第十七話
誤字脱字等、ご指摘頂けると幸いです。
スキル習得から二日後、ついに俺宛に【緋色の魔女】から試合のオファーが届いた。
「やっぱり来たね、トモヤ」
「ああ、そんなに注目されるような試合をしてるとは思えないんだけどな」
「僕との試合で随分目立ってたくせによく言うよ」
試合は明日、夕方からだ。さすがに震えるな、【ファットボーイ】の死に様を見たせいだろう。明日には自分がああなるかもしれないのだ。
「トモヤさん、頑張って下さい!多少の怪我なら私がすぐ治せますから、とにかく、生きて帰ってきて下さいね」
ティファは泣きそうな顔でそう言った。
「ありがとう、俺もまだまだ死ぬ気はないよ」
そうは言ったもののまだ胸に残るこのモヤモヤはきっと恐怖なのだろう。
――翌日
俺は朝一で《タルタロス》の訓練場を散歩していた。
俺はここでダリエスに会って、何度も修行をして、幾度かの試合を行い、生き延びてきた。
その中で俺は初戦と合わせて二人の人間を殺している。殺した相手の事を考え過ぎるのは良くないと思い避けてきたが、忘れた事は一度もない。
俺が生き残る為だけに殺したのだから申し訳ない気持ちだってある。無我夢中だったのだから赦してほしいという気持ちもある。
だが、今日戦う【緋色の魔女】は違う。相手の苦しむ声を、感情を全く無視し、ただ殺していた。
きっと殺すという行為になんの躊躇も持っていない。
今日俺はそういうタガの外れた奴を相手にしなければならないのだ。集中しろ、この1ヶ月生き延びてきたんだ、やれるさ。
時間が経つのは早いもので、もう既に日が傾いていた。
『レディースアーンドジェントルメーン!!』
何時もの不快な実況が聴こえる。だがそれ以上に……
――ドクンッドクンッドクンッ!
俺の鼓動が物凄い力強さで戦いを待っていた。きっとこれは誓約が発動する予兆なんだ。
初戦やダリエスの時も激しく鼓動していた。そして戦いの最中誓約が発動する事となった。
逆に自信の付いた3、4回戦では、命のやり取りをしているのに不思議なくらい静かだった。
きっと相手が俺より格上だと認識することで、魂が死を感じているんだ。
その苦しみから逃れたい思いが悪魔を呼び寄せてる。
――生きるという呪い
今回はこの力に頼ることになるだろう。だが生き残る為.俺は悪魔にも魂を売ろう。俺はこの力を祝福だと信じよう。
――ガシャンッ!
鉄格子が跳ね上がった。
いつの間にか実況が決まり文句を言い終わっていたようだ。
俺は闘技場に踏み出す。
――パチンッゴウッ!!
遠くで指を打つ音が聴こえたかと思うと、俺の視界は全て緋色に染まった。
炎で退路が絶たれ、俺と魔女の間には何もない。
俺が飛び道具を持っていないと知っているのか、【ファットボーイ】戦のような炎の壁は作っていない。
思ったより熱くないな、これが魔法耐性の効果か。
とりあえず様子見だな。リフレクトは使わずあくまで避ける。炎が当たれば致命傷なんだと相手に思わせるところからだ。
行くぞ!
――ダッ!
俺は力強く地面を蹴った。速度向上のお陰で鎧があっても短距離走の選手くらいのスピードで走れる。
――ゆら
魔女がゆっくりと手を上げる。その口元は仮面で見えないが恐らく魔法名を唱えているんだろう。
魔女の掌にソフトボール大の火の玉が形成され、そこから無数の炎が俺に向けて発射される。
結構早いな!でも視力向上2があるから軌道も簡単に読める!
自分が思っていたよりもパッシブスキルが噛み合っている。格上相手でもやれる。
俺は無数の炎を全て避けきり、魔女に向けて突進する。
――キンッ!
俺のブロードソードをレイピアの剣先で受け止めた。
どんな精度で剣を振るってんだ、人間業じゃないぞ。
――トスットスッ!
軽い音が聞こえる。
「うぐっ!?」
鎧と鎧の繋ぎ目を的確に狙われ腕と脇腹にダメージを負った。
大丈夫大したことはない。
俺は痛みに怯まずに肉薄した状態から剣を横薙ぎする。
「らぁっ!」
――ブォンッ!
魔女は咄嗟に後方へ距離を取るが、腹部に斬撃を食らう。だが浅い。距離を取られると魔法が来る。距離を詰めろ!
――ダッ!
俺は全力で地面を蹴り、跳躍する勢いで魔女に迫った。
――ゴオオオオ!!
赤、赤赤赤赤……
視界が全て赤に染まる。気付くと俺は火柱に囚われていた。
熱い、だがダメージは少ない、チャンスだ。
赤い壁の向こう、勝利を確信した魔女が帰路に着こうとしている。
俺の魔法耐性を完全に見誤ってやがる!畳み掛ける!!
――ダンッ!
俺は火柱の中から高く飛び上がり、魔女の左肩に斬り込んだ。
――ザシュッ!!ボトッ
俺の長剣は魔女の左腕を斬り落とした。
噴水のように血が吹き出る。四肢には大きな血管も多い、切断なんてされたら普通は数分で失血死するだろう。
この勝負は俺の勝ちだ……
――ジュウウウウウ
魔女が右手に炎を纏うと、それを自信の傷口に押し当てた。
焼いたのか!?
失血を即座に判断し傷口を丸焼きにする。
ここまでの行為で声1つ上げないとは一体どれだけの精神力の持ち主なんだ。
魔女がこちらを振り返る。仮面で顔は見えないが、きっと鬼のような形相をしているのだろう。
グラディエーターになって初めて食らった一撃だ。それも片腕を失ったとなれば、怒りなり衝撃なり、何かしらの感情が渦巻いているに違いない。
「モードセカンド」
無機質な声が聴こえた。モード?なんだ?
突如俺の視界に変化が現れる。俺の目を覆っていた赤が、瞬時に白に染まった。
飛んでくる白い物がまるで雪のように見える。だが、身体を焦がす様なこの熱は、明らかに雪ではない。
辺り全体を覆ったのは白い炎だった。
何かで見たことがある、確か赤い炎より白い炎の方が温度が高い筈だ。だがそれは星の色とかに該当する話であって単純な炎には、いや、魔法の炎だもんな。
少なくともさっきより身体に刺さる熱量は増えている。確実に火力が増していると見て間違いない。
だがこれはチャンスだ、リフレクトマジックでこの炎を反射できれば確実に勝てる。
リフレクトマジックは放出系の魔法にしか効果を発揮しない。だが、このスキルを知らなければ、確実に敵は『撃って』来る筈だ。その方が安全だからな。
俺はスキルを悟られないよう、全力で距離を詰める。
「トライファイア」
魔女が片腕で3つの炎を放った。
【ファットボーイ】戦で使った魔法だな。これを返す!
掌から放たれた螺旋の炎が凄まじい速度で直進してくる。
行けっ!!
俺は盾を地面に押し当て……
――スキル発動!!『リフレクトマジック』!!
俺の周囲を光の壁が覆う。それとほぼ同時に螺旋の炎が触れる。
炎はまるで壁に溶け込むように消え、直後逆のベクトルで放たれた。
白い螺旋はそれを放った魔女に噛み付く。
魔女は咄嗟の出来事に対応できず、全身を白い炎に焼かれた。
――やった、やったぞ!
――バサッ
魔女の着ていた真紅のローブが白い炎に焼かれながら飛んでいった。
そして炎の中から、『無傷』の少女が出てきた。その髪は燃えるように赤く、ツリ目がちの顔はまだ幼く、感情はない。
様々な驚愕に思考を支配された俺が咄嗟に出せたのは一人の名前だけだった。
「ラーナ……?」




