第2章31 死の宣告 残り4日 北部地帯へいざ行かん
次の日、朝ご飯をお腹に詰め込んで、外に出ると準備万全のセリナたちが外で待機していた。
「遅い!セリナを待たせるなんて、貴方この子の立場わかってるの?」
朝っぱらからサーシャからガンを飛ばされる。
確かに、お嬢様と呼ばれるような人を待たせるのはまずかったかもしれない。
だけどな、一言だけ言わせてもらたい。
まだ、月が真上にあるんだけど、本当に翌日?
「……すぐに出るよとは聞いたけれど、早すぎないか?」
「何言ってるのよ。貴方の時間がないから、セリナが色々と計らってくれたんじゃない。感謝しなさいよ」
そう言われると、何も言い返すことが出来ない。
ひとまず感謝の言葉を伝えなければと「ありがとう、セリナ」と感謝を伝えた。
「どういたしまして」と気にしてないよと言わんばかりに、セリナは明るい笑顔で返してくれた。
……死の森に入ってから、セリナには何度も救われているな。
何かしら困っていることがあったら、その時はぜひ力になってあげたいな。
そんなことを思いながら、現在のメンバーを確認する。
「一緒に行くのは……。俺と宗次とセリナ、サーシャ、ジャル、イクティオの6人、か」
「貴方についていくって言うよりは、セリナを護衛するためについていくって感じね」
あくまでも俺はおまけ的な扱いの様だ。
だが、それは仕方がないことだろう。
ここまでセリナが命を狙われ、ギルドライブラを介して手厚く守られているということは、それ相応の地位にいるのだろう。
それほどの地位の人が、俺にそこまで手厚くしてくれる理由こそ、まったくわからないが……。
今はそのご厚意に甘えておこう。
「僕は、リーダーの彩花さんが迷惑をかけたってのもありますし、何より久しぶりに再会したから、少しでも一緒に居たいと思ってお願いしてみたんだ」
「それで一時的とはいえ、一緒に行動できるのか。……ずっと一緒にいれたらよかったんだけどな」
「仕方がないよ、ひろ。それに……僕を必要としてくれる人たちがたくさんいるから、その思いには答えたいなって思うんだ」
「……強くなったんだな」
かつての宗次を知っているからこそ、2年間近く生まれた時間のずれが、宗次をここまで成長させるとは思ってもいなかった。
……人は変わるものだ。
それは、身をもって知っている。
「期待してるぜ、宗次」
「任してよ!」
元気の良い返事に、思わず笑みが溢れる。
変わるものもあれば、変わらないものもある。
宗次の笑顔は、再会しても変わらないとこにホッとした。
「積もる話は進みながらにしましょう!ひろさんの時間を少しでも余裕を持たせたいですし!」
もう待ちきれないと言わんばかりに、セリナが早く早くと俺たちの背中を押す。
その背中に押されるがままに、ルミナスの入り口へと向かった。
ユニコーンを起こし、北部地帯へ行こうとしたその時だった。
「……行くのか、サーシャ」
背後からくぐもった声で背後から何者かに声をかけられた。
その声を聞いたサーシャとジャルの表情が、ひどく強張る。
振り返るとそこには、全身黒づくめで怪しい仮面に顔を隠した、長身の人物が数人の人を連れて立っていた。
「……ユーリュ!!」
サーシャを右手で庇いながらジャルの声に殺意が宿る。
家族に虐げられても穏やかだったジャルからは信じられない声をあげた。
ジャルがこんなにも感情を表に出すだなんて……。この人、一体なにをしたんだ?
「生まれたばかりの炎帝よ。何故こんな軟弱者を庇う。お前も守られなければ生きていけない、いわば同類だというのに」
「助けてもらった恩を返そうとして、何が悪いんだ!!」
「傷の舐め合いでは、仲間どころか己さえ守れないと言っているのだ」
その一言にジャルが言葉を詰まらせる。
「お前は戦闘経験も浅く、ましてや人もろくに殺したことがないのだろう?……変わり果てた肉親を人として裁いたことは賞賛に値するが……だがそれだけだ。我々には到底及ばない」
さっきから話を聞いていれば、何をこいつは偉そうに……。
ジャルがあのときどれほどの苦渋の決断をしたのか知らないくせに、簡単にその気持ちを踏み躙るその発言と態度が気に入らなくて、一言物申してやろうかとしたところで、宗次から肩を掴まれた。
「ひろ、悪いことは言わないからユーリュには喧嘩を売らないほうがいい」
「喧嘩じゃない。一言文句を言うだけだ。お前はジャルのことなんもわかってないってな」
「言いたい気持ちはわかるけど、服をよくみて」
服?
宗次に促されるままに暗がりの中でユーリュと呼ばれた人物の服をよく観察する。
特徴的な怪しい仮面に、フードをかぶって全身黒づくめ。
極めつきは天秤のマークがあり、その片側には髑髏が……っ!!
あのマークは、セリナを襲ったやつらのっ!!
「さっきからまじまじと。敵意を向けるのであれば、少しはうまく隠したまえよ、少年」
ふと、気づいた時には。
そいつはいつの間にか俺の目の前にきて、俺を見下ろしていた。
瞬時に宗次の発言の意味を理解する。
本能がひたすらに告げているのだ。
こいつと戦うなと。
「……あぁ、君があのイレギュラーか。ナタリーから聞いているよ。なんでも彼女にお腹を貫かれたのにも関わらず、突っ込んできた馬鹿がいたってね。……だが、聞いていた話よりも君はだいぶ頼りないようだ」
仮面越しに目が合った。
まるで全てを見透かさんと言わんばかりに。
お前は、使い物になるのかと、問われている気がした。
その視線には、背後からナイフを突きつけられているような緊張感があったのだ。
嫌な汗が止まらない。
視線を逸らしたいが、逸らすことができない。
逸らせば……殺されてしまうかもしれない。
そう思わせるほどの、鋭い視線だった。
「……君、人を殺し慣れてるだろ」
ユーリュから突如として放たれたその言葉に、背筋が凍る。
「……何を、根拠に……」
「視線だよ。屠殺する時のように、どこを斬れば抵抗なく楽に殺せるか探すように目が動いていたからね。動物でするのならまだしも、人でそれができるのだから、相当数殺してきたんだろう」
この人は化け物だと本能が告げる。
人の動作ひとつで癖を見抜き、弱点をついて来るような天才だと。
……そして自分の過去が何も知らない人に暴かれたことは、この人物を敵と認識するのには十分すぎた。
「そう怖い目をしないでくれよ。私は君が裏切らない限り君の味方だし、どんな手段を使ってでも君の旅路を応援しよう」
「……全く信用に値しない言葉ですね」
あんなに優しいジャルが敵意をむき出しにするのも納得だ。
こいつは信用できない。
ただその一言に尽きる。
「引き止めるつもりで顔を出したが……それ以上に面白いものが見れたから、今回は見逃そうじゃないか」
撤退するぞと手で他の黒づくめに指示を出し、ギルド、アストリアはルミナスの建物の中へと消えていった。
君の旅路の安全を心から願っているよ。
そんな、心から思ってもいない、陳腐な言葉を残して。
「……ユーリュを悪く思わないでくださいね。あんな言い方してますけど、人の気持ちを汲み取って発言してくれる、優しい方なんですよ」
「セリナ、今そう言われても、悪いけど全く信用できない」
そうですか……、とセリナは少し寂しそうな顔をしていたが、気合を入れ直すように自身の頬を叩いた。
「ユーリュからのお墨付きが貰えたっててことは、それだけこのメンバーが優秀だってことなんです!そこは誇っていいことですからね!!それでもしんどかったら全部吐き出してから行きましょう!」
ちょうどいいサンドバッグならここにいるので……。
そう言いながら、セリナはペピーを呼び出して軽く縄で縛り上げた。
「ピ!?よばれて早々なんでこんな酷い仕打ちなんだッピ!?」
「洋一さんとジャルさんが、ぺピーを殴らないと怒りが治らないって言うから」
「「そんなこと一言も言ってない!!」」
「その怒りの矛先を僕にしないで欲しいッピ!!」
突然呼び出されたペピーの発言が最もだ。
「姫様、その発言は場を和ませるためだったとしても、どうかと思います……」
「いいじゃない。こうした刺激もたまには必要よ。それに、緊張は少しほぐれたでしょう?」
これから危険地帯に行くって言うのに、不安を持ち込むわけにはいかないもの。
お茶目にウィンクを決めながら、セリナはニコッと微笑んだ。
……強いな、セリナは。
心に楔でも打ち込んでるのかってくらい、全くぶれない。
ここまで来る時にも感じていたが、それでも1日2日の付き合いだと言うのに、信頼することができるなんて、一つの才能だ。
ここまでの旅路も、そして今もそんな彼女に救われている。
そう思うと、不思議となんとかなる気がしてならなかった。
「さぁ皆!今度こそ準備はいい?」
セリナの掛け声に応じて、それぞれが準備していた動物へとまたがる。
夜だと言うのに、不思議とこれから進んでいく夜道が明るく見えた。
「目標は北部地帯!!洋一さんのために、いざ!しゅっぱーつ!!」
明るいその声に導かれるように、俺たちはルミナスから星のように飛び出した。




