第2章35 死の宣告 残り3日 証明
目覚めた時、目の前に広がっていたのは見慣れた光景。
輝かしい文明に囲まれた叡智の塊、アルカディアの街そのものだった。
あんまりにも非現実的すぎて、私は彼の名を呼んだ。
いつもなら、すぐにでも駆けつけてくれるはずの名前を。
だが、彼は来なかった。
いや、違う。
来れなかったのだ。
それは、当たり前のことで。
まだ彼とは顔すら合わせていなかったのだから。
目の前に立ちはだかったライリーン。
その攻撃はもはや魔法ではなく、災害と呼ぶにふさわしいものだった。
·····そんな技、私と共にいた時には、1度も見せたことがなかったのに。
私はそれだけ主として信頼されていなかったのだろうか。
であるとすれば、ギャフンと言わせなければこちらの気が済まない。
舐められたままだと言うのも、気持ちがいいものでは無いからね。
ひろさんは、私の意図を汲み取ってくれたようで、何時でもあの一撃を放つ準備を整えてくれている。
もちろん、ライリーンはそのことには気づいているだろう。
だが、脅威だとは認識していないはずだ。
それに今ライリーンは、私とひろさんが仕掛けてくることを警戒していることは間違いないだろう。
だからこそ、この方法は間違いなく通るのだ。
「所詮は口だけであったな。根源たる一を越えるなど夢のまた夢よ」
「……それはまだわからないわよ?」
「わかるとも。そうして死んでいったアホどもを私は知っているからな」
だからこそ挑戦者よ、ここで死んでおけ。
それが貴様のため、引いては世界のためになる。
そう告げるや否や、ライリーンの足元に巨大な魔法陣が形成される。
「極光の閃光を前に死に行け!!我目前に立つ愚かどもに制裁を下す!!」
空が今まで以上に暑い雲に覆われていく。
そして、その雲の中央では、今にも溢れそうなくらいの光が集まっている。
あんなもの、直撃すれば消し炭どころではない。
「絶望と恐怖を知るがいい!!ケラウノス!!」
光がこぼれ落ちるように高速で降り注ぐ。
光がこぼれ落ちるたびに空が割れ、光が降り注いでいく。
これに対抗するためにも……。
私が今できる、最高の魔法を使うしかない。
降り注ぐ光を前にして、私は一冊の本を取り出した。
これは、誰かの思い出。
誰かが戦争で生き残るために、誰かを生かすために作られた魔法。
戦争で使えば、選局をたやすくひっくり返すことができる。
故に禁術。道徳の道から外れた、人を生かし殺すための魔法。
「暗き夜を進む友よ、守るために戦う友よ、歩けぬ私に寄り添う友よ」
足元に魔法陣が展開されていく。
「生きるために戦うしかないのなら、生き抜くための術をここに」
言葉を紡いでいくたびに、誰かの優しさと願いに包まれる。
「我らは平穏を願う者。あの日々を取り戻すことを願う者」
光が降り注ぐ前に、温かな光が全員を包んでいく。
「ゆえに、この魔法は希望のために!!誰かと夢見る明日へ踏み出すために!!」
今ここに唱えるは、17の禁術に記された最強の防御魔法!!
「パダルン・レドコート!!」
光が降り注ぐその瞬間に、全員を包み込むことに成功する。
さぁ、基盤は整った!!
「ひろさん!!」
そして今、頼りになる友の名を叫んだ。
何かに包み込まれる前に、セリナからの合図を受けて、俺は躊躇いなく今自身が出せるであろう最高出力でこの一撃を突き出した。
「閃光よ!天をも貫け!!月光牙!!」
風華の力も借りて放つこの一撃は、間違いなくかつてのグレゴリアス戦のものより質も威力も上回っていた。
風魔法によって練り上げられた、一点を貫くための一撃は、降り注ぐ閃光を飲み込みながら、勢いよくライリーンにへと向かっていく。
確信。
この一撃なら、必ずライリーンに届く。
これならば、神獣といわれたライリーンに一泡吹かせるどころか、決定的な一撃を叩き込めるかもしれない。
届け……届け!!
そして、月光牙がライリーンに直撃する寸前に、セリナの唱えた魔法で視界が完全に遮られた。
外では轟音が鳴り響き、今もなお雷が降り注いでいるのだろう。
結果はこの幕が剥がれるまではわからない。
何かあってからでは遅いから、次の一手を模索しておかなければ……。
「洋一、足元を見なさい」
次のことを考えていると、風華が足元を指さした。
「……こいつは……!!」
流石は神獣だ。
私が持ちうる最強の防御魔法を持ってしてなんとか防ぎ得ることができたが、私に次が打てるだけの魔力は残されていない。
クーちゃんを現界させておくための魔力までも使い果たしてしまったから、今の私にできることは何もない。
これで無傷だったら笑うしかないのだ。
激しく降り注いだ雷のせいで、周囲では結晶が砕け散る音と砂煙が舞っているせいで視界も確保できないため、動くこともできない。
今は待つしかないのだ。
少しして砂煙も収まり出し、ライリーンの姿を確認することができた。
「ははっ……、神獣っていうのは、伊達じゃないみたいね……」
その姿は依然として雷を身にまとい光り輝いていた。
あれだけのことをして、少しばかりの隙を狙って放ったひろさんの一撃でなんの成果も得ることができなかった。
無傷で私を褒めながら見下ろすライリーンから向けられていたのは、同情と哀れみだった。
「守るだけでは勝てないのだ。最強の盾を持ってしても、いつかは打ち砕かれてしまう。根源たる一を越えるためには守りも必要だが、貴様には攻める術を持たなかった。だが……一度でも我が奥義を防いで見せたのだ。そこは誇るべきことだ人間よ」
ゆえに戦士としてのまま、ここで死ぬが良い。
ライリーンの足が振り上げられる。
後ろの方からはサーシャちゃんの叫び声が聞こえる。
……よかった。なんとか魔法で皆のことは守れたみたい。
ということは、だ。
「……私の勝ちよ、ライリーン」
前足が振り下ろされるその刹那、地面から突き出されたのは、一本の槍。
その刃は鋭く狙い澄ましたように、ライリーンの脳天を目掛けて繰り出された。
想定外の一撃に、思わず防御姿勢を取らざるを得なかったライリーン。
その視界の目の前には、いつの間にか現れた複数の光の玉が周囲を周り、ライリーン目掛けて降り注いだ。
「この後に及んで小賢しいわ!!人間!!」
ライリーンは降り注ぐ光の玉を体に雷を纏うことによって、弾き飛ばしていく。
そうしてライリーンに触れた光の玉は、まるで初めからそこになかったかのように消えていった。
ライリーンの表情が歪む。
打ち消したはずの光の玉。
見た目は魔法のようだったが、体表に触れてそれが魔法由来のものではないとすぐさま認識したようだった。
すぐさま突き出された槍から魔力を探知しようと、ライリーンは神経を尖らせている。
故に好奇。
今、この瞬間。
ライリーンは“彼“を警戒していない!!
それは、一つの賭けでもあった。
だが、必ず成功させてくれるという確信があった。
砂煙の中から現れたのはーーーー
エクスカリバーを構えた、1人の青年!!
「月光牙!!」
今ここに、真なる光を持ってして神獣を穿つ。
短期間で丁寧に練り上げられた光魔法を纏った死角からの一撃はライリーンを怯ませるのには十分すぎるものだった。
月光牙がライリーンに衝突し、それまで体表を覆っていた雷が弾け飛び前足をよろけさせた。
ライリーンの顔が、私の方に倒れてくる。
そして、私の目の前にはもう1人。
私が絶対的な信頼を置く騎士が、ライリーンの顔に狙いを定めていた。
「あとは好きにやっちゃって、イクティオ」
「……姫様のお言葉のままに」
その言葉と共に、槍がライリーンの顔を目掛けて突き出された。




