第2章30 死の宣告 残り5日 わがままくらい
大変お待たせしました!!
気がつくと、ベッドの上で横になっていた。
目を開けたと同時に襲いくる眼球への激痛が、先ほどの出来事が夢でないことを告げている。
「ひろ!大丈夫!?」
声をかけられた方を向くと、宗次が心配そうな顔でこちらを覗き込んでいた。
……優しいのは、どうやら相変わらずみたいだ。
「……目は痛いけど、大丈夫。それより、今どれくらい時間が過ぎたんだ?」
「1時間も経ってないよ。だから時間については、まだそんな気にしなくて大丈夫」
「……そっか。それなら良かった」
時間が経っていないことに胸をなでおろしながら、ふと気付く。
宗次に俺が呪いにかかっている事って伝えてたっけ?
「呪いについては、私の方から説明したよ。ひろさん」
「……セリナ。いつの間に……」
「騒ぎを聞きつけてきちゃた。イクティオとジャルさんにサーシャちゃんもいるよ」
俺に相談せずに呪いの事を伝えたことを悪く思っているのか、セリナは少し気まずそうにしていた。
後ほど伝えるつもりではあったから、そこまで気にしなくてもいいんだけど……。
にしても、サーシャどこにいるんだ?
瞬きをするたびに痛みが発生する目で部屋を見渡すが、サーシャの姿は確認できない。
「……ここよ、ここ。ジャルの背中にしょわれてるでしょ」
ひょこっとジャルの背中からサーシャの顔が飛び出す。
またなんで背負われて……、ってなんだあの怪我。
初めはジャルの手元に包帯が巻かれているだけかと思っていたが、よくよく見ると背負われているサーシャの足だった。
別れてから一月も経過していないのに、ここまでの怪我をするだろうか?
考えられるとすれば、フリーテで別れた後に怪我をしたくらいだけど……。
フリーテの戦場内で逸れてからその後の動向がわからないので、あれほどの洞察力を持っていながら怪我をするとなると、よっぽどのことがあったに違いない。
「顔を出すついでに傷を癒してもらおうと思ってね。煌めきのクオーツの料金はそれでチャラにしてあげる」
「にしても、どうしてそんな怪我をしてるんだ?」
「……今はそんなことどうでもいいでしょ」
早く治しなさいよと言わんばかりに、ジャルに指示をしながら俺に足の方を向けてくる。
話したくないのか、話せない理由でもあるのか。
聞くのは野暮だろうし、煌きのクオーツは金額的にも馬鹿にできないみたいだから、これでチャラにできるならそうしておいた方が良い。
でもまずは、自分の目の痛みの方が先だ。
サーシャに一言断ってから、先に自分の目の痛みを取り除き、その後サーシャの怪我をした場所へ回復魔法を掛けるために、一度ベッドの方へと座ってもらうようお願いをする。
ジャルがサーシャをベッドに下ろしてから怪我の位置を正確に確認するために包帯を取ると、その華奢な体には似つかないほどの青あざと切り傷が痛々しく刻まれていた。
何をどうしたらこうなるのやら……。
治療を終えると、先程までジャルの背中に背負われていたとは思えないほどに、サーシャは元気よく立ち上がった。
「ありがとう。約束通りクオーツ代はチャラにしてあげるわ」
「そりゃどーも」
「それで……ひろ。貴方これからどうするつもり?セリナお嬢様からある程度概要はお聞きしたのだけれど、テレポートでも使わない限り基本間に合わないわよ?」
「フリーテで使っていた転移のクオーツでも無理なのか?」
「やっていることはおなじだけれど構造が違うのよ。転移のクオーツは入り口と出口を作りだし疑似的なトンネルを作り出すことで移動を可能にするの。対してテレポートは、中身がそもそも解析されてないから説明が難しいのだけれど、目的地に物体を呼び寄せる代物だと記載があったみたいよ」
「出口をパチェリシカ付近に展開できればどうにかなりそうだけど、それも駄目なのか?」
「できたとしても、着地地点の安全の保障できないし、出た瞬間殺される可能性もあるから却下よ」
確かにそれだと安易には使えない。
まだ死ぬわけにはいかないし、何よりそんな理由で死ぬのはごめんだ。
だが、このまま動かなくても死ぬのは必然。
どのみち動かなければならないのは変わらない。
「ユニコーンでも間に合わないとなると、それこそ高速で移動できるような何かが必要になるけど……。そんな都合のいいものあるか?」
この場にいるみんなに問いかけるも、誰も口を開かない。
そりゃそうだ。
そんなものがあったら、とうの昔に口にしているだろう。
そう思った時だった。
「一つだけ、方法があります」
意外なことに、この沈黙の中で口を開いたのはセリナだった。
「一つだけ。ですが、非常に危険です。先程聞いた情報なのですが、死の森北部付近に高速で移動する魔物が出現したと報告を受けました。……名をライリーン。神速で移動し、周囲に落雷を落とすとされている、かつて六神獣とまで呼ばれた魔物です。それを、私が召喚士として捕獲しに行けば……」
「この期に及んで、姫はまだ危険を冒そうというのですか!?」
セリナの隣に立つイクティオが叫ぶ。
それに同感だと言わんばかりに、サーシャもうなずく。
「死の森北部はあの魔物が降臨して、数日足らずで環境が激変したんですよ!?何が起こるかただでさえ分からないのに、姫をそんなところに連れていくわけにはいきません!!」
「ですが、ルミナスには私以上の召喚士はいないでしょう?」
「だとしても!!」
「イクティオ、お願い。……最後だもの。わがままくらい言わせて」
セリナの言葉にイクティオが言葉を詰まらせる。
わなわなと手を震わせて、唇をかむその様子からは、信じられないほどの憎悪が垣間見えた。
だが、この憎悪はこの場の誰にも向けれらていなかった。
そうしてしばらくの沈黙の後に、「わかりました」とイクティオは重く辛そうに口を開いた。
「……ありがとう、イクティオ。そう言うわけだから、サーシャちゃん」
「……はぁ。世話係としてどうせ止めても意味がないのは知っているわ。ナタリーもどうにか丸め込むから、あなたはどっしりして待っておいて」
「うん。ありがとうサーシャちゃん。……そう言うわけだから、ひろさん。明日、すぐに出るよ!」
イクティオやサーシャは何とも言い難い顔をしていたが、当事者のセリナはしてやったりと言わんばかりの笑顔をこぼして、こちらにはにかんだ笑顔を向けた。




