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STAR SKY GUARDIANS  作者: 花海
第二章 幽閉心壊都市パチェリシカ 前編~暗夜に煌く雷閃~
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第二章15 イレギュラー1 錆びついた歯車

お待たせしました!!

馬車の上での立ち回りを強制されているということもあり、キマイラの攻撃を受けるたび戦況は悪くなっていった。

中からは分からなかったが、外装はだいぶん古めかしく所々大きく損傷していた。正直いつ馬車が壊れてもおかしくない。

それにセリナは馬車を引く馬がかなり疲弊しており、長く走ることは非常に困難だと苦しい声をあげた。

……どうする。そう簡単に覆る状況じゃないぞ。

何かないかと周囲を見渡すも、木々が生い茂っているだけ。

あるのは目の前の絶対的な脅威。死への恐怖。

怒り吠えるはいびつな四足獣、キマイラ。

馬車内部では怒号のような悲鳴が飛び交っている。あれほどの混乱状態、仮に優秀な魔法使いがいても、戦力に期待はできない。

刻一刻と、絶望が世界を埋め尽くしていく。

どうする……っ!どうするっ!!

ここにいる全員が無事に現状を切り抜けるための、カウンターとなる一手。

それが、まったく見えてこない。

クソッ!…………クソッ!!

焦りばかりが募っていく。

だがそんな俺たちを目の前の現実は、冷酷にも飲み込もうとしていた。


「ひろさん!!もう馬車も馬も耐えきれません!!」


手綱を握るセリナの悲鳴。

こちらから何も攻撃してこないことをいいことに、これを好機と見たかキマイラは其の巨体を一気に馬車へと寄せた。

もう時間がないっ!!

その時だった。


「ちょ……前に道が!!」


セリナの声が聞こえるとともに…………体が宙に浮いた。

切迫した状況でかつ判断する時間がなかったこともあり、俺たちは目の前に崖があることにも気づかず馬車を走らせていたらしい。


「うわあああああああああぁぁぁぁぁ!!!!」


重力には逆らうことが出来ず、俺も、セリナも、馬車も。地面に向けて勢いよく落下していく。

そんな俺たちが危機的状態にある中、キマイラは俺たちを確実に狩るためか少し時間を溜め、崖から馬車にめがけて勢いよく飛び降りて来た。

空中に、逃げ場はない。

俺たちに、逃げ場はない。

……終わった。

そう悟った時だった。


「ひろさん!こっちです!!」


セリナは俺に向かって叫んで手を取ると、御者席を勢いよく蹴って空中へと飛び出した。


「クーちゃん!!」


セリナが何かの名前を叫んだ。するとその声に応えるように、セリナのすぐそばからうごめく黒い小さい何かが飛び出した。


「膨らんで受け止めて!!」


「クー!!」


可愛らしい鳴き声と共に、その小さな体が風船のようにボンッと膨らみ迫りくる地面のクッションとなってくれた。

そして、俺たちがセリナの呼び出したクーちゃんと呼ばれた存在に受け止めてもらった直後。

馬車の中にいた人々の悲痛すぎる叫び声と、馬車を引いていた数匹の馬の鳴き声が落ち、キマイラにつぶされた。

叫び声は一瞬にして静寂へと姿を変えた。

景色は赤赤く染まっていく。

それは、自然にとってはごく当たり前の姿で、ひどく残忍なものだった。

そして、その理から俺たちは逃げ出せてはいなかった。

キマイラの鋭い視線。

捕食者としての、絶対的強者からの視線。

俺たちを殺さんとばかりに息を荒げ、その大きな口からは涎を垂らし、血に染まった両足に涎が落ちて血肉を踏む音をより一層際立てた。

死んだ。

さっきまで馬車の後ろに乗ってた人が、皆。

死んだ。

また、俺は、何も……。


「ひろさん!!立てますか!?立てますね!?」


目の前に広がる現実から逃避しようとしたところを、セリナの声で呼び戻された。


「あ、あぁ……」


「しゃきっとしてください!ここは魔物の巣窟です!抗わなければ、私たちがああなるだけです!」


目の前の馬車であったものを指さしながら、立ってください!と懇願される。

確かにそうだ。ここから動かなければ、俺たちは今からあのキマイラに殺されるだけだ。

それに、皆に何も言えないままお別れするのだけは……。

それだけは、嫌だ。

心に鞭を打って立ち上がる。出し惜しみは不要だ。


「来いっ!風華!!水連!!」


俺の言葉に応えるように、2本の黒剣は姿を現す。


「久しぶりね。もっと私たちを使うタイミングはあったと思うけれど」


「それだけ私たちの主は馬鹿なのよ、風華」


「事実を押し付けたら可哀そうよ、お姉様」


だが出てきたら出てきたで、状況も考えず俺を罵倒しだした。

頼むから空気ぐらい読んでほしい。


「空気くらい読んでほしいって顔してるわね。諦めなさい。お姉様に何を言っても無駄よ」


「きっかけ作ったのは風華、お前だけどな!?」


「……それで、あれを倒すのに協力しろと?」


風華はキマイラの方に視線を向け、ため息をつきながら面倒くさいと言わんばかリの声を出した。


「どう見てもそうだろ!」


「フリーテでは私たちの力を必要としなかったじゃない」


「それと今では状況が違うだろ!」


「……ふーん。ま、いいわよ。少しくらいなら力を貸してあげる。ただし、後ろの子は守れないからそこはあなたでどうにかしなさい」


それだけ言い残して風華は剣の中へと姿を消し、それに続いて水連何も言わずに姿を消した。

そしてフリーテの時ほどではなかったが、黒い2本の剣に風属性と水属性のそれぞれ紋様が浮かび上がった。

それを見てキマイラも何かを察したのか、様子見から一転し一気に距離を詰めて来た。


「……っ!水連!!」


ここからの急な移動は不可能だと判断し、水連のベールを展開ししのごうとする。

しかし、フリーテでハルトマンと呼ばれた男性と戦った時ほどの大きなベールを出すことはできず、せいぜい俺の身体を最低限守れる程度しか出てこなかった。

本当に少ししか力を貸してくれないのかよ!?

腹の中で文句を言いつつも、状況を何としてでも打破するため、セリナを突き飛ばそうとして後ろを向きかける。


「振り返らないでください!そのままシールドを大きく広げることをイメージして!」


今までにない声でセリナが俺に呼び掛ける。

…………何か考えがあるのだろう。

ならこの状況。俺に打破する手段がないのなら、セリナに頼るしかない!!


「かの者に与えられし祝福よ!先の輝きを今ここに!」


セリナがその言葉を唱えると、先程まで俺を覆うことしかできなかったベールが突然輝きだし、大きく広がった。

これなら防げる!!

迫りかけていたキマイラの攻撃に向かって、ベールを大きく広げた水連をぶつける。

ベールで防げたこともあってか、先の戦よりもキマイラの攻撃は軽かった。

受け止めた攻撃の勢いを殺しきり、右手に持っていた水連でキマイラの前足を押し返す。

だがキマイラは反撃が来ることを読んでか、すぐに俺から距離を取った。

あの時のキマイラと違って賢い……。

消耗戦になれば間違いなく狩られる。

……この状況で短期決戦…………?

無謀だ。

グレゴリアス討伐の時でさえ、いくつもの奇跡を重ねたのだ。

フリーテ脱出時でさえ、様々な偶然が重なったのだ。

それを……ここで引き起こせというのか?


「ひろさん!こちらはいつでも行けますよ!」


すぐ後ろからセリナの声がする。

そのすぐ傍らにはクーちゃんと呼ばれた、黒い球体のような謎の生物が浮いていた。


「召喚獣を扱えるのか!?」


「一応は!でもこの子しかいないので、あまり期待しないでください!」


戦力増加には期待が出来ないか……っ!


「そう言えばさっき俺にやったのは!?」


「”倍加”の魔法です!でも反動があって、()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()気を付けてください!」


「つまりは!?」


「次に出るシールドは、最初にちょろっと出た分のさらに半分の大きさしか出ません!!」


ってことは、水連にはもう頼れないってことか!?

くそっ!!本当にどうするんだよ!!

状況は馬車の中にいる時よりも悪化した。

生き残りは二人。

相対するは、2つの頭を持つ殺戮の獣。

だが、戦わなければ道はない。


「セリナ……絶対に生き残るぞ!!」


「もちろんです!」


神器を構えなおすと同時に、キマイラは今一度大きく咆哮しその巨体をもってして俺たちに再び牙を向けた。





パチェリシカ、騎士魔道学園ドールナーにて。

彼らは入学試験者が表示されている魔法板の数字に、驚きを隠せないでいた。


「D組の馬車の生存数が2……?」


今まで見た事のない数値。

他の馬車の状況を見ても、ここまで著しく減少した組はない。

イレギュラーな事態が発生したとしか思えない。

()()にすぐに救出の指示を出した、があいつによって全ての命令はかき消された。


「珍しいですね、()()。あなたがそこまで血相を変えるだなんて……」


「異常事態であると……判断したまでです」


「ほぅ……。まぁ……いいでしょう。あなたは私のお気に入りですから、これは見なかったことにしておきましょう。ですが…………」


カツカツと靴を慣らして近付いてきたあいつは、そのか細い手からは想像もできないほどの力で私の顎を掴むと


「あまり私を失望させないでください」


深淵を覗き込むかのような暗い瞳と、背筋が凍るような気持ち悪い笑みで私のその後の発言と行動を封じ込めた。

あぁ。私に為す術はない。刀は一度折られた。

あいつに私は、勝てない。

私達だけでは、歯向かうことはできない。

だから彼が必要なのだ。

唯一亀裂を入れることが出来る、狐火が。


「あぁ、ようやくです!私が見込んだ最高の人形が!もうすぐこの手の中に!!そうすれば……そうすれば、えぇ!準備も整うというもの!!」


あいつはいつものように、気持ち悪い声で笑っていた。

なぜいつも笑っているのか、私には分からない。

ただ一つ分かっていることがある。


「全ては!!あの方の為に!!」


まだ、この世界には何かが眠っているということだ。

序章4を振り返ると……

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