば、もう誰にも止められませんよ」
ああそうかい、構わないよ。いいから早く俺にその力を寄越せ!!
――ドクンッ
何時もと少し違う鼓動が聴こえた。温かな血液が体を巡るのを感じる。
――武技スキル一時開放、『エンブレイスソード』
――魔法一時開放、『ダークプリズン』『ダークシールド』
――常時発動型スキル一時開放、『全能力向上2』
――急速に感覚が戻ってくる。
身体が軽い。今なら何でもできそうだ。身体からは赤紫色のオーラが漏れ出ている。
何となくわかった。ラーナのスキルは誓約だ。恐らく、炎の悪魔と契約しているのだろう。
周囲の状況を確認する。会場は全体的に焼け落ち、観客はほぼ全員避難している。その中で二人、未だにこちらを見つめる人影が居る。
ティファ、ダリエス……見守っててくれたか、ありがとう。
目の前の少女に視線を移す。
蒼い炎のレイピアを右手に持ち、再生した左手には風と炎の刃を纏っている。
やはり、風魔法も使えるんだな。
「対象の脅威判定をさらに更新、風魔法を解禁します。ブレイズサイクロン」
ラーナは左手を高々と掲げると蒼白い炎の竜巻を発生させる。
蒼い炎が空を覆い、ラグノリア全域が蒼に染まる。
「ヘルブレイズ」
少女の詠唱に合わせ、数多の蒼炎が俺に目掛けて降り注ぐ。
「ダークシールド!」
先程聴こえた声に従い魔法を唱える。
俺の盾から放射状に闇が広がり、炎を迎え撃つ。
――バシュウウウウ!!
炎が弾ける音がする。漆黒の盾は全てを飲み込む。
「ダークプリズン!」
ラーナに向けて魔法を放つ。大丈夫、傷付けるような物じゃない。
漆黒の立方体がラーナの身体を包む。発生源を失ったブレイズサイクロンが空高く消えていく。
「ダリエス!!!ティファを連れて今すぐここに降りてこい!!!」
ダリエスに向けて言葉を放つと彼は確かに頷いた。
よし、後は……
俺は漆黒の箱に向け歩みを進める。
丁度触れられる距離に辿り着くと同時に……
――ガシャァァァン!!
ガラスが砕けるような甲高い音と共に蒼炎が溢れ出す。
――スキル発動、『エンブレイスソード』
俺は【蒼炎の魔女】をしっかりと抱き寄せ、その心臓を貫いた。
彼女のレイピアもまた、俺の心臓を貫いていた。




