第2章34 死の宣告 残り3日 信頼
姿を消したイクティオ。
雷撃でも受けたかと周囲を見渡すが、それらしいものはない。
今までベールで防ぎきれなかったものはないが、自分が上限を知らないだけということも考えられる。
最悪は、守り切れてなくて体すら残らず死んだか、だが……。
その線は考えにくいだろう。
共に戦っていた中で息こそ合わせる機会すらなかったものの、イクティオは戦い慣れしている可能性は高い。
連携こそ取ろうとしなかったが、随所随所に戦いを経験していたと思われる動きをしていた。
人と連携することに慣れていないだけで、護衛としての主文は十分に遂行していると考えられる。
そうでもなければ、セリナの護衛役なんて務まらないだろう。
今は……イクティオが生きていることを信じるしかない。
「ひろ!炎槍でダメだったんだから、次はあなたの技で試すわよ!!」
手札を出し惜しみなんてしていたら死ぬんだから、全てぶつけていくわよ!と言わんばかりに、またどこから火浮ずり出したのか人形のような何かを、サーシャはフリーテで使用した時のように敵味方関係なく振り回し巻き込んでいく。
「だあああああああ!!!??」
「ちょっと!サーシャさん!!巻き込むなら先に言ってくださいよ!!」
「うっさい!!とっとと動きなさい!!」
んな無茶苦茶な……。
この場で消えたイクティオもそうだが、アルカディアの人たちはセリナも含めて自由奔放でなきゃいけない呪いにでもかかってるんじゃないだろうか。
「ひろ!今は何が通用するのか試さないと、試す前にみんな死んじゃうよ!」
「わかってるよ!宗次!」
そうだ。何事も試すまえから怖気付いていてはいけない。
できる最善を尽くすまでだ。
「風華!」
使いどきは今しかないと思い、神器の名前を叫ぶ。
水蓮は呼び出せないことはわかっているから、風華を呼び出すために左手を掲げる。
「私の出番ね。……状況は説明しなくてもいいわ。ずっとみてたから」
いつもはツンケンとしていて、協力するようなそぶりすら見せない風華だったが、今回は珍しく協力的だった。
「にしてもまた面倒なのと対峙してるじゃない。夜の入れ知恵?」
「面倒ってわかってるなら、最初から協力してくれ!!」
「はいはい。焦ってるのは分かったから、落ち着きなさいな」
悲観的な状況であるにも関わらず、風華は不気味なほどに落ち着いていた。
「それで、あなたは具体的にどう動きたいの?イメージを提示してちょうだい」
いつもはツンケンしていてバカにしてくる風華だが、今日はやけに素直だった。
それがより一層不気味さに拍車をかけている。
へんなものでも食ったんじゃないだろうか?
だが、そんなことを今問いただしている暇はない。
「月光牙をライリーンに向かって叩き込みたい。ビックブルとの戦闘の時みたいにできるか?」
「それはお安い御用よ。だけど、炎槍グングニルが通じなかった相手に対して、月光牙で太刀打ちできるとは到底思えないわよ。まして、あなたのこの技は贋作。本物の神に偽物が太刀打ちできるとは思わないわ」
風華の言うことは最もだ。
この危機的状況での挑戦は無謀とも言える。
ならどうすればいいんだろうか。
この状況をこれ以上続けたところで消耗戦を長引かせるだけで、こちらがただただ不利になだけだ。
今俺たちに必要なのは一瞬で圧倒的な力を発揮できるような何か。
炎槍は既に破られた。
後は……俺たちに残された手札はあまりにも少ない。
ペピーに再びエクスカリバーと呼ばれた剣を出してもらうか?
あの剣こそ、俺の贋作な技を真にする唯一の方法だ。
だが、ペピーはセリナが呼び出した召喚獣だ。
セリナが召喚しなければそもそも協力も仰げない。
そのセリナはライリーンから攻撃されるように立ち回り、くーちゃんと呼ばれていたはずの黒く光り輝く竜にまたがっては器用に攻撃を回避し続けている。
でもこれもずっとできる訳じゃない。
決定的な何かが足りていない。
状況を整理するたびに、無情な現実が突きつけられる。
この状況で具体的な勝ちへのイメージを?
あまりにも非現実的だ。
……なのに、だ。
目の前のセリナの目は諦めていなかった。
それどころか、ライリーンの攻撃を避けながらこちらに視線を送っていた。
その目を見て何か気付いたのだろう。
「洋一、月光牙をいつでも打てるよう構えなさい。召喚士のあの子、何か狙ってるわよ」
風華が何かを感じ取ったのか、いつも以上に真剣な眼差しと声で、俺に助言する。
信じても見てもいいんだろうか?
……いや、違うな。
信じるんだ。
出会ってまだ数日の彼女だが、今までセリナが背中を見せたことは1度たりともなかった。
今まで見てきた彼女を、俺が信じないでどうする!!
セリナは必ず逆転の一手をなしとげる。
成し遂げてみせるはずだ。
風華の発言とセリナの目を信じて、俺は月光牙を打つために、深く息を吸い込んだ。




