第2章32 死の宣告 残り3日 君臨する王の名は
北部地帯にいくまでにさまざまな魔物との戦闘を越え、お互いにどんな闘い方をすればいいのかが少しだけ理解できた。
サーシャ、ジャル、セリナはここまで行動を共にしてきたこともあり、大体こんな行動をするんだろうなって言うのが何となくだが互いに察しながら連携を取れている。
宗次はこの2年間で宗次の戦い方が大きく変わり、攻防ともにバランスの取れた戦い方になっていたため、初めは戸惑いこそしたものの、すぐに息を合わせることができた。
だがイクティオは主にセリナの護衛を行い、隙を見ては前線に出て敵を突く護りに徹した戦い方をしていた。
主分を守ることはいいのだけれど、融通が効かない。
仲間と戦うことを、もう少しだけ理解して欲しいんだが……。
それとも、集団で戦ったことがないのか……?
「イクティオさん。あの……、もう少しみんなと息を合わせてもらえたら……」
出会ったばかりの人にとやかく言うのもアレなので、それとなく連携が取れていないことを伝えてみるが、当の本人は聞く気がないのか俺を一瞥した後に、セリナの元へ戻ると護衛としての勤めを全うしていた。
何なんだ、こいつ。
イクティオへの少しの腹立たしさを抱えながらも、何とか誰1人大きな怪我をすることなく、1日かけて死の森の北部地帯へと辿り着いた。
そこは、死の森の中で感じていた魔物からのプレッシャーとはまた異なる神聖な雰囲気と、異常なほどの静けさが恐怖心を沸き立たせた。
ここに足を踏み入れれば無事ではすまないと肌で直に感じる。
そんな中、セリナはこの光景に臆することなく、悠々と足を踏み入れようとしていた。
すかさずイクティオがセリナの手を取った。
「姫様!危険な場所であると言うことは重々伝えたはずです。この土地はまだろくに調査も進んでおらず、何があるのかも現状わかってはいません!」
イクティオの警告は最だ。
事実、この光景は常識をあまりにも逸脱している。
結晶のように輝きを放つ木々。
そこらじゅうに植物のように生える結晶の数々。
その結晶に俺たちの姿が反射して、何面にも映し出されている。
それでも、セリナは引かなかった。
「せっかくここまで来たんだもの。何もせずにいることは容易いんだから、行動しないとね」
それに、最後のお願いって言ったでしょう?
こんな状況だというのに、それでもセリナの笑顔は絶えなかった。
ここまでくると、精神が強いとかの次元ではなく、狂っているとしか思えない。
本当に、このまま進んで行っても大丈夫なんだろうか……。
一向に変わらない現状に、募る不安が心を蝕んでいく。
『対策は既にしてあるよ。セリナさんに全てを渡している。後は君が行こうと言えばいいだけだ』
ふと、夜さんのセリフが頭をよぎった。
まだ素性も何もかもわからない人だけど、そんな中でも俺たちを必ず助けてくれる人だっていう信頼は確かにあった。
あの人が、そう言ったんだ。
今は、その言葉を信じてみるしかない。
「セリナの言うとおりだ。どのみち、俺はあと3日もすれば呪いで死んでしまうかもしれないんだ。やれることは何でもやっておきたい」
「何でもって言ってもね、貴方この状況を見てそれを言ってるの?急いで上げたいのは山々だけど、ここは慎重に行かざるを得ないわよ」
現にこんな様よ。
そう言いながらサーシャは懐から小さな棒を取り出すと、結晶化した木に向かって放り投げた。
次の瞬間、結晶とぶつかった小さな棒が光ったかと思うと、一瞬で消し炭となった。
「この結晶、見た目が綺麗なだけの結晶ってわけでもなさそうよ。触れれば死ぬのは間違いないわ」
「なおさら危険ではないですか!!姫様!!ここは一度引き下がるべきです!!」
「何度も言わせないで。いくわよ」
サーシャとジャルの静止の言葉をセリナは軽く一蹴して、自ら先陣を切って前へと進んでいく。
その行動が頼もしいと感じるか、無謀だと感じるかは人それぞれだと思うが、俺にはセリナが非常に頼もしく思えた。
そうして各々がそれぞれの不安を抱える中、魔物に遭遇することもなく最新部だと思われる場所へと到達した。
そこは、他の結晶地帯よりも結晶がトゲトゲしていて、時折バチバチと何かが弾けるような音が聞こえる不思議な場所だった。
そんな危険地帯の中心に、神はいた。
どっしりと構えた体に、稲妻のように鋭い白、黄色の体毛。
岩をも砕きそうな強靭な顎に鋭い目。
その視線はブレることなく、俺たちを捉えていた。
その鋭い視線から逃れることはできないと、言葉はなくともひしひしと伝わってくる。
その鋭い視線に囚われて、誰もが足を止めた。
セリナを除いて。
「こんにちは、ライリーン。初めまして。それとも……久しぶりと言った方がいいのかしら?」
誰もが顔をこわばらせた。
本能が危険だと告げるこの状況で、無謀にも神に近づくだなんて自殺行為もいいところだと。
それでもセリナは足を止めなかった。
それどころか、さらに神へと1人近づいていく。
「人間……何の用だ」
無謀にも近づいていくセリナに、ライリーンは声色は優しくも眉一つ動かさず問いかけた。
“お前はなぜ、我が領域に足を踏み入れたのか“
その目からは、ひしひしと侵入者である俺たちに訴えかけていた。
セリナ以外の誰もが武器に手を伸ばし、いつ何が来ても対処できるように身構えていた。
そんな俺たちとは違い、セリナは笑ってライリーンに告げた。
「率直に言うわ。私の召喚獣になって。これから助けてもらいたいことが沢山あるの」
「……目的はそれだけか?」
「えぇ、もちろん。まずは後ろにいるひろさんをパチェリシカに運ぶのを手伝って欲しいんだ」
それを聞いたライリーンは声高らかに笑った。
「神を、人の足として使うために主従関係を結べと?滑稽すぎて、笑うしかないわ」
「私は本気よ、ライリーン。あなたのほどの速さがなければ、安全かつ迅速にパチェリシカまでは辿り着けない」
「そんなのは建前だろう、人間。……手っ取り早く要件を言うといい。それが、私が手を貸すほどのものに値するかどうか。ましてや、神の力を頼ろうと言うのだ。それ相応のことを言ってもらわなければ困る」
ライリーンからの言葉に、セリナは言葉を詰まらせる。
それもそうだろう。
ライリーンに俺をパチェリシカまで運んでもらうために、ここまで来たんだ。
それ以上の理由なんて適当に言おうものなら、反感を買うのは間違い無い。
だが、これ以上の理由なんて……。
「根源たる一を越えるために」
その発言の直後、セリナに向かって無数の落雷が降り注いだ。
あまりにも一瞬の出来事すぎて、誰も目の前で起こったことを正常に判断できずにいた。
だが、あの状況でセリナが生きている可能性がないことは、誰の目から見ても明白だった。
「人間。貴様がなぜそれを知っているかは甚だ疑問だが、知っているのであれば尚更、理不尽に立ち向かわなければならん。だが、たとえ存在を知っていたとして、この程度の理不尽に対応仕切れないのであれば……」
「理不尽に対応できないのであれば、立ち向かうべきではない。でしょう?」
聞き覚えのある声が、落雷の落ちた場所からライリーンに向かって発せられた。
ライリーンも生きているとは思っていなかったようで、その目を見開き声の主へと視線を映す。
そこに、彼女は立っていた。
一体の竜と共に。
「ありがと、クーちゃん」
クーちゃんと呼ばれたその竜は、セリナを庇うように大きく翼を広げ、ライリーンに向かって低い声で唸っていた。
「理由も開示した。理不尽にも対応して見せた。あなたの提示した資格を、私は持っているわ。その上でもう一度言うわ、ライリーン。私の召喚獣にならない?」
空の色が青から紫へと変わり出す。
先ほどまでのいい天気から一変して、周囲には無数の落雷が降り注いだ。
結晶は雷に共鳴し、不気味なほどに紫色に輝きを放つ。
「いいだろう、人間!!貴様があれに立ち向かおうと言うのであれば、それ相応の覚悟を示してもらおうか!!」
毛を逆立てて、神は立ち上がり空へと吠え、落雷が大地へ降り注がれる。
「みんな、覚悟はいい?……って言わなくても、やるしかないもんね。みんな、協力お願いね♪」
こんな状況だと言うのに、それでもセリナは笑っていた。
不安がることはない。私たちなんだもの。きっとどうにかできるわ。
そう言わんばかりの笑顔に俺たちの緊張は解け、自然と武器を持つことができた。
「さぁみんな……行くよ!!」
セリナのその言葉と共に、神への挑戦の火蓋が今、切られた。




