第二章18 イレギュラー4 VS5yqhkgd t@ofZs@
大変お待たせいたしました!!
ノマスさんと一気に距離を詰め、金属同士が激しくぶつかり合い火花を散らす。
力で押し切ることは不可能だと判断し、距離を保ちながら接近し何度も打ち合って何とか互角に戦いを運んでいた。
……くそっ。なぜか急に右腕が使えるようになったとはいえ、すぐに本調子に戻るわけじゃない。
せいぜい頭義流抜刀術を、少しだけ鋭く使えるくらいだろう。
それに、抜刀術で戦おうにもノマスさんには隙がなさすぎる。
少しでも構えを取ろうとするだけで、距離を詰められて防衛に徹さなければならない。
かといって、接近しても叩き切られそうになる。
「……どうしました? まさか、正々堂々真正面から。なんて馬鹿なことは考えていないですか?」
「……まさか」
正面からでも、隙をついても、まるで勝てそうにない。
勝利への道筋が何一つ見えない。
……どれほどの研鑽を重ねたらこの領域まで行けるんだよ……!!
「来ないのならば、こちらから行かせてもらいましょう」
ふっと目の前からノマスさんの姿が消える。
先程攻撃と同様に、ありえない咆哮から攻撃をしてくる可能性がある以上、下手に動けば背後を取られる。
……どこだ。どこにいる。
森の中かつ夜だということもあり、より一層視界が悪い。
月灯りだけでは影を捉えるのは難しい。
だけど一瞬だけ、動く影を視界の端に捉えた。
攻めるのなら、この瞬間しかない。
水連を刀を抜き放つように構え、人影に向かって一気に距離を詰める。
「頭義流抜刀術! 二の型!」
水連を今まさに人影に向かって抜き放とうとした途端、視界が開けた。
だが、そこにノマスさんの姿はなかった。
「……先程も助言したでしょう? 君は眼に頼り過ぎている。視界の情報が全てであると勘違いしている」
泥の人形が目の前で自壊し、背後から守護者の鋭い一太刀が降りそそぐ。
「宇宙はあなたのようなちっぽけな星を逃してはくれない。星程度、一飲みするだけで十分なのです」
背後で感じる振り下ろされた剣の質量は、今まで感じたことがないほど大きく、まるで惑星そのものが迫ってきているような感覚。
感じるのは恐怖ではない。
あまりにも圧倒的すぎる存在に対して、俺はもう呆けることしかできなかった。
だが体は警鐘を鳴らしている。
ここで動きを止めては駄目だと。
まだ、出来ることは残されていると。
だが何が出来る。
ノマスさんの剣は1秒にも満たないうちに、俺の身体へと振り下ろされる。
水連でベールの展開は間に合わない。
風香の力は借りることが出来ていないので、避けることはできない。
対応できるものがあるとすれば、月光牙くらいだがそれすらも間に合わない。
間に合うものがあるとすれば、俺が光よりも早く動き、その一太刀以上の質量をもって打ち返すこと。
いや、それは不可能だ。
『ううん、出来るよ。』
突如頭の中で、あの少女の声が響く。
『この介入はあの時までとっておきたかったとっておきだけど、今彼と対等に打ち合うにはこれしかないから』
水連の輝きが増していく。他の何かが憑依したかのように、蒼く、蒼く、輝きを増していく。
『彗星は、一瞬しか輝けないけれど、その影響力は、計り知れないものでしょう?』
名は知らない。
いや、知っているけれど、忘れている。
これは、今の俺が使っていいものじゃない。
それでも、ノマスさんと対等に打ち合うために。
彼女が力を貸してくれるのであれば、全力で応えよう。
「うあああああああぁぁぁ!!」
無理矢理体を捻じ曲げて、体に当たる寸前のノマスさんの剣めがけて、水連をぶつける。
今までにない衝撃が発生し、剣同士の衝突とは考えられないほどの光が放たれる。
それは、まるで星同士がぶつかり合ったかのような。
いや、きっとそれ以上の何かがそこにはあった。
これにはノマスさんも驚いたようで、今まで感じていた余裕が一切感じられないほどだった。
「なぜ……っ!今の君が!し……」
考えている余裕はない。
この一撃をもってして、何としてでもノマスさんへ一撃を入れる隙を作りださなければいけない。
「いっっっっけえええぇぇぇぇぇ!!!!」
「………………はい、そこまでだよ、2人とも」
誰かの声と共に、鳩尾に痛みが走り、その痛みで水連が手から滑り落ちる。
拳はどうやらノマスさんにも入れられたようで、ノマスさん剣を手放しはしなかったものの、苦悶の表情を浮かべていた。
「……稽古に割り込むのはやめていただきたいものです。夜」
「だってー。あれ以上はノマス……本気、出しちゃうでしょう?」
「それは……そうでしたけれど」
「ならいいじゃない。それにほら、右肩が動くと勘違いしたままで稽古しても、何の意味もないからね」
ポンッと叩かれた右肩に、神経を針で刺されたような痛みが右肩全体に広がり、あまりの痛みで声も出せずにうずくまる。
「あっはっは!やっぱり無理して動かしてたんだねぇ!」
「……いたのなら、すぐに出てくればいいじゃないですか。……夜さん」
鳩尾やら右肩やら痛くてたまらないけれど、呼吸を整えてなんとか声を腹から出し、俺の肩を叩いたであろう人の名前を呼ぶ。
「面白そうだったからねえ。それに、君の実力が実際どんなもんなのか改めて把握したかったしー」
「俺だけならまだしも、あの子……セリナも、あとヒヨコもいるんです。あんなことがあった後なので、なおさら早く止めてほしかったです」
「……あんなこと…………?」
夜さんがノマスさんへ、少し睨みつけるような視線を送る。
「詳しく、話を聞かせてもらおうか。ノマス」
ノマスさんの話に、俺が補足を入れながら先程までの出来事を夜さんに説明。
その後、ノマスさんは夜さんに思いっきりグーで頭を殴られていた。
「……すまないね。この馬鹿が迷惑をかけたみたいだ」
……あれほど冷静沈着だと感じていたノマスさんが、夜さんに殴られてからは親に叱られた子供の様に……。いや、これは尻に敷かれている旦那か……?
どちらにせよ、ノマスさんからは先程までの凛々しさは全く感じられない。
……完全に夜さんに手綱を握られてるな。
「洋一君。それに、セリナさんと小さな精霊。もう夜も遅いけれど、夕食をごちそうするとしよう。……ちなみにノマスが作った保存食だから、そこは安心していいよ」
「……ありがとうございます」
良かった。
夜さんが作ったものだと言い出さなくて、本当に良かった!!
朝食が亡くなり余分な労力を割くことになった、この前の朝食に使用された謎の食材、ウヌチュラプスとかいう何か。
言葉にはしがたいあれの処理をすることにならなかったことに胸をなでおろす。
そんなことは知らないセリナとペピーは、俺の反応に首をかしげるだけだった。
「それに、洋一君はこの前私に聞きたいことを聞けなかっただろう?いい機会だ。……ありえざる再会と邂逅だからね、私に話せることがあれば何でも話そう」
ついてきて、と一言残し夜さんは廃村には場違いなほど綺麗な教会へと歩みを進め、その中へと姿を消した。
「ひろさん。あの夜って人、信頼して大丈夫なんですか?」
「少なくとも、僕の目からも大丈夫には見えなかったっピ」
「……まぁ、そう見えるよなぁ……」
実際このままついていっていいのかはなはだ疑問ではあるが、会話にどこか齟齬があるわけでもなく、敵意を感じることもない。
もし本当に、俺たちを殺すつもりなのなら、もう殺して魔物のえさにでもして証拠を消しているところだろう。
ならここは信じてみるしかない。
夜さんたちが、俺たちの味方であることを。
「……洋一君、疲れているでしょう。行きましょう。私もお腹がすきました」
そうしてノマスさんに背中を押される形で、俺たち2人と1匹は場違いな教会の扉をくぐった。




