第十話
面白いと思ったら評価お願い申し上げます。
『【アイアンフィスト】強い!!手痛い一撃を貰った挑戦者!!万事休すなのかー!?』
――なんだ?
これは、夢か?
気付くと俺は円形コロシアムの客席に座っていた。
闘技場には栗毛の少年と、ボロボロの青年が居た。
栗毛の少年は勝利を確信したのか、出てきた方の階段へと足を進める。
ボロボロの青年の方は意識を失っているのか?
あれは誰だろう?さっきまでは俺が少年と戦っていた筈なのだ。
もう何日か経って別の試合なのか?
――ユラッ
ボロボロの青年が立ち上がった。あの顔はよく知っている、仕事に行く前鏡越しに憂鬱な顔で俺を見ていた奴だ。
青年からオレンジ色の靄みたいな物が立ち昇る。
『立った立った立ちました!!なんと挑戦者、【アイアンフィスト】の攻撃を2発も直撃したのに立ち上がった!!まるで不死身!!不死身なのかー!?』
栗毛の少年が驚愕に顔を歪めている。
「何故立てるんだい?意識を完全に失っていたようだけど……」
「生きる生きる生きる生きる生きる!!」
――ダッ!
男は猛然と突き進みボロボロの身体で少年に挑む。
少年もそれに呼応して手甲を構える。
――ふっ!
少年の鋭いストレートが、走る男の右肩付近を捉える。
恐らく右肩を破壊して戦闘不能を狙っているんだろう。
ーーがしっ!
迫り来る一撃を男が左手で掴んだ。
「なにっ!?」
――ギギギギ、ゴキッ
「うっ!ぁあぁ……!」
少年の細い手首は物凄い圧力に押し潰され、悲痛な声が闘技場に響く。
――ビュッ!ズドンッ!!
少年は掴まれた右腕を支点に飛び上がり、男の即頭部に強烈な蹴りが炸裂する。
衝撃で男が手を離した隙に、少年はバックステップで大きく距離を取った。
――ピチャ
よく見ると少年の脇腹から血が流れている。蹴りの瞬間、男が斬撃を放ったようだ。
「やるね、まさかトモヤが『魂持ち』だとは思わなかったよ、友達に隠し事なんて酷いなあ」
蹴られた衝撃から男が立ち直り、ゆらりと少年を見据える。
「っ!……凄いね、あの蹴りを食らって無傷なのかい?」
『凄い!!凄すぎるぞ挑戦者!!【アイアンフィスト】に力負けしていない!!ガーディアンとなって初めて放った蹴りすら、どこ吹く風と言った様子だー!!
そんな実況に少年は苦笑いを浮かべる。
たった一度の攻防で右腕を失い、脇腹に重傷を負った。
――形勢逆転、傍目にはそう見えるだろう。
「行くよ!!トモヤ!!」
少年が疾風の如く駆け出す。男も応戦しようと剣を構える。
「はっ!」
――バキッ!
少年が残された左腕で放った一撃は、男の剣に吸い寄せられる様に炸裂する。
男の持つ安物の長剣はなす術なく根本から砕かれた。
そのまま少年は後ろに回り込み、組技を仕掛ける。
ーーガッ!
両足と片腕で器用に絡み付くと、少年は渾身の力で首を締め上げる。
「君の防御が僕の攻撃を上回っているとして、締め技には耐えられるかい?」
――フゥッフゥッ!
男は苦しそうに呼吸を荒げもがく。少年の手首を破砕した怪力で脱出を試みるが、少年の腕はそれを許さない。
「防御力は低くても、単純な腕力では僕が上みたいだね……!今度こそ、おやすみ……トモヤ!」
――プッ
映像が途切れた様に俺の視界は真っ暗闇に包まれる。
男と少年の戦いの顛末を見届けられなかった。いや、あれが全てなのだろう。
あの男は間違いなく俺だ。俺の皮を被った何者かだ。
暗闇に光が見えた。
何となく分かる。あの光の元へ行けば、俺は目覚めるんだ。
さあ起きよう。
「あ、トモヤさん、目覚めましたか?怪我は全部治療しましたけど、どこか変なところはありませんか?」
目の前には白金の髪を持つメイドさんが立っていた。
「おはよう、ティファ……試合はどうなった?」
彼女は少し、残念そうな顔をして告げる。
「トモヤさんの戦闘不能で、試合終了です……」
「そうか……」
良かった……負けたのだから良くはないのだが、今日も俺は死ななかった。
また彼女の顔を見れただけで戦果としては上々なのだ。
「やあ、トモヤ、目覚めたかい?」
独房の入り口に目を向けると、さっきまで死闘を演じた少年が立っていた。
「あなたは青軍の……」
ティファは驚いたような顔をしている。
「ちゃんと許可をとって来ました。ティファさん」
「何故私の名前を知ってるんですか?」
「昔、両親がルドガー様に懇意にして頂いておりました。僕が奴隷になる前ですが……」
「おい、ダリエス。お前は傷は平気なのか?」
「いや、この通りだよ……」
包帯の巻かれた腕を持ち上げる。
「骨が砕けていなかったから元通りになるだろうってさ。回復魔法でも掛けてもらえばすぐ治るだろうけど」
「それなら私が、ライトヒール!」
「え?」
突然の出来事にダリエスが驚いている。本来ならああいう反応になるんだろうな。
「ティファさんは回復魔法が使えるんですか!?」
「内緒ですよ?国に目を付けられたくありませんので……」
「は、はい、それはもちろん!道理でトモヤが元気な訳だ、僕の攻撃を食らってここまでピンピンされてたら流石にショックだよ。ありがとうございます、ティファさん!」
ダリエスは手をグーパーとして感触を確認しているようだ。
「魔法の精度も凄く高いんですね、完全に元通りです」
「ありがとうございます、これでも医者なので!」
ティファはえっへんと自慢げな顔をする。可愛い。
「それにしてもトモヤ、まさか君が『魂持ち』だとは思わなかったよ。何の魂なんだい?」
「いや、奴隷だからスキルとか調べられないんだよ」
「生まれてからずっと奴隷って訳じゃないだろ?そんな苦労しているようには見えないし」
余計なお世話だ。言っていいのかわからんが、ダリエスは友人だし、教えてやるか。
「俺、つい最近、こことは別の世界から呼ばれたんだ」
「え?つまり異世界人なのかい?伝説の?」
ティファがぶんぶんと頭を振って肯定している。異世界人大好きだな。
「でも勇者ではないらしいんだ、つまり唯異世界から来たってだけだな」
「そうだろうね、勇者はこの世界に一人しか存在できないって伝承でも言われてる。現代において異世界の勇者と目されているのは《タルタロス》の現グランドチャンピオン『トール』だよ」
トール、雷神か?いや、もしかしたら『トオル』かもしれない。
「どんな奴なんだ?」
「うーん、僕も遠目に試合を見たことがあるだけだけど、トモヤみたいな黒髪をしてたよ。あと身体は細いというか、鍛えてる様には見えなかったね」
日本人か?きっと豪華に加護を受けてるんだろな。だから俺みたいにヒョロヒョロでも桁違いに強いのだろう。
「彼も『魂持ち』だった筈だよ、確か、『神々の魂』。使ってるところは見たことないけどね」
明らかに強いじゃねえか!!神々って!!
くそう、俺は奴隷なのに、同じ日本人は最強チート勇者かよ……!
これが持ってる奴と持ってない奴の差ってことか!
「もしかしたら異世界人は何かしらの魂を持つのかもしれないね」
「なるほどな」
まあ俺の名前もわからん魂だって実は最強の能力が眠っているかもしれないからな!まだ希望は捨てないさ。
「じゃあトモヤ、君のスキルを調べに行こうか」
へっ?




