第2章33 死の宣告 残り3日 「Alea jacta est」 第2章前半ボス 初戦 ライリーン
降り注ぐ落雷。
ただでさえ異様な環境であるにもかかわらず、 嵐中に突然投げ出されたかのように天候が激変する。
視界は霧で覆われて、雷の光のみが周囲を明るく照らしている。
「セリナっ!!」
ライリーンの近くに居たはずのセリナに呼びかけるが、声は落雷の音にかき消される。
セリナの近くには、あの黒い竜がいるはずだが、この状況でいつまでもつのかはわからない。
だが、近づくにしても視界がこうも塞がれていてはどうしようもない。
それに……。
今、他人のことを心配している暇は無い!!
「全員僕の後ろに下がって!!」
初めに声をあげたのは宗次だった。
背中に背負った大剣を勢いよく引き抜き、刀身を盾のように構え防御姿勢をとる。
すると、大剣からちりちりと炎がではじめたかと思うと、一気に大きくなり俺たちを包み込んだ。
「これで少し位は皆を守れると思います。急いでどう動くのか確認しましょう。セリナさんのためにも、ひろのためにも、うかうかしてられないですから」
素速く展開された炎の層。
すぐそこでドンドンと落雷が降り注ぎ炎と雷がぶつかり、バチバチと激しい音が耳をつく。
より一層外の環境の過酷さを思い知ることになったが、それを炎の層だけで防ぎ切っていることに、サーシャがある答えに辿り着いていた。
「北十字の白鳥はここ一年で、第四席に占領されていた東国のその三分の一を不死鳥の力を手に入れた少年と共に取り戻したと聞いているわ。……君がそうなのね、宗次。だから彩花の右腕としてルミナスに来ていたのね」
「それは買い被りすぎです。僕はただ、護るべきものを護りたかった。それにひろたちに会いたいその一心でここまで走ってきたんです。だからこれは別に特別な力じゃない。今は僕と共にあるってだけです」
宗次のその答えに、サーシャは君だから手懐けられてんでしょうね、とどこか納得したかのように頷いた。
「さぁ、改めて戦力もわかったことだし、案を出し合っていくわよ。セリナは何を確信してあそこまで強気に出ているのか、正直私にはわからないけれど……イクティオ、あなた何か聞いてないの?」
「そんな秘策があるのでしたら、とうの昔に皆さんに伝えています」
「じゃあ、ジャル。貴方の炎帝の力で焼き尽くすことは?」
「試してみないことには分かりません。それに……炎槍グングニルは、放つまでにため時間が必要な奥義です。この落雷が降り注ぐ中でその時間があるとは考えられないです」
「洋一、貴方は?」
「雷魔法を使う人は身近にいたけれど……」
雷光さんとかつて何度も手合わせしていたとはいえ、その時受けていた落雷はせいぜい一本二本だった。
その時はただ回避すれば凌ぎ切れるから、雷魔法に関してここまでの規模のものをどうにかするにはという思考に至らなかった。
……いや、ないわけではないが……環境も道具も違いすぎる。
「なぁ、この時代に避雷針はあるのか?」
「……聞いたこともないわね、そんなもの。名前的に雷を避けるものなのでしょうけど、この環境でそれが有効だと考えるのならその案を聞いてもいいけど、どうなの?」
やはり、環境についてサーシャに触れられた。
当たり前だろう。しかも、避雷針という存在もないときた。
なら、俺から挙げられる案は無い。
「なら俺も打つ手なしだ。そもそも近づけるかも分からないからな」
「なら、可能性があるのはジャルの炎槍だけね。時間もないわ、覚悟を決めなさい。さっさと実行するわよ」
サーシャはそう告げるなり、ペンデュラーにクオーツをセットし、さっさとやれと言わんばかりにジャルの背中を叩いた。
「やるしかないんですからやりますよ!」
悪態をつきながらもジャルは槍両手で持ち、その切先を空へと向ける。
そうして背中に今再び、炎帝の紋様が浮かび上がった。
「……1つ、灼熱をもって闇を照らす。2つ、その煌めきを持って道を拓く」
言葉を紡ぐごとに、炎が槍全体を包んでいく。
そして、背中の紋様もジャルの決意を証明するかのように、赤々と輝きを増していく。
その輝きが最高潮に到達した時、ジャルは閉じていた目を見開き、最後の詠唱を告げる。
「そして3つ!!我が意思をもって目前の敵を穿つ!!」
ジャルの槍が信じられないほどの輝きを放つ。
「宗次さん!今!!」
ジャルの準備ができたのと同時に、サーシャが宗次に指示を出す。
その言葉を受けて、宗次は展開していた炎の層を一気に解除した。
視界は良好。
その先で、セリナはたった1人で、ライリーンと互角に戦っていた。
これ以上、セリナに無理をさせる訳には行かない。
「我が意志を持って目前の敵を穿て!!炎槍!!グングニル!!」
放たれた炎槍は、地面を抉りながらライリーンめがけて突き進んでいく。
その一撃を見て、セリナはタイミングをわかっていたかのように竜の背中に乗り、距離を取った。
その直後、ライリーンに強烈な一撃が衝突する。
誰もがダメージを与えたと確信した。
俺だってそうだ。
ジャルの炎槍グングニルの威力を間近で見ているのだから、確実にダメージは入っているだろうと確信していた。
……だが、それは幻想に過ぎなかった。
俺たちの考えが甘かったのだと、目の前の光景は現実を突きつけてくる。
無傷。
あの強烈な一撃を受けてなお、ライリーンは無傷でその場に君臨していた。
理解ができなかった。
街を突き破る威力を持つほどの一撃だぞ!?それを無傷で!?
一撃を放ったジャル自身も、信じられないものを見たかのように呆けていた。
ライリーンはそんな俺たちを一瞥すると、口元に小さな雷の玉のようなものを作ると……。
それをこちらに向かって発射した。
見ただけで誰もが理解した。
あれは、ただの雷の玉じゃないと。
誰もが回避する為に行動しようとするが、この環境と天候が邪魔をして思うように動くことができない。
しかも、玉は進むにつれて次第に加速し接触まであと2秒足らずの所まで接近していた。
宗次も急いで炎の層を展開しようとするが、加速する玉の性質上展開は間に合いそうにない。
……一か、バチかだ!!
「……水蓮っ!!」
今この場を唯一凌げる可能性がある武器の名前を呼ぶ。
お前が出てきてくれないのなら、この中の誰かが間違いなく負傷する。
希望的観測に頼ることしかできないが、今できる最大の防御は水蓮のベールしかない!!
……こいっ!……こいっ!!……こいっ!!
もう時間がない、その刹那。
首にかけている青のクリスタルのペンダントが輝き始める。
その輝きと同時に、呼びかけに応じなかった水蓮が右手に握られた。
「ベール!!」
言葉にすると同時に、水の層が一瞬で俺たち全員を包み込む。
それと同時にバンと激しい音を立てて、ベールは勢いよく弾け飛んだと共に、水蓮もその形を保ってられなくなったのか、すぐに消えてしまった。
だが、この一撃を凌げたことは幸運だった。
「サーシャ!!どうする!!」
「知らないわよ!!あの一撃が防がれるのなら、私にはかつビジョンなんてないわよ!!早くお嬢様に加勢に行きたいのに、このままじゃ距離も詰めれないじゃない!!」
「ひろの月光牙ではどうですか!?」
「ジャルの炎槍が通らないのなら、俺の真似ただけの技が効果的とは考えられねえよ!!」
「ならどうしますか!?イクティオ君は何か閃きましたか!?」
ベールが弾け飛んだことで、呆けてた状態から立て直したジャルが、イクティオにも何か案はないかと問い掛ける。
だが、その返事にイクティオは応えなかった。
なんなら、イクティオはその姿をいつの間にかくらましていた。
「なっ……!?」
あいつ!!どこ行ったんだよ!!
誰もが心の中でそう叫んだ。




