第二章23 死の宣告 残り5日
お待たせいたしました!!
ボチャンと大きな水音をたてて、どこかわからない泉のようなところへ着地した。
「夜さん!ノマスさん!」
空しくも俺の声は届けたい人へ届くことはなく、森の中をこだまする。
夜さんたちは一体何を抱えているんだ?
それに、次に会うときは、私たちが死ぬ時だって……。
「……行きましょう、洋一さん。ここからが、本番なんですから」
「……分かってる」
セリナの言う通りだ。
今、夜さんたちの秘密を再び考えたところで、得られる成果は何もない。
ならば、先に進まなくてはならない。
「よし!行こう!!」
目指すべきはパチェリシカ。
地図で大体の場所を把握した後、泉から上がり俺たちは速足で目的地へと足を向けた。
そうして、周囲の景色が特別変わることもなく、大きな魔物とも遭遇せずに一日が終わった。
夜さんからもらった荷物の中に魔避けのクオーツがあったので、ありがたくそれを使いセリナと共に焚き火を囲う。
「ペースは順調だけど……」
「……そうですね。どう計算しても直線で8日かかってしまいます」
「だよなぁ」
今日進んだ距離を基準に、パチェリシカまでどれほどの時間で行けるか単純計算してみたところ、どう考えても間に合わないという事だけが分かった。
しかもここに、魔物との遭遇や天候の荒れ具合、土地の高低差も考慮しないといけなくなると……。
「10日はかかると考えた方がよさそうだな」
「それくらいで見積もるのが妥当だと思います」
「……絶対間に合わないじゃんか!!」
握っていたペンを思わず投げ捨てそうになる。
「早急に足となるものが必要ですね。……と言っても、こんな場所で足なんて確保できるかどうか……」
「セリナは召喚士だろ?移動に適した召喚獣とかいないか?」
「クーちゃんは戦闘特化ですし、ペピーに至っては使い物にならないですからね……。お役に立てる子たちはいなさそうです」
ごめんなさいと申し訳なさそうにセリナから謝られる。
「謝る事じゃない。無い物ねだりをしたところで、状況は変わらない」
そう、無い物ねだりをしたところで現状が変わるわけではない。
ならどうする。
この、誰からの協力も得られない強力な魔物たちがいる森の中で、何を為す。
……そう言えば……。
「セリナは朝、夜さんと何を話してたんだ?」
朝、俺が部屋に入る前、何かしら会話をしていたはずだ。
でなければ、胸がどうのこうのみたいな話は出てこない。
……、これ、聞いてよかったのか?
聞いて少し後悔した。
だが、セリナは少しも嫌な顔をせずぽつりと。
「……他愛もない話です。私が、私であるための」
何かを願うように、空を見上げた。
この発言には、見逃してはならない何かがある。
セリナの発言から、それだけは読み取ることが出来た。
「そっか……」
でも話したくないことの1つや2つくらいあるもんだ。
なんだかんだピンチを乗り越えた仲ではあるものの、昨日今日の浅い関係だ。
心を許せるかと言われたら、そうではないだろう。
なら、いつか話をしてくれるその日を待てばいい。
まだ、セリナとは出会ったばかりなのだから。
「もう夜も遅い。セリナは休憩しなよ」
「そうさせてもらいます。久々にここまで険しい道のりを歩いた気がします」
「そもそも、こんな獣道普段は使わないだろ?」
「それもそうですね。……では、お先に。洋一さんも休憩は取られてくださいね」
「もちろん。……って、もう寝たのか」
先程まで会話していたとは思えないほどの快眠っぷり。
よほど疲れていたんだろう。
それもそうだ。
あんなことがあって、ろくに休まずここまで来たのだ。
疲れていないはずがない。
俺も、仮眠をとるか。
魔よけのクオーツで周囲に魔物の気配はない。
これなら、少しくらい……。
そうして、ゆっくりと瞼を下ろした。
誰かが、何かを叫んでいる。
瞼をあげなくてはいけないのに、それでも目を覚ますことが出来ない。
……違う。
これは……そもそも目が見えていない……?
『……どうして。どうして。どうして。努力した結末が、これなんだ』
何者かの言葉が紡がれる。
『俺が悪かったのか……。誰かと幸せを願うことが……悪だというのか……?』
『それを守るための、守護者じゃないのか?』
『見てるんだろ神様。頼むよ。もう一度、チャンスをくれよ』
『……いや、違うな。お前たちが、俺たちから当たり前を奪ったんだ。だったら……』
言葉が紡がれていくとともに、徐々に視界が開けていく。
広がるのは地獄絵図。
むごたらしく殺された死体の山。
そうして、両目をくりぬかれた何者か。
そいつは、目がないはずなのに。
確実に、俺を捉えていた。
そして……。
『奪われたのならば、奪い返せばいいじゃないか』
気味の悪い笑みを浮かべながら、そいつは笑った。
弾けるように、夢から現実へと引き戻され瞼をあげる。
すぐに飛び込んできたのは、さわやかな朝日でも木漏れ日でもなく。
鋭利な刃であった。
「……では、死んでください」
頭上で勢いよく振り下ろされた刃を、すんでのところで転がりながら回避し、その勢いを使って立ち上がり刀を構える。
周囲が暗いためあまり見えない。
相手の規模が把握できない。
それに黒っぽい服装が、一層見づらさを際立たせている。
ここは人気のない森じゃなかったのか?
誰が、一体何のためにこんなことを……。
……そう言えばセリナは!?
俺のすぐそばで横になっていたはずだ。
……ふと、最悪の結末が脳裏をよぎる。
だが、その最悪はすぐに否定された。
俺を襲った何者かとは別に、もう一人。
そしてその腋に、セリナが抱えられていた。
「セリナっ!」
俺の声にセリナは気を失っているのか、ピクリとも動かない。
その姿を見て、頭で考えるよりも気が付けば体が動いていた。
刹那刀を抜き放ち、セリナを抱える人物めがけて一閃。
が、その斬撃は見えない衝撃波のようなものにはじかれた。
「……目標は達成しました。撤退しますよ」
セリナを抱えた人物がそう言いながら、俺の目の前に何かを投げ捨てる。
瞬間、眩しいくらいの光で視界が埋め尽くされ、動きが鈍った隙を突かれ、何者かにセリナが連れ去られてしまった。
痕跡を追うにも、こんな場所では魔力探知もろくに働かない。
葵程の精度があれば、追うことは可能かもしれないが、あてずっぽうに探すにしても当てもなければ時間もない。
「……くそっ!」
もうどうしようもないのかと諦めたその時だった。
「なにしてるっピか!早く追わないと本当に追いつけなくなるっピ!!」
これほどまでにこいつの声を頼もしいと思ったことがあっただろうか?
「ペピー!!どうして木の上なんかに!!」
「説明は後だっピ!!僕なら今のご主人の後を追えるっピ!!お前の足があれば何とか追いつけるはずっピよ!!」
ペピーは木の上から短い羽をはためかせ、すぐに俺の頭上へ降り立つと頭をペシペシ叩きながらセリナのいる方を指した。
召喚獣のくせに案内の仕方がアバウトだが、それでも頼るしかない。
「案内よろしく頼む!」
「僕は最高の召喚獣っピよ!!後はお前の足しだいだっピ!!」
ペピーにさっさと走れと言わんばかりに頭を叩かれながら、指示された方へ個性のギアを使いセリナを追った。




