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第一話

初めまして、初投稿です。

拙い文章ですがどうぞよろしくお願いします。

 暑い。蝉の声が五月蝿い。

 8月、日本は全国的に真夏だ。こんな真夏でも俺はスーツを着て仕事に向かう。

 大学の頃は良かった。真夏はほとんど休みで、涼しい家でゲームするかラノベを読み漁っていれば良かった。

 なぜ社会人なんかになってしまったんだ。

 自分はどこか人とは違うと勘違いして、何にでもなれると高を括っていた。

 だが現実は違った。特別なことなんて何もなく、大多数の学生と同じように就職難に喘いで、行きたくもない中小企業に就職した。

 

 「俺も異世界に召喚されたいなぁ……」


 駅のホームでぽつりと呟く。25にもなって恥ずかしいこと限りないが、それでも思わずにはいられない。

 物語の主人公達は大抵冴えない普通の人間だ。

 通り魔に刺されたり、誰かを救って事故に遭ったり。何かをきっかけに異世界に召喚される。

 ほとんどの場合最強の能力を貰って冴えなかった彼らは救世主に成っていくんだ。

 そんな世界なら俺も輝けるだろうに。


 「ああ、死にたい……」


 --グラッ

 あれ、なんだ?急に視界が歪んで……

 そういえばこんなにくそ暑いのに朝から何も飲んでなかった。これは確実に熱中症だな。

 まずい、このままだと倒れる。怪我するかもしれないし会社にも遅れる。

 あれ?さっきまで立ってたホームが遠くに見えるな。


 --ファーーン!

 この音、聞いたことあるな、よく駅のホームで聴くやつだ。

 電車の接近を知らせる時の……

 横を見るとすぐそこまで電車が近づいていた。


 ああ、俺死ぬのか……死ぬ?

 嫌だ……嫌だ嫌だ!死にたくない!!

 急に、日頃から死にたいなんて言ってた愚かしい自分を恨めしく思った。

 毎日死にたいと考えることがあったのに、死がすぐそこに来た途端、怖くて怖くて堪らなくなった。

 嫌だ……生きたい……こんな俺だけど、生きていたい!!


 「その言葉に嘘偽りはありませんか?」


 誰だ?スローモーションの世界の中で、確かに聞こえた女性の声。

 ホームに目を向けると、一人の女性がこちらを見下ろしている。


 「あなたはどんな苦難にも耐え、決して生きることを諦めずにいられますか?」


 そんなの……わからない。これまで何度も死にたいと考えた。別に仕事がブラックな訳でも、多額の借金を抱えているわけでもない。

 ただ何もない平凡な自分を諦め、そう呟くことで自己陶酔していただけだ。

 だが今は目の前に迫る死という恐怖からただ逃げたかった。


 「ああ!約束だ!俺はどんなことがあっても絶対に生きることを諦めない!」


 ホームの女性はにこりと笑ったように見えた。

 ああ、とても綺麗だ。もし女神様なんて者が居たら、きっとこんな感じなんだろうな。

 そんなことを思った瞬間、俺の身体は鋼鉄の塊に粉々に砕かれたのだった。


 「……い……おい、起きろ!」


 --ガスッ!

 

 「うぐっ!?」


 なんだ!?ものすごい痛みを腹部に感じた。


 「起きろこのウスノロマの異世界人!」


 --ガスッ!


 「あがっ!」


 やっと理解した。どうやら俺はこの男に蹴られているらしい。


 「なに……しやがる……」


 「召喚した主に対してその口の利き方はなんだ?」


 --バシンッ!


 「うがぁ!」


 今度は鞭で右腕を打たれる。

 右腕に激しい痛みがある。熱い。

 とにかく、急いで状況を整理しろ。ホームから落ちた。綺麗なお姉さんと約束して……約束?俺は何を約束した?

 それよりもその後だ。俺は確かに電車に轢かれた。その瞬間だけは鮮明に覚えている。

 ……急に身体がガタガタと震え始めた。

 

 「俺は……死んだのか?」


 口に出してみると全身の血の気が引いていくような感覚に襲われた。……純粋な程の恐怖だった。


 「喜べ、お前は死んでいないぞ異世界人。『まだ』な。」


 さっきから俺のことを痛め付けている男が言った。

 こいつは誰だ。さっき召喚とか言ってたし、俺のことを異世界人とか言ってた。いやそんなまさか……


 「ここは……どこだ……」


--バシンッ!


 「ぐっ!」


 また先程と同じ右腕を打たれた。痛みが強すぎて右腕の感覚がない。

 

 「おいおい、召喚主は神様と同義だぞ?口の利き方に気を付けないとなぁ?」


 悪魔の間違いだろ……だけどこの状況で下手に口答えはできないな。


 「ここは……どこでしょうか……」


 「ふん、よろしい。特別に教えてやろう。ここは王都ラグノリアが誇るコロシアム……『タルタロス』の地下牢だ」


 王都?コロシアム?よく見れば目の前の男は中世の絵画にでも出てきそうな格好をしている。俺はと言えば麻か何かで出来たぼろ切れを着せられているし……本当にここは異世界なのか?

 半信半疑ながらも俺は男に訪ねる。


 「召喚とは……何の……事でしょうか……」


 「質問が多い!」


 --バシンッ!


 「うぐぁぁ!」


 今度は左脇腹に鞭が当たる。


 「貴様は唯の見せ物だ。コロシアムで他の戦士や罪人と殺しあって貴族の皆様を楽しませるためだけに存在しているのだ」


 見せ物だと?訳がわからない。急に異世界に呼ばれ見せ物にされ、殺し合いをさせられるのか?

 俺が何をしたというのだ。異世界には憧れたがこんな苦しみを受けるためじゃない……

 ふざけるな、今すぐ帰らせろ!!

 心の中で必死に叫ぶが誰が応えてくれるわけでもない。


 「あと一時間もすればお前の出番だからな。準備しておけ!」


 こんなズタボロにしておいて戦えとかバカなんだろうか……


 「2つ、言い忘れていた。戦いから逃げたり、殺し合うのをやめたりしたら貴様の首は飛ぶ。そういう魔法が掛けてある。それと……もしランキング1位になれたら晴れて自由の身だ。まあせいぜい頑張るんだな」


 そう言って男は去っていった。

 ランキング?何人いる中の1位だよ……とにかく、今は少しでも身体を休めなければ。

 俺は死にたくない。向こうの世界であんなに死にたかったのに、何故か今はどうしても死にたくないと思っている。

 ……絶対に死ぬわけにはいかないんだ。


 三十分は経っただろうか。身体中痛みが走ってはいるが不思議と耐えられる。

 これはもしや異世界補正なのか?ラノベの勇者のように最強の力が眠っていて、そのせいで傷がすぐ治るとか。

 そうだよ、ここは異世界なんだ!何を絶望することがある?

 きっと俺には強大な力が宿っている!それならすぐにでもランキング1位になってこんなところ出てやる!


 まずは色々と確認だな……

 視界にステータスとかHPみたいなものは見えない。だがさっきあの男が『魔法』って言っていた。

 少なくとも魔法はある世界なんだろう。

 推測でしかないが、あるとすればスキルやレベルといった概念か……

 RPGにあるような魔法でも適当に唱えてみるか?

 

 「ヒーリング!ヒール!キュア!ホ○ミ!……ダメか、時間の無駄だな」


 出来れば回復魔法とかほしかったが、さすがにそんな簡単にはいかないみたいだ。

 

 とにかく、次は辺りの確認だな。

 ここは《タルタロス》ってコロシアムの地下牢らしいけど、なるほど確かに牢屋だな。鉄格子で仕切られた部屋だ。

 何かの毛皮を敷いただけのような汚ならしい寝床がある。

 床に開いている穴は……まさかトイレか?

 俺自身はというと足枷を付けられ、そこから伸びる鎖が壁の金具と繋がっている。

 寝床とトイレには届くが鉄格子には届かないみたいだ。

 

 --ギギギギ……

 ダメ元で鎖を引き千切ろうと試みるが、もちろん失敗に終わった。

 

 ーーカッカッカッカッ……

 足音だ。何人かいるな。

 足音は段々と大きくなり、俺の牢屋の前で止まった。

 嫌な予感がする。


 「そこの奴隷!試合の時間だ!手を挙げて跪け!」


 鉄格子の前には槍を持った三人の兵士が立っていた。さすがにあの槍を奪ってこの場を逃げ去る事は叶わないだろう。

 俺は言われた通りに手を挙げる。


 ーーガシャン!

 鉄格子に付けられた金属扉が開かれる。驚いたことに鍵は付いてないようだ。鎖で十分ということか。


 兵士の一人が俺の足枷を外す。


 「出ろ、暴れたりすれば殺すからな」


 言われなくてもそんな無謀なことはしない。


 兵士に囲まれながら歩いていくと、少し広い部屋に着いた。奥には階段が見える。

 部屋の壁には様々な武器や防具が掛けられている。

 もしかしてこの中から選べってことか?それならなるべく重装備を……いや鍛えてない身体でそれは無茶だ。中装備で固めるか。


 「お前の武器はこれだ」


 ーーガランッガランッ!

 足元に錆び付いた剣と盾が放られる。危ないだろ、凶器を投げるなよな。というか選ばせてもらえないのかよ……


 「あの、剣と盾……だけですか?防具とかは……」


 「文句があるのなら剣一本で戦うか?」


 兵士達がニヤニヤと笑っている。


 「いえ……大丈夫です」


 ……やるしかないのか。俺は剣と盾を拾い上げる。中々に重いな……だが、この錆びた塊が俺の命綱なんだ。やってやる。


 俺は覚悟を決め階段に足を掛けるのだった。


後々出てきますが、主人公の名前は赤羽智也アカバネトモヤです。

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